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▽プロローグ
▽第1話「フライド・コカトリス」
▽第2話「ガバメント・オブリゲーション」
▽第3話「リテラシー」
▽第4話「ウェル・シェイプト・カップ」
▽第5話「プライス・オブ・ライフ」
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▼同時刻、港町──。 幼メイド「れ、列を作ってください~!割り込みはダメなのです~!」 水夫「そんなこと言ったって、こっちは朝から並んでいるんだ!」 漁師「お嬢ちゃんには悪いが、少しは配慮してくれよ」 幼メイド「順番です!順番を守ってください~~!」
— Rootport (@rootport) 2015, 12月 10
司祭補「あらぁ、ずいぶん賑わってますわねえ…」 幼メイド「あっ、司祭補さま!そーなのです!ダークエルフさんの考えた新商品のせいで、うちの銀行はちょー忙しいのです!」 司祭補「銀行家さんは?」 幼メイド「このところ働き詰めです。美術品を愛でる時間を削って働いていらっしゃいます!」
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司祭補「そうですか、そんなことになるなんて…。銀行家さんには悪いことをしたかもしれませんわ」 幼メイド「悪いこと?」 司祭補「ええ。その新商品の開発には、わたしも協力しましたの」 幼メイド「はわ~!そうだったのですね、さすがは司祭補さまです!!」
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▼帝都、謁見の間──。 黒エルフ「…まず大前提として、魔族を憎む人間はたくさんいるわ。とくに旧大陸の西側には、新大陸の家族を襲われた人や、航海の途中でシーサーペントやローレライに襲われた人がいる。魔族との戦いを望む男たちがいる」 ショタ王「ふむ」
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ショタ王「その話が本当なら、なぜ兵士不足が起きる?」 女騎士「男たちには妻子がいるからです」 黒エルフ「いくら兵士が高給だとしても、死んだらおしまいよ。武勲を上げなければ、年金を受け取ることもできない。残された妻や子供は貧しさに苦しむわ」 財務大臣「必要な犠牲だ」 女騎士「!」
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女騎士「必要な犠牲だと!?」 黒エルフ(ちょっ、落ち着きなさいよ!) 女騎士(しかし──!) 色白青年「お言葉ですが、必要な犠牲だとはとても思えません」 財務大臣「何?」 色白青年「妻子の飢えを恐れて兵士が集まらないのなら、むしろ不要な犠牲と呼べるはず」 財務大臣「ぐぬ…」
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黒エルフ「ところで、王さまは海上保険をご存じかしら?」 ショタ王「何だ、それは?」 秘書「私から説明しましょう。航海が失敗したときに備えて、保険加入者でカネを出しあう仕組みです。積み荷が沈んだときには保険金を受け取れます。…港町で普及し始めたばかりですから、ご存じなくて当然です」
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黒エルフ「同じ仕組みを兵士にも使えると、あたしは考えた」 女騎士「兵役に就く人々からカネを集めて、死亡時には残された家族に保険金を支払う──」 黒エルフ「うちの銀行では、これを『生命保険』と名付けて販売しているわ。妻子が飢える心配がなくなったから、港町では志願兵が増えたのよ」
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秘書「バカな、ありえない!」 黒エルフ「うちの銀行では、今、生命保険の加入希望者が長蛇の列を作っているわよ?」 秘書「もしも現実に生命保険などというものを売っているのなら、この女たちは詐欺師です!」 頭取「さよう。生命保険など、実現できるはずがありません!」 ショタ王「なぜだ?」
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秘書「海上保険は、航海に失敗する可能性を正しく見積もれなければ成立しません!保険料をいくら徴収すればいいか分からないからです!」 色白青年「…なるほど、そういうことですか」 財務大臣「どういうことだ?」 ショタ王「ぼくにも分かったぞ。兵士の死ぬ可能性は分からないから、だな?」
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秘書「さすがは国王陛下、すぐれたご洞察です」 頭取「誰がいつ死ぬかは、精霊さまの思し召しによるもの。地上に生きる私たちが予想できるものではありません」 秘書「人の死を予測できない以上、生命保険は成り立ちません。何人(なんぴと)たりとも、人の命には値段を付けられないのです!!」
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ショタ王「…なるほど。では、女たちよ。お前たちは詐欺師なのか?それとも、本当に人の死を予測できるというのか?」 秘書「聞くまでもない!できっこありません!」 黒エルフ「ところが、できるのよ」 女騎士「これを使うのだ」 バサッ 秘書「それは…?」 黒エルフ「教会の葬儀録よ」
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黒エルフ「葬儀録には、死者の情報が細かく記録されているわ。いつ生まれて、いつ死んだのか。どんな職業について、どんな死因で命を落としたのか…」 女騎士「さらに、兵士は戦地に出る前に必ず教会で祈ります。無事に戻ってきたときにも、精霊さまへの感謝を告げるため教会を訪れます」
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黒エルフ「この葬儀録には、そういう兵士たちの情報が書かれていた。つまり、何人の兵士が魔族との戦いに赴き、何人が無事に帰ってきたのか分かるの。過去100年にさかのぼってね」 秘書「バカな、過去100年だと?そんな膨大な量の情報を、正しく計算できるはずありません!」
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黒エルフ「いいえ、できるわ。これを使えばね」 スチャ… ショタ王「ふむ、そろばんか。華国や和国で使われるという計算器具だな」 黒エルフ「ただのそろばんではないわ。絶対に計算を間違えない、魔法のそろばんよ」
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黒エルフ「生命保険があれば志願兵は増える。これは港町で実証済みよ」 女騎士「私たちの銀行は、生命保険を人間国全土で販売する準備があります。どうか、ご許可を願えないでしょうか」 ショタ王「…という申し出だが、どう思う?」 色白青年「良策かと存じます」 財務大臣「異存ありません…」
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ショタ王「ならば良いだろう。人間国王フェリペ・ロペス・デ・レガスピの名において、お前たちの商売を許可する!」 秘書・頭取「「~~~~!!」」 女騎士「ありがたき幸せに存じます」ガバーッ 黒エルフ「当然の判断ね」 女騎士「お前も頭を下げるのだ!」グィッ 黒エルフ「ひゃっ!?」
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ショタ王「しかし葬儀録とは…よく気がついたな」 黒エルフ「司祭補さまの協力がなければ実現できなかったわ」 ショタ王「葬儀録は、人の一生が記録された…いわば命の『帳簿』だったわけだな」 黒エルフ「そう呼べるかもしれないわね。正しい記録があれば、正しい答えを導くことができる…」
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黒エルフ「…正しい帳簿さえあれば、あたしは世界だって救ってみせるわ」
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▼5日後、港町──。 馬 ポクポク… 女騎士「帝都までの街道もだいぶ整備が進んだな」 黒エルフ「所要日数が少しずつ短くなってきたわね」 女騎士「とはいえ、銀行に戻ったら旅の疲れを癒やしたいものだ」 黒エルフ「そんなヒマないわよ。生命保険の全国展開に向けて仕事が山積みだわ」
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司祭補「…女騎士さ~ん!ダークエルフさ~ん!」 女騎士「おおっ、司祭補さま!今戻ったのだ!」 司祭補「首尾はいかがでしたか?」 黒エルフ「ばっちりよ。これから忙しくなるわ。…それから、ありがとう。今回上手くいったのはあなたのおかげ」 司祭補「お役に立てて嬉しいですわ♪」
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???「オレンジはいかが~?」 ???「取れたてのレモンもあるよ~!」 女騎士「む!あれは…?」 物乞い・母「オレンジとレモン、安くするよ~!」 物乞い・兄弟「「いい香りだよ~!」」 黒エルフ「…もう泥棒はしてないようね」 司祭補「一週間くらい前からここで商売をしていますわ」
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物乞い・兄「あっ、どんくさいお姉ちゃん!」 黒エルフ「うっさいわね」 タタタッ… 物乞い・兄「…これ」チャラ 黒エルフ「いいでしょう。受け取ってあげるわ」 女騎士「何だ、その革袋は?」 物乞い・兄「へっ、知らないよ!じゃあな!」 タタタッ… 物乞い・母 ペコリ…
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女騎士「なぜあの母親がお前に頭を下げるのだ?」 黒エルフ「さあ?」 司祭補「その革袋が役に立ったみたいですわね」 黒エルフ「だといいけど」 司祭補「うふふ。ダークエルフさんらしいですわね、そういうところ」 女騎士「…な、なんだ?2人とも何の話をしているのだ?」
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司祭補「ダークエルフさん、少し考えたのですけど…貧しい方々に精霊教会からお金を貸したいと思いますの。人肉1キロを担保に」 黒エルフ「つまり無担保でカネを貸すってこと?」 司祭補「わずかな金額でも、自由に使える現金があれば貧しさから脱出できますわ。たとえば、たった1,000Gでも」
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黒エルフ「そうは言っても、貧しい人間にカネを貸すのよ?回収できない可能性が高いわ。あの親子は例外よ」 司祭補「そこで知恵を絞ったのですけど…。たとえば5人一組でグループを作って、返済に責任を持たせるのはどうでしょう?1人の返済が滞ったら、残りの4人も追加融資を受けられなくなる」
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黒エルフ「借金の返済をお互いに監視させるわけね」 司祭補「監視だけではなくて、お互いの商売を応援しあう仲間になってほしいと思っていますわ」 黒エルフ「うーん、たしかに…その方法なら上手くいくかもしれないわ」 司祭補「よかったぁ!ダークエルフさんのお墨付きをいただけました」
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黒エルフ「お墨付きって…失敗しても責任とれないわよ?」 司祭補「だったら失敗しないように、今度はダークエルフさんが力を貸してくださいな♪」 黒エルフ「葬儀録の借りは返さないといけないわね。…いいわ、手伝ってあげるぬ」 司祭補「うふふ、一緒に貧しい人たちを助けましょう」
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女騎士「…ま、待て!2人ともどうしたのだ?その革袋は何だ?私の知らないうちに、何かあったのか?」 黒エルフ「えっと、それは…」 司祭補「…秘密、ですわね?」 黒エルフ「ええ、そう!秘密よ、秘密!」 女騎士「何だと!私に言えないようなことなのか?」
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司祭補「あらあら、女騎士さん。やきもちですの?」 女騎士「ち、ちがっ…やきもちなど焼いていない!」 黒エルフ「なに顔を赤くしてんのよ…」 女騎士「赤くなどしていない!」 司祭補「あらあら、うふふ」 女騎士「赤くなどしていないのだーっ!!」
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▼魔国の首都《魔都》──。 パン屋「はいよ、今日の売れ残りだ。安くしておくよ」 猫耳の男「…ありがとう」ボソッ パン屋「それにしても、あんたは本当にバステト族なのか?」 猫耳の男「!?」 パン屋「バステト族の耳は、もっと自由自在に動くと聞いたぜ。あんたの耳はぴくりとも動かない」
— Rootport (@rootport) 2015, 12月 10
猫耳の男「子供のころ、事故で…」ボソッ パン屋「おっと、そりゃあ悪いことを訊いちまったな」 猫耳の男「いや、いいんだ。それじゃ、僕はこれで…」ボソッ タタタッ… パン屋「まったく変な客だね。今日は店先にマタタビを並べておいたのに気づかないとは…本当にバステト族なのかね?」
— Rootport (@rootport) 2015, 12月 10
▼魔都郊外、古いアパート──。 猫耳の男「ただいま」 パタリ… 僧侶「お帰りなさい、勇者さま!」 商人「おっ!今日は菓子パンがあるやんけ!もーらい!」 賢者「勇者…。変装、バレなかった…?」 猫耳の男「うん、バレていないと思う」 僧侶「勇者さま、街の様子はどうでした?」
— Rootport (@rootport) 2015, 12月 10
勇者「相変わらずキナ臭い雰囲気だったよ。もしも人間国が攻撃をしてきたら、魔国は総力をあげて反撃するつもりだそうだ」 商人「そらあかん」 賢者「…魔国が本気を出したら、人間国の被害は甚大…」 僧侶「何とかして、この危険を人間国に伝えましょう!」 勇者「う、うん…」
— Rootport (@rootport) 2015, 12月 10
商人「魔都に潜伏して、もう何ヶ月や?カラダがなまってまうわ」 僧侶「また手紙を書いてみてはどうですか?」 勇者「そうだね。賢者さん、一緒に文面を考えてくれる?」 賢者「…まかせて」 勇者「それにしても、人間国で何が起きているんだろう…」
— Rootport (@rootport) 2015, 12月 10
勇者「…もう何通も手紙を送っているのに、どうして連絡が取れないんだろう?」
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『女騎士、経理になる。』 第5話「プライス・オブ・ライフ」 ▼▼▼おしまい▼▼▼
— Rootport (@rootport) 2015, 12月 10