▽プロローグ
▽第1話「フライド・コカトリス」
▽第2話「ガバメント・オブリゲーション」
▽第3話「リテラシー」
▽第4話「ウェル・シェイプト・カップ」
▽第5話「プライス・オブ・ライフ」
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母親「あんたって子は!」 父親「出てくるなと言っただろう!」 そばかす娘「だけど、母ちゃん父ちゃんをこれ以上困らせるわけにはいかないよ…」 田舎領主「聞き分けのいい娘じゃ!かわいがってやろう!」 父親「くっ…約束が違います!月末まで待っていただけるはずでは!?」
— Rootport (@rootport) 2015, 9月 29
田舎領主「たしかに、わがはいは月末まで待つと申した」 父親「で、では…!」 田舎領主「しかし気が変わった。今夜のわがはいは気分がいい。わざわざ迎えに来てやったというわけじゃ!」 母親「そんな…」 そばかす娘「もういいよ!私が屋敷に行けばいいんだろ。母ちゃんたちを困らせないでよ」
— Rootport (@rootport) 2015, 9月 29
女騎士「待て。事情を聞かせてくれ」 黒エルフ「自分から愛妾になりたいと言ったのは本当なの?」 そばかす娘「うん、本当だよ。ひと月くらい前に、領主様のお使いの人に荷物を渡されたんだ。弁当箱くらい大きさの小包をお屋敷まで届けてほしいって…」
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そばかす娘「…言いつけ通り、私は荷物を届けたの。だけど、小包の中身が壊れていたんだよ。外国産の手鏡で、バラバラに割れていた」 田舎領主「さよう。貴様ごときでは、たとえ身売りしても弁償できない高級品じゃ!」 そばかす娘「だから私、領主様のお妾さんになることにしたの」
— Rootport (@rootport) 2015, 9月 29
黒エルフ「話が飛躍しているわ。なぜ手鏡の代償として、愛妾にならなくちゃいけないのよ」 田舎領主「まったく、これだから無学な者たちは…。いいか?人間国の法律では5万Gを超える器物破損や窃盗は縛り首になるのじゃ。あの手鏡は安く見積もっても15万G、一家3人縛り首になるはずじゃ」
— Rootport (@rootport) 2015, 9月 29
田舎領主「しかし、わがはいは寛大にも器物破損の被害を訴えず、この娘をわがはいの屋敷で教育してやることにした。同じ間違いを犯さぬようにな!さらに寛大にも、今月末まで家族と過ごす時間を許してやったのじゃ!」 そばかす娘「か、感謝して…います…」 両親「うぅ…」
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女騎士「5万Gを超える器物破損で、縛り首?」 黒エルフ「そんな法律、聞いたことがないわね」 田舎領主「お前たちのような浅学非才の者では無理もなかろう。しかし、この『法律書』にばっちり書いてあるのじゃ!」ババーン 女騎士「そ、その本は──!」 黒エルフ「なによ、それ──!」
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女騎士「表紙に『家庭の医学』と書いてある」 黒エルフ「読み間違えようがないわね」 田舎領主「なっ!貴様たち、まさか字が読めるのか!?」 黒エルフ「当然よ。文字に暗い農奴たちは騙せても、あたしたちは騙せないわよ」 父親「領主様、どういうことでしょうか…?」
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田舎領主「う、うぬぬ…」 女騎士「あれは法律書ではないし、縛り首というのは嘘っぱちだ。信じてはならん」 そばかす娘「!」 田舎領主「だ、だが…手鏡を壊したのは事実!どうやって弁償するつもりじゃ!」 そばかす娘「そ、それは…」 田舎領主「ならば、わがはいが貴様の身を買ってやろう!」
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田舎領主「この村から離れることもなく、手鏡の弁償もできる。悪い話ではなかろう?」 そばかす娘「…」 田舎領主「むしろ、わがはいの心の広さに感謝すべきじゃな!おほほ!」 そばかす娘「は、い…」 一同「!!」 そばかす娘「もう家族を困らせずに済むなら、私は領主様のお屋敷に行くよ」
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女騎士「いいや、まだだ」 田舎領主「この期におよんでいったい何じゃ?」 女騎士「月末までは家族との時間を許す、お前はそう言った。男たるもの約束は果たすべき。違うか?」 田舎領主「ふん、そんな約束…」 女騎士「その『家庭の医学』は何だ!恥を重ねるつもりか!」 田舎領主「ぐっ」
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田舎領主「ふ、ふんっ!わがはいの心は海より広い。月末まで待ってやる…」シブシブ 女騎士「お前にも一欠片の騎士の心があってよかった。では、こうしよう。この一家が月末までにカネを準備できたら、それで弁償する。できなければ、領主様はこの娘を買い上げる──」 黒エルフ「はぁ!?」
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黒エルフ「あんた何考えてんのよ!そんなの無理に決まって──」 そばかす娘「私は構わないよ。月末まで家族と過ごせるだけで充分なのに、女騎士さんはわずかでも希望を残そうとしてくださったんだ。嬉しいよ」 田舎領主「わがはいも構わん。どうせ叶わぬ希望じゃからな!ほっほっほっ!」
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女騎士「契約成立だな」 田舎領主「おほほ!月末が楽しみじゃわい。おい、御者よ!馬車を出せ!屋敷に帰るぞ!」 馬車 ガタゴト… 財務大臣「どうやら私が出る幕は無かったようだな」 女騎士「うむ。相手が抜けているやつで助かった」 財務大臣「この姿で驚かせようと思ったのだが…」
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黒エルフ「相変わらず見事に化けるわね。ていうか、人を驚かせるなんてちょっと悪趣味じゃない?」 財務大臣「相手がしつこかった場合の最後の手段にするつもりだった」 黒エルフ「ならいいけど…」 ──ボフッ 司祭補「でも、やっぱりみなさんにお披露目したかったですわ」 黒エルフ「」
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両親「うう…」 そばかす娘「もう母ちゃんってば泣かないでよ。父ちゃんも!月末までは一緒に暮らせるんだから…」 黒エルフ「…で、あんたはあれをどうするつもり?」 女騎士「う、うむ…」 黒エルフ「悪いけど、銀行からあの一家にカネは貸せないわよ」 女騎士「それは分かっているのだ」
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司祭補「精霊教会としても、どうにもできませんわねぇ…」 女騎士「そうか」 黒エルフ「変な期待を持たせないほうが良かったんじゃない?偽物の希望は、本物の絶望よりも残酷よ」 女騎士「そうかもしれない…」 司祭補「とりあえず今夜はベッドに戻りましょう。待てば海路の日和ありと言いますわ」
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女騎士「それも、そうだな…。私たちの当初の目的を忘れるところだった」 黒エルフ「グーテンベルクさんに会って話を聞くのよね」 司祭補「そして、港町の方々が消えた理由を調べるのですわ」 一家 シクシク…サメザメ…
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▼翌朝、坑道入口──。 女騎士「さて、ここか」 黒エルフ「たしか『呪いの文句』が刻まれているのよね?怪物の存在を示すとかいう」 女騎士「呪いの文句…そんなものは見当たらないが?」 司祭補「この看板のことかしらぁ?」 『猛犬注意』 女騎士「これが…」 黒エルフ「…呪いの文句?」
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司祭補「ふむふむ…『わが愛犬のヘルハウンドは日中は昼寝をしている、物音を立てぬよう注意すべし。用無き者の来訪を歓迎せず。グーテンベルク』と書かれていますわ」 女騎士「ふむ。忍び足で坑道を抜けるとしよう」 黒エルフ「戦わないの?」 女騎士「人の飼い犬を傷つけるわけにはいかんだろう」
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▼坑道・内部──。 司祭補「村の方々は迷子に注意とおっしゃっていましたが…」 黒エルフ「…この坑道、親切な道しるべがたくさんあるわ。迷いようがないわね」
— Rootport (@rootport) 2015, 9月 29
女騎士「むっ、またしても看板だ!」 司祭補「えっと…『転落注意。東西の部屋の各スイッチを入れてから進むこと。さもなくば足場が崩れるおそれあり』…と、書かれていますわね」 黒エルフ「危険な仕掛けって、もしかしてこれのこと?」 女騎士「そうか、長年の謎が解けたぞ!」
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女騎士「ダンジョンというものは、どこも危険な罠だらけなのだ。最悪死ぬ」 司祭補「まあ、大変ですわ!」 女騎士「しかし近くの床や壁に、罠の解除方法やヒントが書かれている場合が多い」 黒エルフ「どうして?侵入者を殺すための罠なんでしょ?」 司祭補「ダンジョン制作者の善意でしょうか?」
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女騎士「いいか?この坑道の安全な足場でも、文字の読めない村人にとっては危険な罠になるのだ」 黒エルフ「えっと…つまり、ダンジョンが作られた時代には文字を読める人が今よりもさらに少なかった?」 司祭補「たしかに古代帝国では、大将軍でさえ読み書きができない時期があったと聞きますわ」
— Rootport (@rootport) 2015, 9月 29
女騎士「ダンジョンが作られた当時は、読み書きのできない人がほとんどだった。壁に解除方法が書かれていても罠を避けられなかったのだ」 黒エルフ「逆に言えば、文字を読めるのは一部の特権階級だけだから…」 司祭補「…王族や貴族は罠を避けられるはずですわね」
— Rootport (@rootport) 2015, 9月 29
司祭補「ダンジョンは王族の墓や宝物庫だったと聞きますわ」 黒エルフ「関係者は自由に出入りできるけど、一般庶民は近寄れないようにする…そのために、罠の近くに解除方法を書いたのね」 女騎士「なぜ危険な罠の近くにヒントが書かれているのか、ずっと不思議に思っていたのだ。やっと謎が解けた」
— Rootport (@rootport) 2015, 9月 29
▼坑道・出口──。 黒エルフ「やっと空を拝めたわね」 司祭補「あそこの小屋がグーテンベルクさんの工房でしょうか?」 女騎士「む?先客がいるようだな…」 ??「あはは!そう怒らないでくださいよ」 ???「わしらは親切で言っているのですぞ?」 ドワーフ「うるさい!帰ってくれ!」
— Rootport (@rootport) 2015, 9月 29
司祭補「あのドワーフさんが、きっとグーテンベルクさんですわね。残りの2人はどなたでしょう?都会風の身なりをなさっていますわ」 女騎士「あの顔には見覚えがある」 黒エルフ「ええ、間違いないわ。…帝都の銀行の、港町の支店長よ」 支店長「おや、これまた妙な場所でお会いしましたなぁ」
— Rootport (@rootport) 2015, 10月 2
??「この娘が例のダークエルフですか?」 支店長「いかにも。どうだね、この奴隷は値段ぶんの働きをしているかね?」 女騎士「お前には関係ないことだ。そちらの男は何者だ?」 ??「これは失礼。申し遅れましたが、私は帝都の銀行本店で秘書をしております。以後、お見知りおきを」
— Rootport (@rootport) 2015, 10月 2
秘書「普段は頭取さまの右腕として働いていますが、最近では港町の支店を手伝うよう申しつけられまして…。おっと、もうこんな時間か。私どもは次の約束がありますので、ここで失礼を」 支店長「おたくの銀行もサービス改善に努めることですな。はっはっはっ」 ドワーフ「ふんっ!とっと消えろ!」
— Rootport (@rootport) 2015, 10月 2