▽プロローグ
▽第1話「フライド・コカトリス」
▽第2話「ガバメント・オブリゲーション」
▽第3話「リテラシー」
▽第4話「ウェル・シェイプト・カップ」
▽第5話「プライス・オブ・ライフ」
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黒エルフ「ちょうど良かった?」ジト… 女騎士「銀行家さん、そちらの方は?」 司祭補「まあ!書籍商さんではありませんか!」 行商?「司祭補さま!こんなところでお目にかかれるとは光栄です!」 銀行家「お二人はお知り合いでしたか。…女騎士さん、こちらの方は書籍商でらっしゃいます」
— Rootport (@rootport) 2015, 9月 29
書籍商「私は書物を専門に商っております。今日は、ご注文いただいた本の書き写し作業が終わったので、納品に来たのです」 女騎士「そうか。人間国では魔法の使える者が少ないから、手作業で書き写して製本しているのだったな」 銀行家「注文から1年…やっと読むことができます!」
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幼メイド「ん〜!む〜!」 女騎士「どれ、私が代わりに運んでやろう」ヒョイ 幼メイド「ありがとうなのですぅ」 女騎士「この行李に商品の本が入っているのだな。ふむ、これは…気軽に持ち運べる重さではないな」 書籍商「本は高価なものですからね、盗まれないようにわざと重たく作っております」
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司祭補「つい先日、わたしも本を作っていただきましたの」 書籍商「精霊教会の経典ですね。その節はお世話になりました」 司祭補「そちらの本には鉄の鎖をつけていただきましたわ」 女騎士「鎖?」 黒エルフ「それも盗難防止でしょ。鎖で柱につないで、教会に来た人なら誰でも読めるようにする」
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司祭補「わたしとしては、良心の鎖があれば鉄の鎖など要らないと思ったのです。けれど、侍女さんがどうしてもつけろと言うので…」 黒エルフ「それは侍女さんが正解ね」 司祭補「信者のみなさんを疑うようで気が引けたのですが…」 女騎士「人の心は、鉄より脆いものだ」
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書籍商「こちらがご注文の品になります。お納めください」 カチャカチャ…ガバァ 銀行家「おっ…おおっ!」ジュルリ 女騎士「見事な装丁だ」 幼メイド「すごく大きいのです!それにぴかぴかですぅ!」 黒エルフ「いったい何の本?」 司祭補「精霊教会の経典ではなさそうですが…」
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女騎士「素材は羊皮紙か?」 書籍商「はい。最高品質のものを使っていますよ」 幼メイド「ようひし?」 銀行家「羊の皮を薄く延ばしたもののことですよ」 司祭補「1冊の本を作るのに15~20頭ほどの羊が必要だと聞きますわ」 女騎士「羊20頭…貧しい農家なら一財産だな」
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書籍商「最近は紙の本も出回っていますが、丈夫さでは羊皮紙に劣りますねえ」 黒エルフ「で、結局、何の本なのよ?」 銀行家「ふふふ…よくぞ聞いてくれました!ちょうどみなさんに御披露したいと思っていたのです!」 黒エルフ「はぁ…?」 銀行家「あの『コケモモ物語』の原作本なのです!」
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黒エルフ「『あの』と言われても、聞いたことないけど──」 女騎士「ほ、本当に『コケモモ物語』の原作本なのか!?」 司祭補「ぜひ拝読したいですわぁ!!」 黒エルフ「って、あんたたちは知っているの?」 幼メイド「人間国で今いちばんあつい演劇作品なのですよ~」
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銀行家「コケモモ物語は人間国の古典文学です。数年前、帝都歌劇団がそれを歌劇に仕上げました」 黒エルフ「帝都歌劇団」 幼メイド「そして人気ばくはつ。乙女の心をわしづかみなのです!」 女騎士「おぉ~これが原作」キラキラ 司祭補「ステキですわぁ」キラキラ 黒エルフ「乙女の心ねぇ…」
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銀行家「代金は月末までに為替手形でお支払いしますね」 書籍商「毎度ありがとうございました」 幼メイド「あっ、今お茶を…」 書籍商「お気づかいなく。次のお客様が待っていますので、私はこれでおいとまします」 …パタリ 女騎士「次のお客様か。書籍商とは儲かる仕事なのだろうか?」
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銀行家「儲かるかどうかはともかく、お金持ち相手の仕事ですね」 女騎士「金持ち相手?なぜ?」 黒エルフ「決まってるでしょ、貧乏人は文字を読めないからよ」 女騎士「え?でもこの子は読み書きができるではないか」 幼メイド「だんなさまのえーさいきょーいくのおかげです!」エッヘン
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銀行家「商業が盛んな港町では読み書き能力が重視されています。それでも4人に1人は文盲です。郊外に一歩でも出れば、文字を読める人はぐっと少なくなります」 女騎士「そうだったのか…」 司祭補「じつはわたしのご相談も、読み書きと関係しているのです」 黒エルフ「人が消えたって話?」
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司祭補「わたしの教会では、毎晩、日没過ぎから『読み聞かせ会』をしていますわ」 女騎士「うわさに聞いている。なかなか人気のようだな」 司祭補「おかげさまで。教会では、文字の読めない人から相談を受けることが多いのです。手紙を読んでほしい、契約書の文面を確認してほしい…」
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司祭補「…ですから、そういう人に向けて『読み聞かせ会』をすれば教会の人気は上昇、信心も深まると考えたのです」 女騎士「経典だけでなく、詩歌や小説、伝記も読むそうだな」 黒エルフ「お金を取れば儲かりそうね」 司祭補「とんでもない!知識は万人のもの。貧富の差別なく広まるべきですわ」
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銀行家「その通りです。言葉を紡ぐのは知性ある者のもっとも根源的な芸術活動。美を楽しむ権利は身分の貴賤に関係なく──」 黒エルフ「話がややこしくなるからちょっと黙ってて」 女騎士「ふむ、話が見えてきたぞ。その『読み聞かせ会』の参加者が消えているのだな?」 司祭補「そうなのです!」
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司祭補「読み聞かせ会には、多い時には20人ほどが参加なさっていました。けれど最近、常連の方の姿が見えなくなっているのです」 黒エルフ「自分の仕事が忙しくなっただけじゃないの?」 司祭補「そんなはずありませんわ!どなたも、読み聞かせ会をとても楽しみにされていましたもの」
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黒エルフ「最近は軍備が進んでいるわよね。その影響じゃないの?」 司祭補「兵役に就く方は無事を祈るため必ず教会に来ますわ。それに、消えた方々のご職業に共通点はありません。戦争に関係なさそうなお仕事でも、消えてしまった方がいますわ」 女騎士「消えた、という言い方が引っかかるな」
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司祭補「文字通りの意味ですわ。心配になって、侍女さんに見に行ってもらいましたの」 女騎士「消えた人の家を?」 司祭補「はい。侍女さんの報告では、まったく見知らぬ人が住んでいたのだとか」 黒エルフ「いよいよ怪談じみてきたわね」 女騎士「吸血鬼か狼男に注意すべきかもしれんな」
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幼メイド「きゅ、吸血鬼…こわいのです~」ウルウル 司祭補「あらあら、うふふ。大丈夫ですわ、こちらにいらっしゃいまし」 幼メイド「は、はい…?」 司祭補「この香り玉を差し上げますわ。魔除けの力がある香りですの。吸血鬼なんてイチコロですわぁ」 幼メイド「あ、ありがとうなのですぅ~!」
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幼メイド「司祭補さま!大好きなのです!」ニッコリ 司祭補「あらあら♪ わたしもメイドさんのことが好きですわ」 幼メイド「司祭補さま…わたし、司祭補さまのようにお綺麗でカッコよくなりたいです…」 司祭補「うんと勉強なさい。そうすれば必ずなれますわ」 幼メイド「はいなのです!」
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黒エルフ「はぁ…吸血鬼だなんて非現実的ね」 女騎士「そうでもないぞ」 黒エルフ「?」 司祭補「熱帯の影国には、暑さを嫌う吸血鬼はあまり住んでいないそうですが…」 女騎士「この辺りでは、たまに出るぞ。吸血鬼」 司祭補「出ますわねぇ…」 銀行家「用心しなくては」 黒エルフ「え」
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黒エルフ「ふ、ふーん。そう。…で、でも、全然怖くないわね。人間とエルフじゃ、血の味もちちち違うでしょうししし」 女騎士「めちゃくちゃ動揺しているではないか」 司祭補「とはいえ、吸血鬼や狼男にやられたという証拠はありませんわ。バルベリ様も、ブルチオヒド様も…」 黒エルフ「!」
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黒エルフ「バルベリって、もしかして織物輸出商の?」 司祭補「はい。ご存じでらっしゃいましたか」 黒エルフ「ブルチオヒドは帝都に本家がある毛皮商の分家よね?」 司祭補「まあ!どうしてそれを?」 黒エルフ「そんな…嘘でしょ…。消えた人たちの名前を教えて!」 司祭補「え、ええ…」
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司祭補「……消えた方の名前は以上です。思いつく限りでは」 黒エルフ「ありがと。参ったわね…」 女騎士「いったいどうしたのだ?」 黒エルフ「今の名前を聞いてピンと来なかった?」 銀行家「もちろんです」 幼メイド「もちろんなのです!」 女騎士「わ、私にも分かるように説明してくれ!」
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黒エルフ「あんたも知ってのとおり、最近この銀行では取引先からの全額返済が増えているわ」 女騎士「うむ。借りたカネをすべて返したいという問い合わせだな。それが…?」 黒エルフ「今上がった名前は、みんな全額返済した人たちの名前と一致しているのよ」 女騎士「つ、つまり…?」
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司祭補「消えた方々は、みなさんお金を全額この銀行に返してから消息を絶っている…そういうことですわね?」 黒エルフ「ええ。まだ確証はできないけど…思った以上にマズい状況になっているのかも」 女騎士「分からん。なぜその人たちは消える必要があったのだ?カネの返済と関係あるのか?」
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黒エルフ「まだ答えは出せないけど…調べてみたほうがよさそうね」 女騎士「よし。私も力を貸そう」 黒エルフ「足手まといにならないでよね」 司祭補「わたしもご一緒しますわぁ」 黒エルフ「助かるけど…教会はいいの?」 司祭補「侍女さんが何とかしてくれます♪」 一同(いいのか、それで…)
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幼メイド「はっ!そういえばだんなさま、そろそろ馬車が着く頃合いでは?」 銀行家「グーテンベルク様からの金貨を載せた馬車ですね」 女騎士「グーテンベルク?」 銀行家「丘陵地帯の寒村で暮らすドワーフの技工です。この方も全額返済を申し込まれて、そのカネがもうすぐ届くのです」
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女騎士「丘陵地帯の寒村なら、のんびり行っても1日で到着できるな」 黒エルフ「ちょうどいいわ。そのグーテンベルクとかいうドワーフに話を聞きましょう」 司祭補「ドワーフは信心深い種族。わたしがご一緒すれば何かのお役に立てると思いますわ」 銀行家「ぜひ町人消失の謎を明かしてください!」
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幼メイド「ではさっそく、ごしゅったつの準備をしますぅ~」 銀行家「よろしく頼みますよ。そうだ!たまには私も手伝いましょう」 黒エルフ「待ちなさい」ガシッ 銀行家「!」 黒エルフ「銀行家さん、あなたにはちょっとお話があるんだけど…?」ニコニコ 銀行家「ハ、ハハ…何でしょう?」
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黒エルフ「この本、いったいいくらしたの!?」 銀行家「いえ、たいした金額では…」 黒エルフ「具体的な数字で答えなさい!でないと番頭さんを呼ぶわよ!」 銀行家「そ、それは困ります!」 黒エルフ「コケモモだかフトモモだか知らないけど、ムダ使いは許さないわ!!」 銀行家「ひぃ~!」
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▼村のはずれ──。 馬 ポクポク 黒エルフ「まったく。銀行家さんの浪費癖には呆れるわね」ブッスー 司祭補「あらあら、まあまあ。志(こころざし)の実現に必要な支出ではありませんか」 黒エルフ「志と言ったってねえ──」 女騎士「二人とも、そろそろ到着だ」 馬 ポクポク
— Rootport (@rootport) 2015, 9月 29
司祭補「この辺りは小さな畑が続いていますわね」 女騎士「牧草地が見当たらないが…」 黒エルフ「きっと、この村では牛馬を飼っていないのよ。人の手で開墾できる畑の広さには限界があるわ」 司祭補「まあ!それなら家畜を飼えばよろしいのに…」 黒エルフ「いいえ。農奴を使うほうが安上がりね」
— Rootport (@rootport) 2015, 9月 29
女騎士「農奴か。私の生まれ育った新大陸には無かった制度だ」 司祭補「領主様の土地を借りて耕す人々ですわね。移住や職業選択の自由を持たない…」 黒エルフ「結婚や私有財産を認められているぶん、ただの奴隷よりはマシね」 司祭補「それでも、年貢の重さに苦しめられていると聞きますわ」
— Rootport (@rootport) 2015, 9月 29
歌声 ~♪ ~♪ 女騎士「おや、この歌は?」 司祭補「変わった旋律ですわねぇ」 女騎士「だが、妙に心にしみる歌詞だ」 黒エルフ「そう?安っぽい文句に聞こえるけど…」 司祭補「向こうの小川のほとりから聞こえてくるようですわ」 女騎士「よし、見に行ってみよう!」 馬 ポクポク
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