▽プロローグ
▽第1話「フライド・コカトリス」
▽第2話「ガバメント・オブリゲーション」
▽第3話「リテラシー」
▽第4話「ウェル・シェイプト・カップ」
▽第5話「プライス・オブ・ライフ」
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▼港町、貧民窟──。 黒エルフ ハァ…ハァ… 黒エルフ「あのガキ、どこに行ったのかしら…」 住民 ジロジロ 黒エルフ「…なんだか、この辺りは嫌な雰囲気ね」 ???「おい」ポンッ 黒エルフ「きゃー!!」 女騎士「どうした?肩に触れただけで大声を出すな」
— Rootport (@rootport) 2015, 12月 9
黒エルフ「な、なんだ、あんたか…。驚かさないでよ…」 司祭補「盗まれた鞄は見つかりまして?」 黒エルフ「いいえ。あのガキ、思いのほか足が速かったわ」 物乞い・弟「お兄ちゃんの逃げ足は世界一だぞ」 女騎士「いいや、このダークエルフの足が遅いだけだろう」 黒エルフ「うっさいわね」
— Rootport (@rootport) 2015, 12月 9
黒エルフ「銀行家さんたちは?」 女騎士「先に銀行に帰った。さっきも言っただろう、手紙が届いていたのだ」 司祭補「わたしはダークエルフさんが心配でついてきましたわ!」 黒エルフ「教会の仕事は?」 司祭補「侍女さんが何とかしてくれますわ♪」 物乞い・弟「いいのかよ、そんなんで…」
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黒エルフ「ていうか、なんでその子を連れているの?」 女騎士「鞄を取り戻すためだ。兄の居場所を吐かせた」 黒エルフ「吐かせた…って、まさか拷問なんかしてないわよね」 女騎士「まさか!ただ話を聞かせただけだ。こんな拷問の方法がありますよ、って」 物乞い・弟「う…また吐き気が…」ウプ
— Rootport (@rootport) 2015, 12月 9
司祭補「ダークエルフさんこそ、ずいぶん慌てていましたわ。あの鞄は安物だし、現金は少額しか持ち歩かないのでしょう?」 女騎士「わずかな金額でも損をしたくないのだろう。じつにお前らしいのだ」 黒エルフ「違うわよ」 女騎士「?」 黒エルフ「もちろん損をしたくないのは当然よ。だけど……」
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黒エルフ「だけど、それだけじゃないわ。あの鞄には……が入っていたから」 女騎士「む?何が入っていたのだ?」 黒エルフ「だ、だから!あの鞄にはそろばんが入ってたの!あんたからもらったやつが!」 女騎士「おお、あの魔法のそろばん」 黒エルフ「だから無くしたくなかったの。文句ある?」
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▼貧民窟・隠れ家──。 物乞い・兄「…ただいま。今日の収穫だよ」ドサッ 物乞い・母「ふぅん、安物の鞄だね。中身は…なんだいこりゃ、サイフに10Gしか入ってないじゃないか。シケてやがる」 物乞い・兄「ねえ、母ちゃん。弟は…?」 物乞い・母「一緒に帰ってきたんじゃないのかい?」
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物乞い・兄「弟とは別々に逃げてきたんだ。いつもは帰り道に合流するはずだけど…」 物乞い・母「…あの子はまだ帰って来ていない。きっとドジを踏んだんだね」 物乞い・兄「やっぱり捕まっちゃったのかな。早く助けに行かなきゃ!」 物乞い・母「バカを言うんじゃないよ!」
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物乞い・母「そんなことをして何になる。あたしらまでお縄になるのがオチさ。ドジを踏んだあの子が悪い」 物乞い・兄「え?」 物乞い・母「あの子のことだ、きっとこの隠れ家のこともペラペラ喋っているに違いない。グズグズしてられない、荷物をまとめな!」 物乞い・兄「ど、どうするつもり!?」
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物乞い・母「ニブい子だね。隠れ家を変えるんだよ」 物乞い・兄「そんな!じゃあ弟はどうなるの?」 物乞い・母「知らないよ!」 物乞い・兄「母ちゃん、本気で言ってるの?いつも弟のことをオレよりも可愛がってたじゃんか!」 物乞い・母「…う、うるさい!知らないったら知らないんだ!」
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物乞い・兄「母ちゃんってば!」 物乞い・母「口よりも手を動かしな!さあ、荷物をまとめるんだよ!」 女騎士「その必要は無い」 親子「!?」 女騎士「ふむ、ここがお前の隠れ家なのだな」 物乞い・弟「お兄ちゃん、お母ちゃん、ごめんなさい…。捕まっちゃった…」グスッ
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司祭補「ずいぶん狭い部屋ですわ」 女騎士「暮らしに困っていると見える…」 黒エルフ「泥棒にはお似合いの部屋よ。さあ、あたしの鞄を返しなさい!」 物乞い・兄「…か、鞄?いったい何の話だ」 物乞い・母「そ、そうだよ!勝手に人んちに上がりこんで泥棒呼ばわりとは…この礼儀知らず!」
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黒エルフ「ごまかさないで!あたし、あんたが鞄を盗むところをバッチリ見てたんだから!」 司祭補「鞄を返してあげてください!」 物乞い・兄「さあね、他人のそら似じゃないの?」 黒エルフ「なんですって!?」 物乞い・母「だいいち、その汚いガキは誰だい?」 物乞い・弟「お、お母ちゃん…」
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女騎士「つまり、お前たちは鞄を知らないし、この子とは赤の他人だと言うのだな」 物乞い・母「…そ、そうだよ。文句あるかい…?」 女騎士「よろしい。では、この子にも同じことを訊いてみよう。…魔族の尋問にも使う方法で」 物乞い・弟「ひっ…」 女騎士「きっと正直に答えてくれるに違いない」
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女騎士「さてと、どの方法にしよう。狼男に他の仲間の名前を吐かせた方法か、蟻人間に女王の居所を喋らせた方法か…」ヒヒヒ 物乞い・弟「うわぁぁあん!お母ちゃん!お兄ちゃん!だずげでぇ~~!」 女騎士「遠慮するな。たっぷり可愛がってやる」 物乞い・弟「うわぁぁあん!うわぁぁあん!」
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物乞い・母「…わ、分かった!あたしの負けだ!その子を放してやってくれ」 女騎士「ほう、認めたか。しかし放すわけにはいかんなぁ」ゲヘヘ 物乞い・兄「そ、そんな…」 女騎士「先に鞄を出せ!子供を解放するのはその後だ!」 黒エルフ「…これじゃどっちが悪役か分からないわね」
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物乞い・母「ほら、鞄だよ」ポイッ 女騎士「よし、子供を返してやる」ドンッ 物乞い・弟「おがあぢゃ~ん!!」ウワーン 黒エルフ「そろばんも、サイフの中身も無事ね」ホッ 司祭補「あの母親は子供に盗みを働かせて暮らしているのでしょうか?」 女騎士「そのようだ。感心しないな」
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物乞い・母「へッ!こっちの事情も知らないで勝手なことを…」 女騎士「どんな事情があろうと、親が子供に泥棒を教えるのは褒められたことではない」 物乞い・母「そんなことは百も承知さ。だけど、飢えて死ぬよりはマシだろう?」 女騎士「開き直るつもりか!」
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司祭補「食事に困ったときは、教会の炊き出しに来てください。命ある者はみな精霊の血を分けた兄弟。平等な存在です」 物乞い・母「平等だと?」 司祭補「は?はい…」 物乞い・母「はッ!ふざけたことを抜かすんじゃないよ」 司祭補「ふざけてなどいませんが…」 物乞い・母「うるさい小娘だね」
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物乞い・母「平等なんてものが、この世界のどこにある?もしもあるなら、今すぐここに持ってきておくれ」 司祭補「そ、それは…」 物乞い・母「世間知らずもいいかげんにしな。平等なんて、西から昇る太陽と同じだ。ありっこないんだよ、そんなもの」
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物乞い・兄「それに教会は、オレたちの父ちゃんを守ってくれなかったじゃないか」 物乞い・弟「お父ちゃんは戦争で死んだの…」 物乞い・兄「教会でお祈りしたのに、精霊さまは父ちゃんを見殺しにしたんだ!」 司祭補「…」 物乞い・母「…なあ、教えておくれ。娘さんたち」
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物乞い・母「女1人でどうやってこの子らを育てればいい?あんたらみたいな器量良しなら、どんなに実を落としても体を売って食えるだろう。だけど、あたしはこのとおりの顔(かんばせ)だ。盗みを働くしかないんだよ」 女騎士「探せば女中の仕事が…」 物乞い・母「無いよ」
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物乞い・母「あたしは食べ盛りの子供を2人も抱えているんだ。どんな雇い主だって、余計な責任は負いたくない。誰も給料を払いたいとは思わない」 黒エルフ「あんたの旦那は貯えを残さなかったの?」 物乞い・母「ああ、これっぽっちも。…武勲を上げて一儲けするつもりだったのさ。バカな男だよ」
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物乞い・母「あんたの言うとおり、子供に盗みを教えるなんて親としては最低だ。もしかしたら、あたしは死んだほうがいいのかも知れないね。そうすればこの子たちは教会の孤児院に入れる」 物乞い・兄「そんなこと言わないでよ、母ちゃん!」 物乞い・弟「死んじゃイヤだよう!」
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女騎士「じ、事情は分かった。ならば…わずかばかりだが、このカネで助けになれないだろうか──」 物乞い・母「施(ほどこ)しならお断りだ!見くびらないでおくれ」 黒エルフ「そうよ!こんなやつにカネを渡す義理はないわ!」 女騎士「何を言う、この子たちにはカネが必要だろう!」
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女騎士「盗みを働かなければ生きていけない子供たちを見て、お前は何も感じないのか?」 黒エルフ「そんな子供いくらでもいる。この家族を助けたって何の解決にもならないわ」 女騎士「目の前で溺れる人がいても、お前は縄を投げないのだな。見損なったぞ!」 黒エルフ「それとこれとは話が別よ!」
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物乞い・母「うるさいッ!」 女騎士・黒エルフ「!」 物乞い・母「うるさい、うるさい!あたしはあんたたちみたいな女が大嫌いなんだ。あんたにカネを恵んでもらうぐらいなら、それこそ死んだほうがマシだ」 女騎士「…」 物乞い・母「鞄は返した。もう帰っておくれ」
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