▽プロローグ
▽第1話「フライド・コカトリス」
▽第2話「ガバメント・オブリゲーション」
▽第3話「リテラシー」
▽第4話「ウェル・シェイプト・カップ」
▽第5話「プライス・オブ・ライフ」
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▼港町、厩舎──。 女騎士「こいつが町でいちばんの駿馬か。よしよし、いい子だ」 馬「ブルルッ」スリスリ… 飼育員「おおっ!気むずかしいこの子がすぐになつくとは…」 女騎士「この子には少し無理をさせてしまうかもしれないが…」 飼育員「銀行家さんの頼みなら喜んでお貸ししますよ」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
黒エルフ「馬では長距離は走れないって、あんたが言ったのよ?」 女騎士「普通の馬と騎手ならば、な。…しかし手綱を取るのは私だ。途中の村で馬を乗り換えれば、一晩で帝都まで行けるだろう」 黒エルフ「はあ?そんな簡単に馬を借りられるはずが…」 女騎士「なに、ものは試しだ」ヒョイッ
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
黒エルフ「ヒョイ…って、なんであたしが馬の背中に!?」 女騎士「一緒に行くからに決まっているだろう」 黒エルフ「た、高い…ケモノ臭い…。下ろしてよぉ!」 女騎士「どうした、馬は苦手か?こんなに可愛い動物なのに」 黒エルフ「べ、別に苦手じゃないわよ。ただ慣れてないだけで…!」
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黒エルフ「ていうか、銀行家さんを連れていきなさいよ!銀行の代表者なんだから!」 銀行家「じつは私塾設立に向けた会合がありまして…」 黒エルフ「はあ?私塾って何の話!」 女騎士「それに体重の軽いお前のほうが馬が速く走れる」 銀行家「というわけで、よろしくお願いします」 黒エルフ「」
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女騎士「よっせ…と」ヒョイ 黒エルフ「う…。あんたの胸が背中に当たるんだけど?」 女騎士「少しは座り心地がよくなればいいが…」 黒エルフ「あんたのプレートメイルのせいで、硬いし冷たいし最悪だわ」 女騎士「あはは。文句を言うな、この先もっと悪くなる。手袋はしたか?手の皮が剥けるぞ」
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黒エルフ「手の皮が?そんなに激しく揺れ──ひゃあ!?」 女騎士 ハイヨー! 馬 ヒヒーン!! パカラッパカラッ!! 銀行家・幼メイド「「行ってらっしゃいませ〜」」 黒エルフ「…ま、待ちなさいよ!」 黒エルフ「ぜ、全力疾走は数分間しかもたないんでしょう!?」 女騎士「うむ」
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女騎士「心配ない。私は騎乗スキルLv5だ」 黒エルフ「騎乗スキルLv5」 女騎士「どんな乗用動物にも乗れる。さらに常在型の回復魔法で動物の疲労を軽減できる」 黒エルフ「あんた魔法が使えたの!?」 女騎士「いいや、普通の魔法はさっぱりだ」ドヤァ 黒エルフ「ドヤることじゃないわ!」
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馬 ヒヒーン!! 黒エルフ「ひぃ〜!と、飛ばしすぎよ!」 女騎士「あまり喋ると舌を噛むぞ」 黒エルフ「なら、せめてもう少し速度を抑えて……」 女騎士「なんとしても帝都に行くのだろう?」 黒エルフ「ぐぬぬ」 馬 パカラッパカラッ
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▼翌朝、帝都──。 財務大臣「では、この金額の国債を引き受けていただくということでよろしいか」 頭取「わたくしども帝都の銀行としても臣民の責務は果たしたい。よろこんでお金をお貸しします」 財務大臣「感謝する」 頭取「ただし、その代わりに──」 財務大臣「うむ。任せておけ」
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財務大臣「精霊教会との取引には、あなたがたの銀行を仲介業者として推薦しよう」 頭取「大臣さま、お声が大きいのではありませんか?」 財務大臣「ふはは。あなたの銀行からいただくキックバックの金額を思えば、もっと大声で笑いたいぐらいだ」 頭取「あなたという人は…悪いお方です。フフフ…」
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頭取「国債の金額について、文句を言う輩はいませんでしたか?」 財務大臣「近隣の街の銀行には、あまり無理な金額を吹っかけておらん。遠方の銀行は、どうせ嘆願の〆切に間に合わぬだろう。文句は出るまい」 頭取「大臣さまのお知恵には恐れ入るばかりです。では、仲介業者も?」
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財務大臣「仲介業者に応募してくる銀行もないであろう。近隣の街の銀行には、どこも私の息がかかっているからな」 頭取「では──」 財務大臣「うむ。あなたの望みどおりだ。精霊教会からの仲介手数料を手にするのは、あなたがた帝都の銀行になるはずだ」 頭取「フフフ…。楽しみにしております」
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家臣「失礼いたします!」 財務大臣・頭取「「!?」」ビクッ 財務大臣「な、なんだ、お前だったか。驚かすでない…。今は大切な客人を迎えているのだぞ!」 家臣「おそれながら…火急の用件と判断し、ご報告にあがりました」 財務大臣「いったい何事だ?」 家臣「港町の銀行です」
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頭取「港町の銀行というと、最近、妙な会計係を雇い入れたとウワサの?」 財務大臣「あなたも知っているのか?」 頭取「ええ。あの町にはわたくしどもの銀行の支店がございます。…目障りな商売敵ですよ。近いうちに、大臣さまのお力にすがろうかと考えておりました」 財務大臣「ほう」
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家臣「港町の銀行の代理人を名乗る者が、先ほど帝都に到着したそうです」 財務大臣「何だと…?」 家臣「嘆願書を2通──。国債の購入額の変更と、精霊教会の仲介業者に応募する書類を携えていたとか」 頭取「大臣さま、これはいったい…?」 財務大臣「バカな、ありえん!間に合うはずがない!」
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財務大臣「そ、そうだ!ニセモノではないか?代理人の名を騙っているだけでは──」 頭取「おそれながら大臣さま、あの銀行は名のある公証人の家系です。サインや封蝋を偽造するのは難しいかと…」 家臣「はい。代理人が総務府の窓口で見せた委任状には、一切の問題がなかったそうです」
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財務大臣「では、提出した嘆願書はどこだ!私のところに届けさせろ!焼き捨てて、もみ消してやる!」 家臣「そ、それが…。内務大臣の手に渡り、すでに国王陛下の元に届けられているはずです」 財務大臣「何ぃ!?」 家臣「もはや、嘆願を聞き入れざるをえないかと…」 財務大臣「~~~~ッ!!」
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財務大臣「なぜだ。絶対に間に合わないよう日付を調整して手紙を送ったのに…」フラフラ…ドサッ 頭取「大臣さま、ご無礼を承知でうかがいますが…仲介業者への推薦はどうなりますか?」 財務大臣「…」 頭取「…大臣さま?」 家臣「もしやお気分が悪いのでは…?」 財務大臣「ふ…ふふふ…」
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財務大臣「ふはははは!いいだろう、嘆願を聞き入れてやる。至急、国王陛下と代理人との謁見を手配しろ。代理人とやらがどんな顔をしているのか見届けてやる」 家臣「は!」 財務大臣「港町から帝都まで、わずか一晩で?…天を飛んだか、それとも山を切り裂いたのか。…ふふふ、面白いではないか」
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頭取「では、仲介業者の件は…」 財務大臣「案ずるな。私があなたがたの銀行を推薦することに代わりはない。精霊教会の代表者との面談が必要になるかもしれんが…結果は同じだろう」 頭取「ご厚情、痛み入ります」 財務大臣「フンッ…。私の手にかかればたやすいこと」
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財務大臣「あの幼き王に何ができる?この国を実際に動かしているのは、国庫の番人たる私だ。その私の計画に水を差すとは…」プルプル 頭取「…」 家臣「大臣さま…!」 財務大臣「ふふふ、口が滑ったようだな。…今、私は何か言ったか?」 頭取・家臣「「な、何も聞いておりません!」」
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財務大臣「よろしい、ならば下がれ。私は国王さまのもとに行ってくる。代理人との謁見についてご忠告せねばならんからな」 頭取・家臣「「ははぁっ!」」 財務大臣「まったく…。国王さまが内務大臣から余計な入れ知恵をされていなければいいのだが…」ブツブツ
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▼帝都、精霊教会──。 侍女「司祭補さま~!失礼いたします~!」ケホケホッ 司祭補「あらあら、いったい何かしらぁ?」 侍女「はい、ご報告を…ケホッ…。今日はいちだんと濃く香を焚いていらっしゃいますね…。お顔が見えません…」ケホケホッ 司祭補「うふふ。祈りの力を強めるためですわ♪」
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司祭補「それで報告というのは?」 侍女「例の国債の件でございます」 司祭補「えっとぉ…たしか、仲介業者に応募なさっているのは帝都の銀行だけでしたっけ?」 侍女「それが、新たに応募してきた銀行があるのです」 司祭補「まあ、よかったぁ!いったいどちらの銀行かしら?」 侍女「港町です」
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侍女「王国府より伝言がございました。港町の銀行の代理人が帝都に到着し、仲介業者に応募する旨の書面を提出したそうです」 司祭補「うふふ、そうでしたのね♪」 侍女「司祭補さまは…嬉しそうでらっしゃいますね?」 司祭補「ええ、選択肢は多いほうがいいですもの~」
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司祭補「こうしてはいられませんねっ!出かける準備をしましょう♪」 侍女「司祭補さま…」 司祭補「うふふ。その代理人さんって、どんな方なのかしらぁ~?」 侍女「司祭補さま…失礼ですが、怖くはないのですか?」 司祭補「怖い?何がですの?」 侍女「精霊さまの怒りが、です」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
司祭補「精霊の教えでは、カネでカネを生み出すような行為は禁じられている…。このことを気にしているのかしら?」 侍女「は、はい…。国債には、返済時に利子が付くと聞きました。国債の購入は、まさに精霊の教えが禁じる行為に該当するのではないか、と」 司祭補「うーん、そうですねぇ…」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
侍女「精霊教会の代表を務めるなら、3人の大司祭さまの誰かがなさればいいはず。にもかかわらず、11人の司祭補のなかでもっともお若い司祭補さまが国債購入の職務を命じられたのは…」 司祭補「大司教さまたちが、精霊さまのお怒りを怖がっているからだ、と?…あらあら、少し言葉がすぎますよ」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
侍女「も、申し訳ありません」 司祭補「うふふ、でも目の付けどころはいいですわ。利子を受け取るのは、精霊の教えのなかでも議論が分かれているところですから」 侍女「では…」 司祭補「大司教さまたちが国債購入の職務を疎ましく思っていたとしても、当然ですわね。悪いことではありません」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
司祭補「いいことを教えてあげますわぁ。…じつは、国債購入の職務を押しつけられたわけではありませんの。わたし自ら志願して担当者にしてもらったのですわ」 侍女「それほど人類の将来を案じておいでなのですね」 司祭補「ええ、それもあります。魔族に滅ぼされるわけにはいきませんもの。でも…」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
司祭補「本当は、もっと別の理由があるのですわ」 侍女「別の理由、ですか」 司祭補「利子の禁止、偶像崇拝の禁止…。精霊の教えはたくさんありますが、みんな尊重すべきです。だけど、大切なことは──」 侍女「…」 司祭補「って、いけません!出かける準備をしなくてわ♪」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
司祭補「港町の銀行の代理人さん…。うふふ、お会いするのが楽しみですわぁ」 侍女「女2人だと聞いています」 司祭補「遠い港町からわざわざやって来たんですもの。きっと真面目で、理知的で、穏やかな人柄の方々なのでしょうねぇ♪」
— Rootport (@rootport) 2015, 8月 29
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