女騎士、経理になる。／第7話「ブラック・スワン」(3)

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▼夕刻、西岸港の広場──。
かがり火 ﾊﾟﾁ…ﾊﾟﾁ…
　ﾜｲﾜｲ…
　　ｶﾞﾔｶﾞﾔ…
黒エルフ「すごい人出ね」
女騎士「ここにいるのはみんな船乗りか。探せば腕のいい航海士も見つかりそうだ」
黒エルフ「そうね。でも、まず用事を済ませましょ。司祭補さまに──」
女騎士「…む？」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

黒髪船員「…じゃあ、何だ？俺がイカサマをしたってのか？」
金髪船員「そうだ！そのサイコロには細工がしてあるんだろ!?」
黒髪船員「ハッ！細工なんてくだらねえマネするかよ。てめえの判断がマズいだけだ。そんなボンヤリした頭で、よく船乗りが務まるもんだ」
金髪船員「んだとぉ!!」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

金髪船員「二度と静索(シュラウド)を登れない体にしてやる！」ﾁｬｯ
黒髪船員「ああ？やんのか？このフジツボ野郎！」ﾁｬｯ

黒エルフ「…まったく船乗りは、バクチ好きなうえにケンカっ早いんだから」
女騎士「しかし、あれはマズい。刃物を出したぞ──」

？？？「はーい、そこまで～」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

金髪船員「これは…」
黒髪船員「…司祭補さま！」

司祭補「あらあら、うふふ♪こんな町中でナイフを振り回すなんて穏やかではありませんわ。いったい何があったのかしらぁ？」
金髪船員「そ、それは…こいつが俺の腕前を疑ったからで…」
黒髪船員「先にケンカを売ってきたのはこいつです！」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

司祭補「…なるほど、お話は分かりました。それでは船乗りらしい方法で決着をつけたらいかがかしら？」
金髪船員「俺たちらしいやり方…」
黒髪船員「…と、申しますと？」
司祭補「お二人も新大陸へのレースに参加するのでしょう。でしたら、どちらの船が先に真鱈岬に着くかで勝負なさったら？」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

金髪船員「司祭補さまがそうおっしゃるなら…」
黒髪船員「…まあ、そういうことにしましょう」ｼﾌﾞｼﾌﾞ
司祭補「海上で吹く風は精霊さまの思し召しです。どんな勝敗の結果になっても、それを覆そうとしてはいけませんよ？」
金髪船員「わ、分かりました」
黒髪船員「お見苦しいところを…」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

▼西岸港、仮設教会──。
女騎士「…先ほどは見事な采配だったのだ」
司祭補「この町では日常茶飯事ですわ♪」
黒エルフ「ここにはあんな船乗りが毎日来るんでしょ？大変ね」
司祭補「臨時の仕事とはいえ、レース参加者の無事を祈るのがわたしの役目です。この町に来て1週間…もう慣れましたわ」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

黒エルフ「この町に来ているのは、船乗りだけじゃないでしょ？」
司祭補「ええ。先ほど王さまも到着されて、この教会にもお見えになりました」
女騎士「だが、やはり…」
司祭補「身辺はおつきの方だらけ。とても一対一でお話しできる状況ではありませんでしたわ」
黒エルフ「もどかしいわね…」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

女騎士「それで、私に渡したいものがあるのだったな」
司祭補「はい。こちらの『暦表』ですわ」
女騎士「暦表？」
司祭補「精霊教会の本部が先日、新たに改定した暦です。これを新大陸に運んで、向こうで広めてほしいのです」
女騎士「いいだろう。私は新大陸に渡らねばならん」
黒エルフ「…」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

女騎士「向こうでメイドを探し出して、できれば勇者とともに魔王を討伐せねばならん。それに、オークさんの町を滅ぼした『ニセ勇者』の謎もある。…だから私は、レースに参加する船に同乗するつもりだ」
司祭補「本当はわたしもご一緒したいのですが…」
女騎士「帝都に呼び戻されたのだったな」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

司祭補「はい。精霊教会の本部で何か大きなお仕事を与えられそうなのです」
女騎士「王さまにご進言するチャンスを探るなら、帝都のほうが都合がよかろう」
司祭補「おっしゃるとおりですわ。この機会に、派兵を遅らせる方法を探ってみます。『副都の悲劇』がこちらの大陸で起きるのを防がなくては」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

司祭補「…それで、ダークエルフさんはどうなさいますの？」
黒エルフ「あたしは──」
女騎士「訊くまでもない。港町に残って銀行の仕事を続けなければならん。そうだろう？」
黒エルフ「え、ええ…。港街貿易株式会社の事業も軌道に乗ってきたし…。今、あの町を離れるわけにはいかないわ」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

司祭補「あらあら、まあまあ…。本当にそれでよろしいのかしらぁ…？」
黒エルフ「！」ｷﾞｸｯ
女騎士「あはは！当然なのだ。剣を操るのはこの私が、数字を操るのはこのダークエルフの得意とするものだ。適材適所なのだ」
司祭補「理屈ではそうなります。ですが、ダークエルフさんのお気持ちは…」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

黒エルフ「べ、別に？そいつの言うとおりよ！新大陸の仕事はそいつのほうが向いているし、港町での仕事はあたし以外に任せられる人がいないわ。本当…そいつの言うとおり…」
司祭補「あらあら、まあまあ…」
女騎士「司祭補さまこそ、いったい何を心配しているのだ？」
司祭補「いえ…」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

司祭補「…ともかく、出航まであと数日ありますわ♪たぶん明日の夜には時間が作れると思います。どうでしょう、出発前にお食事でも？」
女騎士「うむ、三人で揃う機会はしばらく無さそうだ。ぜひ私たちの宿にお招きしたい。…お前もそれでいいだろう？」
黒エルフ「え？…ええ…」
女騎士「ふむ？」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

女騎士「妙に歯切れの悪い返事だな。イモでも食べ過ぎたのか？」
黒エルフ「んなわけないでしょう！あたしはただ──」

ﾜｲﾜｲ…
　ｻﾞﾜｻﾞﾜ…

ｶｰﾝ…ｶｰﾝ…

女騎士「…外が騒がしいな」
司祭補「こんな時間に灯台の鐘が鳴らされていますわ」
女騎士「見に行ってみよう！」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

▼西岸港、海岸──。
女騎士「…月明かりで遠くまで見えるのだ」
黒エルフ「もうすぐ満月ね」
司祭補「あっ！あれをご覧になって！」

漕ぎ手 ｴｯｻﾎｲｻ…

女騎士「ふむ…。あのボート、漕ぎ手を満載にしているのだ」
司祭補「その後ろですわ！ボートに引かれて、船が港に入ってきます」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

黒エルフ「大きくて、すごく綺麗な船…」
女騎士「うむ。細長い船体に、天を突くようなマスト…」
見物人「…あんたら知らねえのかい？あれが『黒鳥号』だよ」
司祭補「まあ！つい最近、海賊から取り戻したという？」
見物人「ああ。海賊も一緒に乗せてきたそうだ。この町で裁判するんだと」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

見物人「ほら見ろよ」

ﾜｲﾜｲ…
　ｻﾞﾜｻﾞﾜ…

衛兵長「…さっさと歩け！」ｸﾞｲｯ
剣衛兵「そうだ！さっさと歩くんだ！」ｸﾞｲｲｯ

女コボルト ﾄﾞｻｯ

槍衛兵「なに寝っ転がって休んでるんだ！」
盾衛兵「…は、早く立ち上がってください！」

女コボルト ｷﾞﾛﾘ…

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

群衆（あれが『死者の銃爪(デッドマンズ・トリガー)』の船長？）
群衆（そうだ。メスのコボルトの朱眼船長(キャプテン・レッドアイ)だよ）
群衆（本当に犬の頭をしているのね…）

朱眼船長 ｸﾞﾙﾙ…

群衆（なんと忌まわしいうなり声だ…）

衛兵長「こら！大人しくしろ」ﾊﾞｼィ!!

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

女騎士「…鎖に繋がれているのは、コボルトにゴブリン、リザードマン。低級の魔族ばかりだ」
黒エルフ「しかも全員女だわ」
司祭補「新大陸沿岸を荒らし回ったそうですわ」

群衆（大悪党めーッ！）
群衆（地獄に落ちろーッ！）

ﾋｭﾝ…ﾋｭﾝ…

衛兵長「こ、こら！石を投げるな！」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

衛兵長「裁判が済めば、こやつらにはキツい罰が与えられるはずだ！投石をやめろ…いてっ…我々にまで当たるではないか！」

ﾋｭﾝ…ﾋｭﾝ…ﾄﾞｶｯ

朱眼船長「ぐ…」

群衆（おおっ、当たった！）
群衆（いいぞ、やっちまえーｯ!!）
群衆（裁判なんか待ってられるか！ここで死ね～!!）

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

漁民の幼女 ｵﾛｵﾛ…
野次馬「どうした、おチビさん。海賊を見物に来たのかい？」
漁民の幼女「ううん。ママと一緒に来たんだけど、迷子になっちゃったの…」
野次馬「よし、じゃあママはあとで探そう。今はあの海賊に石を投げるんだ」
漁民の幼女「ええ…。コボルトさん痛そうだよ…？」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

野次馬「どんな痛い目に遭おうと、やつらの身から出たサビさ。…さあ、石を投げるんだ！さあ、この石を握って！」
漁民の幼女「や、やだよぅ…」
野次馬「いいから石を握るんだ!!」
漁民の幼女「…あっ！」ﾄﾞﾝｯ

石 ｺﾛｺﾛ…

黒エルフ「ひどい！女の子が突き飛ばされたわ！」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

女騎士「しかも朱眼船長の真ん前だ！くそっ──」ｽﾁｬｯ
司祭補「いいえ、お待ちになって！」

朱眼船長 ｼﾞﾛｯ
漁民の幼女「あ…ああ…」

群衆 ｺﾞｸﾘ…

朱眼船長「この石は、お前が落としたのか？」
漁民の幼女 ｺｸｺｸ

衛兵長「き、貴様！子供から離れろぉ！」

— Rootport (@rootport) 2016年9月4日

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