▽プロローグ
▽第1話「フライド・コカトリス」
▽第2話「ガバメント・オブリゲーション」
▽第3話「リテラシー」
▽第4話「ウェル・シェイプト・カップ」
▽第5話「プライス・オブ・ライフ」
──────────
▼夕刻、王宮──。 家臣「申し上げます!港町の銀行の者たちが到着しました」 財務大臣「報告ご苦労。では国王陛下をお呼びするとしよう」 家臣「いえ、それが…。すでに謁見の間に向かわれたとのことです」 財務大臣「何?まったく、どいつもこいつも私を差し置いて…」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
家臣「陛下は嘆願を聞き入れるおつもりなのでしょうか」 財務大臣「そのようだ。名君たるもの民意に耳を傾けるべきだと、内務大臣に入れ知恵されたらしい。衆愚に振り回されては国を傾けるとご忠告したのだが、無駄だった。反抗期かもしれんな、あれは」 家臣「反抗期」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
家臣「では仲介業者の件はいかがですか?」 財務大臣「そちらについては、すでに手は打ってある」 家臣「どの銀行を仲介業者に選ぶか…最終的な決定権は精霊教会の代表者が握っていると存じますが」 財務大臣「その通りだ。港町の銀行に応募を取り下げさせるか、もしくは──」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
財務大臣「何かしらの醜聞を見つけて、信頼を傷つけてやればいい。手はいくらでもある」 家臣「なるほど」 財務大臣「もとより、私は帝都の銀行を推薦しているのだ。まかり間違っても、港町の銀行が仲介業者に選ばれることはありえんよ。ふふふ…」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
▼謁見の間──。 ショタ王「遅いぞ!ぼくは宿題をがんばって終わらせてきたんだぞ?このぼくを待たせるとは…」 財務大臣「どうかご容赦ください。ところで、あそこでひざまずいているのが?」 ショタ王「ああ、港町の銀行の代理人だ。…顔を上げて名を名乗れ!」 衛兵「おもてをあげよ!」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
女騎士「私はシルヴィア・ワールシュタット。拝謁にあずかり恐悦至極に存じます」 ショタ王「ふむ、ワールシュタット家か…。どこかで聞いたことがある名だ」 財務大臣(現在は人間国に併合された『波国』の名家でございます。…偽名でなければ、ですが)ボソッ ショタ王「そうか、思い出したぞ」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
ショタ王「ワールシュタット家といえば、新大陸への入植初期に渡った五大貴族の1つだな?」 女騎士「さようでございます」 ショタ王「たしか、『副都の悲劇』で…」 女騎士「…はい、私を残して一族は滅びました」 ショタ王「そうか、悪いことを訊いた」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
ショタ王「…もう1人のほうは?」 黒エルフ「あたしはルカ・ファン・ローデンスタイン。影国の商家の出身よ。わけあって港町の銀行に雇われているわ」 財務大臣「貴様、陛下に向かってその口のきき方は何だ!」 ショタ王「よい。影国の生まれであれば、この国の言葉に不慣れなのもうなずける」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
ショタ王「その肌は生まれつきなのだな?まるでコーヒーを塗ったような色だ。できれば洗い流すところを見せてほしいのだが…」 黒エルフ「断るわ。ダークエルフを見たことがないの?」 ショタ王「かつて影国を創った誇り高き種族だと教わった。だが、最近では数が減ってしまったと聞く」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
ショタ王「ぼくはフェリペ・ロペス・デ・レガスピ!卑賤なる魔族を討ち滅ぼし…えっと…」 財務大臣(この世界の王となる)ボソッ ショタ王「…こ、この世界の王となるべき者だ!」 女騎士・黒エルフ ハハーッ ショタ王「諸君らの嘆願書、読ませてもらったぞ」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
ショタ王「港町は人間国の貿易のかなめ。町を栄えさせるためには貿易商たちにカネを融通する必要があり、国債購入の余裕はない…という内容だな」 黒エルフ「ええ。言われた額の半分までしか、あたしたちはカネを貸せないわ」 財務大臣「この国難のときに身勝手な…」 ショタ王「よし、1割だ」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
財務大臣・黒エルフ「「ええっ」」 ショタ王「事前にぼくたちが勧告した額の1割でいい。お金を貸してくれ」 黒エルフ・女騎士 ポカーン ショタ王「どうした、不満か?」 黒エルフ「い、いえ…不満はないけど…」 財務大臣「陛下!どうかお考え直しください!」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
財務大臣「戦艦の建造や改修が今後本格化します!」 ショタ王「海軍元帥から聞いたよ。シーサーペントの対策に、新型の大砲を調達するそうだな」 財務大臣「それだけではありません!動員する兵士の給料、武器、兵站…カネはいくらあっても足りないのですよ?」 ショタ王「だけどぼくはもう決めた」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
ショタ王「ぼくが決めた提案に、あの者たちは同意した。これで契約成立だろう」 財務大臣「しかし──!」 ショタ王「ぼくが誰か交わした約束を勝手にくつがえす…そんな権限はお前にはないはずだぞ、大臣」 財務大臣「お、おっしゃるとおりです…」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
▼宮廷、正門──。 衛兵「こ、困ります!どうかお引き取り願えませんか…?」 ???「まあ!そんなことおっしゃらないでくださいな」 衛兵「国王陛下は、ただいま謁見に応じておいでです!」 ???「あらあら、うふふ…。それなら丁度いいですわぁ」 衛兵「ああっ!お、お待ちくださいぃ──」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
▼謁見の間──。 女騎士「…ご恩情に感謝いたします」 黒エルフ「嘆願書はもう一通あるはずだけど?」 ショタ王「精霊教会の仲介業者の件だな。応募は受け付けた。どの銀行に仲介を依頼するかは、精霊教会の側で決めることだ」 財務大臣「だが、応募を辞退するべきだな」 ショタ王「…大臣?」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
女騎士「応募を辞退…ですか?」 黒エルフ「するわけないでしょう、そんなこと!」 財務大臣「黙れ、厚顔無恥な女狐め!」 ショタ王「大臣!いくら相手が女だからといって言葉がすぎるぞ」 財務大臣「考えてもみてください、陛下。この者たちは国債の減額をねだってきたのですよ?」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
財務大臣「魔国の存在は人類の脅威。もしも人間国が負ければ、私たちは魔族の奴隷として使い潰されるでしょう」 黒エルフ「…」 財務大臣「惨めな末路を避けるためなら、無償でも戦争に協力すべきです。にもかかわらず、この者たちは充分なカネを貸すこともできないと言うではありませんか!」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
財務大臣「貸すカネも充分に持たないこの者たちに、精霊教会との取引を仲介するという重責が負えますでしょうか?」 ショタ王「言われてみれば、たしかに…」 財務大臣「彼女らを精霊教会の代表者に引き合わせてしまったら、陛下の名声にも傷がつくやもしれません。人を見る目がない、という傷が」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
ショタ王「ぼくは王様だぞ!このぼくの人を見る目を疑うつもりか!」 財務大臣「陛下の眼識は存じております。ただ、下らない悪評がたつのを防ぎたいと考えているのです」 黒エルフ「…なによ。応募するのもしないのも、あたしたちの勝手でしょ?」 財務大臣「ふんっ、呆れるほどの欲深さだな」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
黒エルフ「欲深い、ですって…?」 財務大臣「さよう。お前たちには戦争の勝利に貢献したいという気持ちも、精霊教会に尽くしたいという真心も無いではないか。ただ、仲介手数料が欲しいだけであろう」 女騎士「そ、そんなことは…」 財務大臣「言いつくろおうとしても無駄だ、利己主義者め!」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
黒エルフ「ええ。たしかにあたしは欲深い利己主義者よ」 女騎士「お、おいっ」 財務大臣「ふふふ…認めおったか。ならば応募の辞退を──」 黒エルフ「だけど、欲深さは悪なの?欲を持つことは、そんなに悪いこと?」 財務大臣「何ぃ…?」 ショタ王「おもしろい、続きを聞かせろ」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
黒エルフ「たとえば大臣さま、あなたはずいぶん高そうな衣服を召しているわね」 財務大臣「フンッ…お前にそんな審美眼があるとはな。華国より取り寄せた最高級のシルクを使っておる」 黒エルフ「いい服を着たい…これは誰もが抱く欲求だわ。大臣さまも例外ではなかった」 財務大臣「何が言いたい」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
黒エルフ「大臣さまは、いい服を着たいという欲を持った。仕立て屋は、服を売ってカネを得たいという欲を持った。だからこそ、衣服の売買という取引が成立した」 ショタ王「!」 黒エルフ「商売の本質は、お互いの欲を満たしあうことよ。あたしたちが欲深いからこそ、この世界は豊かになるのよ」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
女騎士「仕立て屋だけではなかろう」 黒エルフ「そうね。大臣さまの支払ったカネで、荷物を運んだ水夫たちや、布を織った女たち、糸を紡いだ華国の子供たちまでもが潤ったはず。いい服を着たいという、たった一つの欲を満たすだけで、他のたくさんの人の欲を満たすことができた」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
黒エルフ「欲深さは、ただそれだけでは悪ではないわ。欲を満たす手段に、善い方法と悪い方法があるだけよ。人間も、ダークエルフも…知性ある者はみな等しく欲望を持つ」 財務大臣「つまり国王陛下や私にも、お前と同じように欲がある…と?」 黒エルフ「ええ」 財務大臣「聞き捨てならんな!」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
財務大臣「どこまで人を愚弄すれば気が済む!黙って聞いておれば…私が欲深いと言うのか!?」 黒エルフ「違うの?」 財務大臣「国庫の番人たる財務大臣の立場は、無私無欲でなければ勤まらん!」 黒エルフ「立派な心がけね。お召しになった衣装と同じくらい立派だわ」 財務大臣「なんだとぉ!」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
黒エルフ「無私無欲な大臣さまは、その立派なお召し物を買うカネを、どうやって工面したのかしら?」 財務大臣「な…!?」 黒エルフ「さぞかし色々なお仕事をなさってカネを稼いだのでしょうね」 ショタ王「あはは、大臣は由緒正しい貴族だよ。お金ならあるんだ」 財務大臣「~~~~ッ!!」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
財務大臣「と、とにかく…この者たちが私利私欲のために仲介業者に応募したことはハッキリしました」 ショタ王「うん。興味深い話だった」 財務大臣「というわけで話は終わりだ!私たち政府が港町の銀行を推薦することはありえない!」 女騎士「そんな…」 黒エルフ「なら、どこの銀行を?」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
財務大臣「ふんっ、教えてやる義理はないが…仲介業者には帝都の銀行が選ばれるはずだ」 黒エルフ「帝都の銀行…」 女騎士「うちの何倍も規模が大きい銀行だな」 財務大臣「ふふふ、お前たちでは太刀打ちできまい。恥をかきたくなければ、応募を取り下げるのだな。今なら無礼な発言も許してやろう」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
???「あらあら~、応募を取り下げられたら困りますわぁ」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
財務大臣「なっ!? あなたは!!」 ショタ王「わざわざ来てくれたのか!」 衛兵「ご公務のさなかに申し訳ございません。止めたのですが…」 ショタ王「よい。よくぞ来てくれた」 ???「うふふ~、歓迎ありがとうございますぅ」 黒エルフ(…あの人、誰?) 女騎士(おそらく──)
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
女騎士(おそらく、精霊教会の司祭補だ。国債購入の担当者だろう) 司祭補「はい、その通りですわ!わたしは精霊教会11人の司祭補の末席に属しています、セラフィム・アガフィアと申しますぅ♪」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
財務大臣「この者たちが応募を辞退したら困るとは、どういう意味でしょう。真意を測りかねますが…」 司祭補「できるだけたくさんの候補のなかから仲介先を決めたいという意味ですわぁ」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
ショタ王「できるだけたくさんの候補から選びたい、か…。その気持ち、よく分かるぞ」 司祭補「あらぁ、王さまに分かっていただけるなんて光栄ですぅ~」 ショタ王「そろそろ結婚相手を決めろと乳母がうるさいのだ。けれど紹介されるのは似たような娘ばかり。趣味は刺繍、肌は色白で性格は穏やか…」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
ショタ王「ぼくはもっと色々な候補から妻を選びたいのに、貴族の娘というのは判で押したように似た者ばかりだ」 女騎士「どの家でも同じような習い事を教えるのだ。懐かしい」ウンウン 黒エルフ「あんたが言っても説得力ないわ」 女騎士「失礼な!たしかに刺繍は苦手だが、傷の縫合は得意だぞ!」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
女騎士「料理や音楽、ダンスも習った。乗馬だって教わったぞ」 黒エルフ「あのね、貴族の娘は普通、自分では料理しないものなのよ。音楽といってもあんたの場合は戦場でのラッパ吹きだし、ダンスじゃなくて演武でしょ。馬だって軍馬だし」 ショタ王「あはは、お前たちは愉快だな」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
司祭補「うふふ。取引の仲介先を決めるのは、たしかに結婚相手を選ぶようなものかもしれませんわねぇ~」 財務大臣「も、もしや…司祭補さまはこの者たちの味方なので!?」 司祭補「あらあら、わたしは誰の味方でもありませんわぁ。ただ、理にかなった判断がしたいだけですぅ」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
財務大臣「理にかなった判断ですか…。な、ならば、この者たちはふさわしくないかと!精霊教会への信心も浅く、私利私欲を満たすためだけに立候補したのです!とても信頼できる銀行だとは──」 司祭補「信頼できるかどうかは、わたくしが自分で判断しますわ」 財務大臣「それは、そうですが…」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
司祭補「帝都の銀行と、港町の銀行。今のところ、この2つの銀行が仲介業者に立候補していると聞いていますわぁ」 ショタ王「その通りだ。なぜか他の銀行からの応募は無かった」 司祭補「なら、こうしましょう。明日、それぞれの銀行の代表者を教会にお呼びして、自己PRをしてもらうのですぅ」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
ショタ王「自己PR」 司祭補「それぞれの銀行に、自分のお店の良いところを説明してもらうのですわ。それを聞いて、どちらに仲介を依頼するか決めますわぁ」 ショタ王「面白そうだな。ぼくも同席しよう」 財務大臣「な、ならば私も…」 司祭補「うふふ。ご快諾ありがとうございまぁす♪」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
司祭補「ということで、ご足労いただくわぁ。よろしいかしらぁ?」 黒エルフ「あたしたちは、別に…」 女騎士「うむ。異存ない」 財務大臣「おい、衛兵!帝都の銀行に伝言だ!」 衛兵「はっ、かしこまりました!」 司祭補「あらあら、まあまあ…。明日が楽しみになってきましたわねぇ~♪」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
財務大臣「お前たち、チャンスがあるなどと思うなよ?」 黒エルフ「何の話?」 財務大臣「知れたことを…。せいぜい恥をかかぬよう、自己PRを準備しておくのだな!」 黒エルフ「望むところよ。大臣さまこそ、次は遅刻するんじゃないわよ?」 女騎士(自己PR…就職活動……うっ、頭が!)
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31
黒エルフ・財務大臣「「仲介業者に選ばれるのは、絶対に──」」 黒エルフ「港町の」 財務大臣「帝都の」 黒エルフ・財務大臣「「──銀行よ!/銀行だ!」」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 31