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▼銀行家の邸宅、馬具置き場──。 パタパタ…バタンッ 幼メイド「勇者さまぁ~!たいへんですぅ~!」 勇者「そんなに慌てて…何があったの?」 幼メイド「衛兵さんたちが、いーっぱい来たのです!たぶん、勇者さまのことをお探しなのだと思います~!」 勇者「…僕のことを?」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
幼メイド「いんぼーのしゅぼうしゃが衛兵を差し向けたのだろう…って、だんなさまはおっしゃっていました!」 勇者「そんなことができるほど、相手は地位の高い人間なのか?…それで銀行家さんは!?」 幼メイド「だんなさまは応接間で、『じじょーちょーしゅ』されています~」 勇者「そんな…」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
勇者「…僕を匿っていたことがバレたら、銀行家さんの身が危ない!」 衛兵(…よし!次はこの厩舎だ!)バタンッ 衛兵(どんな小さなドアも見逃すな!)バタバタ 幼メイド「はわわ~!もうすぐそこまで来ているのです~!」 勇者「この部屋、裏口は?」 幼メイド「ありません~!」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
幼メイド「勇者さま!『ワープのひも』を使ってお逃げください~!」 勇者「そんなことはできないよ!」 幼メイド「なぜです~?」 勇者「だって、この部屋の様子を見れば、誰かがここで生活をしていたことは一目で分かる。馬具置き場なのに、だよ?怪しまれるよ!」 幼メイド「そ、それが…?」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
勇者「そんな怪しい部屋に、君が1人で残されていたとする。きっと衛兵たちは、手段を選ばず君を尋問するはずだ!」 幼メイド「そ、そんなぁ~」 勇者「…最悪、拷問されるかも」 幼メイド「ひぇぇえ~」 衛兵(おい!そっちはどうだ?)バタン!! 衛兵(いいや、誰もいない…)ガタン!!
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
衛兵(…待ってくれ!ドアが1つ残っていた!) 衛兵(どうやら馬具置き場のようだな…) 幼メイド「はぅう~!もう時間がないのです~!」 勇者「くそっ!いったいどうすれば…!?」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
▼帝都、謁見の間──。 秘書「有限責任制の株券には、重大な欠陥があります。それは、経営者たちが真面目に仕事をしなくなることです!」 女騎士「私たちが仕事をサボると言うのか?侮辱と受け取るぞ!」 黒エルフ「まあ、話を聞いてあげようじゃない」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
秘書「無限責任制のもとでは、破産したら負債を支払わなければなりません。だからこそ株主からの監視が厳しくなり、経営者は真剣に仕事せざるをえません」 色白青年「…それに加えて、経営者自身が株主という場合も多いと聞きますね」 秘書「破産させないよう、責任感を持って仕事をするはずです」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
ショタ王「…有限責任制のもとでは、経営者にはそのような責任感が生まれないのだな?」 秘書「さようでございます。株主からの監視の目が緩み、経営者はずさんな浪費を繰り返すようになるはずです。破産しても負債を支払う必要はなく、それまでに受け取った役員報酬や給与で懐を潤せるのですから!」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
女騎士「私たちが、そんな詐欺まがいのことをすると言うのか!これほどの愚弄を受けるとは…」フルフル 黒エルフ「いいえ。悔しいけど、あの男の指摘は正しいわ。有限責任制のもとでは、経営者が仕事をサボる危険性がある。自分自身は株券を持たない『雇われ経営者』なら、なおさらでしょうね」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
色白青年「そんな危険性があるなら、誰も出資者になろうとしないのではありませんか?有限責任制の株券で、本当にカネが集まるのでしょうか…?」 黒エルフ「だからこそ、王さまに出資して欲しいのよ」 ショタ王「ぼくに?」 黒エルフ「どんな商人だって、王さまを裏切るのは相当な勇気がいるわ」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
黒エルフ「王さまが出資したとなれば、経営者は期待に応えるために真剣に仕事をするはず。王さまが株主になることが、経営者が責任感を持つという証拠になるのよ」 色白青年「その結果、出資者が集まるはずだ、と…」 ショタ王「あはは、たしかに!ぼくを裏切ったら打ち首だからね」 財務大臣「…」
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秘書「国王陛下、どうかよくお考えください」 財務大臣「この者たちが陛下を裏切らないという保障はないのですよ!」 ショタ王「たしかに…。口約束だけで人を信じるのは、王としてふさわしくない、かな?」 財務大臣「おっしゃるとおりです!」 黒エルフ「そこで、財務大臣にお願いがあるわ」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
財務大臣「…は?私に?」 黒エルフ「あたしたちの港街貿易株式会社は、決算のたびに『決算資料』を公開するわ。経営者たちが真面目に仕事をしている証拠として、誰でも読める資料として発表するつもりよ」 秘書「な…っ!経営状態を公表してしまうのですか!?」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
財務大臣「ふんっ、何の意味がある!資料にウソが書かれているかもしれないではないか!」 黒エルフ「ご指摘ごもっとも。資料にウソが無いことを証明するために、あたしたちの会社の帳簿を調べてもらいたいの。ほかでもない財務大臣にね」 財務大臣「へ?」 黒エルフ「大臣ほどの適任者はいないわ」
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黒エルフ「大臣はあたしたちにあまり好意的ではないようだから、帳簿のどんな小さな間違いも見逃さないでしょう」 財務大臣「…」パクパク 黒エルフ「何より、人間国の金庫を預かっている方ですもの。お金の管理は誰よりも得意なはず」 ショタ王「大臣が確認してくれるなら、ぼくも安心だよ」
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黒エルフ「正しく帳簿をつけて、正確な決算資料を開示することを、『会計責任(アカウンタビリティ)』と呼ぶわ。そして、会計責任が果たされているか調査することを『会計監査』と呼ぶ。大臣には、これをお願いしたいの」 ショタ王「ぼくからもお願いするよ。彼女たちの会社に安心して出資できる」
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財務大臣「…か、かしこまりました」 秘書「信じられない…。第三者に帳簿や資料を見せてしまうなんて…」 色白青年「しかし、有限責任制の株式会社をきちんと経営するには必要なことなのですね」 ショタ王「第三者の目が入るからこそ、正しい帳簿をつける動機が生まれるのだな」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
ショタ王「いいだろう、お前たちの会社に出資しよう」 女騎士「おおっ!感謝します!」 ショタ王「くれぐれも間違いのない帳簿をつけるのだぞ。これは勅命だ!」 黒エルフ「当然よ。正しい帳簿さえあれば、あたしは世界だって救ってみせる──」
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▼数日後、港街──。 馬 ポクポク… 女騎士「国王陛下に出資してもらえてよかった!これで一安心なのだ」 黒エルフ「なにが一安心よ。王さまに出してもらったカネじゃ、必要な額の50分の1にしかならないわ。出資者を集めて、船団を組んで、貿易を再開する…。ここからが本当の勝負よ」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
黒エルフ「…それに勇者の件もあるわ」 女騎士「そうだな。新大陸への遠征は中止か、少なくとも延期させねばならん…」 黒エルフ「魔族ってそんなにヤバい存在だったのね」 女騎士「もしもやつらが侵攻してきたら〝副都の悲劇〟の再来になる。それも、人間国の全土でな」 馬 ポクポク…
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
銀行家「…あっ!女騎士さん!ダークエルフさん!」 司祭補「お待ちしていましたわぁ~!」 女騎士「む?あれは銀行家さんではないか…?」 黒エルフ「妙に青ざめた顔をしているわね」 女騎士「…私たちの留守中に、何かあったのか?」 銀行家「じつは、衛兵たちに家宅捜索を受けました…」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
司祭補「おそらく、勇者さんを探していたのだと思いますわ」 黒エルフ「なんですって…?」 女騎士「それで勇者は?」 銀行家「無事に逃げおおせたようです。使用済みの『ワープのひも』が残っていました。私たちが彼を匿っていたこともバレていません」 女騎士「そうか、良かった…」ホッ
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
女騎士「…では、なぜそんな青い顔をしているのだ?」 銀行家「勇者とともに、マリアも姿を消しました」 黒エルフ「マリア?」 司祭補「銀行家さんのお宅でご奉公していたメイドさんですわ!」 女騎士「なっ…」 黒エルフ「…あのメイドが!?」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
▼古いアパート──。 幼メイド「…ん~、むにゃ…」 幼メイド「ふわー、よく眠ったのです~!」ノビー 幼メイド「…あっ!新しいケーキのレシピを思いつきました!弟たち妹たちがきっと喜んでくれるはず…」 幼メイド「…って、ここはどこです?」 ???「よかった、気がつきましたね」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
僧侶「…初めての『ワープ酔い』で、あなたはずっと眠っていたんですよ」 幼メイド「わ、ワープ酔い?」 商人「おっ、何や!やっと目が覚めたんか!」 賢者「…よかった。無事で」 幼メイド「ふぇえ~、おねーさんたちはどなたなのです~?だんなさまはどちらにいるのでしょうか~?」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
僧侶「落ち着いて、窓の外を見てください」 幼メイド「窓の外を?…ふみゃっ!?」 商人「驚いたやろ?魔国の首都『魔都』やで。あそこのゴッツい建物が魔王の居城や」 賢者「ここは、私たちの隠れ家…」 幼メイド …パタリ 賢者「…あ。また倒れた」 僧侶「だ、大丈夫ですか!?」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
幼メイド「ばたんきゅ~」 商人「あちゃー、完全に気ぃ失っとるわ」 賢者「刺激、強すぎ…?」 僧侶「し、しっかりしてください!もしもーし!」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7
『女騎士、経理になる。』 第6話「エクイティ」 ▼▼▼おしまい▼▼▼
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 7