▽プロローグ
▽第1話「フライド・コカトリス」
▽第2話「ガバメント・オブリゲーション」
▽第3話「リテラシー」
▽第4話「ウェル・シェイプト・カップ」
▽第5話「プライス・オブ・ライフ」
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▼翌朝、港町──。 女騎士「失礼するのだ!」ドタドタ 支店長「…いったい何の騒ぎだね?」 秘書「誰かと思えば、昨日の3人ではありませんか」 女騎士「今日はグーテンベルクさんの工房について話があって来た。忙しいところ恐縮だが聞いてもらおう」 支店長「ほう、あのドワーフの?」
— Rootport (@rootport) 2015, 10月 2
女騎士「先月の利益の50%の金額を返済しろ、さもなくば融資を打ち切る──。これがお前たちの出した条件だな?」 支店長「わしらがどんな契約を結ぼうと貴行には関係ない」 秘書「私としても心苦しいのですが、その条件でないと本店が審査を通してくれないのです」 黒エルフ「まったく…横暴ね」
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司祭補「では、もしもその利益の計算が間違っているとしたら、どうかしらぁ…?」 支店長「利益の額が違うだと…?」 秘書「興味深いですね。どういう意味でしょう?」 女騎士「ふふふ…よくぞ聞いてくれた。この財務諸表(ステイトメント)を見るのだ!」バァーン!!
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女騎士「グーテンベルクさんの帳簿には、減価償却費が反映されていなかったのだ。これを修正すれば、利益は6,200Gから3,200Gに圧縮される」 黒エルフ「…」 女騎士「すると、貴行への返済額はその50%の1,600Gになる!」 pic.twitter.com/gQ4jkIHEbI
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女騎士「減価償却費は現金の減らない費用だ。PLの利益が変わっても、現金は減らない。持ち越せる現金残高は4,600Gになる。この金額なら、先月よりもたくさんの本を印刷できる。グーテンベルクさんは商売を大きくできるというわけだ」 支店長「ううむ」 秘書「なるほど、面白いですね…」
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秘書「…しかし、だから何なのですか?」 女騎士「は?」 秘書「グーテンベルクさんには、私どもの計算したとおり3,100Gを払っていただきます」 女騎士「だからその計算は間違って──」 秘書「あなたがたの計算方法など知りませんよ」 黒エルフ「…やっぱり、そうなるわよね」アチャー
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司祭補「どういうことですの?」 秘書「あなたがたがどんな会計基準を採用しようと自由です。しかし、私たちの銀行との取引には、私たちの決めた方法で利益を計算していただきます」 女騎士「なん、だと…?」 支店長「ふふふ、同じ町で働くよしみだ。特別にわしらの契約書を見せてやろう」パサッ
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女騎士「…1ヶ月の利益とは、その月に入金された額から、その月に出金した額を引いた金額とする…だと?」 秘書「ええ。それがグーテンベルクさんと取り交わした契約書の細則です。その計算方法なら、先月の利益は6,200Gになります」 黒エルフ「いわゆる『現金主義』という計算方法ね」
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黒エルフ「固定資産を計上して減価償却する方法は、カネを払ったときではなく、実際にその資産を使ったときに費用を計上するわ。いわゆる『発生主義』という計算方法よ。これに対して、カネの出入りだけに基づいて計算する方法が『現金主義』…」 司祭補「お小遣い帳と同じ計算方法ですわね」
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黒エルフ「現金主義で計算することが契約書に明記されている以上、あたしたちには手が出せないわ。残念だけど」 女騎士「そ、そんな…!」 司祭補「ではグーテンベルクさんは…?」 秘書「さあ?商才を磨いて頑張ればいいのでは?」 支店長「話は終わりだ。帰ってくれ」 女騎士「ぐ、ぐぅ…」
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▼港町、酒場──。 女騎士「うう…グーテンベルクさんを助けられると思ったのに…!」グイッ!! 黒エルフ「見事な飲みっぷりだけど、それお水よね?」 女騎士「当然だ。酒は筋肉の成長に悪影響なのだ」 司祭補「お酒は百薬の長とも言いますわぁ♪」コクリ 黒エルフ「あんたは飲むなよ聖職者」
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司祭補「あら、ワインは精霊様の血と呼ばれているのですわ。適度な飲酒なら問題ありません♪」 黒エルフ「ふぅん…。で、何を飲んでいるの?」 司祭補「ホットミードですわ。暖めた蜂蜜酒ですの。お試しになります?」 黒エルフ「うっわ、甘ぁ!よくこんなもの飲めるわね」
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女騎士「このままではグーテンベルクさんの商売は先細る一方なのだ…。今月はしのぐことができても、いつか行き詰まってしまう…」 黒エルフ「商才を磨いて頑張るしかない…。悔しいけど、あの秘書の言うとおりね」 司祭補「売上を伸ばすしかない、ということですの?」
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黒エルフ「たとえば…お客さんにお金を前払いしてもらう方法があるわ。注文が殺到すれば莫大なカネが集まるから、安心して商売を拡大できる」 女騎士「しかし、先月はたった10冊しか売れなかったのだ」 司祭補「注文が殺到するなんて夢のまた夢、かもしれませんわね…」
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黒エルフ「もしくは、1冊あたりの原価を切り詰める方法もあるわね。使っている紙や装丁の品質を落とせば、今の現金残高でも、先月よりたくさんの本を印刷できる」 女騎士「手書きの本と同じ品質の装丁でも、10冊しか売れなかったのだ…」 司祭補「品質を落とせば、売上はもっと落ちるはず…?」
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司祭補「それにしても、なぜ10冊しか売れなかったのでしょうか?値段は手書きの経典よりも安いのに…」 黒エルフ「経典を欲しがる人がいなかったのよ。教会に行けば、経典の内容を1Gのお布施で学べるわ。わざわざ1,000Gを払ってまで経典を手元に置いておきたいとは、誰も思わなかったわけ」
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黒エルフ「あの帳簿を見たでしょう?先月10冊の経典を買ったのは、田舎の貧しい教会とか、信心深い貧乏商人とかだった。グーテンベルクさんの本を欲しがるのは、結局、そういう一部の人だけなの」 司祭補「悩ましいですわ…」 女騎士「くそっ、何か無いのか!経典を欲しがる人を増やす方法は──」
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黒エルフ「バカね。精神支配の魔法でも使わない限り、何かを『欲しがらせる』なんて無理よ。難しすぎるわ」 司祭補「精神支配の魔法は犯罪ですわ!」 黒エルフ「商売で大切なのは、欲しがらせることではないわ。すでに欲しがっている人のところに、欲しがっているモノを持って行くほうが簡単よ」
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女騎士「しかし経典を欲しがっている人はいないのだろう?ならば、もう…どうしようもないではないか!」グイッ!! 歌声 ~♪~♪ 司祭補「あら、この歌は…?」 黒エルフ「これって…そばかす娘の歌よね?向こうの席の客たちが歌っているわ」 女騎士「やはり、いい歌詞なのだ…」
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行商風の客「おや、お嬢さんもこの歌を知っているのかい?」 騎手風の客「つい先日、丘陵地帯の寒村を通る機会があったんです。そのとき耳にして、妙に記憶に残りましてなぁ」 黒エルフ「やっぱり・安っぽい歌詞に思えるけど…」 行商風の客「いやいや、その素朴な雰囲気がいいんだよ!」
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司祭補「なるほどぉ、庶民の方には娯楽が少ないのですわね。だから、旅の途中で聞いた歌が耳に残ってしまう…」 黒エルフ「たしかにそうかもしれないわね」 司祭補「読み聞かせ会には、字を読める方も参加しています。勉強熱心な方だと思っていましたが…きっと、娯楽が少なくて退屈だったのですわ」
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黒エルフ「庶民には、娯楽が少ない…?」ボソッ 歌声 ~♪~♪ 女騎士「結局、あの娘を救うこともできなかったのだ!」 黒エルフ「…欲しがっている人のところに、欲しがっているモノを…」ブツブツ 女騎士「あんな美しい歌を作れる娘を守れないとは…私はなんと無力なのだ!」
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女騎士「あのそばかす娘に余計な希望を抱かせて、それを裏切ってしまうとは…。くっ、殺──」 黒エルフ「分かったわ!あの工房を救う方法!」ガタッ!! 司祭補「ほ、本当ですの?」 女騎士「ふん…そんなの無理に決まってる…」 黒エルフ「バカなこと言わないで、あんたらしくもない!」
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黒エルフ「この方法を実行するには、あんたにも力を貸してもらうわ!もう一度、あの村に戻りましょう!」 女騎士「ふへへ、力を貸すなど…こんな飲んだくれた私に何ができると言うのだ…」 黒エルフ・司祭補「「ただのお水でしょう!/ですわ!」」
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