▽プロローグ
▽第1話「フライド・コカトリス」
▽第2話「ガバメント・オブリゲーション」
▽第3話「リテラシー」
▽第4話「ウェル・シェイプト・カップ」
▽第5話「プライス・オブ・ライフ」
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▼理髪外科院──。 下女「こ、こ、こちらが…帳簿です…。それから、請求書と領収書の束が…こちらに…」ドサドサッ 黒エルフ「1週間分とはいえ、それなりに量があるわね」 女騎士「領収書の内容を確認したが、記入漏れはなかったぞ」 下女「領収書を…ふ、紛失したの、でしょうか…?」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
黒エルフ「もしも領収書を紛失していたならお手上げだけど…。まずは他の可能性から潰していきましょう」 下女「他の可能性ですか?」 黒エルフ「記入漏れや領収書の紛失のほかにも、残高が一致しなくなる場合はあるのよ。そういう可能性を一つずつ検証していくの」
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黒エルフ「たとえば、一致しない勘定科目は『現金』だけだった?売上票の金額とか、当座預金の残高とか…現金以外にも帳簿と一致しない勘定科目は無かった?」 女騎士「売上票の金額はぴったり一致しているぞ」 下女「と、当座預金の残高は…銀行に問い合わせないと、分かりません…」
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下女「そ、それに…買掛金の残高は、月末に請求書が届くまで…不一致を確認できません」 黒エルフ「なるほど、今は月の半ば。正確な残高の分からない勘定科目もあるわね」 女騎士「となると、やはりカネを恵んでやるほうが早いのでは…?」 黒エルフ「諦めるのが早すぎ。次はあんたを疑いましょう」
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女騎士「私を疑う?…どういうことだ」 黒エルフ「あんたの教えた帳簿の付け方が、間違っているのかもしれないわ」 下女「そ、そうなのですか…?」 女騎士「ぐ…」 黒エルフ「女中さんにどんなことを教えたのか、もう一度説明しなさい。正しいかどうか確認してあげるわ」
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黒エルフ「たとえば、この取引はどう?」 下女「銀行から現金を借り入れたときの仕訳ですね…」 女騎士「ごく基本的なことなのだ!現金を借方に、借入金を貸方に記入する。返済したときは逆になるのだ」 黒エルフ「正解」 pic.twitter.com/um90yL4e7v
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黒エルフ「あら?この理髪外科院も『当座借越』の契約をしているのね」 下女「…と、当座借越…?」 女騎士「当座預金の残高を超えて小切手を振り出せる契約のことだ」 下女「…こ、小切手は…当座預金の残高までしか振り出せないはずでは…?」 黒エルフ「例外があるのよ」
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黒エルフ「たとえば、うっかり口座残高を越えた額の小切手を振り出してしまったとしましょう。小切手を受け取った人は銀行で現金化できず、あなたの信用はガタ落ちするわ」 下女「こ、困ります…」 黒エルフ「そんな場合に、銀行がお金を立て替えて払ってくれる契約があるの。それが当座借越契約よ」
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女騎士「この理髪外科院も当座借越を利用していたのだ。たとえば、この取引だ」 黒エルフ「買掛金を支払うために5,000Gの小切手を振り出したけど、当座預金の残高が3,400Gしかなかったのね。不足分1,600Gが当座借越になるわ」 pic.twitter.com/70Qy4mVEKH
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下女「で、でも…翌日にはお金を振り込みました…!」 女騎士「帳簿のここに記してある」 黒エルフ「なるほど、現金5,600Gを振り込んだのね。当座借越は負債の一種だから、まずはそれを返済して、残りが当座預金に加えられるわ」 pic.twitter.com/g8AR4KPLBu
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黒エルフ「ここまでは『正しい帳簿の付け方』になってるわ。意外ね」 女騎士「意外だと」 下女「では、なぜ現金が一致しないのでしょう。アタシは横領などしていませんが…」 黒エルフ「本当に?」 下女「本当です!」 黒エルフ「じゃ、一致しなかった金額を教えて。現金は何G足りなかったの?」
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女騎士「私が確認したときは、現金の残高が帳簿よりも1,865G少なかったのだ」 下女「…げ、『現金過不足』という勘定科目を使った仕訳を入れるようにと教わりました…」 黒エルフ「正解よ。不一致の原因が分かるまでの一時的な勘定科目ね」 pic.twitter.com/gw1xvS682c
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下女「そ、そのあと…女騎士さんに調べてもらったら、筆記用具の購入代金913Gが帳簿に記入されていないと分かりました…」 女騎士「そのときの仕訳がこれだ」 黒エルフ「これも正解。正しい記入方法になっているわ」 pic.twitter.com/oYsQjVUGzL
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黒エルフ「1,865Gのうち913Gの原因が分かった。残りは952Gね」 女騎士「領収書も帳簿もよく調べたのだが…」 下女「952Gの取引は見つかりませんでした」 黒エルフ「じゃ、476Gならどう?」 女騎士「なんだ、その金額は?」 黒エルフ「952Gの半分の金額よ」
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下女「わ、分かりました。帳簿から探してみます」 女騎士「952÷2で476Gか。そんな金額を探して何になる?」 黒エルフ「つべこべ言わずに探しなさいよ」 女騎士「しかし…」 下女「あっ、ありました…!」 女騎士「!」 黒エルフ「ふふっ、大当たりね。どんな取引の仕訳かしら?」
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下女「と、取引先から受け取った小切手を…銀行に持ち込んで、預け入れたときの仕訳です…」 黒エルフ「この仕訳を見て、何かおかしいと思わない?」 女騎士「あ…」 黒エルフ「小切手の取引に『現金』の勘定科目を使うのは正解よ。だけど──」 pic.twitter.com/NVFTy4AY1H
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黒エルフ「小切手を銀行に預け入れるということは、手元の現金を減らして、代わりに銀行預金の残高を増やすという仕訳になるはずよね」 女騎士「だが、この仕訳では逆になっている?」 黒エルフ「そういうこと。借方と貸方を逆向きに記入してしまっているの」
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黒エルフ「借方と貸方をあべこべにした仕訳を記入すると、2倍の金額の差異が出るわ」 女騎士「今回なら、現金を476G減らす仕訳を入れるはずだった」 黒エルフ「だけど間違えて476G増やす仕訳を入れてしまった。だから手元の現金よりも、帳簿上の現金が476×2=952G増えてしまった」
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女騎士「つまり、手元の現金が952G足りないのではなくて…」 下女「ち、帳簿のほうが952G多かった…ということですね!」 黒エルフ「そういうこと。よかったわね、横領の疑いは晴れたわ」 下女「あ、ありがとうございます!ご主人様にも報告します!」
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女騎士「帳簿を間違ったままにはしておけないな」 下女「ど、どうすれば…?」 女騎士「安心しろ、ここに修正液がある」サッ 下女「さすがは女騎士さま!準備がいいです!」 黒エルフ「そんな堂々と帳簿を改ざんすんな」 女騎士「私はただ書き直そうと…」 黒エルフ「それを改ざんと呼ぶのよ!」
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黒エルフ「一度記入した仕訳は、原則として書き直してはダメよ」 女騎士「それでは間違えた場合に困るだろう」 黒エルフ「間違わなければいいのよ」 女騎士「人間とは間違える生き物なのだ!」 黒エルフ「ハァ…。しかたないわね、ごく基本的な修正方法だけ教えましょう」
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黒エルフ「間違った仕訳を見つけたら、貸借を逆にした仕訳を入れるの。こうすることで、間違った仕訳を相殺して、無かったことにできるわ」 黒エルフ「それから正しい仕訳を記入しなおす。こうすれば、帳簿の数字が現実の残高と一致するはずよ」 pic.twitter.com/6ofOf7NQo1
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下女「…ほ、本当です!帳簿の金額が、ぴったり一致しました…!」 黒エルフ「これで一件落着ね」 下女「あ、ありがとうございます!どう感謝すればいいか…」 女騎士「わはは!私たちに任せろなのだ!」ドヤァ 黒エルフ「あんたがドヤるな」
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???「あ~ん、もぉ~…こんな夜中に何の騒ぎぃ?」 下女「ご主人様!」 理髪師「目が覚めちゃったじゃなぁ~い」ヒラヒラ 女騎士(すごい寝間着だ) 黒エルフ(すごい寝間着ね) 理髪師「あらぁ?そちらのお二人は…」 下女「…ご主人様、じ、じつはですね……」
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理髪師「あら、本当!帳簿のズレがきちんと解消されているわぁ~」 下女「はい!…か、感激しました!」 女騎士「これからは帳簿を間違えないよう気をつけるといいだろう」 黒エルフ「正しい数字は、正しい答えを導いてくれる…。正しい帳簿さえあれば、あたしは世界だって救ってみせるわ」
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