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▽プロローグ
▽第1話「フライド・コカトリス」
▽第2話「ガバメント・オブリゲーション」
▽第3話「リテラシー」
▽第4話「ウェル・シェイプト・カップ」
▽第5話「プライス・オブ・ライフ」
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▼帝都銀行の支店、応接室──。 銀行員「では、こちらでしばらくお待ちください」ニコッ 黒エルフ「ありがとうございます」ニコニコ パタン… 司祭補「潜入成功ですわ♪」 女騎士「って、どうするつもりだ!夫婦とは別室に案内されてしまったぞ!」 黒エルフ「あんたの力を借りるわよ」
— Rootport (@rootport) 2015, 12月 10
女騎士「私の力?」 黒エルフ「廊下に出て、夫婦が案内された部屋を探してきなさいよ」 女騎士「そんな怪しい行動をして、銀行員に見とがめられたらどうする」 黒エルフ「ガツンと一発お見舞いして気絶させればいいじゃない。得意でしょ?」 女騎士「たしかに得意だが、できるわけなかろう」
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黒エルフ「何よ、肝心なときに役に立たないわね」 女騎士「お前こそ、こういうときだけ突飛なことを言うのだな!」 黒エルフ「突飛ですって?あたしはただ、効率のいい方法を──」 司祭補「お2人とも、こちらにいらして?暖炉の奥から声が聞こえますわ」 女騎士・黒エルフ「「暖炉?」」
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???「……が……で……」 ???「…は……だから……」 女騎士「…ふむ、たしかに誰かの話し声が聞こえるな」 黒エルフ「煙突が建物のどこかでつながっているのかしら?」 司祭補「この声には聞き覚えがあります」 黒エルフ「ええ。これは貿易商さんの声だわ」
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「…それで……なら……」 「……次回は……が……」 「はい。……海上保険を……」 黒エルフ「海 上 保 険 で す っ て !?」 女騎士「わ!急に大声を出すな」 司祭補「びっくりしましたわ」 黒エルフ「やられたわ!帝都銀行を見くびっていたようね」 女騎士「どういうことだ?」
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黒エルフ「あんたが簿記を学んだ魔国には、冒険貸借は無かったのよね?」 女騎士「うむ、聞いたこともない」 黒エルフ「じつは冒険貸借は古い方法で、影国でもほとんど使われなくなっているの。代わりに海上保険が普及しているわ」 司祭補「何ですの?その『海上保険』というのは」
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黒エルフ「海上保険というのは、航海が失敗したときに備えて、保険加入者でお金を出し合う仕組みのことよ。実際に航海が失敗したときには、集めたお金から保険金を受け取れる」 女騎士「保険会社に徴収されるお金は『保険料』、事故が起きたときに受け取る保険金は『雑収入』で処理するのだ」
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司祭補「つまり海上保険は、冒険貸借よりも進歩した仕組みということですの?」 黒エルフ「ええ。だけど海上保険は人間国には存在しなかったはず…」 女騎士「なぜだ?」 黒エルフ「海上保険が普及するには、条件が2つあるのよ」
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黒エルフ「まず、冒険貸借でカネを借りなくてもいいぐらい商人たちが豊かであること。そして、航海が失敗する可能性を正しく見積もることができること。この2つの条件が揃わないと海上保険は作れないわ」 女騎士「人間国は、その条件を満たしていない?」 黒エルフ「少なくとも、この町以外ではね」
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黒エルフ「港町は、人間国では例外的に豊かな貿易商がたくさんいるわ」 女騎士「さらに寄港する船も多いから…」 黒エルフ「…失敗の可能性もだいたい分かる。100艘のうち何艘が沈没するのか、肌感覚で予想できる」 司祭補「なぜ失敗の可能性を正しく見積もる必要があるのでしょう?」
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黒エルフ「もしも船が沈みまくったら保険金はどうなるかしら?」 司祭補「えっと…損失を補うために保険金の支払いが増えるから…集めたお金が底をついてしまいますわ!」 黒エルフ「その通り。加入者から保険料をいくら徴収すればいいか判断するには、失敗の可能性を正しく見積もる必要があるのよ」
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黒エルフ「やっと謎が解けたわ。最近、うちの銀行では冒険貸借の契約を結ぶ顧客が減っていた。その理由が分かった」 女騎士「海上保険のせいだというのか?」 黒エルフ「冒険貸借は利率が高いわ。比べて、海上保険に加入したほうが安上がりになるはず。あたしたちは顧客を奪われていたわけね」
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司祭補「今まで人間国に海上保険は無かったのですわね?」 黒エルフ「でも、港町なら保険を普及させられると気づいた人物がいた。もしもゼロから保険を発明したのだとしたら、恐ろしく頭の切れる人間よ」 女騎士「もしくは魔族のスパイだな」 秘書「…心外ですね、私はれっきとした人間ですよ?」
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黒エルフ「あんた、いつからそこに!?」 秘書「あなたの叫び声を聞いてすぐに駆けつけました」 女騎士「海上保険はお前自ら考え出したというのか?」 秘書「ええ、私は生まれも育ちも人間国です。まさか影国や魔国で保険が普及していたとは…少し悔しいですね。私は『車輪の再発明』をしたわけだ」
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秘書「それにしてもダークエルフさん。あなたは海上保険の存在も、仕組みも知っていた。なのに、なぜこの町で保険を売ろうとしなかったのですか?」 黒エルフ「うっ…」 秘書「利子の高い冒険貸借のほうが儲かるから、ですか?…欲に目がくらんだようですね。おかげで顧客を奪うことができましたが」
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秘書「私はあなたの評価を改めたほうがいいのかもしれません、低いほうにね」 黒エルフ「た、たしかに油断したのは認めるわ。だけど、人間国の人たちに海上保険はまだ早いと思って…」 秘書「ずいぶん上から目線な物言いですね。そういうのを『驕り』と言うのです。これ以上失望させないでください」
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秘書「この調子なら、例の『政府からの依頼』も期待できませんねえ…」 女騎士「兵員不足を補う方法を考えろ、という依頼だな。やはりお前たちのところにも届いていたか」 秘書「あなた方がどんな突飛な案を出してくるか、これでも楽しみにしていたんですよ?」 女騎士「ふん、心にも無いことを」
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司祭補「あなたは何かいい案を思いつきましたの?」 秘書「おっと、それは国王陛下の御前で発表するまで秘密です。…そうそう、もしも良案が出なければ徴兵制が敷かれるそうですよ、陸軍元帥閣下のご発案で」 女騎士「何?ろくな兵士が集まらんぞ!」 秘書「いいえ、悪いことばかりではありません」
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秘書「私は帝都で長らく働いてきました。軍閥の権力者にも知り合いがたくさんいます。彼らに働きかけて、たとえば兵站の調達のような仕事を割り振ってもらえば、この才能を活かせるでしょう」 黒エルフ「…そういう仕事なら金儲けもできるわね」 秘書「そして、邪魔な相手を最前線に送り込むことも」
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女騎士「もしも徴兵制が敷かれたら、軍の上層部に働きかけて銀行家さんを最前線に送り込む。お前はそう言いたいのか?」 秘書「さあ、何の話でしょう?ですが、あの方が戦場で何日生き延びられるかには興味があります。私と同様、剣の握り方も知らない方だとお見受けしました」 女騎士「貴様…!」
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秘書「要するに、私は徴兵制が敷かれてもまったく困らないと言いたいのですよ。あなた方のご友人とは違ってね」 女騎士「…」 黒エルフ「…」 司祭補「…」 秘書「雇い主を守るつもりなら、せいぜい知恵を絞って徴兵制よりも優れた方法を考え出すことですね。…そんな方法があればの話ですが」
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▼夜、帝都──。 ショタ王「こんな時間にすまない」 色白青年「陛下のお呼び立てとあれば、いつでも馳せ参じます」 ショタ王「お前の率直な意見を聞きたい。…あと、何人の兵士が必要だと思う?」 色白青年「軍艦の空席を埋めるのに必要な人数、という意味でしょうか?」 ショタ王「いや──」
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ショタ王「軍艦を満席にするだけでは足りないだろう。死んだ兵士は補充しなくちゃいけないはずだ」 色白青年「しかし陛下は、臣民が死ぬのは許さないとおっしゃったのでは…」 ショタ王「ぼくはそこまで子供じゃない。人の死なない戦争なんてあり得ないことは分かっている」
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色白青年「つまり、今回の大遠征でどれくらい死者が出るのかをお尋ねなのですね」 ショタ王「うむ」 色白青年「率直に申しまして…分からないというのが、いちばん誠実な答えでございます」 ショタ王「分からないだと?」 色白青年「陛下に嘘はつけません。正確な人数は誰にも分からないはずです」
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色白青年「たとえば前線に出る将軍たちは、死者の数を少なく見積もるでしょう」 ショタ王「…だろうな。部下を無駄死にさせるという汚名は誰も浴びたくない」 色白青年「一方で、募兵担当者たちは死者を多く見積もるはずです。でなければ、彼らの仕事が無くなってしまいますから」
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ショタ王「死者数を楽観的に見積もる者もいれば、悲観的な者もいる。だから正確な数字は分からない、か」 色白青年「ええ、残念ながら…」
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