魔国で囚われの身になった女騎士。
オークから経理の知識を教わった彼女は、
人間国の小さな銀行で働き始めるのだった──。
▽プロローグ
▽第1話「フライド・コカトリス」
▽第2話「ガバメント・オブリゲーション」
▽第3話「リテラシー」
▽第4話「ウェル・シェイプト・カップ」
▽第5話「プライス・オブ・ライフ」
▽第6話「エクイティ」
▽第7話「ブラック・スワン」
▽第8話「ローン・オブ・ザ・リング」
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■■■登場人物紹介■■■
女騎士(本名:シルヴィア・ワールシュタット)
剣に強く数字に弱い。頼まれたら断れないタイプ。
ダークエルフ(本名:ルカ・ファン・ローデンスタイン)
簿記と商売に詳しい。女騎士の奴隷。
司祭補(本名:セラフィム・アガフィア)
精霊教会の聖職者。ちょっとした魔法が使える。
銀行家(本名:ロレンツォ・グリマルディ)
美術品の研究が好き。女騎士の雇い主。
幼メイド(本名:マリア)
銀行家の邸宅で奉公している。
▼魔国・魔王居城──。 魔王「双子の赤字だと?」
— Rootport (@rootport) 2015, 9月 29
吸血男爵「はい、わが国の経済は『双子の赤字』です。財政収支と貿易収支がともに赤字になっています」 魔王「財政赤字…つまり、税収よりも政府の支出のほうが多いのだな」 吸血男爵「戦費や社会福祉費がかさみ支出超過となっています。不足分は国債で補っていますが、いつまで続けられるか…」
— Rootport (@rootport) 2015, 9月 29
魔王「そして、貿易収支も赤字か」 吸血男爵「人間国や華国、影国との貿易では、輸入が輸出を大幅に上回っています。ここ数年、慢性的に」 魔王「たしか先代の魔王は、厳しい輸入規制を敷いたのだったな」 吸血男爵「しかし密貿易と闇市が広がるばかりで、歯止めがききませんでした」
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暗黒竜王「おのれ人間どもめ!領土侵犯のみならず、経済でも我々を蝕むとは!」 魔王「うむ。我も竜王殿と同じ気持ちだ」 暗黒竜王「短命で魔法も使えぬ劣等種族の分際で…」 吸血男爵「寿命は短くとも、繁殖力はずば抜けています。また、魔法が使えない代わりに、彼らは工業を発展させました」
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暗黒竜王「これは驚きましたな男爵様。人間に肩入れするおつもりか?」 吸血男爵「まさか。ただ、彼らを侮るべきではないと申しているのです。たとえば『火薬』をお二人もご存じでしょう?」 魔王「当然だ。魔法を使わずに火をおこす粉だ。あの粉で鉛玉を飛ばす装置は、わが軍に多大な被害を与えた」
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吸血男爵「たしかに人間は、議会制民主主義も知らぬ野蛮な種族です。しかし、工業技術では魔国に先んじていると認めざるをえません」 暗黒竜王「ふん、何が工業だ!できの悪い魔法の代替品でしかない」 吸血男爵「しかし、そのことが今回の『双子の赤字』の原因でもあるのです」 魔王「ふむ?」
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魔王「政府が支出を増やせば、そのカネは民草を潤して国を豊かにする…。そう進言されたのは竜王殿だったな?」 暗黒竜王「まさしく。戦争が起きると景気が良くなるのは、戦費の支出が増えるからです。失業者に兵役という仕事を与え、収入の増えた庶民は消費も増やす…。そして好景気になるのです」
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魔王「であれば、好景気によって税収も増えなければおかしい。しかし、今の魔国は財政赤字ではないか」 暗黒竜王「そ、それは…」 吸血男爵「どんなに景気が良くなって人々が消費を増やしても、消費される製品が国内で生産されていなければ、輸入が増えるだけです。国内産業は発展しません」
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吸血男爵「戦争のために政府の支出を増やしたので、今の魔国は好景気です。庶民の暮らしは豊かになりましたが、そのカネは輸入品の消費に使われています」 魔王「その結果が双子の赤字か」 吸血男爵「はい。税収よりも支出の多い財政赤字と、輸出よりも輸入の多い貿易赤字が、同時に発生しました」
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吸血男爵「双子の赤字が膨らみ続ければ、やがて国が破綻します。今の状況は、敵に塩を送っているようなものです」 魔王「ううむ…」 pic.twitter.com/6THX4KYafA
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吸血男爵「魔国の下院議員代表として、私は人間国との休戦をご進言したい」 暗黒竜王「なんだと!?」 魔王「その真意は?」 吸血男爵「戦費による財政赤字を解消し、戦争に浪費していたカネを国内産業の振興に充てるべきです。でなければ、戦争が終わる前に国家が破綻します」
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暗黒竜王「フハハ!冗談はよしていただきたい」 吸血男爵「私は冗談など──」 暗黒竜王「戦争が起きたのも貿易赤字になったのも、すべては人間のせい。やつらを絶滅させなければ根本的な解決にはなりません。休戦などと寝ボケたことは言わず、今こそやつらの大陸に攻め込み、敵を滅ぼすべきです!」
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暗黒竜王「上院議員代表として、遠征軍の編成を進言したい」 吸血男爵「なっ!?下院としては戦費増大は認められません!」 暗黒竜王「では、この国が人間に蝕まれるのを黙って見ていろと?どんな大木も害虫を放置すれば枯れますぞ!」 吸血男爵「害虫駆除のために森に火をつけるバカはいません!」
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吸血男爵「今は休戦して堪え忍ぶべきです!」 暗黒竜王「笑わせないでいただきたい!遠征軍を送るべきです!」 魔王「やめんか、二人とも」 男爵・竜王 ハッ 吸血男爵「お、お見苦しいところをお見せしてしまいました…」 暗黒竜王「め、面目ない…」 魔王「二人の意見はよく分かった」
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魔王「大統領権限により、特別議会を招集しよう」 吸血男爵「特別議会、ですか…?」 暗黒竜王「各種族の代表者を集めて討議させる…その議題は?」 魔王「休戦か、遠征軍か。これは魔国の将来を左右する決断だ。熟議を尽くすべきだろう。お二人には準備をお願いしたい」 男爵・竜王「「はっ!」」
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▼銀行家の邸宅──。 女騎士「人が消えている?」 司祭補「はい。まるで煙のように、1人、また1人と姿を消しているのです」 黒エルフ「やめてよね、そんな怪談じみた話」 女騎士「しかし人が消えたのは事実なのだろう?」 司祭補「ご見識の広いお2人なら何か分かるかと思い、ご相談しました」
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黒エルフ「うちは銀行よ。消えたカネのを探すならともかく、人探しなんてできないわ」 司祭補「はい…」 黒エルフ「だいいち、怖がりすぎよ。まるで人をさらうお化けが出たみたいに深刻な顔しちゃって」 女騎士「人をさらうお化けはたくさんいるからなぁ」 司祭補「いますねぇ」 黒エルフ「え」
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黒エルフ「悪いけど最近は忙しいの。全額返済してくる取引先が増えていて、その対応でてんてこ舞いなんだから」 司祭補「全額返済ですか。銀行業のほうは好調でらっしゃるのですね」 黒エルフ「そうでもないわ…」 女騎士「なぜだ?貸したカネを回収できるのは良いことだろう」 黒エルフ「いいえ」
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黒エルフ「あんたも銀行を手伝っているんだから、これくらい理解していなさいよね。全額返済されるのは必ずしも良いことではないわ」 女騎士「?」 司祭補「どういうことでしょう?」 黒エルフ「しかたないわね、簡単に説明するけど──」 ──ガチャ! 幼メイド「こちらなのですぅ〜!」
— Rootport (@rootport) 2015, 9月 29
銀行家「こちらが書斎です。長旅ご苦労様でした」 行商?「いえいえ。旦那様のご注文とあれば大地の裏側にだって飛んでいきますよ」 銀行家「あはは。それは心強い!」 幼メイド「お荷物お持ちしますぅ〜」 女三人 パチクリ 銀行家「おや、みなさんもお揃いでしたか!ちょうど良かった!」
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