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▽プロローグ
▽第1話「フライド・コカトリス」
▽第2話「ガバメント・オブリゲーション」
▽第3話「リテラシー」
▽第4話「ウェル・シェイプト・カップ」
▽第5話「プライス・オブ・ライフ」
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肉屋 シーン… 女騎士「そんな、バカな」ハァ…ハァ…
— Rootport(※減量中) (@rootport) 2015, 7月 17
女騎士「なぜだ…なぜ誰もいないんだ?」 女騎士「机や棚は空っぽだし…どこにも人影がない…」 女騎士「なんてことだ…嘘だろ…」ヘナヘナ…ペタン… 女騎士「くそっ!あいつめ!」 女騎士「全力を尽くすと言っていたではないか!」
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女騎士「ハハッ…私もバカだな」 女騎士「あのBSを見たときに分かっていたではないか」 女騎士「もとより経営再建などムリだったのだ」 女騎士「銀行家さんに謝ろう…」 女騎士「そして、すべてを終わらせよう…」 女騎士「30万Gなど私は一生かかっても──」
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??「──あら、帰ってたの?」
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黒エルフ「手紙の一通でもよこしてくれたらよかったのに」 兄妹「「おかえりなさい!」」 女騎士「お前たち、何をしてるんだ…?」 黒エルフ「今月は働きづめだったもの。今日は臨時休業にしたの」 女騎士「臨時休業」 黒エルフ「そんなことより、このジェラート食べる?美味しいわよ?」
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女騎士「……」 妹「そうだ!お兄ちゃん、あれを渡さなきゃ!」 兄「うん!女騎士さん、受け取ってよ」 女騎士「この革袋は…」 兄「5,000Gだ」 妹「買掛金を支払っても2,000Gくらい残る予定です」 兄「こんなにお金を残して月末を越えられるのは初めてだよ」 女騎士「……」
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女騎士「……」 黒エルフ「大丈夫?顔色が悪いけど…」 女騎士「……」ガシッ 黒エルフ「って、何よ!急に抱きついてきて」 女騎士「う゛ぅ゛~!よ゛がっだの゛だぁ~~~!」 黒エルフ「はぁ!?なに泣いてんのよ!」 女騎士「う゛ぅ゛~!」 黒エルフ「きゃあ!鼻水!?」
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黒エルフ「き、汚いわね!離れなさいよ!」 通行人(ざわ…ざわ…) 黒エルフ「ほら、人が集まってきちゃったじゃない!」 女騎士「~~~!」ギュウ 黒エルフ「もうっ!さっさと離れてよ!」 女騎士「~~~!」ギュギュウ 黒エルフ「離れろぉ~~~!!」
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▼夜──。 女騎士「待たせな。肉屋の5,000Gだ」 銀行家「おおっ!みごと回収に成功したのですね」 幼メイド「お仕事ご苦労さまなのです~」 女騎士「いや、私は何も…」 幼メイド「ほらね、だんなさま!おねえちゃんを雇って正解だったのですよ~!」 銀行家「ええ、本当に」
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幼メイド「おねえちゃんが帝都に行っているあいだ、街ではウワサになっていたのです。あの肉屋さんが繁盛しているって」 幼メイド「いったい、どうやってけーえーさいけんしたの?お話を聞かせてほしいのです~」 銀行家「お話は明日になさい。そろそろ寝る時間ですよ」 幼メイド「ぷぅ~」
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銀行家「しかし、正直なところ私も驚きました。番頭の話では『あの肉屋はもう後がない』と聞いていたのです。…いったいどんな魔法を使ったのです?」 女騎士「魔法など使っていない」 銀行家「ほう」
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▼数刻前──。 黒エルフ「ここで働いてみて、あらためて呆れたわ。人間って本当にすぐに嘘をつく生き物なのね」 女騎士「と言うと?」 黒エルフ「この場所の営業権を欲しがるやつらがたくさんいたのよ。節操のない嘘をついて、この場所をだまし取ろうとしてきたの」
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黒エルフ「この子たちの父親の古い友人だとか、書類にサインすれば年金を受け取れるとか…。山ほどの嘘を聞かされて、この国で複式簿記が普及しない理由が分かったわ」 女騎士「どういうことだ」 黒エルフ「嘘つきが使うには、複式簿記は正直すぎるのよ」
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黒エルフ「帳簿に嘘を書けば、必ずほころびが生まれる。なかったはずの収益をあったことにしたり、あったはずの費用をなかったことにすれば、現実と帳簿とのあいだに齟齬が生まれる。どんなわずかなズレでも、そこから嘘がバレる」 女騎士「どんなに大きな堤防でも、小さな蟻の穴から決壊する…と」
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黒エルフ「そう。お金は諸悪の根源なんて言うけれど、大間違いね」 女騎士「お金は人心を惑わし、嘘をつかせるのではないか?」 黒エルフ「嘘をつく人間がいるだけよ。お金は嘘をつかないわ、絶対に」
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女騎士「それで、どうやってこれだけのお金を作ったんだ?単価の高い牛肉を増やして売上を伸ばしたのか、それとも肉の種類を増やしたのか…」 黒エルフ「とくに目新しいことはしてないわ。リードタイムを短くして、機会損失を抑えてて、利益率の最大化を目指した。当たり前のことをしただけよ」
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妹「じつは最初の3日間は、お姉さんは何もしなかったんです」 兄「正直、不安だったよ…」 黒エルフ「その3日間は経営状態のチェックにあてたの。その結果、分かったことが3つあるわ。まず、やっぱり『肉の鮮度低下』がいちばんの損失要因だということ。これは疑う余地がなかった」
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黒エルフ「この店では、仕入れた値段に4割の利益を載せて定価を決めている。なのに、実際の利益率は20%くらいになっていた」 女騎士「鮮度が落ちたら値下げしないと売れないから、だな」 黒エルフ「氷魔法を使えない以上、仕入れてから店頭に並べるまでの時間をできるかぎり短くするしかない」
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黒エルフ「次に分かったことは、店の前の人通りがいちばん多くなるのは『中央市場』の開場直後だということ」 妹「教えてもらうまで、私たちも知りませんでした…」 兄「その時間帯は、肉の仕入れで外を回っていたから…」 女騎士「つまり、いちばん客が多い時間に店を開けていなかった?」
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黒エルフ「ええ、とんでもない機会損失をしていたわけ。お父さまが存命のころよりも市場の開場時間が早くなっていたのよ」 兄「仕入れ先の営業時間は同じだから、開店時間を変えられなかったんだ」 黒エルフ「肉の鮮度を落とさず、機会損失を抑えるなら…肉の種類を絞ったほうがいいと判断したわ」
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女騎士「3カ所から肉を仕入れている間にも鮮度は落ち続けるし、人通りの多い時間も過ぎてしまう…だから、肉の仕入れ先を減らすことにしたのだな」 黒エルフ「そう。そして分かったことの3つ目は、『どの肉がいちばん高利益率か』よ」 妹「帳簿が教えてくれたんです!」
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黒エルフ「肉の利益率は、部位や鮮度によって変わる。帳簿のデータを調べたら、平均していちばん高い利益を生み出すのは鳥肉だった」 兄「とくに調理済みのものは驚くほど利益が高かったよ」 女騎士「調理済み…そうか、あの唐揚げ!」 妹「はい!朝どこよりも早く開店して唐揚げを売ったんです!」
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兄「そしたら、『中央市場』で商売している人たちの朝食や昼食として、すごく気に入ってもらえたんだ」 黒エルフ「飛ぶように売れたわよ、鳥肉だけに」 女騎士「コカトリスって飛ぶのか?」 黒エルフ「1日の売上は1,290Gくらい、仕入れ額は852Gくらいに増えた。利益率は34%ね」
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黒エルフ「日次売上1,290G、利益率34%というのは、この規模の肉屋としてはほぼ上限に近い数字よ。その結果、このお店のPLはこんな感じになった」 黒エルフ「飲食費などの諸経費を加味しても8,776Gの営業利益が出たわ」 pic.twitter.com/gM5yKuhlFf
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黒エルフ「そしてBSは、こう」 黒エルフ「1日の売上が1,290Gだから、飲食代などの出費を差し引いても、毎日1,240Gずつの現金が貯まっていった。昨日の時点で、返済に充分な現金を貯めることができた」 pic.twitter.com/jlJWJZSqKT
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黒エルフ「ちなみに『利益が出る』って、言い換えれば『資産が負債よりも速く増えること』と同じよ。この店の場合だと、現金が買掛金よりも速く増えていたら、利益が出ていることになる。…だからBSの純資産の増加額は、PLの利益と一致するわ」 pic.twitter.com/mDPmVjx7yE
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