女騎士「くっ……殺せ!」 オーク「がはは!そうはいくか!我らオーク一族は近いうちに法人成りを計画しているからな」 女騎士「法人成り」 オーク「貴様には経理のお姉さんとして我らの繁栄に役立ってもらうぞ」 女騎士「経理のお姉さん」
— Rootport (@rootport) 2015, 7月 10
魔国で囚われの身になった女騎士。
オークから経理の知識を教わった彼女は、
人間国の小さな銀行で働き始めるのだった──。
▽プロローグ
▽第1話「フライド・コカトリス」
▽第2話「ガバメント・オブリゲーション」
▽第3話「リテラシー」
▽第4話「ウェル・シェイプト・カップ」
▽第5話「プライス・オブ・ライフ」
▽第6話「エクイティ」
▽第7話「ブラック・スワン」
▽第8話「ローン・オブ・ザ・リング」
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▼港町、銀行家の邸宅──。 幼メイド「だんなさまぁ~!たいへんですぅ~!」トテトテ…
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
黒エルフ「ちょっと。廊下を走るとコケるわよ」 メイド「あっ、ダークエルフさん!だんなさまはどちらに?」 黒エルフ「書斎だと思うけど…いったいどうしたの?」 メイド「じつは、こんなお手紙が届いたのです!」 黒エルフ「え?この手紙は…!?」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
▼書斎──。 銀行家「女騎士さんがいらして2ヶ月、不良債権は着実に減っているようですね」 女騎士「うむ。私の友人の力だ」 銀行家「ご謙遜はいりません。借金を取り立てるだけではなく、経営再建を手伝っているそうですね。とても好評ですよ」 女騎士「肉屋のようなお店がたくさんあったのだ」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
銀行家「そうだ!女騎士さん、『講師』になりませんか?」 女騎士「講師」 銀行家「私の主宰で、芸術家を育てる私塾を開講する計画があるのです。そこで簿記の授業をなさっては?」 女騎士「い、いや」 銀行家「ご報酬は弾みますよ」 女騎士「私は…」 女騎士(簿記2級レベルなのだが──!?)
— Rootport (@rootport) 2015, 9月 1
銀行家「私塾には、あらゆる時代の芸術品を集める予定です!すでに少しずつ買い集めているのです」 女騎士「ほう。では、その彫像も?」 銀行家「はい!これは約8000年前に作られた『精霊の像』です。見てください、この曲線美を…」ウットリ 女騎士「銀行家さんがこんな熱弁をふるうとは…」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
女騎士「高価そうな彫像だ。よくぞ番頭さんが購入を許したな」 銀行家「…じつは、まだ話していません」 女騎士「え」 銀行家「この計画は、番頭には相談せずに進めています。バレたら叱られちゃいます」てへっ 女騎士「ぎ、銀行の経営は…?」 銀行家「よろしく頼みます」ガシッ 女騎士「」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
女騎士(銀行家さんが芸術好きなのは知っていたが、まさかここまでとは…) 女騎士(世界中の芸術品を買い集める、か…) 女騎士(この計画を知ったら、怒るのは番頭さんだけではないぞ。きっと、あのダークエルフも目の色を変えて怒るはず…) 銀行家「ダークエルフさんがどうかなさいましたか?」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
女騎士「た、ただの独り言だ」 銀行家「そうですか。できればあの方にも講師をお願いしたいところですが…。とにかく、芸術を志す若者たちを世界中から呼んで、この港町を文化の中心地にしたいのです!」 女騎士「はあ」 銀行家「さあ、ともに美を探求しようではありませんか!さあ!…さあ!」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
銀行家「ぜひ私塾の講師になってください!」ズイッ 女騎士「い、いや…私は、えっと…」 黒エルフ「失礼するわよ!」 幼メイド「するのです!」 女騎士「おおっ、ちょうどいいところに!助かった!」ホッ 黒エルフ「…助かった?何が?」 女騎士「いや、こっちの話だ」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
黒エルフ「あら?机のうえの変な彫像は…?」 銀行家「よくぞ訊いてくれました!これは──」 女騎士「わーっ!」 黒エルフ「?」 女騎士「そ、そんなことより…何か用事があったのではないか?」 幼メイド「そうなのです!じつはお手紙が届いていたのですよ~」 銀行家「手紙ですか…?」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
幼メイド「だんなさま宛のお手紙を読むのもわたしのお仕事なのです!」エッヘン 銀行家「読むに値する手紙ばかりではありませんからね。信用できる使用人に先に読ませて、くだらない広告の手紙は捨てさせています」 銀行家「さて、この封蝋は…人間国政府のものですね」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
銀行家「ふむ…。どうやら国債の新規発行が決まったようです」 女騎士「戦費を調達するためか」 銀行家「ええ。各地の豪商や銀行に、あらかじめ政府の側で決めた金額を購入するように勧告しています」ピラッ 女騎士「うっ…すごい金額だ。しかし、払えぬほどではないか」 黒エルフ「ダメよ」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
女騎士「国債の購入とは、つまり国に対してカネを貸すのだろう?安全な資産運用だと聞くが…」 黒エルフ「時と場合によるわ。政府の収入を増やす手段は2つ。増税するか、戦勝国として賠償金を取るか…。つまり、今回の国債は、戦争に勝つまでカネを返すあてがないってことでしょう」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
幼メイド「もしや、人間国が負けるとお考えなので~?」 黒エルフ「…いいえ。でも、終戦より先に政府が破産して徳政令を出す可能性はあるわ」 幼メイド「とくせいれい?」 女騎士「借金をチャラにする政令のことだ」 黒エルフ「その手紙に書かれた金額の国債を購入するのはリスクが高すぎる」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
銀行家「待ってください。手紙に続きがあります。…精霊教会も今回の戦時国債の購入を予定しているようですが、その取引を仲介する銀行を募集しているそうです」 女騎士「政府と精霊教会との取引なら、金額は莫大なはず」 黒エルフ「仲介業者に選ばれれば手数料をたんまり受け取れそうね…」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
黒エルフ「この手紙の内容をまとめると、こんな感じね」 黒エルフ「国債の購入には、あたしは反対よ。もしも買うとしても、もっと少額にすべきだし…」 黒エルフ「…精霊教会の取引の仲介業者に選ばれて、手数料を受け取らないとワリに合わないわ」 pic.twitter.com/8zLE9gCobm
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
銀行家「国債の購入金額を変更したい場合や、仲介業者候補として応募する場合は、期日までに帝都に行かなければなりません」 女騎士「政府に直接嘆願すれば金額を変更できるのだな。…それで、期日は?」 幼メイド「明後日なのです~」 黒エルフ「横暴よね。帝都まで6日間はかかるのに…」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
銀行家「期日に間に合わない以上、勧告された額の国債を買うしかないのでしょうか…」 黒エルフ「ダメよ!そんなの絶対にダメ!」 女騎士「ふむ。明後日までに帝都に行く方法、か…」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
▼帝都──。 ショタ王「国債発行の首尾はどうだ」 財務大臣「何ら問題なく進んでおります。新たな戦艦の建造と兵士の募集も順調です」 ショタ王「陸海両軍の元帥から話は聞いている。この調子なら、半年を待たずして新大陸に大部隊を送り込めるそうだな」 財務大臣「副都を奪還する日も近いかと」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
ショタ王「開戦から100年か…」 財務大臣「よく勉強しておいでですね」 ショタ王「ぼくは王様だ。この程度の歴史、家庭教師に教わらずとも知っている。そう言う大臣こそ、きちんと歴史を学んでいるのだろうな?たとえば…新大陸が発見されたのはいつだ」 財務大臣「120年前でございます」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
財務大臣「およそ120年前、冒険者たちは西の大海の向こうに新大陸を発見しました」 財務大臣「誰も住んでいない大陸東部の沿岸に、わが国の入植地が次々と作られました」 財務大臣「肥沃な大地は豊かな実りをもたらし、飢餓と窮乏は過去のものになるかと思われました。しかし……」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
ショタ王「……入植開始から20年後、内陸部の山脈の向こうから突如として魔族の群れが現れた」 財務大臣「彼らは『魔国』を自称し、人間国に宣戦布告しました」 ショタ王「それから100年、ぼくたちは戦争を続けている」 財務大臣「流れた血を無駄にしないためにも、必ずや勝たねばなりません」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
ショタ王「今回の国債は、政府の側で決めた金額を買うよう勧告しているそうだな」 財務大臣「戦費を確実に集めるためです」 ショタ王「民草から不満が出なければいいが……」 財務大臣「相手は金持ちです。本来なら徴税してもいいところを、国債という形にしているのです。不満はありますまい」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
財務大臣「何より、嘆願さえすれば購入額を変更できるのです。どうかご安心を」 ショタ王「ならばいいのだが……」 財務大臣(とはいえ、嘆願の受け付け期日はわざと短く設定しましたがね。ふふふ……)
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
▼港町、銀行家の書斎──。 女騎士「地図を出してくれ」 幼メイド「はいなのです〜」バサァ 銀行家「ここが港町、こちらが帝都です」 黒エルフ「帝都に向かう街道は、丘陵地帯を大きく迂回して延びているのね」 銀行家「隊商の馬車なら6日、早馬でも3〜4日はかかるはずです」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
黒エルフ「たしか、街道の途中には関所もたくさんあるんだっけ?」 女騎士「うむ、関所を通るたびに通行料を取られる」 銀行家「通行料の金額で揉めたり、待たされたりすることが多く、それも帝都までの旅に時間がかかる原因になっています」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
黒エルフ「丘陵地帯を突っ切ったら? かなりのショートカットになると思うのだけど」 女騎士「いや。地図では分からないが、この辺りは急峻な崖地が続いている。かえって時間がかかってしまうだろう」 銀行家「整備された街道を使うほうが速い、ということですね」 女騎士「そういうことだ」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
幼メイド「てんいの魔法を使えば、いっしゅんでどこにでも行けるそうですよ~」 銀行家「2代前の勇者様は転移魔法を使えたそうですね。しかし、ここ数十年、転移魔法を使える者は生まれていないはずです」 女騎士「ワープのひもはこちらの大陸では手に入らないし…」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
幼メイド「それなら、ハトさんはどうですか~」 女騎士「たしかに伝書鳩なら1日で飛べる距離だな」 黒エルフ「ダメね。伝書鳩がきちんと手紙を届けられる確率は五分五分ってところよ。重要書類の送付には使えないわ」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
幼メイド「では、お馬さんは~?人の2倍3倍の速さで走れると教わりました~」 黒エルフ「いいえ。あたしも乗馬には詳しくないけど…たしか、馬が全力疾走できるのはせいぜい数分間なのよね?」 女騎士「普通の馬ならそうだな。人は一昼夜走り続けることができるが、馬にそれをさせたら体を痛める」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
幼メイド「しょーとかっとはダメ。魔法もハトさんもお馬さんもダメ…」 銀行家「万事休すですね…」 黒エルフ「明後日までに帝都に行かなくちゃいけないのに!」ムキーッ 女騎士「…私なら、間に合うかもしれない」 一同「「「ええっ!?」」」 女騎士「銀行家さん、力を貸してほしい」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
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