▽プロローグ
▽第1話「フライド・コカトリス」
▽第2話「ガバメント・オブリゲーション」
▽第3話「リテラシー」
▽第4話「ウェル・シェイプト・カップ」
▽第5話「プライス・オブ・ライフ」
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▼帝都、大商店街──。 虫 リーリー…リーリー… ワイワイ…ガヤガヤ… 酒場 ギャハハ ワハハ!! 街娼 オニーサン アソビマショー ワイワイ…ガヤガヤ… 黒エルフ「すっかり夜更けね」 女騎士「この時間に出歩いているのは酔客ばかりだな」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
女騎士「…あの話は本当なのか?」 黒エルフ「どの話?」 女騎士「お前が、影国の商家の生まれだという話だ」 黒エルフ「…」 女騎士「影国は小国ながら貿易で栄える国だ。いまだに人間国に併合されないのは、商業で得たカネで莫大な上納金を納めているからだと聞く」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
女騎士「影国の商家で育ったなら、お前が帳簿に詳しい理由も分かる。私が幼くして剣の扱いを教わったように、お前はカネの扱いを叩き込まれたのだろう。だが、ならばなぜ奴隷の身に落ちてしまったのだ?」 黒エルフ「…」 女騎士「許してくれ。こういうとき、私は気の利いた訊き方ができないのだ」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
黒エルフ「…あたしが商家の血を引いているのは、事実よ」 女騎士「…」 黒エルフ「だけど、商売人の家で生まれ育ったと言ったら…嘘になるわ」 女騎士「?」 黒エルフ「…」 女騎士「えっと、つまり──」 黒エルフ「ごめんなさい!!」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
黒エルフ「…ごめんなさい。今は、まだ…ここまでしか話せないわ」 女騎士「そうか…」 黒エルフ「だけど、それは…あんたのことが嫌いだからとか、そういうのじゃなくて──」 女騎士「よいのだ」ポンッ 黒エルフ「!」 女騎士「よいのだ」ナデナデ 黒エルフ「…うん」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
酔客「バカヤローッ!てめえに渡すカネはないよ!消えな!」ドカッ ???「す、す、すみません…」 黒エルフ「…ねえ、あれって」 女騎士「ああ、なぜこんな場所に?」 ???「う…うぅ…」 女騎士「大丈夫か、手ひどくやられたな」 ???「あなたは…女騎士さま?」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
下女「あなたは…女騎士さま?」 女騎士「理髪外科院の女中が、こんな時間に何をしている?」 下女「…お、お願いです!1Gでもかまいません、お恵みください!」 黒エルフ「はぁ?物乞いなんて勘弁してよ!」 女騎士「待て。きっと何か理由があるに違いない」 下女「うぅ」シクシク
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
下女「ど、どうしても現金の残高が帳簿と一致しなかったんです…」シクシク 黒エルフ「あたしが髪を染めている間に、あんたが帳簿を確認したのよね?」 女騎士「時間が足りなくて不一致の原因を突き止められなかったのだ。正しい帳簿の付け方を教えるだけで精一杯だった」 黒エルフ「ふーん」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
下女「そ、それで…ご主人様に、た、足りないぶんの現金を払うようにと言われたのです…」 女騎士「なるほど、それで物乞いをしていたのだな」
— Rootport (@rootport) 2015, 9月 1
黒エルフ「だいたい、あんた本当に『正しい』帳簿の付け方を教えたの?」 女騎士「もちろんだ!」 下女「…とても…勉強になりました…」 黒エルフ「へー」 女騎士「教科書どおりのことを教えたのだ。…たぶん」 黒エルフ「たぶんじゃ困るわよ」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
黒エルフ「ここで話していてもラチが空かないわ。あたしが力を貸してあげる」 下女「そ、それでは!」 女騎士「お金を恵んでやるのか?」 黒エルフ「やるわけないでしょう。あたしは欲深い利己主義者よ?」 下女「?」 黒エルフ「あたしが帳簿を再確認してあげると言ってるの。外科院に行くわよ」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
▼王宮──。 頭取「…では、港町の連中は立候補を取り下げなかったのですか?」 財務大臣「うむ。まるでヒルのように頑固で強欲な女どもだった」 頭取「すると、どちらの銀行が仲介業者に選ばれるのかは…」 財務大臣「…精霊教会の司祭補の気分次第、だな」 頭取「…参りましたね」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
頭取「国債購入の窓口になるのは、司祭補のセラフィム・アガフィアさまだとおっしゃいましたね」 財務大臣「さよう。頭の弱そうな女だ」 頭取「しかし聞くところによれば、彼女は怪しき術を使うのだとか?」 財務大臣「腐っても精霊教会の司祭補だ。魔法の一つぐらい使えても不思議はない」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
頭取「言われてみれば、その通りでございますね。もう十年近く本物の魔法使いにお目にかかっていないので、つい…」 財務大臣「もとより魔法を使える者はごくわずかだった。そのほとんどが兵役で新大陸に赴き、そのまま消息知れずだ。この私でも、魔法使いと言葉を交わすのは一年に数えるほどだな」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
頭取「大臣さまほどのご身分でも…ですか」 財務大臣「以前は宮仕えの魔法使いにやらせていたことができなくなり不便している。こうなったのも魔族のせいだ」 頭取「であれば、司祭補セラフィムさまがお若いのも…」 財務大臣「うむ、競争相手が少なかったのだろう」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
財務大臣「そうでなければ、あの若さで司祭補に選ばれることはありえん」 頭取「それを聞いて安心しました。セラフィムさまご自身の優秀さゆえに出世されたのであれば、一筋縄ではいかない相手になるだろうと身構えておりました」 財務大臣「ふんっ、私にしてみれば小娘にすぎぬ」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
財務大臣「そもそも私はアンチマジックLv3を持っているのだ」 頭取「アンチマジックLv3」 財務大臣「詳しくは説明しないが、魔法の1~2発なら簡単に無効化できる。司祭補がどんな怪しい術を持っていようと、私には関係のないことだ」 頭取「大変心強いお言葉、勇気づけられます」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
頭取「それにしても港町の銀行はずいぶん悪知恵の働くやつらのようです。目録をごらんになりましたか?」 財務大臣「ふむ、これがその目録だな」ピラッ 頭取「さようでございます。港町と取引のある商人を片っ端から訪ねて、あの銀行に売りつけた商品の一覧を提出させました。しかし…」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
財務大臣「紙や墨、油、蝋…ありふれた物品ばかりだな」 頭取「そうなのです!あの規模の銀行なら、後ろ暗い商品を…違法な薬や武器の一つや二つは買っているはず。にもかかわらず、その目録にはそんな商品は載っていません」 財務大臣「つまり、巧妙に隠匿していると?」 頭取「まず間違いなく」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
財務大臣「ふぅむ、たしかに…美術品の購入が目立って多いようだが…」ピラピラ 頭取「港町の銀行の主は、どうやら芸術オタクのようですね。作者や時代、地域にこだわらず、彫刻や絵画を買いあさっているようでございます」 財務大臣「そうか。他に何か面白い話はないか?」ピラピラ
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
頭取「面白い話でございますか?」 財務大臣「うむ。港町に関することなら何でもかまわん」パラパラ 頭取「そうですね、面白い話と言いましても…。あの町の銀行に関係する話となると…」 財務大臣「銀行にこだわらなくてよい。あの町のできごとで、何か変わったことはないのか?」パラパラ
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
頭取「そうですねぇ…。ダークエルフの奴隷の話ぐらいでしょうか」 財務大臣「ダークエルフ?」ピタ 頭取「はい、以前もお話したとおり、港町にはわたくしどもの銀行の支店がございます。その支店長から聞いたのですが…ふた月ほど前、あの町にダークエルフの奴隷が入荷されたそうなのです」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
財務大臣「そのダークエルフ、もしや女ではないか?」 頭取「その通りです。大臣さまもこの話をご存じでしたか?」 財務大臣「いいや、初耳だ。詳しく聞かせろ」 頭取「その奴隷を支店長が購入しようとしたところ、若い女に横取りされたそうです。法外な値段で買い取ったのだとか」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
頭取「ダークエルフの奴隷を購入したのは、金髪碧眼の女騎士だったと聞いています」 財務大臣「金髪碧眼」 頭取「さして面白い話でもなく恐縮です」 財務大臣「…いいや、面白い。じつに面白い!」パラパラ 頭取「?」 財務大臣「ふふふ、思い当たることがあるのだよ」パラパラ
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
財務大臣「その奴隷と女騎士の人相を聞いているか?詳しく教えろ」パラパラ 頭取「か、かしこまりました…」 財務大臣「…っと、その前に。何だ、これは?」ピタッ 頭取「どうなさいましたか?」 財務大臣「港町の銀行は、こんなものを買っているのか?」 頭取「こんなものと申しますと?」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
財務大臣「ほれ、この目録を見てみろ」ピラッ 頭取「こ、これは…!?」 財務大臣「ふはは!どうやら馬脚をあらわしたようだな、あの女どもめ!」 頭取「これさえ見せれば…」 財務大臣「ああ、そうだ!精霊教会が港町の銀行を選ぶことはない。絶対にありえん!ふふふ…ははははは…!」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31