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▽プロローグ
▽第1話「フライド・コカトリス」
▽第2話「ガバメント・オブリゲーション」
▽第3話「リテラシー」
▽第4話「ウェル・シェイプト・カップ」
▽第5話「プライス・オブ・ライフ」
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▼青年の部屋──。 ギィィ… 女騎士「う…。思ったよりも狭いな…」 黒エルフ「部屋というより物置きね」 色白青年「おっしゃる通り、使っていない物置きを借りているのです。紆余曲折あって、こんなお恥ずかしい暮らしになってしまいました」ケホケホ
— Rootport (@rootport) 2015, 10月 20
古道具屋「それで、買ってほしいものというのは?」 色白青年「こちらです」カタ… 女騎士「ふむ。『嗅ぎタバコ入れ』か」 黒エルフ「この色は銅製かしら?見事な彫金がされているわ」 古道具屋「それなりに値打ちのありそうな骨董品ですね…」 女騎士「失礼だが、どうやってこれを手に入れた?」
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色白青年「今の私の姿では、盗品を疑うのも当然です。しかしこう見えて、新大陸のそれなりの血筋の家に生まれたのです」 黒エルフ「じゃ、戦争で?」 色白青年「はい。持病のぜんそくが悪化して、厚顔無恥にも逃げ延びました。今は通いの家庭教師として、この町の商人の子供たちを教えています」
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色白青年「ところが先週からしつこい風邪を引いてしまい、仕事を休んでいます。生徒たちに伝染すわけにはいきませんので」ケホケホ 女騎士「それでは収入が途絶えてしまうのでは…?」 色白青年「ええ、住み込みの家庭教師ではありませんからね。薬を買うお金がないので、これを売ることにしました」
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古道具屋「困りましたねぇ。うちで扱っているのは日用品。こういう骨董品は買い取っておりません」 色白青年「名のある技師の作品ではありません。薬代になれば充分です」 黒エルフ「だけど、これ…ずいぶん古そうよ?」 色白青年「曾祖父の代から、戦地にタバコを携行するのに使っていたそうです」
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古道具屋「そんな由緒のあるものなら、なおさら買い取れませんよ」 色白青年「そこを何とか。どんな値段でもかまいませんから」 古道具屋「買い取りたいのは山々ですが、私には骨董品の目利きができないんです。大切な品ですから、きちんとした値段で買い取らなければ」 黒エルフ「…」ソワソワ
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黒エルフ(…どんな値段でもいいって言ってるんだから、安く買っちゃいましょうよ!ボロ儲けできるかもしれないわ!)キラキラ 古道具屋「いいえ、そんな不正直なことはできません」 ──ボフッ 司祭補「ご覧のとおりですわ。わたしの本職は、骨董品を扱うことではありませんの」
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色白青年「こ、これは司祭補さま!なぜそのようなお姿を?」 司祭補「じつは…(かくかくしかじか)…ですわ」 色白青年「なるほど、古道具屋さんを助けるために…。では、どうか私を助けると思って、こちらを買い取ってください」 司祭補「そうは言っても、いい加減な値段はつけられませんわぁ」
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司祭補「銀行家さんがいらしたら、骨董品の相場も分かりましたのに…」 黒エルフ「買い取ってあげましょうよ。安く買うチャンスなのよ?」 女騎士「薬代ぐらいなら、私が工面してもいいが…」 色白青年「こんな姿になっても、私は貴族の生まれ。お金を恵んでもらうほど落ちぶれてはおりません!」
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女騎士「では、こうしよう。その『嗅ぎタバコ入れ』を、とりあえず20Gで引き取る。そして、もしもタバコ入れが売れたら、儲けの半分をお前に渡す。これでどうだ?」 色白青年「それなら、まあ…」 司祭補「一件落着ですわね。はい、20Gです」チャリン 黒エルフ「むぅ…丸儲けのチャンスが…」
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▼港町の宿《紅獅子亭》2階──。 初老執事「お嬢様、窓から顔を出してはなりません。町の者たちの目に止まります」 貴婦人「今さら顔を見られてもどうってことありませんわ。何を恥ずかしがることがありましょう」 初老執事「しかしお嬢様──」 貴婦人「じいや、その呼び方はおやめなさい」
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貴婦人「私はもう20代半ば過ぎ。『お嬢様』という歳でもありません。今まで通り『奥様』とお呼びなさい」 初老執事「ですが──」 貴婦人「じいや」 初老執事「か、かしこまりました……奥様」 貴婦人「ええ、それでいいのです」ニッコリ
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初老執事「しかし奥様、窓に近づくのはどうか控えていただけませんか。奥様のようなご身分の方が、こんなニワトリ小屋も同然の宿に泊まっていると知れたら、どんな噂が立つか分かりません」 貴婦人「あら、こんな立派な大理石でできたニワトリ小屋がありまして?ここは町で一番の宿なのでしょう」
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貴婦人「以前この町に来たとき、私はたいそう世間知らずでした。到着の3日前から宿を貸し切りにして、まるで軍隊みたいに使用人を引き連れて…それを当たり前だと思っていました」 初老執事「奥様にふさわしいご歓待だったかと」 貴婦人「ふさわしい?私を世の中から遠ざけておくことが、ですか?」
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初老執事「世間の猥雑さで奥様の目を汚さぬためです」 貴婦人「そうして、私はあまりにも無知な人間になってしまいました」 初老執事「過ぎた知識はご婦人の人生には毒ですよ」 貴婦人「適度な毒は薬にもなります。私はもう無知に甘んじるつもりはありません。何事もこの目で確かめると決めました」
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初老執事「奥様、そんな子供のようなことを言ってじいやを困らせないでください」 貴婦人「あら、あれは何かしら?」 初老執事「奥様!」 貴婦人「ほら、じいやもご覧なさい。あそこです」 古道具屋「使わない食器、古着、お引き取りしますぅ〜」 女騎士「お買い得なのだ〜!」 黒エルフ「…」
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黒エルフ「…古道具屋さんの作ったこの価格表は優れものね。ここに書かれた仕入れ値と売値を覚えておけば、得意先を回るだけでそれなりに仕事になるわ」フムフム 女騎士「骨董品の値段も書いておいて欲しかったのだ」 黒エルフ「さすがにそれは高望みしすぎよ」 古道具屋「いかがですか〜♪」
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貴婦人「もし!そこの方々!」 古道具屋「へえ、私たちのことでしょうか?」 貴婦人「そうです。あなた方は何をしてらっしゃるの?」 黒エルフ「何って、この台車を見れば分かるでしょ」 女騎士「古道具を売っているのだ」 貴婦人「まあ!それは売り物でしたのね!ゴミかと思いました」 一同「」
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貴婦人「そんなガラクタを売るなんて面白いですわ!ぜひ近くで見せてくださいな」 黒エルフ「あんたね、言わせておけばゴミだガラクタだ失礼な──」 女騎士「よいではないか。スプーンの1本でも買ってもらえれば儲けものだ」 黒エルフ「そうだけど…」 古道具屋「どちらにお持ちしましょう?」
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貴婦人「宿の裏口から中庭に入れるはずです。そちらに台車を回してくださいな」 古道具屋「へえ、かしこまりました!」 ガラガラ… 初老執事「…奥様」 貴婦人「じいやの言いたいことは分かっています。ごめんなさい、ワガママに付き合ってくださいな」
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