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▼翌日、銀行家の邸宅──。 銀行家「昨夜は『レモネード屋』からの利子回収を手伝ってくださりありがとうございました」 司祭補「いえいえ、できることをしたまでですわ♪」 黒エルフ「…もっとも、利子よりもやっかいなモノを回収するハメになったけど」 勇者「…」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
銀行家「ともかく、今までの話をまとめましょう。人間国が先制攻撃すれば、手痛いしっぺ返しを受けるのですね？」 司祭補「魔族はそんなに強いのでしょうか？」 黒エルフ「この男が魔国のスパイって可能性もあるわ」 勇者「僕は本物の勇者だよっ」 女騎士「うむ、この男の言うとおりだ…」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
女騎士「この戦争では、国境付近での小競り合いが続いてきた。〝副都の悲劇〟は例外中の例外だ。が、もしも魔族たちが旧大陸まで攻めてきたら…」 司祭補「大変な被害になりますの？」 勇者「うん」 女騎士「大砲の届かぬ上空からドラゴンたちは火を降らせ、よみがえった死者で地上は溢れるだろう」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
勇者「しばらく人間国からの攻撃がないから、魔国は反撃するつもりがないらしい。ざいせーあかじ？がどうとかで、軍隊を動かせないらしいんだ」 黒エルフ「財政赤字ね」 勇者「だけど、もしも人間国からの攻撃があれば、全力で反撃する。それこそ全人類を絶滅させるべきだ…って意見も耳にしたよ」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
司祭補「絶滅！恐ろしいですわ…」 勇者「だから今すぐ、このことを王様に伝えなくちゃ！人間国は魔国への大遠征を計画しているんでしょう？やめさせなきゃ！…お願いだ、帝都までの旅費を貸して！」 女騎士「いいや、お前は帝都に行くべきではない」 黒エルフ「あたしもそう思うわ」 勇者「なっ」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
女騎士「たしかにお前の強さは常軌を逸している。だが、軍略や兵法については学ばなかったと見える」 勇者「た、たしかに勉強は苦手だったけど…それが？」 女騎士「分からんのか？今の状況で、もしもお前が帝都に行ったら──」 幼メイド「しつれいします～」 銀行家「おや、どうしたのです？」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
幼メイド「チョコレートを淹れました～」 黒エルフ「またケーキの材料が余ったの？」 幼メイド「はい～。なかなか上手く作れないです」 司祭補「いただいていいのかしら？カカオは高級品ですわ…」 銀行家「たしかに値上がりしていますが、まだ簡単に手に入ります。遠慮なく召し上がってください」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
女騎士「ちょうど一息つきたかったのだ。いただくとしよう」 幼メイド「はい、どうぞ～」 女騎士「う～む、まんだむ…。いい香りだ…」 女騎士 ｺﾞｸｯ 女騎士「ぶへぇっ!? …な、なんだこれは!!」 幼メイド「あっ、ごめんなさい。そちらはダークエルフさん用でした～」
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女騎士「ぜんっぜん甘くないし、口の中がヒリヒリするのだ！」 幼メイド「トウガラシを入れたのですぅ～」 黒エルフ「新大陸風の味付けね」 女騎士「お、お前は…こんなものが好きなのか…？」 黒エルフ「え？美味しいわよね？」ｽﾞｽﾞｯ 女騎士「ううむ。味覚とは分からんものだ」ｹﾎｹﾎ
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
勇者「話を戻すけど、どうして僕は帝都に行かないほうがいいの？」 司祭補「そもそも大遠征は、勇者さんからの連絡が無いからこそ計画されたはずですわ。勇者さんが生きていると分かったら、遠征をする必要もなくなるのではありませんか？」 女騎士「事態はそう単純ではないのだ」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
女騎士「王様宛の手紙を捨てていたのは港湾ギルド長だった。…そうだな？」 勇者「うん。なぜあんなことをしたのか…自殺しちゃうなんて…」 女騎士「それが何よりの証拠だろう。人間国政府には『大遠征をしたくてたまらない者ども』がいるのだ」 勇者「どういうこと？」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
女騎士「遠征によって政治的立場が強くなったり、カネ儲けができたり…そういう『遠征でトクをする者』が政府内にいるはずだ。だから港湾ギルド長に新大陸からの手紙を検閲させた。勇者からの手紙を破棄させた」 勇者「そんな…」 女騎士「お前からの連絡が途切れれば、遠征を行う大義名分ができる」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
司祭補「誰がそんなことを…？」 女騎士「それを悟られないよう、悪事がバレたら自殺する約束だったのだろう」 銀行家「港湾ギルド長が忠誠を誓う相手ですから、かなり身分の高い人でしょうね…」 女騎士「あるいはギルド長は人質を取られていたのかもしれない。妻や娘の居場所を調べたほうがいい」
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勇者「ま、待ってよ！じゃあ遠征計画そのものが、最初から誰かの陰謀だったってこと？」 女騎士「しかも首謀者は１人ではない。これほど大規模な計画になったのは、遠征でトクする人間がたくさんいるからだ」 勇者「…」 女騎士「この状況で、もしもお前が帝都に帰ったらどうなる？」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
女騎士「運が良くても、戦意高揚のための道具にされるのがオチだ。勇者が同行するなら遠征は成功間違いなし、とな。…もしくは、運が悪ければ謀殺される」 勇者「…僕は、帝都の衛兵なんかに負けないよ…」ﾎﾞｿｯ 女騎士「だといいがな」 司祭補「…ですが、それならどうすればいいのでしょう？」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
司祭補「遠征を止めなければ魔族の猛反撃を受けるのに、勇者さまが名乗り出るわけにもいかないなんて…」 銀行家「私たちが大っぴらに遠征に反対するわけにもいきませんね。魔国のスパイだと疑われて、この銀行ごと潰されてしまいます」 幼メイド「だんなさま～！それは困るのですぅ～！」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
勇者「…王様だ」 女騎士「？」 勇者「誰が裏切り者か分からない。けど、王様だけは信用できるよ」 女騎士「なるほど。他人に邪魔されない場所で、国王陛下と一対一で謁見できれば…」 勇者「…魔国の反撃や陰謀のことを伝えられるはず！」 銀行家「陛下なら、遠征をやめさせることができます！」
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司祭補「王さまと一対一での謁見ですわね…精霊教会のツテを使えば、なんとか手配できるかもしれませんわ」 勇者「よろしくお願いします、司祭補さま！」 銀行家「謁見の日時が決まるまで、この屋敷で身を隠してはいかがでしょう」 幼メイド「お部屋をご準備します～！」 勇者「あ、ありがとう…」
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女騎士「幸いにも──と言っていいか分からないが──政府は遠征に必要なカネを集めるのに苦労しているらしい。そこを上手く突けば、遠征の開始を遅らせることができるかもしれない」 司祭補「謁見を手配するまでの時間を稼げるのですわね」 勇者「そんなことができるの？」 女騎士「任せるのだ！」
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女騎士「ここにいるダークエルフは、カネについてだけは誰よりも強い。政府の金策を邪魔して、時間を稼ぐことぐらい余裕なのだ！…なっ、そうだろう？」 黒エルフ「…」 勇者「ダークエルフさん？」 女騎士「…どうしたのだ？ホットチョコレートを睨み付けたりして」 黒エルフ「…」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
女騎士「おい、話を聞いているのか？」 黒エルフ「もちろん聞いてるわよ。遠征の費用集めを邪魔すればいいんでしょう。任せておいて」ｽﾞｽﾞｯ 司祭補「ならいいのですが…」 黒エルフ「…やっぱり本物のチョコレートよね。味も香りも、間違いなく最上級品」ｽﾞｽﾞｯ 女騎士「何をのんきな！」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
黒エルフ「…このチョコレートを飲んで、あんたは不思議に思わなかったの？」 女騎士「何が？」 黒エルフ「カカオ豆の値段は上がっているけど、今でも簡単に手に入る。銀行家さん、あなたはそう言ったわね？」 銀行家「え？ええ…」 幼メイド「注文すればすぐに届くのです～」 黒エルフ「…変ね」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
黒エルフ「港町が不景気になったのは、新大陸からの商船がパタリと減ったからよ？」 司祭補「みなさんがシーサーペントを恐れているせいですわね」 黒エルフ「なのに、どうして新大陸でしか栽培できないはずのカカオ豆が今でも手に入るの？」 女騎士「言われてみれば、たしかに…」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
幼メイド「港町の近くでカカオを栽培している人がいるのでしょうか～？」 司祭補「いいえ、カカオは熱い地域だけで育つと聞きますわ」 勇者「こんな寒い町じゃ無理だよ」 女騎士「だとすれば…」 黒エルフ「今でも誰かが、新大陸から輸入している…？」 銀行家「それも港町を使わずに、ですね」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
女騎士「この町以外で、新大陸との貿易をしている場所といえば──」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
