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▼西岸港、執務室──。
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
財務大臣「…というわけだ。申し訳ないが、頼まれてくれるか?」
家臣「もちろんです。大臣さまの命ならば、火の海にも涼しい顔で飛び込みましょう」
財務大臣「ふふふ、じつに頼もしい。では、本日をもってお前に暇を言いつける」
家臣「ハッ!仰せのままに」
財務大臣「帝都商船のほうでは、お前を受け入れる準備がすでにできているはずだ」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
家臣「帝都銀行の傘下の貿易会社ですね」
財務大臣「さよう。いわば天下りだな。あの会社なら、間違いなくお前を真鱈岬へと運んでくれるだろう」
家臣「新大陸における大臣さまの連絡役、必ずや務めてみせます」
家臣「しかし大臣さま、本当に帝都商船がレースに勝ち、要塞の管理権を得られるのでしょうか?大臣さまのお考えを疑うわけではありませんが…」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
財務大臣「心配にはおよばん。ここだけの話、とっておきの船があるのだ」
家臣「とっておきの…?」
財務大臣「黒鳥号だ」
家臣「なっ!あの船が!?」
家臣「半世紀前に造られた、世界にたった1隻しかない高速帆船だと聞いております」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
財務大臣「さよう。数百年は時代を先取りした船だと言われておる」
家臣「私が大臣さまにお仕えし始めたころに、海賊に奪われたはずですが…」
財務大臣「捕まったのだよ、その海賊が」
家臣「おお…、あの海賊『死者の銃爪(デッドマンズ・トリガー)』がついに捕らえられたのですね」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
財務大臣「乗組員は、やはり全員魔族だったそうだ。船長(キャプテン)のメスのコボルトを始め、半分ほどを生け捕りにできたという話だ」
家臣「それで、やつらの乗っていた黒鳥号は?」
財務大臣「黒鳥号のもとの持ち主はとっくに死んでおる。政府の財産にしてもいいが…この町で競売を行い、払い下げることにした」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
家臣「払い下げる?では…」
財務大臣「ふふふ、察しがいいな。競売の参加者は息のかかった者ばかりだ。間違いが起きないかぎり、黒鳥号は帝都商船の手に渡るはずだ」
家臣「では、私もその船に乗ればよろしいのですか?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
財務大臣「いいや。帝都商船は大きな船団を組んで今回のレースに臨むそうだ。お前は船団の旗艦に乗船してほしい。黒鳥号は、あくまでもレースで勝つための駒にすぎん」
家臣「かしこまりました。…やはり、レースは中止できそうにないのですね」
財務大臣「陛下からの返事はない。なんとしてもレースを開催するおつもりのようだ。…まったく、子供じみておる。レースだと?手紙に書いたとおり、要塞の管理は帝都商船に任せればいいではないか!」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
家臣「恐れながら…。万に一つの不運でレースに敗れたら…?」
財務大臣「敗北は許さん」バンッ
家臣「し、失礼をどうかお許しください。お尋ねするまでもないことでした…」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
財務大臣「いや、いい。相手は海だ、たしかにお前の言うとおり何が起きるか分からんからな…。じつを言えば、間違いが起きた場合の策はすでに考えてあるのだ。耳を貸せ」
家臣「ハッ!ぜひお知恵をお授けください──」
▼西岸港、商館の一室──。
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
ぴらっ
黒エルフ「履歴書を拝見したけど、すばらしい経歴ね」
眼鏡航海士「ふふふ、そうですかな?」ニコッ
黒エルフ「ね、あんたもそう思うでしょ?」
女騎士「あ?ああ…」
黒エルフ「華国との貿易船に長らく勤務して、新大陸への航海も十指に余るほど経験…」
黒エルフ「…あなたほどの航海士なら、引く手あまたでしょうね」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
眼鏡航海士「いやいやお恥ずかしい。…じつは、すでに3つほどの貿易会社から内定を頂戴していますよ」
黒エルフ「もう心は決まっているの?」
眼鏡航海士「いいえ、そこは報酬次第ですなぁ…」
女騎士「…うぐ…」
眼鏡航海士「うぐ?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
女騎士「…い、いや。なんでもないのだ。なはは」
黒エルフ(ちょっと!しっかりしてよね?レースに勝つには、絶対にこの人が必要なのよ!?)
女騎士(す、すまん…)
黒エルフ「こほん…。報酬次第ということは、いちばん高給な会社を選ぶということかしら?」
眼鏡航海士「報酬の金額もそうですが…現物で支払ってくれることも条件の1つですな」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
黒エルフ「現物?」
眼鏡航海士「硬貨ではなく、金や銀で報酬を支払ってほしいのです。仕事柄、人間国の硬貨が使えない地域に行くことも多いので」
女騎士「…ひんっ…」
黒エルフ「!」
眼鏡航海士「?」
黒エルフ(なんなのよ、さっきから!面接中よ?集中しなさいよ!)
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
女騎士(す、すまない…)
黒エルフ(体調でも悪いの?)
女騎士(そんなことは…くぅ…!!)
黒エルフ(嘘おっしゃい。どう見ても今日のあんたは変よ)
女騎士(…せ、西岸港まで船旅だっただろう?)
黒エルフ(それが?)
女騎士(船の途中では食事にイモがよく出ただろう…)
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
黒エルフ(そう言えばあんた、パクパクと景気よくおイモを食べていたわね)
女騎士(あらゆる物事には、それに相応しい結果がともなうものだ)
黒エルフ(もったいぶった言い方しないでよ)
女騎士(つまり、その…イモの食べすぎでお腹が…)
黒エルフ(お腹がゆるくなったの?なら、さっさとトイレに行ってきなさいよ)
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
女騎士(ゆるくない!ゆるくなってはいない…)
黒エルフ(?)
女騎士(つまり、だな。…問題は気体なのだ)
黒エルフ(気体?おならってこと?)
女騎士(ああっ!そうハッキリと言わないでくれ!恥ずかしぃ…)
眼鏡航海士「あのう…どうされました?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
黒エルフ「い、いいえ!気になさらないで…ハハハ…」
黒エルフ(もうっ!怪しまれちゃったじゃない!)
女騎士(う…うう…)
黒エルフ(早くトイレに行きなさいって)
女騎士(ムリだ)
黒エルフ(は?)
女騎士(立ち上がっただけで暴発しそう…)
黒エルフ(あんたねぇ──!?)
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
眼鏡航海士「…えっと、面接はこれで終わりですかな?私ではおたくの会社の役には立てないので──」
黒エルフ「い、いいえ!そんなことない!ぜひうちで働いてほしいわ!!」
眼鏡航海士「ならいいのですが…。内緒話が長いので不安になってしまいました」
黒エルフ「そ、それで…報酬の件だったわね」コホン
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
眼鏡航海士「はい。さっき申し上げた金額でいかがでしょう」
黒エルフ「妥当な額だと思うわ。金と銀で支払うことにも問題ありません」
眼鏡航海士「それはありがたい!では──」
女騎士「…ぐっ…」
眼鏡航海士「ぐ?」
黒エルフ「!」
黒エルフ「え、えっと!他に何か質問はないかしら?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
眼鏡航海士「はあ、それでは…。船はどのようなものを?」
黒エルフ「うちの会社の貿易船はみんな出払っていて…。いまレースに使えるのは羚羊(レイヨウ)号だけよ。あたしたちもその船に乗ってこの町まで来たの」
女騎士「~~~!」
眼鏡航海士「…そちらのお嬢さんは大丈夫ですかな?青い顔をしてプルプルと震えてますが」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
黒エルフ「ご、ご心配なく。彼女はいつもこうなのよ。…話を続けるけど、羚羊号は3本マストのガレオン船よ。排水量は約400トンで、改修工事のために町に残っていたわ」
眼鏡航海士「ほう、改修工事を…」
眼鏡航海士「…ということは、船底掃除は?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
黒エルフ「済ませたばかりよ。性能は平均的だけど、船乗り次第で気持ちよく走ってくれるはず」
眼鏡航海士「腕をふるう甲斐がありそうですな」ニコッ
黒エルフ「そう言っていただけると嬉しいわ」
眼鏡航海士「では契約書を──」
女騎士「あぅ!」
眼鏡航海士「あう?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
女騎士「い、いや…」
黒エルフ(あんたね、せっかくいいところなのに!)
女騎士(こうも足を引っ張ってしまうとは…。くっ…殺せ!)
黒エルフ(今日ばかりは本当に殺してやりたいわ…)
女騎士(な、何でもいい!早く面接を終わらせてくれ!)
黒エルフ(……)ジトッ
眼鏡航海士「…うーむ、どうやらお取り込みのようだ。契約を交わすのは日を改めたほうが良さそうですな」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
黒エルフ「ま、待って!まだ話は──」
眼鏡航海士「さっきお話しした通り、他の会社からも内定が出ていますから。…もう一度、他社の雇用条件と比較検討させていただけますかな?」
黒エルフ「…わ、分かりました。よいお返事をお待ちしています」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
眼鏡航海士「では、失礼…」
パタリ…
女騎士「あ~、やっと終わったのだ…」ホッ
黒エルフ「なにホッとしてるのよ!レースで勝つにはあの人がどうしても必要だと言ったでしょう!」
女騎士「それは分かっていたのだが…」
黒エルフ「どーすんのよ!うちの会社の航海士で、レースに参加できるような腕前の人はみんな出払っているのよ?あの人ほどの経歴を持つ航海士なんて、そうそう見つからないわ!?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
女騎士「その件だが…あの人はどうも良くない気がする」
黒エルフ「は?」
女騎士「何というか嫌な感じがしたのだ」
女騎士「…面接中、魔剣デュランダルをいつもよりも重たく感じた」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
黒エルフ「そんなあやふやな感覚で採用・不採用は決められないわ。あの人は本当に掘り出し物の人材なのに…」
女騎士「ううむ、それはそうなのだが…」
黒エルフ「はぁ~…まあ、いいわ。もう済んだことだし」
バタン…バタン…
黒エルフ「あの人が契約書を交わしに戻って来てくれることを祈りましょう」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
バタン…
女騎士「はて?…なぜ窓を全開にしたのだ?」
黒エルフ「だって、あんたガマンしていたんでしょ?」
女騎士「ああ、そうか!ずっとガマンしていたら、何だか治まってしまったのだ」
黒エルフ「…!?」
女騎士「いやあ、心配をかけて済まない。あっはっは!…はは、は…。いや、待て。そんな顔をするな。…す、済まない!この通りだ!…こらっ、そ、そこはダメだ!そんなところを触ったら…せっかく治まったのに…うぐっ…くぅ……!!」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
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