▽プロローグ
▽第1話「フライド・コカトリス」
▽第2話「ガバメント・オブリゲーション」
▽第3話「リテラシー」
▽第4話「ウェル・シェイプト・カップ」
▽第5話「プライス・オブ・ライフ」
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黒エルフ「……」 女騎士 ぽんっ 黒エルフ「!」 女騎士「そんな難しい顔、お前らしくないぞ。今日は仕事をしに来たのだろう?」 黒エルフ「え、ええ…そうだったわね。今ので港町の人々が消えた理由が分かったわ。あたしの予想通りだったみたい」 司祭補「まあ!もう謎が解けましたの?」
— Rootport (@rootport) 2015, 10月 2
黒エルフ「あたしの予想が当たっているかどうか…グーテンベルクさん、お話を聞かせて」 女騎士「私たちは港町の銀行の者だ。工房にお邪魔してもいいだろうか」 ドワーフ「あんたらに話すことなんてないね。悪いが帰ってくれ。もう銀行の者は信用しないと、わしは決めたんだ」
— Rootport (@rootport) 2015, 10月 2
司祭補「あらあら、まあまあ。そうおっしゃらないでくださいな」チャラ… ドワーフ「その香炉の模様!もしや、あなたは司祭補さま…?」 司祭補「ええ。最近、港町の教会に転属になりましたの」 ドワーフ「と、とんだ失礼を!どうぞお上がりください!」キィ… 司祭補「うふふ。ごめんくださぁい」
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▼工房・事務室──。 黒エルフ「…なるほど、思ったとおりね。『貸し剥がし』だわ」 女騎士「貸し剥がし?」 黒エルフ「帝都の銀行は、港町での影響力を拡大しようとしているのでしょう。手段を選ばずにね。…もしかしたら、あたしたちを潰そうとしているのかも」 司祭補「どういうことかしら?」
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黒エルフ「帝都の銀行は、あたしたちよりも安い利子でカネを貸すと言ってきた。だから港町の銀行から融資を乗り換えることにした。…そうよね?」 ドワーフ「ふん。あのときはいい条件だと思ったのさ。帝都の銀行にカネを貸してもらって、港町の銀行から借りたカネを全額返済した」
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司祭補「そういえば、最近、全額返済してくる取引先が増えているとおっしゃっていましたわねえ」 女騎士「つまり…帝都の銀行は、私たちから顧客を奪おうとしているのだな?」 ドワーフ「あんな安い利子率を見せられたら、誰だって心がぐらつく」 黒エルフ「でも、おいしい話には裏があったわけ」
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ドワーフ「港町の銀行からの融資は年次更新だが、帝都の銀行は月次更新の契約だった」 女騎士「?」 黒エルフ「年次更新なら年1回の『カネを貸せるかどうかの審査』が、月次更新では毎月あるわ」 司祭補「審査に落ちれば?」 黒エルフ「カネを返すことになる。返せなければ担保を取り上げられる」
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ドワーフ「帝都の銀行は、先月の利益の50%の金額を、今月末までに返済しろと言ってきた。借金の返済能力を確かめるためだそうだ。それができなければ、審査を通すわけにはいかない、と…」 司祭補「そんなお金がありまして?」 ドワーフ「いいえ、恥ずかしながら…」
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黒エルフ「そうやって無理な条件を押しつけて返済を迫ることを『貸し剥がし』というの。債務者を破産に追い込んで、担保を取り上げる」 女騎士「では、消えた人々というのは…?」 黒エルフ「帝都の銀行に財産を奪われて、港町に暮らせなくなったのでしょうね」 司祭補「ひどいですわ…」
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黒エルフ「借金のカタに取り上げた家屋や営業権を、帝都の銀行は親しい商人に売り払ったはず。将来、港町で商売しやすくなるように」 司祭補「だから侍女さんの報告どおり、見ず知らずの人が港町に引っ越してきたのですわね」 女騎士「だが、それでは…」 黒エルフ「うちの銀行は商売あがったりよ」
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ドワーフ「精霊教会の教えどおり、銀行業とは汚い商売だな。おたくらがしのぎを削るのは構わないが、巻き込まれる身にもなってくれ」 司祭補「まあ…」 ドワーフ「せっかく完成させた『活版印刷機』を、借金のカタに奪われることになるとは…。くそっ…」 女騎士「活版印刷機?何だそれは?」
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▼工房・作業場──。 女騎士「おお~!すごい数の印鑑なのだ!」 ドワーフ「印鑑ではない、『活字』だ。鉛と錫の合金だ」 女騎士「活字?」 ドワーフ「こうやって木枠に活字を並べて、耐熱紙に押しつけると…」 ギュウ ドワーフ「耐熱紙に文字の形の溝ができる。これを『紙型』と呼ぶ」
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ドワーフ「『紙型』の上に薄く鉛を流せば、文字の刻まれた鉛の板ができる。これが『鉛版』だ。あとは、この鉛の板にインクを塗って、製本用の紙に押しつければ…」 ガシャッ!! ドワーフ「…文章を印刷できる」 女騎士「まるで魔法だな」 司祭補「手書きせずに本を作れるのですわね?」
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ドワーフ「さようでございます。この装置さえあれば、精霊教会の経典をより安く、たくさん作ることができるのです」 司祭補「手書きなら1冊作るのに1年ほどかかりますけれど…」 ドワーフ「この装置なら1週間…。いえ、活字さえ組んでしまえば数日で作ることが可能です」
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ドワーフ「こちらの経典は、この活版印刷機で作ったものです」 司祭補「本の大きさや重さは、手書きのものと変わりませんわね」 ドワーフ「精霊教会の威厳にふさわしい大きさと重さが必要だと考えました」 女騎士「文字の形が揃っていて読みやすいのだ」 黒エルフ「たしかにすごい発明ね…」
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黒エルフ「だけど、問題は儲かるかどうかよ」 ドワーフ「この装置は精霊教会の教えを広めるためのものだ。金儲けの道具ではない!」 黒エルフ「つまり、儲かってないのね?」 ドワーフ「う、うむ…。わしの経典は1冊1000Gだ。手書きの本の1/20の値段。飛ぶように売れると思ったのだが…」
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黒エルフ「たしか先々月、うちの銀行から150万Gを借りたわよね」 ドワーフ「ああ。その全額を活版印刷機の制作に使った」 黒エルフ「ちなみに、この装置は何冊の本を刷れるの?」 ドワーフ「正確には分からんが、最低でも5,000冊は修理なしで印刷できるだろう。微調整は必要だがな」
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黒エルフ「150万Gで5,000冊なら、1冊あたり300Gね」 ドワーフ「それ以外に、紙やインク、装丁用の金具、人件費などで本1冊に380Gほどかかる。合計680Gの原価だ」 女騎士「人件費?」 ドワーフ「わしの生活費だ」 司祭補「1冊1,000Gで売れば320Gの儲けですわ」
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女騎士「利益が出るはずの価格設定だ。なぜ儲からなかったのだ?」 ドワーフ「そ、それは…」 黒エルフ「簡単よ。数が売れなかったんでしょう」 司祭補「あらあら、まあまあ…先月は何冊売れましたの?」 ドワーフ「…10冊、です」 女騎士「たったの10冊!?」
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黒エルフ「先月の売上は1,000G×10冊だから、1万Gね」 司祭補「紙やインクには380G×10冊で3,800Gかかったはずですわ」 ドワーフ「はい。1万Gから3,800Gを差し引いて、今わしの手元には6,200G残っています。帝都の銀行は、この50%を払えと言っているのです」
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司祭補「6,200Gの50%なら、3,100Gですわねぇ…」 黒エルフ「手元に残る金額も3,100Gね。本を10冊作るには3,800Gが必要だけど、それに足りないわ」 ドワーフ「帝都の銀行にカネを払ったら、商売を小さくするしかない。払わなければ融資は打ち切りで、担保を奪われる…」
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黒エルフ「戦争の準備で、最近では金属の値段が上がっているわ。印刷機に使われた真鍮や鉛を売れば、いい値段になるはず。帝都の銀行の狙いはそれでしょう」 ドワーフ「くそっ!発明の価値が分からん連中め…!」 女騎士「しかしみんな暗算速いな」 黒エルフ「あんたが遅いのよ」
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女騎士「どうだ、また私たちの銀行から融資を受けないか?帝都の銀行のように無茶な条件は出さないぞ」 ドワーフ「ふん、そうやってわしを騙すつもりだろ?」 司祭補「この方たちは信用できますわ」 ドワーフ「司祭補さまのお言葉を疑うつもりはありません。わしはもう、銀行を信じられんのです」
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黒エルフ「あんたねえ、人がせっかく親切を言ってるのに──」 ドワーフ「帝都の銀行の連中だって、親切そうな顔で近づいてきたわい」 黒エルフ「もうっ、これだからドワーフは!呆れるほど石頭!」 女騎士「まあ落ち着け。…では、帳簿だけでも見せてもらえんか?間違いがないか確認させてほしい」
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ドワーフ「帳簿だと?だ、だが」 司祭補「この方たちを信じてくださいまし♪」 ドワーフ「ううむ。司祭補さまがそうおっしゃるなら…」 女騎士「任せてほしいのだ!」 ドワーフ「ただし、見るだけだ!おたくらが何をしようと、カネを払うのも受け取るのもわしはごめんだからな」
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▼田舎領主の館・庭園──。 田舎領主「ううむ、昼間から飲む酒は格別じゃのぉ」グビグビッ 田舎領主「しかし昨夜の者どもはいい女じゃった。あやつらに注がせる酒はさぞかし美味じゃろうな~」 田舎領主「まあよい。月末にはあのそばかす娘が屋敷に来る。どう味わってやろうかのぉ」
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田舎領主「まったく、農奴とは愚かな生き物じゃ。あの手鏡が最初から割れていたとも気づかず、わがはいの言葉を鵜呑みにするとは…。月末が楽しみじゃ!ほほほ!」 秘書「おや、月末に何かいいことでもあるのですか?」 田舎領主「!」 秘書「奇遇ですね。私も月末を楽しみにしているんです」
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秘書「今月末は、領主様にお貸しした長期融資20万Gの返済日です。お金のご用意は進んでいますか?」 田舎領主「貴様は…帝都の銀行の!?」 秘書「返済できないようであれば、担保として領主様の土地の一部を頂戴することになります」 田舎領主「出て行け!ここはわがはいの私邸じゃ!」
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秘書「おっと失礼。たしかに今はまだあなたの私邸でしたね」 田舎領主「今はまだ、じゃと…?」 秘書「ええ。この屋敷が担保に入るのも時間の問題でしょう?あなたが領主の地位を継承してから、あなたの所有地は小さくなる一方ではありませんか」 田舎領主「土地を担保に取る貴様たちのせいじゃ!」
— Rootport (@rootport) 2015, 10月 2
秘書「担保も無しにカネを貸すバカはいませんよ。現にあなたはカネを返す能力がないから、銀行に土地を取られてしまうのでしょう」 田舎領主「わがはいを無能と呼ぶのか!人間国に血税を納めているこのわがはいを!」 秘書「その税金は、元を正せば私たちが貸したカネです」 田舎領主「うぬぅ~」
— Rootport (@rootport) 2015, 10月 2
田舎領主「平民のくせに生意気な口を叩くでない!わがはいにカネが無いのは、農奴たちが怠惰なせいじゃ!やつらがもっと仕事に精を出せば…」 秘書「いいですねえ、貴族制というのは。何の才能もない人間でも、『生まれ』だけで偉そうにできる」 田舎領主「な、何の才能もない、じゃと…?」
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