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黒エルフ「…こっそり、見る…?」ブツブツ 司祭補「あらぁ、わたしには見せてくれませんの?」 女騎士「わ、悪く思わないで欲しいのだ…」 司祭補「わたしに読まれたら困るようなことが書いてあるのかしらぁ~?」 女騎士「からかわないで欲しいのだっ!」 黒エルフ「…この方法なら…」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
女騎士「あぁ…日記のことなど言わなければ良かったのだ…」カァァ 司祭補「あらあら、うふふ」 女騎士「うぅ~、恥ずかしい…。くっ…殺──」 黒エルフ「分かったわ!」ガタッ 勇者「わっ!急に立ち上がってどうしたの?」 黒エルフ「この町を不景気から救う方法が分かったの!」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
黒エルフ「銀行家さん、帝都までの旅費を用立ててくれないかしら?今すぐ王さまとの謁見に向かうわ!」 銀行家「構いませんが、しかし──」 司祭補「王さまと一対一で謁見するには、まだ準備が必要ですわ…?」 黒エルフ「もうっ!違うってば!勇者の話を伝えに行くわけじゃないの!」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
黒エルフ「魔国の状況を伝えて遠征を中止させるのは、また別の機会をうかがいましょう」 女騎士「では、なぜ帝都に?」 黒エルフ「言ったでしょ、港町の不景気を救うって。大船団を組んで貿易を再開する方法が分かったのよ!…もちろん、西岸港とは違う方法でね」 女騎士「そんな方法があるのか?」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
黒エルフ「この方法を成功させるには、協力をあおぐ必要があるわ」 司祭補「協力…?」 女騎士「いったい誰の協力だ?」 黒エルフ「そんなの決まってんじゃない──」 一同「?」 黒エルフ「王さまよ」ニコッ
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
▼西岸港、要塞の執務室──。 頭取「…こちらが、その手紙です」 財務大臣「港町の支店から届いたという手紙ですな?」 秘書「私の留守中に思わぬ来客があったようです」 財務大臣「ふぅむ、この内容は…」 頭取「そこに書かれている人相は、勇者にそっくりではありませんか?」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
財務大臣「…なるほど。たしかに恐れていた事態が起きたのかもしれませんな。勇者が魔国のアイテムで戻ってきて…」 秘書「…手紙の検閲に気づいた」 頭取「ともあれ、港湾ギルド長が約束通りに死んでくれて助かりましたな。あっはっはっ!」 財務大臣「まったくです。くくく…」 秘書「…」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
コンコン… 家臣「失礼いたします」 財務大臣「おお、お前か。丁度いいところに来た。今すぐ港町に早馬を向かわせろ。重犯罪者が潜伏している可能性があるので、すべての家屋を立ち入り調査せよ、とな」 家臣「かしこまりました」 秘書「勇者を捕まえるおつもりですか?」 財務大臣「無論だ」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
財務大臣「大遠征に協力する意志があるかどうか、確認せねばならん」 頭取「手紙の検閲のことを言いふらさないと約束させなければ」 秘書「しかし…」 財務大臣「それとも、あなたは遠征が中止になってもいいとお考えなのかな?」 秘書「滅相もない!しかし、あの男が簡単に捕まるでしょうか?」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
財務大臣「たしかに場合によっては、衛兵との戦闘になるかもしれんな」 秘書「戦闘ですか?相手はあの勇者ですよ!?」 財務大臣「勇者との戦闘で、衛兵の何人かは命を落とすかもしれん。もしそうなったら、『勇者が魔国側に寝返った』と糾弾すればいい。誰もあの男の言葉に耳を貸さなくなるだろう」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
財務大臣「そして万が一、勇者が負ければ…魔族のスパイに暗殺されたことにすればいい。魔族への憎しみを煽って、兵士たちの士気を高めることができる」 頭取「さすがは財務大臣さま!ご慧眼です!」 財務大臣「ふふふ…。生きていようと死んでいようと、あの男には利用価値があるのだ」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
財務大臣「…それで、お前は何の用だ?」 家臣「ハッ!念のため、お耳に入れておきたい情報が」 財務大臣「いいから早く用件を言え」 家臣「港町の銀行から王室宛に連絡が入ったそうです。例の女2人が国王陛下との謁見を希望しているとか…」 秘書「あの2人が?」 頭取「何を企んでいるやら…」
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秘書「急いで帝都に戻りましょう!」 財務大臣「それほど慌てる必要があるのか?今から向かっても、どうせ謁見は止められまい」 秘書「謁見の手続きには、長ければ数日かかるはず。謁見を止められなくても、同席することはできるかもしれません!」 頭取「仕事熱心なのはいいが、大臣様は──」
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秘書「ご無礼を承知で申しますが、あの女たちを甘く見ないほうがいいかと存じます。すでに何度も、あいつらに辛酸を舐めさせられてきたではありませんか!」 財務大臣・頭取「「ぐぬ…」」 秘書「やつらの狙いは分かりません。分かりませんが…きっと、よからぬことを考えているに違いありません!」
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財務大臣「わ、分かった。そこまで言うなら馬を準備しよう。…あなたもそれでよろしいですかな?」 頭取「ええ、まあ…。ご配慮に感謝します」 財務大臣「おい、お前!私たちは帝都に向かう。よいな!」 家臣「ハッ!」 秘書「…間に合えばいいのですが」ギリッ
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▼数日後、帝都──。 ショタ王「ぼくに株主になってほしい、だと?」 色白青年「あなたがたの船団に、国王陛下ご自身の出資が必要なのですか?人間国政府からではなく?」 黒エルフ「もちろん政府からでも構わないけど…。できれば王さまに出してほしいわ」 女騎士「わずかな額でかまいません」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
ショタ王「株券を発行して出資金を集め、大きな船団を組むのだな」 色白青年「西岸港で広まっているやり方だと聞いています」 ショタ王「つまり港町でも、同じ方法で貿易をすることにしたわけだ」 女騎士「いいえ、恐れながら…」 黒エルフ「西岸港のやり方とは、3つの点で違うわ」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
黒エルフ「まず第一に、あたしたちは航海が終わっても船団を解散しないわ。同じ船団をずっと維持するつもりよ」 ショタ王「同じ船を繰り返し使うんだね」 黒エルフ「腕の悪い水夫が混ざるのを防ぐためよ。航海の安全性を高められるはず」 色白青年「ふむ…」 黒エルフ「利点は他にもあるわ」
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黒エルフ「新大陸側の港に、商館や要塞を建てる──。解散しない船団なら、そういうこともできるわ。集めたカネで新大陸に拠点を作って、それを永続的に維持できる」 色白青年「たしかに、毎回解散する船団では難しいでしょうね」 ショタ王「新大陸にそういう拠点があれば戦争も有利になりそうだ」
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黒エルフ「解散せず、将来に渡って商売を永続させることを、『継続企業の前提(ゴーイング・コンサーン)』と言うわ」 色白青年「しかし解せませんね。船団を解散しないのなら、いつ収益を分配するのですか?」 ショタ王「カネが返ってこないなら出資はできないよ」 黒エルフ「それが第二の違いよ」
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女騎士「私たちの船団では1年に1回、利益を計算するつもりです。その利益を、株券の持ち主に配当する予定です」 ショタ王「航海が終わったときではなく、毎年決まった日に利益を分配するんだね」 黒エルフ「ええ。利益を計算することを『決算』、その日を『決算日』と呼ぶわ」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
ショタ王「正直に言えば、ダークエルフよ。ぼくはお前の商才には一目置いているんだ。お前たちの船団の株券を持っていれば、毎年配当を受け取れるのだろう?いい話ではないか──」 色白青年「お待ちください!配当が出るのは利益が出た場合だけですよ?」 黒エルフ「ええ。商売に絶対はない…」
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色白青年「万が一、彼女たちの船団が破産してごらんなさい。株主には、莫大な負債を支払う責任が発生するかもしれません」 ショタ王「う…。それは困る!」 黒エルフ「安心して、それが第三の違い。たとえ破産しても、株主が負債を支払う必要はない──。そういう約束のうえで株券を発行するわ」
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黒エルフ「もしも船団が破産したら、ごめんなさい、株券は無価値になってしまう。最初に出資してもらったカネは取り戻せないわね」 色白青年「しかし、それ以上損することはない…?」 黒エルフ「ええ、これを『有限責任制』と言うわ。株主は、出資額以上の責任を負わなくていい」
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黒エルフ「継続企業の前提のもとに毎年決算を行って、有限責任制の株券を発行する──。こういう組織のことを『株式会社』と呼ぶわ」 ショタ王「株式会社…」 色白青年「初めて聞きました」 女騎士「港町の景気を好転させるため、町の住人で出資しあって『株式会社』を作りたいと考えています」
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黒エルフ「…名前は、港街貿易(株)」 女騎士「初代社長は、港街商会の商会長に務めてもらいます。商売に長けて人望も篤い」 黒エルフ「あたしは経営企画を担当するわ。公証人の資格を持っている銀行家さんには法務を、航海の経験豊富な貿易商さんには現場作業のトップを担当してもらう」
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黒エルフ「そして、経理の担当者は──」 女騎士「──私なのだ」 ショタ王「ふむ…。女騎士が、経理になるのか」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
ショタ王「話は分かった。お前たちなら、きっと手堅い商売をしてくれるだろう」 色白青年「…本当によろしいのですか?」 黒エルフ「感謝するわ」 女騎士「ありがとうございます!」 ショタ王「ぼくのお小遣いから、お前たちに出資して──」 ???「──お待ちください!」
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秘書「…どうやら、間に合ったようですね」 財務大臣「陛下、その者たちに騙されてはなりませんぞ」 ショタ王「騙される?ぼくが?」 秘書「恐れながら…。じつは『有限責任制』の株券は、西岸港の船団でも検討したことがあるのです」 ショタ王「しかしお前たちは採用しなかったのだな。なぜだ?」
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秘書「それは、有限責任制の株券には欠陥があるからです!深刻な欠陥が!」 財務大臣「その欠陥を埋められない以上…」 秘書「…その女たちは、国王陛下を騙そうとしているとしか言いようがありません!」 女騎士「くっ…」 黒エルフ「ちっ…」
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▼港街、精霊教会──。 ドンドンッ ドンドンッ 衛兵A「失礼する!」 司祭補「あらあら、まあまあ!何ですの?」 衛兵B「この町に凶悪犯が潜んでいるという通報があった!調べさせてもらう!」 侍女「凶悪犯…?」 司祭補「ここは教会ですわ。犯罪者を匿うはずありませんわ!」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
衛兵C「1軒の例外もなく調べろとのお達しだ!調べさせてもらう!」ズカズカ 司祭補「そんな…。何て横暴なんでしょう…」 侍女「いったい誰の命令ですか?」 衛兵D「知らん!」 侍女(…もしかしたら、勇者さまを探しにきたのかもしれません) 司祭補(…銀行家さんに伝えませんと!)
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7