魔国で囚われの身になった女騎士。
オークから経理の知識を教わった彼女は、
人間国の小さな銀行で働き始めるのだった──。
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▽プロローグ
▽第１話「フライド・コカトリス」
▽第２話「ガバメント・オブリゲーション」
▽第３話「リテラシー」
▽第４話「ウェル・シェイプト・カップ」
▽第５話「プライス・オブ・ライフ」
▽第６話「エクイティ」
▽第７話「ブラック・スワン」
▽第８話「ローン・オブ・ザ・リング」
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■■■登場人物紹介■■■
女騎士（本名：シルヴィア・ワールシュタット）
剣に強く数字に弱い。頼まれたら断れないタイプ。
ダークエルフ（本名：ルカ・ファン・ローデンスタイン）
簿記と商売に詳しい。女騎士の奴隷。
司祭補（本名：セラフィム・アガフィア）
精霊教会の聖職者。ちょっとした魔法が使える。
銀行家（本名：ロレンツォ・グリマルディ）
美術品の研究が好き。女騎士の雇い主。
幼メイド（本名：マリア）
銀行家の邸宅で奉公している。
▼港町・帝都銀行の支店──。 ｺﾝｺﾝ 支店長「入りたまえ」 秘書「失礼します。支店長、お手紙が届いていました」 支店長「おお、あなたでしたか！ちょうどお話ししたいと思っていたのです。例の施策の進捗はいかがですか？」 秘書「…例の施策、と言いますと？」
— Rootport (@rootport) 2015, 12月 9
支店長「もちろん、あの銀行を潰す施策ですよ」ﾋｿｯ 秘書「ご心配には及びません」 支店長「しかし最近では、向こうの銀行は『貸し剥がしに気をつけろ』と喧伝しているらしいじゃありませんか」 秘書「ええ、頭痛の種です」 支店長「では──」 秘書「ですから、ご心配には及びません」ﾆﾔｯ
— Rootport (@rootport) 2015, 12月 9
秘書「すでに新しい手を打ってあります」 支店長「つまり、あの計画を実行に移したのですか？」 秘書「その通りです。今のところ順調に顧客を奪うことができています」 支店長「それは頼もしい。手足を1本ずつもぎ取るように、やつらの商売の芽を摘み取ってやってください」 秘書「お任せを」
— Rootport (@rootport) 2015, 12月 9
秘書「ところでお話を戻しますが、この支店宛てに手紙が届いていました。人間国の政府からですよ」ﾋﾟﾗｯ 支店長「政府から？…ふむ、この内容は…」 秘書「おそらく、港町銀行にも同じ手紙が届いているはずです。至急、手を打つ必要があるかと」 支店長「…そのようですね。対策を考えましょう」
— Rootport (@rootport) 2015, 12月 9
▼港町・波止場の食堂──。 窓の外 ﾄﾞﾝﾖﾘ 貿易商の妻「…来ませんね」 黒エルフ「…来ないわね」 銀行家「窓の外ばかり見てないで、テーブルに戻ってはいかがですか？」 幼メイド「もうすぐお料理が出てくるのです」 司祭補「心配するお気持ちは分かりますが、きっと大丈夫ですわ」
— Rootport (@rootport) 2015, 12月 9
ｶﾞﾗｯ 女騎士「やはりここだったか！」 銀行家「おや、女騎士さん。もうトレーニングはよろしいのですか？」 女騎士「うむ。今日のぶんのメニューはこなした」 司祭補「でしたら、女騎士さんもお食事をしに…？」 女騎士「いいや、港町の銀行宛に手紙が届いたのだ。それを知らせに来た」
— Rootport (@rootport) 2015, 12月 9
貿易商の妻「はぁ…」 黒エルフ「ハァ…」 女騎士「…あの2人、なぜ窓の外ばかりを見ているのだ？」 銀行家「新大陸から貿易船が帰ってくるのを待っているのですよ。その船には私の注文した美術品も積まれています」 司祭補「それから、わたしの取り寄せた精霊教会の資料も」 女騎士「資料？」
— Rootport (@rootport) 2015, 12月 9
司祭補「『葬儀録』ですわ。精霊教会の教えでは、いつか来る『大いなる船出の日』に死者の魂が救われるとされています。その日に備えて、亡くなった方々の名簿が必要なのです」 女騎士「そうか。新大陸は情勢が不安定だから…」 司祭補「はい。葬儀録の写本をこちらで保管することになりましたの」
— Rootport (@rootport) 2015, 12月 9
幼メイド「司祭補さま〜よく分からないのですぅ〜」 司祭補「あらあら、何がです？」 幼メイド「新大陸は、わるいまぞくにほろぼされたと聞きました。なぜ、今もぼーえきができるのですか？」 司祭補「いいところに気づきましたね。たしかに副都は魔族に滅ぼされ、人間国の政府機能は失われました」
— Rootport (@rootport) 2015, 12月 9
司祭補「人間国政府との公式の連絡はなくなり、勇者様の安否も分かりません。ですが、今でも新大陸にはたくさんの人々が取り残されています」 銀行家「政府を失って、どんな暮らしをしているのか…」 幼メイド「分かりました！そういう人たちをおーえんするためにも、ぼーえきが必要なのですね」
— Rootport (@rootport) 2015, 12月 9
貿易商の妻「はぁ…予定では昨日までに戻ってくるはずだったのに…」 黒エルフ「航海に数日くらいの遅れはよくあることだけど…心配ね」 貿易商の妻「主人が無事だといいのですが」 女騎士「ふむ、あなたの夫もその船に乗っているのだな」 貿易商の妻「はい。水夫から身を立てた男なのです」
— Rootport (@rootport) 2015, 12月 9
黒エルフ「旦那さんの無事を一緒に祈りましょう」 貿易商の妻「ありがとうございます！ダークエルフさん！」 女騎士「他人の家族を心配するとは…お前にしては殊勝な心掛けではないか」ｼﾞﾜｯ 黒エルフ「当然でしょ？だってこの夫婦には12万Ｇも貸しているんだもの」 女騎士「私の感動を返せ」
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黒エルフ「貿易で上げた利益からカネを返済してもらう予定よ。だから、航海の成功を祈らずにはいられないわけ」 女騎士「ううむ。銀行家さんは美術品、司祭補さまは教会の資料、ダークエルフは貸付金…。みんな自分の都合ばかりだ。この奥さんの気持ちを考えてみたのか？」 貿易商の妻 ｸｽｸｽ
— Rootport (@rootport) 2015, 12月 9
女騎士「な、何か変なことを言っただろうか？」 貿易商の妻「いいえ。でも、女騎士さんってマジメな方なのね」 女騎士「？」 貿易商の妻「みなさんが自分の都合で、自分の欲しい物を買う…。だからこそ貿易の仕事は成り立ちます。悪いことではありません」 女騎士「うーむ、そうかもしれないが…」
— Rootport (@rootport) 2015, 12月 9
▼波止場の食堂、物陰──。 物乞い・弟「お兄ちゃん、あいつらを狙おうよ」 物乞い・兄「うん。とくにあの茶色いやつはいいカモになりそうだ。窓の外にばかり気を取られてる」 物乞い・弟「あっちの鎧を着ているやつは？」 物乞い・兄「あいつはダメだ、目つきがヤバすぎる」
— Rootport (@rootport) 2015, 12月 9
▼波止場の食堂、窓際──。 女騎士「この夫婦に12万Ｇを貸したと言ったな。では、担保はどうなっている？」 黒エルフ「担保？」 女騎士「だから、その…万が一だぞ？万が一、航海が失敗したら、貿易の収益からカネを返済してもらえず、担保を取ることになるのだろう」 貿易商の妻「私の肉です」
— Rootport (@rootport) 2015, 12月 9
女騎士「は？」 貿易商の妻「ですから、私のカラダの好きな場所の肉1キログラムが担保になっています」 女騎士「もしカネを返せなければ、カラダの肉を切り取るということか？おい、ダークエルフ！どういうことだ！」 黒エルフ「あたしに言わないでよ、そういう商習慣なんだからしかたないでしょ」
— Rootport (@rootport) 2015, 12月 9
黒エルフ「この夫婦には『冒険貸借』というタイプの契約でカネを貸しているわ」 女騎士「ぼうけんたいしゃく？」 黒エルフ「人間国では、『冒険貸借』の担保には肉1キロを設定するのが習慣になっているの。宗教的な理由で」 司祭補「精霊教会の教えですわ」 女騎士「ど、どういうことだ」
— Rootport (@rootport) 2015, 12月 9
黒エルフ「あんたが簿記を勉強した魔国には、『冒険貸借』はすでに存在しないのかもしれないわね。簡単に説明するけど──」 物乞い・弟「うわーん！痛いよぉ～！」 一同「…!?」 物乞い・弟「助けてぇ～！」 給仕「こら、出て行け！汚いガキめ！」 女騎士「待て！」
— Rootport (@rootport) 2015, 12月 9
女騎士「その子は血を流しているではないか！…おお、可哀想に。どこを怪我したのだ？」 黒エルフ「まったく、相変わらずお人好しなんだから…」 物乞い・弟「うわーん！うわーん！」 司祭補「どうしましょう？回復魔法のお香を焚きますか？」 女騎士「こ、この血は…」
— Rootport (@rootport) 2015, 12月 9
女騎士「…この血は、血ではない！」 物乞い・弟 ﾆﾔｯ 女騎士「この匂い、黒スグリの汁だな？」 物乞い・兄「…おい！ずらかるぞ！」ﾀﾀｯ 黒エルフ「あっ！あのガキ、あたしの鞄を…！」 物乞い・兄「あばよ！どんくさいお姉ちゃん！」 黒エルフ「待ちなさい！このドロボー!!」ﾀﾞｯ
— Rootport (@rootport) 2015, 12月 9
銀行家「おやおや」 幼メイド「たいへんですぅ～！」 給仕「あいつら、この辺りじゃ有名な泥棒兄弟なんですよ」 女騎士「弟が気を引いているすきに兄がかっぱらいをするのか。ふむ、兵は詭道なりと言うが…」 物乞い・弟「今さら気づいても遅いよ！さよな──」 女騎士「お前は逃がさん」ｶﾞｼｯ
— Rootport (@rootport) 2015, 12月 9
物乞い・弟「うわっ！放せ！放せ～っ！」ﾎﾟｶﾎﾟｶ 女騎士「わはは！威勢のいい子供だ」 物乞い・弟「くそ～！これでどうだ！」ｶﾞﾌﾞｰ 女騎士「私はオルトロスに噛み殺されかけたこともあるのだ。痛くもかゆくもない」 物乞い・弟「放せよぉ～！」ｼﾞﾀﾊﾞﾀ
— Rootport (@rootport) 2015, 12月 9
物乞い・弟「放せぇー!!」ｼﾞﾀﾊﾞﾀ 女騎士「いいだろう」 ﾄﾞｻｯ 物乞い・弟「痛て…急に放すなよぅ！」 女騎士「さてと、お前には兄の居場所を教えてもらおう」 物乞い・弟「ふん、誰が教えるもんか」 女騎士「ほう？強情を張ると自分のためにならんぞ」
— Rootport (@rootport) 2015, 12月 9
女騎士「こう見えて私は新大陸の最前線で戦っていたのだ。魔族の口を割らせるための拷問もよく知っているのだが…」 物乞い・弟「そんなコケ脅しには騙されないもん！」 女騎士「ほほう、そうかそうか」ﾆﾔｧ 物乞い・弟「こ、コケ脅しには…」 女騎士 ﾆﾝﾏﾘ 物乞い・弟 ｿﾞﾜ～ｯ
— Rootport (@rootport) 2015, 12月 9
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