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▽プロローグ
▽第1話「フライド・コカトリス」
▽第2話「ガバメント・オブリゲーション」
▽第3話「リテラシー」
▽第4話「ウェル・シェイプト・カップ」
▽第5話「プライス・オブ・ライフ」
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▼紅獅子亭、中庭──。 古道具屋「どうです、こちらはクルミ製のスプーンとフォークです。お安くしておきますよ」 貴婦人「まあ!クルミの木で作ってありますの?」 黒エルフ「どこにでもある食器よ。そんなに珍しい?」 貴婦人「ええ。銀やガラス以外のもので作られた食器を見るのは初めてです」
— Rootport (@rootport) 2015, 10月 20
貴婦人「こちらのクッションは妙にごわごわしてますわね」 女騎士「わらを詰めてあるのだ」 貴婦人「なぜそんなことをするのかしら。羽毛を詰めたほうが座り心地がいいのに…」 初老執事「…奥様、そろそろよろしいのでは?」
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初老執事「こちらの商人は、奥様がお買い求めになるようなものは扱っておりませんよ」 貴婦人「あら、そうかしら?…ほら、ご覧なさい。この『嗅ぎタバコ入れ』は素敵なデザインではなくて?」 初老執事「ご婦人が嗅ぎタバコなど…」 貴婦人「お父様へのプレゼントにしますわ」
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貴婦人「古道具屋さん、こちらの嗅ぎタバコ入れはおいくらかしら」 女騎士「えっと、そ、それは…」 古道具屋「困りましたね。じつは私は骨董品の目利きができないんですよ。ですから、奥様の好きな値段をつけてください。20Gよりも高ければいくらでもかまいません」 黒エルフ「ちょっと!」
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黒エルフ「何言ってんのよ!いくらでもかまわないなんて…」 初老執事「それでは21Gでいかがでしょう?」 黒エルフ「…って言われるに決まっているでしょう!」 貴婦人「いいえ、そんな値段で買うわけにはいきません」 黒エルフ「!?」 貴婦人「人の足元を見るようなことはできませんわ」
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貴婦人「そうですねぇ…。私も骨董品に詳しいわけではありませんが、40Gでいかが?」 黒エルフ「あんた、何言ってんの?こっちはいくらでもいいって言ってるのよ!値切るチャンスなのよ!」 女騎士「お前はどっちの味方なのだ?」 黒エルフ「どっちの味方でもないわ!自由経済の味方よ!」
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古道具屋「ありがとうございます。では、40Gでお譲りします」 貴婦人「いい買い物ができて嬉しいですわ」 チャリン… 黒エルフ「うわーん、もう!人間って不合理的ぃ~!!」ワシャワシャ 女騎士「売り手と買い手の双方が満足しているのだ。問題なかろう」 黒エルフ「そうだけどぉ…」
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▼青年の部屋──。 女騎士「と言うわけで、お金を持ってきたのだ」 黒エルフ「20Gで引き取った『嗅ぎタバコ入れ』が40Gで売れた。儲けは20Gね」 司祭補「その半分の10Gをお渡ししますわ」 色白青年「ありがとうございました。薬だけでなく、栄養のある食べ物も買えます」ケホケホ
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司祭補「そうだ!今までの取引を帳簿につけないといけませんわ」 黒エルフ「まだつけてなかったの?」 女騎士「こまめにつけたほうがいいのだ」 司祭補「わたしとしたことが、うっかりしていましたわぁ」 黒エルフ「しかたないわね。あたしが教えてあげるから、さっさとつけちゃいなさい」
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司祭補「まず、わたしたちは『嗅ぎタバコ入れ』を20Gで引き取りましたわ」 女騎士「現金を20G減らして、仕入20Gを計上する仕訳を切ればよさそうだ」 黒エルフ「いいえ、ダメよ」 女騎士「なぜだ?商品の代金を支払ったのだ。仕入ではないのか?」 黒エルフ「ええ。…少し悩むけど」
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黒エルフ「そもそも『仕入』の定義って何かしら?」 女騎士「商品や原材料を買うことだ」 黒エルフ「もう少し厳密に言えば、『主たる事業』で販売する商品や原材料を買うことを、仕入と呼ぶわ」 司祭補「主たる事業」 黒エルフ「何を本業にしているのか、って話よ」
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黒エルフ「たとえば建物を買ったときは、何を計上すればいい?」 女騎士「固定資産の『建物』だ」 黒エルフ「普通の商店ならね。でも、不動産屋ならどうかしら?値段が安いときに建物を買って、値段上がりしたときに売る業種なら」 司祭補「不動産屋さんなら、建物は『商品』になりますわねぇ…」
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黒エルフ「販売目的で商品を買ってるのだから、不動産屋にとって建物の購入は『仕入』になるわ」 女騎士「固定資産にはならないのだな」 黒エルフ「こういうふうに、帳簿の付け方は『何を本業にしているか』によって変わる。『主たる事業』によって違うのよ」 女騎士「ふむ。しかし、それでは…」
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女騎士「それでは、帳簿の付け方がいいかげんになってしまうのでは?」 黒エルフ「いいかげん?」 女騎士「何を『主たる事業』にするかは、商売をする経営者の気持ち次第だ。つまり、経営者の勝手な判断で帳簿の付け方を決められる…そういうことになるだろう?」 黒エルフ「ええ、そうね」
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黒エルフ「会計には『真実性の原則』というものがあるわ。正しい帳簿をつけろという意味よ。だけど、この『真実性』とは、客観的&絶対的な正しさのことではないの」 司祭補「絶対的ではない…?」 黒エルフ「何を『主たる事業』に選ぶかのような、経営者の主観的な判断に左右されるわけ」
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黒エルフ「とはいえ、好き勝手な帳簿を付けていいという意味ではないわ。業界慣習から見て常識的な付け方を選ぶべきだし、一度決めた帳簿の付け方を簡単に変えてはダメ」 女騎士「販売目的で建物を買うことを『仕入』にすると決めたら、それを変えるべきではないのだな」 黒エルフ「そういこと」
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黒エルフ「帳簿の正しさは、絶対的なものではない。だからこそ、正しい者が帳簿をつけなければいけないの。誠実で、正直な者がつけなければ、帳簿は嘘とごまかしだらけになってしまうわ」
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司祭補「それで、そのことが『嗅ぎタバコ入れ』とどう関わるのかしら?」 女騎士「お前は先ほど、少し悩むと言ったな」 黒エルフ「もしも古道具屋が、普段から骨董品を取り扱っていたなら、『嗅ぎタバコ入れ』は販売目的の『商品』で、20Gの支払いは『仕入』だと見なせるわ」 司祭補「ですが…」
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司祭補「…古道具屋さんは骨董品を取り扱っていませんわ。つまり主たる事業ではない?」 黒エルフ「そういうこと。今回の場合は『仕入』に計上せずに、『受託販売』のやり方で帳簿を付けると分かりやすいでしょう」 女騎士「この青年から『嗅ぎタバコ入れ』の販売を委託されたという形にするのだな」
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黒エルフ「まずは販売委託を受けたときの仕訳ね」 女騎士「嗅ぎタバコ入れを20Gで引き取ったときだな」 司祭補「この『受託販売』というのは?」 黒エルフ「委託販売取引が完了するまでの一時的な勘定科目よ」 pic.twitter.com/xNFxKHD0kI
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黒エルフ「続いて、委託された商品が売れたとき」 女騎士「あのご婦人に嗅ぎタバコ入れを40Gで売ったときの仕訳だな」 司祭補「『売上』ではなく、『受託販売』で仕訳を切るのですわね」 pic.twitter.com/7F5ZvhR6JQ
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司祭補「嗅ぎタバコ入れが売れたことで、色白青年さんと山分けする金額が10Gに決まりましたわ」 黒エルフ「古道具屋の取り分10Gは、いわば委託販売の手間賃と見なせる。だから受取手数料を計上するわ」 pic.twitter.com/dDLtN2CFr1
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司祭補「受取手数料はPLの貸方の勘定科目なのですわね。と言うことは、『収益』の一種ということになるのかしら?」 黒エルフ「するどいわね。収益は『売上』だけじゃないわ。売上以外にも色々な収益の種類がある。受取手数料はその1つよ」
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女騎士「最後に、この男に10Gを支払ったときの仕訳か」 黒エルフ「この仕訳で、『受託販売』の勘定科目の借方・貸方それぞれの合計が等しくなるわ。貸借差額、つまり帳簿上の残高がゼロになる」 女騎士「清算完了なのだ」 pic.twitter.com/xBhARyU60J
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色白青年 コホッ ケホケホッ 女騎士「す、すまない。病人がいることを忘れて盛り上がってしまったのだ」 色白青年「病人といっても、ただの風邪です。私のほうこそ、横で聞いていて勉強になりました」
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色白青年「それにしても、あなたは…」マジマジ 女騎士「なんだ?私の顔に何か?」
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色白青年「いいえ、なんでもありません。人違いです」スッ 女騎士「?」 色白青年「あの人が複式簿記を使えるはずがない…」ケホケホッ コホッ 司祭補「急に咳が激しくなりましたわ!」 女騎士「よく分からんが、しっかり休め」
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