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▽プロローグ
▽第1話「フライド・コカトリス」
▽第2話「ガバメント・オブリゲーション」
▽第3話「リテラシー」
▽第4話「ウェル・シェイプト・カップ」
▽第5話「プライス・オブ・ライフ」
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女騎士「はぁッ!」ヒュッ 色白青年「うわぁ!?」…キィィイン!! 司祭補「な、なんですの!急に剣を抜いて…」 女騎士「鉄の文鎮で私の剣を止めるとは…。間違いなさそうだな」 色白青年「その剣はデュランダル!ということは…やはり、あなたはシルヴィア・ワールシュタット!?」
— Rootport (@rootport) 2015, 10月 21
女騎士「しかし腕がサビついたようだな、マラズギルト。もし私が本気で剣を振っていたら、文鎮ごと真っ二つだったぞ」ギッ 色白青年「お恥ずかしい。すばやい身のこなしは私の特技でしたが…近頃は剣よりもペンばかりを握っていますから」ギリ 司祭補「もぉ~!2人とも暴れないでくださぁい!」
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女騎士「路地裏で会ったときから怪しいと思っていたのだ。私としたことが、まったく気配を感じ取れなかったからな。…しかし、相手がお前なら合点がいく」 色白青年「最後にお目にかかったのは、あなたが15歳の時でしたね。まさか、複式簿記を学んでいるとは…」 女騎士「…い、色々あったのだ」
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司祭補「マラズギルト家といえば、ワールシュタット家と同じく、入植初期に新大陸に渡った五大貴族ですわねぇ」 女騎士「この男は副都の士官学校の後輩だったのだ」 色白青年「後輩と言っても、私のほうが年上ですがね。何しろ彼女は10歳で入学した天才剣士ですから」 女騎士「あはは照れるのだ」
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司祭補「まあ!女騎士さんって本当に天才でしたのね!」パチクリ 女騎士「それはどういう意味だ」
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女騎士「この男は文武両道に長けていた。もしも前線を離れていなければ、戦局を変えていたかもしれん」 司祭補「たしかご持病のぜんそくで…」 色白青年「はい。療養のため、単身こちらの大陸に来ていました。ちょうど回復したころに『副都の悲劇』が起きて…家族とはいまだに連絡が取れません」
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色白青年「とにかく、今お話した通りです。5万Gは、ぜひそのご婦人に渡してください」 女騎士「しかし…」 色白青年「たとえ地位や財産を失っても、誇りまでは無くしたくないのです」 司祭補「そこまでおっしゃるなら、分かりました。この金貨はご婦人にお返ししますわ」
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▼紅獅子亭、2階──。 貴婦人「まあ!マラズギルト家の…」 初老執事「五大貴族の1つですね」 女騎士「あまりにも慎ましい暮らしぶりなので、気づかなかったのだ」 司祭補「言われて見れば、口調や身振りにどこか品がありましたわぁ」 女騎士「5万G、受け取ってください」 貴婦人 クスクス
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女騎士「?」 司祭補「どうなさいまして?」 貴婦人「…いいえ、ごめんなさい。だけど可笑しくて」 初老執事「奥様?」 貴婦人「殿方とは不思議なものですね。ひどい大嘘つきもいれば、その青年のように実直な方もいらっしゃるのですから」 女騎士「大嘘つき?」 初老執事「奥様、いけません!」
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貴婦人「いいえ、じいや。人の口に戸は立てられないと言うではありませんか。今お話しなくても、ウワサはいずれこの方々のお耳に届きます」 初老執事「し、しかし…」 貴婦人「尾ひれのついたウワサを聞かれるより、今ここで直接お話しすべきだと思いますわ」 女騎士・司祭補「???」
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貴婦人「お二人は不思議に思いませんでしたか?内務大臣の娘で、国王陛下とも遠縁の私が、たった2人でこの町に逗留していることを」 司祭補「ええ…」 女騎士「言われてみれば…」 貴婦人「さる事情で、私たちは人目を忍びながら帝都に向かっているのです。この町には旅の途中で立ち寄りました」
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女騎士「どんなご事情が…?」 貴婦人「順番にお話ししましょう。ご存じの通り、人間国はたくさんの国を併合してできた帝国です。古くからその土地を領有していた王族たちが各地にいて、国王陛下から領土の守護を任されています」 司祭補「遠方の王族には、いまだに謀反を企てる方もいるそうですわ」
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貴婦人「そして私は、東方のとある王族に嫁ぐように言いつけられました。血のつながりが濃くなれば人間国への忠義も深まるだろう──。お父様はそう考えたのです」 女騎士「それは、いわゆる政略結婚では…」 初老執事「口をお慎みください」 貴婦人「いいのです。政略結婚に他ならないのですから」
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貴婦人「こちらのじいやは、長らくお祖父様──内務大臣に仕えていました。そうですね」 初老執事「はい。ご結婚を機に、奥様にお仕えするよう申しつけられました」 貴婦人「遠方に嫁ぐ孫を、お祖父様は心配したのでしょう。信頼のおける者として、じいやを付けてくれたのです」
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初老執事「ご婚礼に向かわれるときの旅は、それは見事なものでした」 貴婦人「100人を超える使用人を連れて、帝都から港町、そして船で東方に向かったのです」 司祭補「そのウワサなら聞いたことがありますわ。当時のわたしは、まだ修道院で勉強を始めたばかりでしたけれど」
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貴婦人「しかし私は子宝に恵まれませんでした」 女騎士・司祭補「…」 貴婦人「そもそも殿方から見れば、私は退屈な女だったのかもしれません。世間知らずなまま、温室の花のように育てられました。ただの花なら、眺めているだけで充分。指を触れてまで愛でようとするのは、よほど奇特な人だけです」
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貴婦人「私の夫は──夫だった人は、年端もいかない使用人の娘と関係を持っていました。その娘が子を孕み、あろうことか嫡男として認めると言い出したのです」 初老執事「…」 貴婦人「お父様とお祖父様は、たいそうお怒りになりました。私を離縁させて、帝都に呼び戻しました」
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貴婦人「私の家系としては不名誉なことですから、人目を忍ぶ旅になったのです。…いずれ、ウワサは広まるのに」 女騎士「なんと言ったらいいか…」 貴婦人「お父様は今回のことで心を痛め、娘を政治の道具にしたことを悔やんだようです。次の結婚相手は、私が自分で選んでいいとおっしゃっいました」
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貴婦人「そんなことがありましたから、殿方というのは誰しも嘘つきで、信用ならないものだと思っていましたの」 初老執事「おや、このじいやも嘘つきですか?」 貴婦人「ええ。いつ裏切られることやら…」シュン… 初老執事「そ、そんな…」 貴婦人「あらあら、真に受けないでくださいな」クスクス
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貴婦人「ですから、その青年のように実直な殿方もいると知って、なんだか可笑しくなってしまったのです。きっと、心根の綺麗な方なのでしょうね」 女騎士「はい。上官からの信頼も厚い男だったと記憶しています」 貴婦人「その方のお気持ちは、よく分かりました」 司祭補「でしたら、金貨を──」
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貴婦人「いいえ。そんな方だからこそ、なおさらお金をいただくわけにはいきません。目先の利益よりも誇りを守ろうとする…そういう方なら、お金の使い方を間違うこともないでしょう。私が持っているより、ずっといい使い方をしてくださるはず。金貨は青年に返してください」 女騎士・司祭補「」
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