▽プロローグ
▽第1話「フライド・コカトリス」
▽第2話「ガバメント・オブリゲーション」
▽第3話「リテラシー」
▽第4話「ウェル・シェイプト・カップ」
▽第5話「プライス・オブ・ライフ」
──────────
▼婦人服店──。 女騎士「これが童貞を殺す服か。初めて着たぞ!」 黒エルフ「金髪碧眼のあんたに憎たらしいほど似合うわね」 女騎士「何を言う。お前にもよく似合っているぞ」 黒エルフ「そ、そんなこと…///」 女騎士「身軽で動きやすい装備だ」スチャッ 黒エルフ「その格好で帯刀するな」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
店員 アリガトウゴザイマシター 黒エルフ「あとは髪型ね。毛先がボサボサだけど誰に切ってもらったの?」 女騎士「自分だ。伸びてきたな~って感じたら、わが愛剣デュランダルで、こう…サクッと」 黒エルフ「デュランダルって、あの魔剣の!?」 女騎士「ダメか?」 黒エルフ「ダメよ!」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
???「す、すみません…。床屋をお探しですか…?」 黒エルフ「何か用?キャッチセールスならあっち行って」ギロッ 下女「申し訳ありません。ただ、お2人の会話が聞こえてしまったんです」 女騎士「ふむ。それで?」 下女「じつはアタシ、向こうの角の外科医院の女中をしてまして…ヒヒヒ…」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
下女「ヒヒッ…うちの外科医院は、とくにご婦人がたの理髪が得意でございます。それこそ瀉血や虫歯治療、整骨などよりも、女性の髪を美しく仕上げるのが専門というほどでして…」 黒エルフ「なんか怪しいわね~。外科治療もできないのに髪が切れるの?」 下女「も、もちろんでございます…ヒヒヒッ」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
女騎士「たしかに、この国では髪を切るのは外科医の仕事だ。しかし、華国や和国には、髪を切ったり結ったりする専門の職人がいると聞く。一度、その医院を覗いてみようではないか」 下女「あ、あ、ありがとうございますっ!」 黒エルフ「ええ~、あんまり気乗りしないんだけど~」ブーブー
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
下女「じ、じつはアタシは田舎から出てきたばかりで、ま、まだハサミを持たせてもらえないのです。ならばせめて客の呼び込みをしてこいと、ご主人様に言いつけられまして…」 女騎士「どちらの出身だ?」 下女「北部の農村です。飢饉が起きまして、帝都に出てきました…」 女騎士「苦労したのだな」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
▼大商店街、理髪外科院──。 理髪師「や~ん、お客様ってばもうサイコー!超カワイイッ☆」 客 ヤダー ウレシー 理髪師「ワタシがもっともぉ~とカワイくしてあ・げ・る!」 黒エルフ「……あいつ、男よね」 女騎士「……うむ、男だな」 下女「ご主人様ぁ…新しいお客様です…!」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
理髪師「キャー!2人とも綺麗なお顔ね、腕が鳴るわぁ〜!もっと近くで見せてちょうだいッ」ズイッ 女騎士(…うっ、このニオイは!?) 黒エルフ(…香水きっつぅ!!) 理髪師「こんな美人さんを捕まえるなんて、あなたもなかなかヤルわねぇ」 下女「ヒヒッ…あ、ありがとうございます…」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
理髪師「今のお客さんが済んだら、すぐにお2人の髪に取りかかるわね。こっちに座って待っててねぇ☆」 黒エルフ「いいえ、まだこの店で切ると決めたわけじゃ…」 理髪師「遠慮しないで!可愛いは正義でしょ?あなたを正義の味方にしてあ・げ・る!」 女騎士「よろしく頼むのだ!」 黒エルフ「」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
下女「ご、ご主人様…何かお手伝いすることは…?」 理髪師「だいじょーぶ。こっちは任せて♪ たしか先週ぶんの帳簿が、まだ途中までしか記入できてなかったはずよね?そっちを頼むわぁ」 下女「ヒヒヒ…かしこまりました…」 女騎士「ほう。この理髪外科院はちゃんと帳簿を付けているのだな」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
理髪師「ワタシのお師匠さまに教わったのよ、帳簿を大切にするようにって。彼は魔国移住者の三世だったのよ~」 黒エルフ「魔国では複式簿記が普及してるらしいわね」 女騎士「で、そのお師匠さまは?」 理髪師「故郷の魔国に帰ったわ。勇者さまが派遣されたころから戦局がキナくさくなったから…」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
理髪師「さてと、ムダなお喋りはお・し・ま・い!仕事にかかるわよぉ」ジャキッ 黒エルフ「何よ、その巨大なハサミ…?」 女騎士「まさか…終焉をもたらす神器『アトロポスのはさみ』では!? なぜこんな場所に!」 理髪師「じっとしててねぇ。動くと首が落ちるわよ」 女騎士・黒エルフ「「」」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
▼一刻後──。 女騎士「これが…///」ぽわわ 黒エルフ「あたし…?///」ぽけー 理髪師「うふふ、気に入ってもらえたようで嬉しいわぁ~」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
下女「…ご、ご主人様ぁ…。どうしましょう…」 理髪師「あらヤダ、顔が真っ青よ?」 下女「ち、帳簿をつけていたのですが…げ、現金の残高が合わなくて…」 黒エルフ「記入漏れでもあるんじゃない?」 女騎士「よし、私が見てやろう」 理髪師「ええーっ、お客さまにそんなことさせられないわ!」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
女騎士「安心しろ!こう見えて、私たちは港町の銀行で働いているのだ。帳簿の付け方は少しは分かる」 理髪師「で、でもぉ~」 黒エルフ「しかたないわね、あたしも手伝うわ」 下女「ご、ご主人様さえよければ、…アタシは、た、助かります…」 理髪師「うーん、どうしましょお~…」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
理髪師「それじゃ、女騎士さんに帳簿の確認を手伝ってもらおうかしら?」 女騎士「うむ。よろこんで力になろう」 理髪師「でも、そっちのダークエルフさんはダメよ!」 黒エルフ「はぁ?どうしてよ」ムスゥ 理髪師「だって、まだ施術が終わってないもの~」ニコニコ 黒エルフ「?」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
理髪師「ねえ、髪の色を変えてみない?」 黒エルフ「色を?」 理髪師「今の銀髪もステキだけど、最新の流行は柔らかいオレンジ系ね。きっとよく似合うわよ~」 黒エルフ「そ、そうかしら///」 理髪師「お願い!タダでもいいからあなたの髪を染めさせて!」 黒エルフ「タダ!!」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
黒エルフ「…そ、そこまで言うなら、髪の色を変えてみようかしら///」 理髪師「きゃーっ!嬉しい!…染髪は2階のテラスで施術するわ」 黒エルフ「2階のテラス?」 理髪師「すぐそこの階段を上ったところよ。足もとに気をつけてねぇ~」 黒エルフ「分かったわ///」 女騎士(…待て)
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
女騎士(…待つのだ)ボソッ 黒エルフ(何よ、怖い顔して)ボソッ 女騎士(あの理髪師と2人きりになるのは…えっと、その…危険かもしれない) 黒エルフ(はぁ?言動は突飛だけど、腕はたしかでしょう) 女騎士(うむ。カットの腕はたしかだった。だがやはり怪しい) 黒エルフ(?)
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
女騎士(まず、あのハサミだが…かなりの魔力がなければ扱えないマジックアイテムだ。なぜ、こんな小さな理髪外科院の男が使っているのだ?) 黒エルフ(お師匠さまから譲り受けたんじゃないの?魔国出身だとかいう) 女騎士(それだけではない。あの下女も怪しいぞ。彼女の手を見たか?)
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
黒エルフ(女中さんの手…?) 女騎士(ささくれの1つもない、綺麗な指をしていた) 黒エルフ(言われてみればたしかに。…でも、それが?) 女騎士(あの下女は、北部の農村の出身だと言ったな) 黒エルフ(!) 女騎士(農村で生まれ育ったにしては、手が綺麗すぎる)
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
理髪師「ダークエルフさ~ん、準備ができたわよぉ~」 黒エルフ「は、はーい!すぐ行くわ」 黒エルフ(…やっぱり、ちょっと気にしすぎじゃない?) 女騎士(私もそうであってほしいと思う。だから、止めはしない) 女騎士(しかし、用心だけは怠るな)
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
女騎士(先ほど買い物中も視線を感じた。おそらく尾行だ。この街にいるのは私たちの味方ばかりではない) 黒エルフ(あたしたちを邪魔しようとしているヤツがいる…ってこと?) 女騎士(そうだ。相手が何者なのかは、まだ分からない。だが、私たちの命を狙っている可能性もある)
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
黒エルフ(そんな大袈裟な…) 女騎士(大袈裟かもしれない。しかし備えあれば憂いなしだ。つねに最悪の事態を想定しておいたほうがいい) 黒エルフ(…) 女騎士(たくさんカネが流れる場所には、血も流れるものだ) 黒エルフ(…分かった。血なまぐさいことに関しては、あんたのカンを信じるわ)
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
▼理髪外科院、2階──。 理髪師「んも~っ、2人して何をお喋りしてたの?」 黒エルフ「た、大したことじゃないわ。さあ、始めてくれる?」 理髪師「は~い♪ 帝都で一番の美人さんに仕上げてあげるわぁ」 黒エルフ「え、ええ…楽しみだわ…」 黒エルフ(…うーん、悪い人には見えないけど…)
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
理髪師「んん~」マジマジ 黒エルフ「?」 理髪師「ちょっと失礼」フニッ 黒エルフ「きゃあ!? どこ触ってんのよぉ!」 理髪師「もう少しボリュームがあったほうがいいわね~」フニフニ 黒エルフ「ひゃぁああ!?」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
理髪師「こう見えてアタシは外科医よ。膨らませることもできるけど、どうする?」 黒エルフ「余計なお世話よっっっ!」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
黒エルフ「か、髪だけをお願いするわ!」 理髪師「うふふ、ごめんなさいねぇ。じゃあ、これをかぶってくれるかしら」 黒エルフ「これは…頭のてっぺんに穴を空けた麦わら帽子?」 理髪師「髪染めの秘薬は希少すぎて使えないでしょ?だから、太陽の光を利用するのよぉ」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
理髪師「この帽子の頭頂部から髪を出して、ひさしの上に広げるの。お日様の光で髪がきれいな色に灼けるわよぉ」 黒エルフ「ふぅん…。これでいい?」 理髪師「ええ、完璧!」 黒エルフ「日光を使うから2階のテラスだったのね。でも、なんだか毛が傷みそうね」 理髪師「心配ないわ」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
理髪師「この化粧水で髪を常に濡らしておけば、日光のダメージを抑えられるの」チャプ 黒エルフ「きゃっ、冷たい!…何かの薬草の香りがするわ」 理髪師「カモミールよ。日光で髪を染めるときは、カモミールのエキスを混ぜた化粧水を使うの。もっとも、うちは秘伝のレシピで作っているけど」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
黒エルフ「秘伝のレシピ」 理髪師「ええ。詳しい製法は秘密だけど、カモミールエキスのほかに大麦のわらと亀の血を加えて…」チャプチャプ 黒エルフ「!?」 理髪師「さらに美肌効果のあるウグイスのふんと、生き物を燃やした灰を混ぜて──」チャプチャプ 黒エルフ「ま、待って!」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
黒エルフ「た、たしかに亀の血は…華国ではお薬に使うと聞いたことがあるわ。それに、和国の女性はウグイスのふんを化粧に使うらしいわね」 理髪師「あら、よく知ってるわねぇ」 黒エルフ「じゃあ、生き物を焼いた灰というのは…?」 理髪師「オタマジャクシよ」 黒エルフ ギャー!!
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
▼商業区──。 工房長「…何でしょう、今の悲鳴」 老練工房「ったく、ヤダねえ。近ごろは治安が悪くて」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
(※結局、髪は染めませんでした)
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
──────────
▼最初から読む
▼前回
▼次回
──────────