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「デマこいてんじゃねえ!」というブログの移転先です。管理人Rootportのらくがき帳。

APEX Legendsが神ゲーすぎる件(その①)

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 先日、学生時代の友人から連絡がありました。

「お前、APEX Legendsやってるの?」

 当時の彼は、テニスサークル所属の典型的な〝チャラ男〟であり、ゲームを――それも、シリアスな対人FPSを――プレイするような人ではありませんでした。

「今度、一緒に遊ぼうぜ」

 この瞬間、私はAPEXがどれほど流行っているのかを実感しました。

 もはやこのゲームは社会現象に近いレベルで流行っているのだ、と。

 

 実際、2021年4月の時点でAPEX Legendsのプレイ人口は1億人を超えており[1]、市場規模でいえば日本は(北米に次いで)世界で二番目だそうです[2]

 公式・非公式を問わず大会も頻繁に開催されています。

 1月に開催された大会では、EXILE関口メンディーさんの神プレイが界隈で話題になりました[3]。また、8月に開催された「VCC APEX」という大会には、Hey!Say!JUMPの山田涼介さんやKing Gnuの井口理さん、新井和輝さん、ミュージシャンの岡崎体育さん、ユーチューバーのHIKAKINさんなど、テレビをまったく見ない私でも知っているレベルの芸能人が多数参加していました[4]。『爆笑オンエアバトル』で育った世代としては、インパルスの板倉俊之さんがこのゲームにドハマりしていることを嬉しく感じます[5]

 パンデミックという状況下で、APEXはオンラインで交流を楽しめるカジュアルなスポーツとして普及しつつあるようです。言ってみれば、パンデミック下におけるフットサルやボウリングのようなものでしょう。

 なぜ、APEXはそういう特別なゲームになることができたのでしょうか?

 このゲームの一体どこが、人々を惹き付けるのでしょうか?

 今回の記事では、2300時間ほど遊んだ私の感想を書きます。

(※なお、当初は0.48だった私のK/Dは1.20になり、全キャラクターでハンマーを取得し、野良でダイヤ帯に到達できるようになりました。好きなレジェンドはミラージュです)

 

 

▼APEX Legendsの基本ルール

 APEX Legendsは、大きなくくりでは「FPS」というジャンルの、「バトロワ系」と呼ばれるサブジャンルに分類されるゲームです。

 FPSとはFirst Person Shooterの略で、私と同世代の読者ならニンテンドー64の『ゴールデンアイ007』のようなゲームといえばピンと来るでしょうか? 画面には操作しているキャラクターの一人称視点が表示され、銃の引き金ボタンを押すと、画面の中央に向かって弾が飛んでいきます。マシンスペックの向上にともないグラフィックは飛躍的に美麗になりましたが、基本的な操作方法は『ゴールデンアイ』の時代から(もっと言えば『Wolfenstein』や『DOOM』の時代から)変わっていません。

 バトロワ系という名前の由来は、高見広春先生の小説『バトル・ロワイヤル』です。「複数のプレイヤーのなかで最後まで生き残ること」を目的とするゲームの総称です。

 APEX Legendsの場合、三人一組の20チーム60人で遊びます。

 プレイヤーは最低限の装備しか持たない状態で広大なマップに放り出され、武器やアイテムを拾い集めながら最後の1チームになるまで戦います。接敵せずに延々と追いかけっこをする羽目にならないよう、行動可能な「安全地帯」が時間とともに狭くなっていきます。安全地帯は最後にはゼロになるため、どんな試合でも必ず20分間ほどで決着がつくようにデザインされています。

 とはいえ。

 このルール説明を読んだだけで「わあ、面白そう!私も遊んでみたい!」と感じる人は……まあ、そう多くないでしょう。大抵の人は「そんなゲームの何が面白いんだ?」と感じるのではないでしょうか。

 20チームで最後の1チームになるまで戦うということは、平均的な強さの人でも20回に1回しか勝てないことを意味しています。初心者であれば、この数字はもっと悪化します。95%以上の試合で負けざるをえないのに、一体、何が楽しいのでしょうか?

 

 

▼本来ならFPSは〝初心者お断り〟

 APEX LegendsがFPSであることを鑑みると、謎はさらに深まります。

 というのも、FPSは初心者に対するハードルが高いからです。

 数あるゲームの中でも、FPSはプレイヤーの技量差がはっきりと出るジャンルです。単純な反射神経やエイム(※狙いをつけること)のみならず、立ち回りやアイテムの使い方、相手の次の行動を読みながら自分の行動は読まれないようにする駆け引き等々、初心者と上級者の間には埋めがたい溝があります。

 要するに、FPSではビギナーズ・ラックが起こりにくいのです。

 

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 麻雀やMagic: the Gatheringと比較すれば、違いは明白です。

 たとえ相手がプロの雀士でも、あなたが天和を出せば(少なくともその局では)勝てるでしょう。たとえ相手がMtGの世界チャンピオンでも、〝土地事故〟に陥ってしまえば、初心者であるあなたにも勝機が生まれます。運の介在する余地の大きいゲームほど、実力差を覆して勝利できる機会も増えます。

 

 運の要素は重要です。

 なぜなら、人は誰しも「自分のせいで負けた」と感じたくないからです。

「運が悪くて負けた」とか「下手くそな味方のせいで負けた」という言い訳の余地が残されているゲームのほうが、人気を得やすいのです。「自分は下手くそだ」という事実を突きつけられるようなゲームは倦厭されてしまいます。娯楽である以上、これは仕方のないことでしょう。運の要素が小さくなるほど、ゲームはシリアスになり、カジュアルには楽しみにくくなってしまうのです。

 たとえば温泉旅行に行くときに、ポケット将棋や囲碁を持っていく人はあまり多くありません。そういうときに私たちが選ぶのは、トランプや『UNO』――。つまり、運の要素があって気楽に遊べるゲームです。

 

 FPSの操作や駆け引きに、運の要素はありません。

 ある程度はその日の体調に左右されることはあっても、上級者は初心者ほど操作ミスをしません。敵から狙われやすい危険地帯や、その逆である安全なポジションについての知識も、上級者と初心者では比較になりません。

 さらにルールの上でも、構造的にビギナーズラックが生まれにくくなりがちです。

 というのも、ビデオゲームである以上、良いプレイには良い報酬を与えなければならないからです。たとえば『ぷよぷよ』のような落ちものパズルであれば、一度に消した「ぷよ」の数が多くなるほど、良いスコアを得られます。連鎖が伸びるほど、スコアだけでなく派手な演出を楽しむことができます。このようなポジティブなフィードバックがないと、プレイヤーは「何をすればいいか分からない」という状態になってしまいます。

 ビデオゲームは一種のスキナー箱であり、報酬を使って〝良いプレイ〟を奨励しなければならないのです。

 

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 FPSも例外ではなく、大抵の作品では良いプレイに報酬が与えられます。

 たとえばFPSの代表的タイトルである『Call of Duty』シリーズの場合、キルストリークという概念があります。敵を連続で倒すほどにポイントが貯まり、敵の頭上に爆撃を落としたり、強力な攻撃ヘリを呼び出したりできるようになるのです。

スプラトゥーン』における「スペシャル」も同様でしょう。良いプレイをする人ほど、スペシャルと呼ばれる必殺技を出せるようになり、盤面の有利を固めることができます。(※余談ですが、『スプラトゥーン』では自分の操作しているキャラクターが画面に表示されており、三人称視点です。このようなゲームをThird Person Shooter、略して「TPS」と呼びます。FPS・TPSをあわせて「シューター系」と呼びます)

 このような報酬は、上手くなるほど気持ちよくなれるというメリットがある反面、「一度不利になったプレイヤーは逆転しにくい」という問題を生んでしまいます。

 有利な側がますます有利になるという正のフィードバック・ループが生じるため、チーム間のわずかな実力差が、結果を大きく左右してしまうのです。実際、『Call of Duty』や『スプラトゥーン』では、よほど実力が拮抗しているチーム同士でない限り、一方的な試合展開になりがちです。

 逆転要素の重要性を認識していないゲームデザイナーはいないでしょう。

 たとえばMagic: the Gatheringのデザイナーを長年務めてきたマーク・ローズウォーターは『ゲームに必要な10のこと』という有名なコラムの中で、「逆転要素」を挙げています[6]。勝ち目のない試合に延々と付き合わされるのは、苦痛でしかありません。だから、どんなに不利な状況でも勝利の目がなくならないようにデザインすべきだ、と彼は論じています。

 逆転要素を残すことは、ゲームデザイン上の難題です。

 クイズ番組では、しばしば、最終問題だけ異様に配点の大きいものがあります。正解すると1点をもらえるルールだったのに、10問中の最後の1問だけ100点もらえる……のようなケースです。番組スタッフは逆転要素の重要性を認識しているからこそ、こういうルールを設定したのでしょう。しかし、これでは勝利のために必要なのは最終問題に正解することだけになってしまい、それまでの9問はどうでも良くなってしまいます。

 勝利に至る過程に意味を持たせながら、最後まで逆転の余地を残す——。

 これは、プロのゲームデザイナーでも頭を悩ませるような難問なのです。

 

 話が少しそれました。

 良いプレイに報酬を与えることと、逆転要素を残すことは、どちらも重要です。

 ここに、FPSの構造的な矛盾があります。

 良いプレイに報酬を与えるほど、FPSでは有利な状況が固定されて、試合展開が一方的になってしまいます。しかし、逆転の目がすぐに消えてしまうのであれば、やはり楽しいゲームにはならないのです。ゲームの開発者たちは、この矛盾の解消に様々な知恵を絞ってきました。

 たとえば『スプラトゥーン』の場合、1回の試合時間を短くすることで(おそらく)この問題の解決をはかっています。大勢が決した時点で、すぐに試合が終わるようにデザインされているのです。勝ち目のない試合に付き合わされる苦痛を、できるだけ減らそうとしているわけです。

 また、実力差がはっきり出るということは、競技性が高いということでもあります。『CSOG』や『ヴァロラント』のように、競技性の高さを「売り」にしている作品もあります。

 とはいえ、これらの作品では、問題の根本的な解決には至っていません。

 試合時間を短くすることも、競技性の高さを売りにすることも、「良いプレイに報酬を与えること」と「逆転の目を残すこと」との矛盾を解消できていないのです。

 

 

▼PUBGの衝撃

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 現在まで続くバトロワブームの端緒を開いたのは、Player Unknown's Battleground、通称『PUBG』です。当時の日本では、このゲームで遊ぶためにハイエンドなゲーミングPCが飛ぶように売れるという〝異常事態〟が起きました[7]

 もちろんPUBG以前にもバトロワ系のゲームは存在しており、PUBGは無から生み出されたわけではありません。が、長い話になってしまうので「前史」についてはこの記事では省略しましょう。

 PUBGは、①丸腰の状態で広大なマップに放り出されて、②武器やアイテムを拾い集めながら戦い、③時間と共に安全地帯が狭くなっていくという、現在のバトロワの基本要素をすべて備えた作品でした。PUBGのヒットがなければ『フォートナイト』や『Call of Duty』のバトロワモードも、そしてもちろん『APEX Legends』も生まれていなかったはずです。

 じつのところ、PUBGはお世辞にも「よくできたゲーム」ではありませんでした。

 キャラクターの動作はもっさりとしていて操作感が悪く、グラフィックは地味で、そのくせシステムが最適化されていないためにマシンスペックをいたずらに食う——。そんなゲームを、多くの人が夢中になって遊んだのです。

 言うまでもなく、とてつもなく面白かったから、でした。

 

 PUBGの優れていた点の1つは、FPSに運要素と逆転要素を上手く実装したところだと私は考えています。

 どんなプレイヤーもゲームの開始時には丸腰です。アイテムの湧き方には一定のパターンがあるとはいえ、強い武器を拾えるかどうかは運に左右されます。たとえ初心者でも、運よく強いアイテムを拾えれば、運悪く何も拾えていない上級者を倒すことができる(かもしれない)のです。

 また、安全地帯の収縮パターンも毎回変わります。運がよければ最初に着地した地点から一歩も動かずに済むかもしれません。が、運が悪ければ、安全地帯に入るために長距離のマラソンを強いられるかもしれません。移動距離が伸びれば接敵のリスクも増え、敗北の危険が高まります。

 そもそも多数のチームが1つのマップ上に存在していること自体が、運の要素を高めます。他人の行動は、完全に予想することもコントロールすることもできないからです。戦いたくない場面で戦闘を挑まれて、戦わざるをえなくなり、後からやってきた第三者のチームに漁夫の利を得られてしまう——。そんな試合展開が珍しくありません。

 ポイントは、運の悪いときにも実力があればある程度は切り抜けられることでしょう。先述のMagic the Gatheringや麻雀と同様、どんなにFPSが上手いプレイヤーでも、運に見放されればPUBGでは負けてしまいます。しかし、実力があれば、その確率を最小限にできる。PUBGは、運と実力のバランスが取れたゲームだったのです。

 

 また、PUBGでは逆転勝利が可能です。もちろん簡単ではありませんが、最後まで勝ち目が完全に失われることはありません。

 たとえばアイテムや安全地帯の運に見放されて、チームメイトも試合中盤までに倒されてしまい、自分1人だけ最終盤まで生き残ったとしましょう。絶望的な状態です。しかし、最後に残った3チームのうち、自分以外の2チームが先に戦闘を始めたら? 戦闘が終わってボロボロの状態の敵に、タイミングよく襲いかかることができたとしたら? たった1人でも、逆転勝利できるかもしれません。

 実際、PUBGのようなバトロワ系のゲームでは、最後まで一発も銃を撃たずに勝利してしまうことが(ごくまれに)あります。

 

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 PUBGでも「上手いプレイに報酬が与えられる」という基本は変わりません。自分でマップを駆けずり回ってアイテムを集めるよりも、敵を倒して奪うほうが効率的だからです。ただし、敵を難なく倒せるだけの実力があれば、の話です。

 逆転要素がある——言い換えれば、どんなプレイをしようと最後に生き残っているやつが勝ちである——という点は、FPSの「上手さ」の評価軸を増やすという役割も果たしています。

 既存のFPS・TPSでは、撃ち合いで相手をたくさんキルできるプレイヤーが「上手いプレイヤー」でした。ところがPUBGでは、撃ち合いをせずとも勝利することが可能です。100人中の最後の2人になるまでひたすらかくれんぼをして、最終的にグレネードで倒す……という作戦を取っても、何ら問題ありません。たとえそこで負けてしまったとしても、それまでに愚かにも撃ち合いをして死んでいった98人よりもかくれんぼスキルでは「上手かった」ということになります。撃ち合いが下手なプレイヤーは楽しめないというFPSの常識を、PUBGは打ち破ったのです。

 PUBGは、FPSに運要素と逆転要素を上手く導入しました。

 その結果、撃ち合いが苦手なFPS初心者でも楽しめる作品になりました。これらの美点はAPEX Legendsにも受け継がれています。

 しかしAPEX Legendsは、PUBGの単純なバージョンアップ版でありません。

 もう1つのエポックメイキングなFPSとの合いの子(ハイブリッド)だったのです。

 

その②に続く~

 

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 単行本第①巻、10月8日発売(予定)!

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▼参考文献▼

[1]『Apex Legends』プレイ人口が1億人突破。リリースから2年「まだ始まったばかり」 - Engadget 日本版

[2]Apex Legends:日本は世界2位の市場/PS5での動作について/スマホ版は2021年以降に配信 - GameFavo

[3]【ジェネハウス】GENERATIONS関口メンディーがAPEXのトーナメントに出場!! - YouTube

[4]山田涼介、22万人が目撃した“ガチ”のゲームセンス『Apex』でKing Gnu井口理を瞬殺!?(ふたまん+) - Yahoo!ニュース

[5]【APEX】下手でも、1人スタートでも、僕は諦めなかった… - YouTube

[6]ゲームに必要な10のことその1 & その2 | マジック:ザ・ギャザリング

[7]裾野広がるゲーミングPC 火付け役は韓国製ゲーム|NIKKEI STYLE

[8]『Ghost of Tsushima』──剣術や時代劇などが“戦闘”に与えた影響を開発スタッフが徹底解説!【特集第1回】 – PlayStation.Blog 日本語