魔国で囚われの身になった女騎士。
オークから経理の知識を教わった彼女は、
人間国の小さな銀行で働き始めるのだった──。
▽プロローグ
▽第1話「フライド・コカトリス」
▽第2話「ガバメント・オブリゲーション」
▽第3話「リテラシー」
▽第4話「ウェル・シェイプト・カップ」
▽第5話「プライス・オブ・ライフ」
▽第6話「エクイティ」
▽第7話「ブラック・スワン」
▽第8話「ローン・オブ・ザ・リング」
──────────
■■■登場人物紹介■■■
女騎士(本名:シルヴィア・ワールシュタット)
剣に強く数字に弱い。頼まれたら断れないタイプ。
ダークエルフ(本名:ルカ・ファン・ローデンスタイン)
簿記と商売に詳しい。女騎士の奴隷。
司祭補(本名:セラフィム・アガフィア)
精霊教会の聖職者。ちょっとした魔法が使える。
銀行家(本名:ロレンツォ・グリマルディ)
美術品の研究が好き。女騎士の雇い主。
幼メイド(本名:マリア)
銀行家の邸宅で奉公している。
▼港町──。 ワイワイ ガヤガヤ… 司祭補「古道具ぅ~、古道具はいらんかねぇ~…ですわ♪」 町人A「おい、見ろよ」 町人B「あそこで台車を引いてるのは司祭補さまじゃないか?」 司祭補「ご不要な食器、古着、お買い取りしますぅ~」 町人C「なんで司祭補さまがあんなことを?」
— Rootport (@rootport) 2015, 10月 20
黒エルフ「…いたわ!あそこよ!」 女騎士「待つのだ!」 司祭補「まあ、お二人ともどこにいらしたのです?」 黒エルフ「こっちのセリフよ!ちょっと目を離したすきにいなくならないでよ…」 女騎士「と、とにかく路地裏に入るのだ!」 司祭補「はて?路地裏では古道具屋のお仕事ができませんわ」
— Rootport (@rootport) 2015, 10月 20
黒エルフ「その格好じゃ目立ちすぎて仕事どころじゃないでしょう」 女騎士「変身の魔法が解けているぞ」 司祭補「まあ!いつの間に!」 女騎士「きっと潮風でお香のにおいが飛ばされたのだろう」 司祭補「お塩の浄化作用のせいかしらぁ?興味深いですわぁ」 黒エルフ「って、感心してる場合!?」
— Rootport (@rootport) 2015, 10月 20
女騎士「とりあえず、魔法をかけ直したほうがいいのでは…?」 司祭補「そうですわね。えいっ」 ──ボフッ 古道具屋「これでいいですかね?」 女騎士「うむ、完璧なのだ!」 黒エルフ「はぁ…。どうしてこんなことに…」
— Rootport (@rootport) 2015, 10月 20
▼数日前、銀行家の邸宅──。 幼メイド「だんなさまぁ~、ご旅行のお荷物はこれで最後ですぅ~」 銀行家「ありがとう。もう下がっていいですよ」 古道具屋「…まったく恐縮です。まさか銀行の旦那にご一緒いただけるとは」 銀行家「お気兼ねなく。古道具屋さんとは先代からのよしみですから」
— Rootport (@rootport) 2015, 10月 20
司祭補「ごめんくださぁい。…あら?銀行家さんはご旅行ですの?」 黒エルフ「魚河岸の町に行くそうよ」 司祭補「魚河岸(うおがし)の町」 女騎士「ここから西に3日ほどの場所だ」 銀行家「こちらの古道具屋さんに同行します。一週間ほど留守にしますよ」 古道具屋「いやまったくありがたい…」
— Rootport (@rootport) 2015, 10月 20
古道具屋「私の一人娘は、あの町の船乗りの男に嫁いだんです。その娘が臨月なのですが、あいにく夫は海の上。頼れる親戚縁者もいないので、私がそばにいてやることにしたんです」シュン… 銀行家「さらに娘さんは、お婿さんと船主さんとの契約書に不備がないか不安がっていると聞きましてね…」
— Rootport (@rootport) 2015, 10月 20
銀行家「…公証人の資格を持っている私が一肌脱ぐことにしたわけです」 司祭補「契約書の内容を確かめるのですわね」 黒エルフ「親切すぎやしないかしら」ボソッ 銀行家「こちらの古道具屋さんには先代からのご恩があるんですよ」 古道具屋「いえいえ。恩だなんて、そんな」ドンヨリ…
— Rootport (@rootport) 2015, 10月 20
女騎士「古道具屋、なぜそんな浮かない顔をしているのだ?娘が臨月で、もうすぐ孫が生まれるのだろう。めでたいではないか」 黒エルフ「話を聞いてなかったの?娘さんは初産よ。不安になって当然だわ」 古道具屋「いいえ。娘はあまり心配しておりません。私ら夫婦に似て、体の丈夫な子ですから…」
— Rootport (@rootport) 2015, 10月 20
古道具屋「私が心配しているのは商売のほうです」 司祭補「まあ、どんなご商売ですの?」 古道具屋「古道具と言っても、高級な骨董品は扱いません。私はもっぱら日用品を商っております。堅い商売をしてきましたから、一週間の旅に出る貯えもございます」 司祭補「では、何がご不安なのかしらぁ?」
— Rootport (@rootport) 2015, 10月 20
古道具屋「司祭補さまの前でこんなことを言うのは気が引けるのですが…じつは、占いです」 司祭補「占い」 古道具屋「精霊教会の教えでは、占星術が『怪しいおまじない』とされているのは存じています。とはいえ、商売人は占いやゲン担ぎが好きな生き物なのです」 司祭補「あらあら、まあまあ」
— Rootport (@rootport) 2015, 10月 20
古道具屋「占星術で、今週は1日も休業するなという結果が出たんです。少なくとも、台車を引き回すことだけは欠かすなと。さもなきゃ将来は真っ暗だと」ドンヨリ 黒エルフ「でも、臨月の娘を放っておけないわよね」 女騎士「よし。私に任せ──」 司祭補「わたしに任せて欲しいのですわ♪」
— Rootport (@rootport) 2015, 10月 20
一同「!?」 古道具屋「…任せる、とおっしゃいますと?」 司祭補「ですから、わたしがあなたの代わりを務めますわ。わたしが古道具屋さんの台車を引き回せば、『休業』したことにはならないでしょう?」 古道具屋「それは、そうですが…司祭補さまにそんなことさせられません!」
— Rootport (@rootport) 2015, 10月 20
司祭補「あら、わたしではご不安かしら?たしかに儲けをジャブジャブと出すことはできないと思いますが…」 古道具屋「いいえ、儲けだなんて滅相もない!私の代わりに台車を引いてくださるだけで恐れ多くて──」 司祭補「遠慮しないでくださいな。町の方々の暮らしぶりを知るいい機会ですわぁ♪」
— Rootport (@rootport) 2015, 10月 20
司祭補「それに…商売に関しては、わたしには心強い味方が2人もいますの♪」ニギッ 黒エルフ「ちょっと待って。勝手に巻き込まないでくれる?」 女騎士「私は異存ない」 黒エルフ「ええっ」 司祭補「古道具屋さんのお力になれないかしら?」 古道具屋「そ、そこまでおっしゃるなら…」
— Rootport (@rootport) 2015, 10月 20
古道具屋「しかし、司祭補さまは教会のご用事でお忙しいのでは?」 司祭補「そちらは侍女さんが何とかしてくださいます♪」 一同(…いいのか、それで) 司祭補「無事にお孫さんが生まれることを祈っておりますわ。ご商売のほうは、わたしがバッチリ代わりを務めて見せますわぁ♪」
— Rootport (@rootport) 2015, 10月 20
▼再び現在、港町──。 黒エルフ「…って、自分で言ったのよ。人の手を煩わせないでよね」 古道具屋「不覚でした。町の方々の様子に気を取られまして…。帝都とはだいぶ違うんですねぇ」 女騎士「ふむ。変身の魔法はうまくかけ直すことができたようだな」 古道具屋「おかげさまで。油断大敵です」
— Rootport (@rootport) 2015, 10月 20
???「…す、すみません…」 女騎士「何だ?今の声は」 黒エルフ「蚊の鳴くような声だったわね」 司祭補「こんな路地裏でどこからともなく…気味が悪いですわ」 色白青年「い、いえ。こちらです。…こっちの物陰です!」 黒エルフ「きゃっ!…あんた、いつからそこに?」
— Rootport (@rootport) 2015, 10月 20
女騎士「何者だ!気配もなく私たちに近づくとは!」スチャッ 色白青年「ひゃあ!お、驚かせるつもりは無かったんです!」 古道具屋「うーん、悪い人には見えませんねぇ」 女騎士「しかし、この者の気配の薄さ。尋常ではなかった」 色白青年「た、たしかに影が薄いとよく言われますが…」コホッ
— Rootport (@rootport) 2015, 10月 20
色白青年「…みなさんは古道具屋さんとお見受けしました。買っていただきたいものがあるのです」ケホケホ 古道具屋「なるほど、そういうことでしたか」 色白青年「私はすぐそこに部屋を借りています。ぜひ上がっていってください」 女騎士「しかし──」 古道具屋「分かりました。拝見しましょう」
— Rootport (@rootport) 2015, 10月 20
──────────
──────────