▽プロローグ
▽第1話「フライド・コカトリス」
▽第2話「ガバメント・オブリゲーション」
▽第3話「リテラシー」
▽第4話「ウェル・シェイプト・カップ」
▽第5話「プライス・オブ・ライフ」
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▼帝都、商業区──。 老練工房「よお、姉ちゃん!ひさしぶりだなぁ」 工房長「私たちの宿舎に空き部屋があります。使ってください」 女騎士「急に押しかけて申し訳ない」 老練工房「んで、そっちで伸びている茶色いのは何だ?」 女騎士「友人のダークエルフだ。馬には馴れていなかったらしい」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
女騎士「どうだ、もう立てるか?」 黒エルフ「うぅ~。しっぽの骨が痛いわ…」 女騎士「なに!ダークエルフにはしっぽがあるのか」 黒エルフ「とっくに退化してるわよ!あんたたち人間と同じ、骨だけ残ってるの!」 女騎士「骨が?どこに?触って確かめてやろう」 黒エルフ「自分の尻で確かめろ」
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工房長「それにしても、港町と帝都をたった一晩で…」 女騎士「私も、まさかここまで順調な旅ができるとは思わなかった。途中の村々で馬を快く貸してもらえたおかげだ」 老練工房「この前の旅で、姉ちゃんは村人たちとたいそう仲良くなっていたもんな」 女騎士「馬の調教を手伝ってあげたのだ」
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工房長「道中には関所も多くて大変だったでしょう。心付けを渡さないと、簡単には通してくれないはずですが…」 女騎士「そこは銀行家さんの力を借りた。小切手で一発だ」 老練工房「ずいぶん出費がかさんだんじゃねえか?」 黒エルフ「バカみたいな金額の国債を買わされるよりはマシよ…うぅ…」
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老練工房「小切手かぁ…。俺みたいな下っ端には縁がねえな」 工房長「あなたにはいつまでも下っ端でいられたら困りますよ」 老練工房「そうは言ってもよぉ…。工房長だって、小切手がどんなものか説明できんかい?」 工房長「そ、それは…」 老練工房「たとえば、手形とはどう違うんだ?」
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工房長「あらためて訊かれると、どう説明すればいいのやら…」 女騎士「たしかに、小切手と手形はよく似ているな。どちらも名前と金額が書かれた書類で、銀行に持っていけば換金してもらえる」 黒エルフ「だけど、会計上はまったく別のものよ。…うぅ…痛たた…」
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黒エルフ「手形は、借金の証明書の一種だと言えるわ。たとえば受取手形を持っている場合は、期日までにその金額を支払ってもらえるはずよね。いわば『借金の返済を受けられる権利』の証明書ってわけ」 女騎士「支払手形なら、逆だな」 黒エルフ「ええ。借金の支払義務の証明書だと言える」
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老練工房「じゃあ、小切手は何なんだ?」 女騎士「ひとことで言えば『現金の代わりになるもの』だ」 黒エルフ「銀行に対して、『この小切手を持ってきた人に、私の当座預金口座から現金を支払ってください』とお願いする書類。それが小切手よ」 老練工房「当座預金?普通の預金とは違うのかい?」
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工房長「さすがにそれくらいは知っておいてほしいのですが…」 老練工房「あいにく私は現場からの叩き上げなんでね」 黒エルフ「当座預金というのは、いろいろな取引の決済に使える無利子の口座よ。とりあえず、『普通預金や定期預金とは違って、利子がつかない口座だ』と覚えておけばいいでしょう」
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老練工房「利子がつかねえとはケチくさいな」 黒エルフ「そうかもしれないわね。でも、当座預金を持っていれば小切手を振り出すことができる。商売をするうえでは便利な口座なの」
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老練工房「待てよ?小切手は、自分の預金口座からカネを払うように銀行に依頼する書類なんだよな。ということは、預金口座の残高を超えるような小切手はマズイんじゃねえか?」 黒エルフ「そうね。例外はあるけれど…基本的には、当座預金の残高を超える小切手は振り出してはダメだと考えていいわ」
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女騎士「あとは…現金化のしやすさにも違いがあるはずだ」 黒エルフ「ええ。小切手は銀行に持っていけばすぐに現金化できる。だけど、手形は借金の一種だから、支払期日が来るまでは現金化できない」
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老練工房「こないだは手形を銀行に買い取ってもらって、現金化したじゃねえか」 黒エルフ「割り引かれて、額面金額よりも安い現金しか手に入らなかったはずよ」 女騎士(ちなみに安くなってしまった分は、私のおこづかいで補填したのだ)
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黒エルフ「今までの話をまとめるとこうなるわ」 老練工房「小切手の取引を帳簿につけるときの勘定科目は、現金または当座預金か。たとえば『小切手』という勘定科目を使ってもよさそうなもんだが…」 黒エルフ「帳簿の付け方もついでに説明するわね」 pic.twitter.com/Wje7Og53YY
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黒エルフ「たとえば関所の通行料を小切手で支払った場合は、こんな仕訳になるわ」 老練工房「関所の通行料って旅費交通費だったんだな」 女騎士「うむ。有料道路の利用料は旅費交通費になる」 老練工房「有料道路」 pic.twitter.com/m6KpQes1Zb
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工房長「うちの工房では、商品の代金として小切手を受け取ることがあります」 黒エルフ「その場合は、こんな仕訳ね」 老練工房「へえ、『現金』の勘定科目で処理しちまうのか」 女騎士「言っただろう。小切手は『現金の代わりになるもの』なのだ」 pic.twitter.com/nUzxgvPC95
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老練工房「だけどよぉ工房長。うちの工房じゃあ、小切手を現金に換えることは滅多にないんじゃねえか?」 工房長「受け取った小切手は現金にせず、そのまま当座預金に預けることが多いですね」 黒エルフ「その場合は『当座預金』の勘定科目を使うわ」 pic.twitter.com/XRwqLQl2eP
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工房長「どうですか、小切手について少しはわかりましたか?」 老練工房「いやあ、姉ちゃんたちと喋ると勉強になるや」 女騎士「任せてほしいのだ!」 黒エルフ「この程度、基本中のキホンよ」
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衛兵「……失礼する!」
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工房長「衛兵さまが、この工房にいったい何のご用でしょう?」 衛兵「ここに港町の銀行の代理人が来ていると聞いている!」 女騎士「代理人は私たちだが…」 衛兵「王国府より伝言だ!国王さまは、お前たちの謁見に応じてくださる!」 黒エルフ「謁見?そんなの頼んでないわ」 衛兵「知らん!」
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衛兵「本日、日没の時刻に王宮に馳せ参じよ!伝言は以上だ!」 衛兵「では、失礼する!」ザッザッザッ… 女騎士「…どうやら、嘆願書だけでは購入金額の変更には応じてもらえないようだな」 黒エルフ「無茶な金額を吹っ掛けておいて、今度は直接挨拶に来いですって?何それ、感じ悪ぅ!」
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黒エルフ「だいたいカネを借りるのは王さまでしょ!挨拶に来て頭を下げるべきは王さまのほうじゃない!」 工房長「そんな無茶な…」 黒エルフ「きっとヘドロヒキガエルみたいにケチで意地汚いやつなんだわ、王さまって」 女騎士「王さまは12歳のはずだが」 黒エルフ「なら、オタマジャクシね!」
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老練工房「ははは、オタマジャクシか!そいつは可愛いや!」 黒エルフ「可愛くなんかないわよ。ぬるぬるで超気持ち悪いんだから」 女騎士「…」じぃっ 黒エルフ「な、何よ。あたしの台詞に文句でもあるわけ?」 女騎士「…いや、謁見に参じるなら、その格好ではマズいと思って」
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工房長「いま着ているのは、港町の平民の作業着ですよね」 老練工房「王さまの前に出るなら、もう少しきちんとした身なりのほうがいいな」 黒エルフ「…正装の着替えなんて持ってないわよ」 女騎士「そうか!ならば私に任せてくれ!」 黒エルフ「?」 女騎士「さっそく買い物に出かけるぞ!」
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▼帝都、大商店街──。 ワイワイ…ガヤガヤ… 女騎士「うむ。よく似合っているぞ!いつか恩返しをしたいと思っていたのだ。遠慮なくプレゼントを受け取ってほしい」 黒エルフ「…」 女騎士「で、どれにする?好きなのを買ってやろう!」 黒エルフ「気持ちはありがたく頂戴するわ。でも──」
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黒エルフ「でも…ここ、防具屋よ!?」
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女騎士「初心者用から高級装備まで素晴らしい品揃えだ!何か問題が?」 黒エルフ「問題だらけよ!なんであたしが重たい鎧を着ないといけないわけ?」 女騎士「ふむ。たしかにスチールアーマーは重たいな。こっちのミスリルプレートならもっと軽くて模様も美しく…」 黒エルフ「ちっがーう!!」
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黒エルフ「正装に鎧を選ぶバカがどこにいるの!」 女騎士「なっ!鎧は騎士の正装だぞ!?」 黒エルフ「あたしは騎士じゃないわ!」 女騎士「騎士でないなら何なのだ!」 黒エルフ「あんたの奴隷よ!」 女騎士「そうだったのだ…」シュン 黒エルフ「いや、そこで落ち込まないでよ。やりにくい」
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黒エルフ「まさかあんた、その汚い鎧で謁見に行くつもりじゃないでしょうね」 女騎士「汚い鎧とは失敬な!この傷は竜鱗峠を突破したときのもの、こっちの凹みは副都の戦いで──」 黒エルフ「ハァ…。もういいわ、あたしが服を選んであげる」 女騎士「お前が?装備品の選び方を知っているのか?」
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黒エルフ「たしか国王は12歳だったわね。それなら、いい装備があるわ」 女騎士「そんな装備が?詳しく教えてくれ!」 黒エルフ「童貞を殺す服よ」 女騎士「童貞を殺す服」 女騎士「攻撃力は高そうだな」 黒エルフ「本来は防御力を重視した装備だけど、相手によっては一撃必殺の威力よ」
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