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女騎士「…それは、儲けが出ないからか?」 黒エルフ「いいえ。そもそも、そんな額の現金が手元に無いからよ。あたしたち銀行のカネの大半は、取引先に貸し付けているわ」 司祭補「もしも航海に必要なお金を集めようとしたら…」 女騎士「それこそ、貸し剥がしのように返済を迫るしかないのか…」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
黒エルフ「あたしだって、西岸港に商船を奪われっぱなしでいいとは思わない。だけど、無い袖は振れないわ」 港街商会「そんな…」 貿易商「では、いったいどうすれば…」 銀行家「そもそも西岸港に出入りしている船団は、どうやってカネを集めているのでしょう?」 黒エルフ「そういえば…」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
黒エルフ(…あいつが言っていたわよね)ボソッ 女騎士(あいつ?)ボソッ 黒エルフ(勇者のことよ。…あいつ、帝都銀行の秘書は西岸港に出張中だった…って、言ってなかった?) 女騎士(ああ!) 黒エルフ(今回のことも、あの秘書が1枚噛んでいるのかしら?) 女騎士(手強い相手なのだ…)
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
司祭補「…ともかく、この町の現状については情報を共有できたと思いますわ」 銀行家「この場で解決策を思いつくことはできませんでしたが…、力を合わせて困難に立ち向かうことを約束しましょう」 貿易商「もちろん約束します!」 港街商会「生まれ育ったこの町を失うわけにはいきません!」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
ドンドンドンッ!! ???(司祭補さまぁ~!お助けくださいぃ~!) 一同「…!?」 司祭補「あら、どなたかしら?ドアを開けてくださいな」 バタバタ… 毛皮商「…ああっ、司祭補さま!私が愚かでした!」 貿易商「毛皮商さん!?」 港街商会「引っ越したはずでは…」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
毛皮商「この町を離れるべきではありませんでした。オイシイ話には裏があったんです!ボロ儲けするはずが莫大な借金を負ってしまうなんて…」 女騎士「その様子だと、借金取りから逃げてきたようだな」 司祭補「あらあら、まあまあ」 銀行家「いったい何があったのです?」 毛皮商「…西岸港です」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
毛皮商「船団に出資するために西岸港に行っていました」 港街商会「あなたが船団に出資?」 貿易商「航海への出資は、普通、金持ちの親族同士や友人同士で行うものです。失礼ですが、あなたにそんな資産があったとは…」 毛皮商「そういう古い方法の出資ではありません。これを見てください」ピラ
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
銀行家「これは…」 司祭補「…『株券』と書いてありますわ」 黒エルフ「まさか、あり得ない…」 港街商会「何ですか、これは?」 毛皮商「そこに1万Gと書いてあるでしょう?それが株券の『額面額』です。1万Gの出資と引き替えに、この券を手に入れたんです」 貿易商「出資と引き替えに…?」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
黒エルフ「船団を組むときに、たとえば100枚の株券を発行するとしましょう。1枚1万Gなら合計で100万Gの出資金が集まるはずよね?」 港街商会「今までのように家族や親族でカネを出し合うのではなく、不特定多数の人間から出資を募ることができるのですね」 黒エルフ「そういうこと」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
黒エルフ「そして、航海が終わったときに500万Gの収益が残ったとする。この場合、株券1枚あたり5万Gの収益があったことになるわ」 毛皮商「航海が終わったら船団を解散して、収益や資産は株券の持ち主で分配する契約になっていました」 貿易商「上手くいけば大金持ちになれますね…」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
黒エルフ「今までの話をまとめると、こうなるわ」 女騎士「高額な出資金を集めるときには、『株券』は便利なのだな」 黒エルフ「子供のころに読んだ教科書には載っていたけど、まさか人間国で『株券』を発行する人がいたなんて…」 pic.twitter.com/ZtpvzYH3JL
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
港街商会「株券があれば、小さな金額からでも船団に出資できるし、一攫千金のチャンスもある。それは分かりました。…では、なぜ借金を負ってしまったのですか?」 黒エルフ「出資していた船団が航海に失敗した。…そんなところでしょう?」 毛皮商「その通りです。まさかこんなことになるなんて…」
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毛皮商「私の出資していた船団が、シーサーペントに沈められたのです。ほとんど全滅でした…」 銀行家「なんと…」 毛皮商「当然、貿易の収益はありませんでした。さらに悪いことに、その船団は自分たちの船を持っていませんでした。船も武器も、他人からの借り物だったんです」
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毛皮商「沈んだ船や武器の弁償を求められて、とても返せないような借金を負ってしまったんです。株券を入手したときの1万Gを取り返せないばかりか、こんな目に遭うなんて…」 黒エルフ「いわゆる『無限責任制』というやつね」 女騎士「むげんせきにんせい?」
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黒エルフ「収益の分配を受けられる代わりに、もしも船団が損失を出したら負債も引き受けるという意味よ。どんなに大きな負債だろうと、出資者には支払う責任が発生する──。それが『無限責任制』の出資だわ」 毛皮商「まさか株券にこんな危険があったなんて…」
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港街商会「それにしても、西岸港では大きな船団を組んでいたのですよね。なぜシーサーペントに沈められるようなことになったのでしょうか?」 毛皮商「…生き残った者の話では、腕の悪い水夫が見張りに立ったのが原因だそうです」 貿易商「ああ…。私も同じ理由で痛い目に遭いました…」
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毛皮商「経験が浅く、カンも悪い水夫だったのでしょう。シーサーペントの作る雨雲に気づかず、接近を許してしまったそうです。気づいたときには手遅れだったと聞いています」 貿易商「海のうえでは人が一番のリスクですよ。…どんなに良い船団でも、航海が終われば解散です」
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貿易商「新しい航海に出るときは、そのたびに新しい船団を組み直します。こういう仕組みでは、どうしても腕の悪い水夫が混ざってしまう」 銀行家「親族や友人だけで船団を組めればいいのですが…」 港街商会「新大陸までの航海となれば、参加人数も膨大です。赤の他人を雇わざるをえないでしょう」
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女騎士「ともあれ、西岸港が大船団を組める理由は分かったな」 黒エルフ「ええ、リスクはあっても『株券』は優れた方法よ」 司祭補「ですが、まったく同じ方法をこの町でも真似するわけにはいかないと思いますわ」 毛皮商「そうですよ!当然ですよ──!」
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▼銀行家の邸宅、晩餐──。 勇者「…そうか、そんなことがあったんだ」 司祭補「港町の住人で、協力して困難に立ち向かうことを約束しましたわ」 女騎士「だが、具体的な対策は決まらなかったのだ…」 黒エルフ「…」 幼メイド「しつれいします~。デザートのケーキですぅ~」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
銀行家「おや、上手に焼けるようになりましたね」 幼メイド「でへへ~、ありがとうございます♪」 女騎士「これなら、いつ実家に戻っても大丈夫だな」 幼メイド「弟や妹たちに、おねーさんらしいところを見せてやるのです!」 勇者「きっと喜ぶと思うよ!」 黒エルフ「…」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
女騎士「…それで、謁見の準備のほうはどうなのだ?」 司祭補「信頼のおける聖職者に連絡を取ろうとしているところですわ」 勇者「ありがとう」 司祭補「とはいえ、帝都との往復には時間がかかります。もう少しお待たせしてしまいそうです」 黒エルフ「何だか、時間がもったいないわね…」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
黒エルフ「あんたには魔王討伐という任務があるんだから、一度魔国に戻ったら?王さまには、あたしたちからあんたの手紙を渡すわ」 勇者「そ、それは…」チラッ 黒エルフ「遠征を止められるかどうか心配でしょうけど、大丈夫。あたしたちが何とかするわ。…そうよね?」 女騎士「う、うむ…」チラッ
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
勇者「ど、どうしようかな。魔王の討伐は、そんなに急ぐわけじゃないし…」 黒エルフ「はあ?一番重要な任務でしょう。急ぎなさいよ」 女騎士「い、いや…。勇者もこう言っているのだ。焦る必要はないだろう」 黒エルフ「何?…あんたたち、何か隠し事してない?」 女騎士・勇者「「まさか!」」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
黒エルフ「魔国に戻れない理由でもあるわけ?」ジトッ 勇者「そ、そんなこと!」 女騎士「無いのだ!」 黒エルフ「あやしい…」ジト~ッ 女騎士「な、何を疑っているのだ?何なら、私の日記を見せてもいいぞ。怪しいところなど1つもない!」 黒エルフ「…あんた、日記なんて付けてたっけ?」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 9
女騎士「に、日記を付けていること自体が秘密だったのだ!…だけど、お前にだけは、こっそり見せてやってもいい」 黒エルフ「それが隠し事をしていない証拠になるの?」 女騎士「もちろんだ!」 黒エルフ「どうだか(棒」 黒エルフ ハッ 女騎士「だ、だけど日記の中身は内緒だぞ!絶対!」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7