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「デマこいてんじゃねえ!」というブログの移転先です。管理人Rootportのらくがき帳。

APEX Legendsが神ゲーすぎる件(その②)

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 現在、社会現象に近いレベルで流行っている『APEX Legends』。

 このゲームを2300時間ほど遊んだ感想記事の第2回です。

 前回の記事では、かつてのFPSは実力差が出やすく、初心者に優しくないジャンルだったという話を書きました。運の要素が少ないためにビギナーズ・ラックが起こりづらく、また、構造的に逆転勝利が難しくなりがちという問題を抱えていたのです。

 PUBGが端緒を開いたバトロワ系のゲームは、この問題を解決しました。FPSに運要素と逆転要素を上手く組み込むことで、たとえ初心者でも、ただかくれんぼをしているだけでも、何らかの達成感ややりがい――面白さ――を感じられるゲームになっていたのです。

 しかし『APEX Legends』は、PUBGの単純なアップグレード版ではありません。

 もう1つのエポックメイキングなFPS作品との「合いの子(ハイブリッド)」でした。

 

 

▼『Overwatch』という発明

 FPSが初心者を遠ざける原因の一つに、何が起きたのか分からずに死ぬという点が挙げられます。

 とくに『Call of Duty』や『バトルフィールド』のようなリアル系FPSで顕著ですが、敵を探して歩き回っていただけなのに気づけば撃たれて死んでいた……という経験を初心者は味わいがちなのです。どこから撃たれたのかも、誰に撃たれたのかも分からず、自分のプレイの何を改善すればいいのかも分かりません。初心者が「クソゲー」と感じてしまうのも無理ないでしょう。

 これらのゲームでは、キャラクターのHPは低めに、武器の威力は高めに設定されています。なぜなら、人は銃で撃たれたら死ぬからです。そういう現実世界の常識を、ゲームの世界でも再現しているのです。

 ここで「TTK」という概念を紹介しましょう。

 Time to Killの略で、そのゲームで敵を倒す(あるいは自分が倒される)のに要する時間のことです。たとえばHPが100点のゲームで、弾丸1発の威力が20点、1秒間に10発の弾を連射できるマシンガンが存在したとしましょう。このマシンガンのTTKは0.5秒ということになります。

Call of Duty』シリーズの場合、(作品や武器の種類によってもまちまちですが)TTKは0.3秒前後に設定されています。シリーズの中でもとくにTTKが短いとされている『CoD:MW』の場合、ほとんどの武器で0.2秒以下でした。

 これは、人間が生理的に反応できる限界を超えています。

 

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 人間が何らかの刺激を受け取ってから、指先の操作として反応するまでには、約0.3秒ほどかかります。これは『Ghost of Tsushima』の開発陣がスピーディーなチャンバラゲームを作るために行った実験の結果です。刺激の種類を問わず、また個人差もほぼなく0.3秒という結果になったそうです[8]

 また、『Ghost of Tsushima』の開発陣は、刺激に「予備動作」があると、プレイヤーの反応が速くなることも発見しました。たとえば敵キャラクターが剣で切り掛かる動きが0.3秒以下であっても、その直前に大きく振りかぶる動作があれば、プレイヤーは反応できるというのです。相手の動きを予測可能な場合、プレイヤーの反応の速さには限界がないことも、彼らは発見しました。

 このことは、FPSの上級者と初心者の違いを上手く説明できます。

 上級者の場合、『CoD:MW』のように極端にTTKの短い作品で遊んでいる場合でも、1発だけ弾を撃たれて慌てて遮蔽に身を隠して命を繋ぎ止める——といった反応が可能です。これは、敵から狙われやすい場所や行動を理解しているために、いつでも身を隠せるように心構えができているからでしょう。言ってみれば、周囲の状況そのものが「予備動作」の代わりを果たしているのです。

 一方、初心者の場合は「撃たれたと思った次の瞬間には死んでいた」という結果になります。心構えも予測もできておらず、「撃たれた!」と気づいてから次の行動を考えてしまうためです。しかしTTKが0.2秒以下のゲームでは、考えている余裕などありません。

 

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Overwatch』は、この「初心者が即死する問題」を解決したFPSでした。

 単純に、TTKが長かったのです。

 キャラクターや武器の組み合わせにもよりますが、このゲームではTTKが1.0秒以上になることも珍しくありません。FPS初心者でも「撃たれた!」と気づいてから、反応をする余裕があるのです。

 また、『Overwatch』のキャラクターたちは、それぞれ特殊なスキルや必殺技を持っています。銃で敵に弾を当てるだけでなく、それら特殊能力をうまく使いこなすことも勝利のためには必要です。

 開発会社は違いますが、『APEX Legends』は『Overwatch』の影響を強く受けた作品です。①TTKが長く、②キャラクターごとの特殊能力が戦況を左右するという『Overwatch』の特徴は、APEXにも受け継がれています。これら二つの特徴は、初心者へのハードルを下げるだけでなく、ある重要な特徴をゲームにもたらしました。

 プレイヤー同士の「協力」を促すゲームデザインだったのです。

 

 

▼協力を推奨するデザイン

『APEX Legends』は、味方同士の「協力」を促すデザインが随所に見られます。オンラインで友人とボイスチャットをつなぎ、わいわいとお喋りしながら遊ぶときに、もっとも楽しめるデザインになっているのです。

 ここでは、協力を促す要素のうち代表的な3つの点を紹介しましょう。

 ①キャラクターのHPが多くTTKが長いこと、②キャラクターごとに個性的な特殊能力を持っていること、そして③味方のリスポーン(※復活)が可能なことです。

 

 まずはTTKから。

『APEX Legends』では(武器の種類やキャラクターにもよりますが)TTKは1.0秒前後になるように調整されています。FPSのなかでは比較的TTKが長めであり、キャラクターが固いゲームだといえます。

 このことは、味方と協力して撃ち合ったほうが有利になるということを意味しています。たとえばあなたが1人で敵を撃った場合、敵を倒すのに1.0秒かかります。もしも味方と2人で同じ敵を撃てば、ダメージは倍になり、TTKは半分の0.5秒になります。3人で1人を集中砲火すればTTKは0.3秒にまで縮まり、相手から反応する余裕を奪うことができます。

 じつのところ「人数の有利」は、どんなFPSでも重要です。FPSの基本戦術の1つと言ってもいいでしょう。APEXのようにTTKの長いゲームでは、この〝基本〟がことさら重要になるのです。

「あそこに味方から離れて浮いてる敵がいる!せーので撃とう!」

「OK!」

「せーの!!」

 友達とボイスチャットでこんなセリフを叫んでいるとき、最高にAPEXしてるって感じがします。

 

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画像出典)EA, APEX Legends公式サイト

 キャラクターごとに個性的な特殊能力を持っていることも、プレイヤー同士の協力を促します。能力の組み合わせ次第で、強力なシナジーを生み出せるのです。

 たとえば「バンガロール」は、特殊能力でスモークグレネードをバラまくことができます。このスモークはかなり〝濃く〟描画されているため、煙の中では敵も味方も視界を奪われてしまいます。

 一方、「ブラッドハウンド」は、壁や障害物の向こうにいる敵を透視する能力を持っています。それどころか、能力によって得た敵の位置情報を、味方と共有できます。

 つまりバンガロールのスモークの中でブラッドハウンドの能力を使うと、敵は視界を奪われているのに、こちらは一方的に敵の姿が見える……という状況になるのです。

 これは、『APEX Legends』のリリース当初から存在する、強力なシナジーの一例です。もちろん、バンガロールのスモークにせよ、ブラッドハウンドの透視能力にせよ、持続時間はさほど長くありません。このシナジーを効果的に使うためには、味方との連携が欠かせません。

 このようなシナジーを探すこと自体が、まるでTCGのコンボデッキを組んでいるときのような楽しさがあります。それを実戦で使えるレベルまで練習することも面白いですし、実戦でばっちりと決まったときの気持ち良さは言葉では表せません。

「あそこに敵がいる!〝A定食〟で襲い掛かろう!」

「〝A定食〟了解!」

「やるんだな!今、ここで!!(※進撃の巨人ネタ)

 ボイスチャットでこんな会話を交わしているとき、最高にAPEXしてるって感じがします。

 

 

 PUBGでは、死んだらそこでゲーム終了でした。

 チームメイトがまだ生き残っていても、観戦画面でぼんやりと眺めるか、試合を抜けて次の試合に向かうしかなかったのです。なぜなら、人は死んだら生き返らないからです。現実世界の常識を、ゲームの世界でも再現していたのです。

 ところが『APEX Legends』では、死んだ味方を復活(リスポーン)させることが可能です。現在でこそ、リスポーンのあるバトロワ系ゲームは珍しくなくなりました。しかし、APEXがリリースされた当初は、まだ珍しいシステムだったと記憶しています。

 もちろん死者復活は、簡単ではありません。

 味方が死んだ場所に落ちている「バナー」というアイテムを拾い、マップ内に散在している「リスポーンビーコン」にそのバナーを運ばなければなりません。バナー回収には時間制限があるため、敵の目をかいくぐって素早く拾わなければならないのです。

 

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 リスポーンの存在も、プレイヤー同士の協力を促します。

 ここでは『ロックバンド』シリーズを紹介しましょう。ボーカル、ドラマー、ギタリストの各パートを演じることができる、協力プレイ前提の「音ゲー」です。音楽にあわせて正しくデバイスを操作することでスコアが伸び、逆に、操作をミスするたびにスコアが下がります。ミスを重ねすぎたプレイヤーは、退場させられてしまいます。

 あなたが友達とプレイするとき、全員でゲームオーバーにならないようにお互いが「助け合う」こともできます。ベーシストが退場しても、ギタリストは見事なソロプレイを演奏して仲間を復活させることができます。もしドラマーが失敗しても、ヴォーカルが完璧にサビを歌いきることで、再びドラマーをゲームに戻すことができます。自分が失敗しても、完全退場させられる前に他のバンドメンバーによって二度まで復活させてもらえます。重要なのは、この復活が他のバンドメンバーの努力に依るということです。1人の失敗が残りのメンバーのよいプレイを後押しするのです。

――ジェイン・マクゴニガル『REALITY IS BROKEN 幸せな未来は「ゲーム」が作る』p110-111

 

『ロックバンド』は、リスポーンがプレイヤーの協力を促す好例でしょう。

 リスポーンの存在は、ポジティブとネガティブの2つの側面からプレイヤーの協力を促します。

 まずポジティブな側面からいえば、上記引用の通りです。味方が死んでしまったときほど、良いプレイをして不利を取り戻そうという気持ちにさせられます。人間は、誰かから感謝されることを喜ぶ動物です。味方のリスポーンに成功したときほど、深く感謝されることはありません。

 ネガティブな側面を指摘すれば、ヒトは他人に迷惑をかけたがらない動物だという点を指摘できます。先述の通り、APEXでのリスポーンには手間とリスクがかかります。仲間よりも一足先に死亡してしまうと、彼らの負担を増やしてしまうのです。リスポーンの存在により、味方と足並みを揃えようとするインセンティブが強まるのです。APEXのシステムは、自分の命はもちろん、仲間の命も守るようなプレイを心掛けるように促します。

 

 TTKの長さ、特殊能力のシナジー、リスポーンの存在――。

 APEXは、ゲームシステムのいたるところにプレイヤー同士の協力をうながす〝仕掛け〟が施されています。1人で遊んで楽しいゲームは、友達と遊べばもっと楽しい。そんな開発陣の思想を感じます。

「ピン」の種類が豊富なことも、そういう思想の表れでしょう。

 バトロワ系のゲームでは、大抵、目的地や敵の位置を示す目印として、マップに「ピン」を刺すことができます。PUBGではピンの種類は1つで、ただの目印としてしか使えませんでした。ところがAPEXには、じつに8種類ものピンが用意されています。「ここに行こう」「ここに敵がいる」「ここを防衛する」等々……。たとえボイスチャットを繋いでいなくても、最低限のコミュニケーションが取れるようになっているのです。

『APEX Legends』がヒットするうえで、「協力を促すデザイン」の果たした役割は大きいと思います。パンデミック下で退屈している人々が、もっとも欲しがっているものを――他の誰かとの交流を――提供したのです。

(※なお、同じことは『Among Us』のような人狼系ゲームにも当てはまると思います。リアルでの交流が難しい時代、アクションゲームが苦手な人はオンラインの人狼系ゲームで、嘘をつくのが苦手な人はAPEXで遊んでいる……と言ったら、雑にまとめすぎでしょうか?)

 

 

▼細かな点:すべてが気持ちいい

ゲームデザインでは、小さな〝楽しさ〟の積み重ねが、大きな楽しさに繋がっていく」という話を耳にしたことがあります。

 たとえばテトリスの場合、ただブロックが落ちてくるのを眺めているだけでも退屈しのぎになります。子供の頃に、アリの行列や、流れる川の水、舞い散る桜の花びらを飽きずに眺めてしまった経験がある人は珍しくないでしょう。何かの動きを観察しているだけでも、私たちヒトの脳は(ごく小さな)楽しさを感じるように出来ています。

 テトリスでは、ボタンを押せばブロックが動きます。当然、眺めているよりも楽しい。ブロックを一列に並べれば、消えます。ただブロックを動かすだけよりも楽しい。さらにブロックを四列いっぺんに消せば、大量のスコアが手に入ります。一列を消すだけよりも楽しいはずです。そしてブロックを消すほど、ゲームのスピードは速くなり、刺激は強くなっていきます。

 このようにテトリスでは、小さな楽しさの積み重ねが、大きな楽しさに繋がっているわけです。私たちがテトリスに夢中になる理由です。

「(テトリスは)操作に対するフィードバックが速く、フィードバックを繰り返すごとに刺激が強くなっていく」と言い換えてもいいでしょう。テトリスのような中毒性の高いゲームの特徴です。

(※この話は、たしか『Gears of War』のクリフ・ブレジンスキーが何かのイベントで講演した内容だと記憶しているのですが……残念ながらソースを失念してしまいました。もしもソースに心当たりのある方がいれば、教えていただければ感謝甚大です)

 

『APEX Legends』にも、同じことが当てはまります。

 操作感とグラフィック、効果音が練り込まれており、ただキャラクターを動かしているだけでも「気持ちいい」のです。

 たとえばAPEXは、一般的なFPSよりもスライディングで滑れる距離が長めに、よじ登れる壁の高さが高めに設定されています。移動速度を上昇させる能力を持つキャラクターも珍しくありません。「マップを縦横無尽に走り回る快感」を得やすいデザインだと言えるでしょう。

 また、効果音にも製作者のこだわりを感じます。文章での説明は難しいのですが――。たとえばアイテムボックスを開封するときの音、ドアを開けるときの音、アイテムを拾うときのカシャカシャという音。あらゆる操作に対して、効果音によるフィードバックがあります。「ボタンを押すだけで音が鳴る」というのは、現在のゲームデザインでは常識です。が、APEXではそれら効果音の1つひとつに心地よい音色が設定されているのです。

 APEXは、遠い未来が舞台のSFです。そのため、キャラクターは銃で撃たれてもすぐには死にません。堅いアーマーを装備しているため、それをまずはそれを剥がさなければ、ダメージを与えられないです。敵に弾を当てると、キラキラとしたアーマーの破片が飛び散り、キンキンと涼しい金属音が鳴ります。

 まとめましょう。

 APEXは、ただ歩き回っているだけでも楽しく、スライディングや壁を登っているだけでも楽しいと感じられます。ドアを開けて、アイテムを拾い集めているだけで楽しく、敵に弾を当てるとさらに心地よい音とグラフィックで脳を刺激されます。小さな楽しさの積み重ねで、大きな楽しさを生み出すというデザインが徹底されているのです。

 APEXの中毒性の高さを説明する上で、こういう細かな部分のデザインも無視できないでしょう。神は細部に宿るのです。

 

『APEX Legends』の〝気持ちよさ〟には、開発会社Respawn Entertainmentの研究成果を感じます。

 このゲームは元々、『Titanfall』シリーズのスピンオフとして開発されました。しかし『Titanfall』シリーズの〝売り〟の1つだった派手なゴア表現が、APEXではオミットされているのです。

『Titanfall』シリーズでは、敵を倒すと血しぶきと共に四肢がバラバラになり、肉片が飛び散りました。日本では規制されるレベルの、激しい残酷描写のあるゲームだったのです。当時、欧米のハイエンドゲームではゴア表現が流行しており、どれほど残酷な描写ができるかを競い合うような状況でした。

 日本のみならず、世界中で「残酷描写は必要なのか?」という議論が巻き起こりました。

 APEXで遊んでいると、この議論に対するRespawn社なりの回答を感じます。

 なぜゴア表現が(少なくとも一部のプレイヤーには)快感なのかといえば、敵を倒したときに「倒した!」とハッキリと分かるフィードバックだからです。言い換えれば、心地よく感じられるフィードバックであれば、どんなものでもいいし、四肢切断である必要はないわけです。

 APEXでは敵に弾が当たると、血しぶきの代わりにアーマーの破片が飛び散り、軽やかな金属音や、布に穴をあけるときのような音が聞こえます。敵を銃で撃つという剣呑なゲームでありながら、残虐性を抑えて、グロさよりも心地よさを感じられるようにデザインされているのです。

 

 

▼勝てないからこそ面白い

『APEX Legends』は神ゲーです。

 しかし万人にオススメできるかと訊かれたら、ちょっと悩みます。APEXはどこまで行ってもFPSであり、FPSは万人に(とくに日本人に)オススメできるジャンルではないからです。

 FPSで遊んだことのない人には、まず「3D酔い」の壁が立ち塞がります。私自身、先日コントローラーの感度設定を変えたところ、激しい3D酔いに悩まされました。体が慣れて酔いを感じなくなるまでに、20時間ほどのプレイが必要でした。私はAPEXの面白さをすでに知っているので我慢できましたが――。普通は1時間も耐えられないでしょう。

 また、FPSボードゲームよりもフィジカルスポーツに近いジャンルであることも、初心者へのハードルを高めています。高度な戦略・戦術を実現するためには、体で覚えて「考えなくてもできること」を増やしていく必要があるのです。

 たとえばピアニストは演奏中に鍵盤を見ません。小説家は執筆中にキーボード配列のことを考えません。考えなくても正確なキーを叩けるからこそ、他の、もっと高度なことに脳のメモリを使えるのです。

 FPSも同様で、考えなくもできることが増えるほど、より高度なプレイングに挑戦できるようになります。しかし、そのためには反復練習が必要です。毎日30分間ずつ訓練モードに潜って、ダミーを撃ち続ける――。そういう地味な基礎練習が必須なのです。たかがゲームに、そんな努力をしたくない人は珍しくないでしょう。

 しかし反復練習の必要性は、FPSの面白さの本質でもあります。

 勝つのが楽しいのではなく、強くなることが楽しいのです。

 

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著者のシーズンごとの成長の軌跡

 前回の記事では、APEXでは20回に1回しか勝てないと書きました。平均的な人でも、95%の試合では敗北します。初心者なら、この数字はもっと悪化します。「そんなゲームの何が面白いのか?」という疑問の答えは、「勝つことは面白さの本質ではないから/少なくとも、面白さのごく一部でしかないから」でしょう。

 たとえばテトリスは、基本的には勝利の存在しないゲームです。現在でこそステージクリアの概念が導入されていますが、テトリスの基本ルールに「勝利」はありません。ブロックを消すごとに難易度はどんどん高くなり、やがてどんなプレイヤーでも敗北します。言い換えれば、私たちは負けるためにテトリスを遊んでいるわけです。

 それでも、クリアの概念が導入される以前から、テトリスは中毒性が高いゲームとして知られていました。ゲームの面白さにとって勝つことは大して重要ではないことを示す良い例です。

 

 私にとって、FPSの面白さは成長を実感できることです。

 自分には限界などない(かもしれない)と感じさせてくれることです。30代半ばを過ぎて衰えを感じる機会の増えた今でも、何かのスキルを伸ばすことができる――。FPSはそれを教えてくれます。

『APEX Legends』を楽しむ上で必要なのは、FPSの経験でもゲームセンスでもなく、一緒に遊ぶ友達でしょう。オススメの練習方法を共有したり、参考になる解説動画をシェアしたり、そしてもちろん一緒に試合に潜ったり。中学・高校時代の部活動のような楽しさを、オンラインで楽しむことができます。

 このゲームの人気がいつまで続くかは分かりません。

 今がピークかもしれませんし、さらに裾野が広がるかもしれません。

 いずれにせよ、イノベーター理論でいうところのアーリーアダプターを超えて、アーリーマジョリティにまで広がりつつあるという印象を抱いています。このゲームで遊んでいれば、まだ知らない誰かと出会えるでしょう。友達になれるでしょう。

 だからこそ――。

 私のプレイした2300時間が無駄だったとは、まったく思いません。

 それどころか、まだ足りないとさえ感じるのです。

 

 

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くらげバンチにて『神と呼ばれたオタク』が連載中です。

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▼参考文献▼

[8]『Ghost of Tsushima』──剣術や時代劇などが“戦闘”に与えた影響を開発スタッフが徹底解説!【特集第1回】 – PlayStation.Blog 日本語