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朱眼船長「この石、お前には重すぎるな…」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
漁民の幼女「お姉ちゃん、痛くないの?」
朱眼船長「あたしは石を投げられて当然のことをしてきた。けどな、できればお前みたいな子供には石よりもペンを握ってほしい」
漁民の幼女「なんで?」
朱眼船長「さもないと、あたしみたいになっちまうからさ」
漁民の幼女「お姉ちゃんみたいに…」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
朱眼船長「分かったら、さあ行きな!」
漁民の幼女「…う、うん!」タタッ
衛兵長「子供から離れろと言ってるだろう!」グイッ
剣衛兵「そうだ!言ってるだろう!」グイッ
朱眼船長「…うるさい!」グイッ
衛兵たち「うひゃあ!?」ドサッ
朱眼船長「これが…これが、お前らのやり方なんだな!人間ども!!」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
群衆 ザワッ
朱眼船長「あたしは死ぬのは怖くない。殺したければ殺せ!石を投げたければ投げろ!だがな、裁判で投石刑が下されたわけでも、精霊のお告げがあったわけでもない。お前らは、石を投げたいから投げているだけだ!」
野次馬「何が悪い!悪党のくせに生意気な!」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
朱眼船長「…ああ、悪くないさ。あたしは海賊だ、自分が殺したくなった相手を殺すことに何のためらいもないさ…。だが、覚えておけ!今のお前らは、あたしたち海賊と同じだってことをな!!」
群衆 ザワ…ザワ…
朱眼船長「そして何より──」
朱眼船長「何より許せないのは、お前らの手前勝手な私刑を、子供の前で見せたことだ!嫌いな相手は殺してもかまわないと子供に教えたことだ!」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
群衆 ザ…ワ…
朱眼船長「裁判はこの国の『掟』だろう?お前らは、その掟を破ってもかまわないと、子供に教えるのだな」
群衆 ヒソヒソ…ヒソヒソ…
朱眼船長「あたしら海賊にさえ『掟』がある。掟すら守れないとは見下げ果てた種族だ、お前ら人間というのは」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
群衆 シーン
朱眼船長「…おい、衛兵!」
衛兵長「へ?」
朱眼船長「あたしらを牢に連れて行くのだろう。さっさと歩け」
衛兵長「い、言われなくても…。ほら、行くぞ!」
女騎士「…ふーむ、あのコボルト。海賊ながらに気骨のある人物のようだ」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
黒エルフ「そう?尊大なだけじゃない。あれだから海賊は嫌いなのよね…」
司祭補「ともかく、裁判は明日の正午からだと聞いていますわ」
女騎士「そうか、時間があれば見に行ってみるとしよう…」
▼翌日、西岸港の広場──。
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
裁判官「…以上が、この者たちの罪状である」
朱眼船長「…」
群衆 ザワザワ…
黒エルフ「罪状の読み上げだけで半刻かかったわね」
女騎士「うわさに違わぬ大悪党なのだ」
黒エルフ「やっぱり縛り首かしら?」
司祭補「この国の法律では、海賊はそうなります」
裁判官「ここにいるメスのコボルトと十余名の魔族は、そもそも新大陸南部の農園で養われていた逃亡奴隷であり、それだけでも死罪に値する」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
群衆(そうだそうだー!)
群衆(魔族奴隷の逃亡を許すなーッ!)
ショタ王「うーむ、話のタネに裁判を見にきたが…」
財務大臣「いかがでしたか?」
ショタ王「集まった人々は、妙に嬉々としているように見える」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
財務大臣「見えるだけではありません、実際に喜んでいるのです」
色白青年「裁判と処刑の見物は、庶民にとっては娯楽の1つですからね」
ショタ王「世の中にはもっと面白いものがあるのに…」
財務大臣「彼らはそれを知らんのですよ」
裁判官「…かてて加えて、この者たちは『死者の銃爪』を名乗り、海賊行為を働いた。盗み、殺人、略奪、船舶の破壊・沈没、精霊の冒涜…。およそ想像しうる限りのおぞましい罪の数々を、この者たちは犯してきた!」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
群衆(いいぞ!)
群衆(海賊は縛り首だ!!)
朱眼船長「…」
裁判官「よって次の通り判決を下す。帝都の城門にて吊り篭(ジベット)で1週間晒したのち、中央広場にて引き裂き刑に処す」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
群衆 ワァー!! パチパチ
黒エルフ「引き裂き刑って?」
司祭補「手足に縄を結びつけ、それを馬に引かせて体をバラバラにする処刑ですわ」
女騎士「バカな!」
黒エルフ「バカなと言っても、相手は海賊…極悪人よ?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
女騎士「人間国では、引き裂き刑は王族を殺した者だけに下されるはずだ」
司祭補「もう百年近く、この刑に処された者はいませわ。それに、女子供の犯罪者には適用されません」
黒エルフ「それじゃ…」
女騎士「罪に対して罰が重すぎるのだ」
裁判官「この判決に不服のある者は名乗り出よ!」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
群衆(異議なし!)
群衆(異議なし!)
群衆(異議なし!)
裁判官「では、これよりこの者たちを帝都に移送し──」
女騎士「…待て!!」
裁判官「!」
女騎士「今の判決に疑問がある!説明を求めたい!」
群衆 ザワ…ザワ…
財務大臣「なっ…あれは!」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
ショタ王「うん、間違いなさそうだ。この町に来ていたんだね」
色白青年「女騎士さん…いったい何をするつもりでしょう?」
裁判官「ほう、疑問とは…?」
女騎士「申し遅れた。私はシルヴィア・ワールシュタット。レースに参加するために港町から来た」
黒エルフ(あんた、何のつもり──!?)
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
司祭補(まあまあ…。今は女騎士さんのお話を聞いてみましょう?)
女騎士「…疑問とは、判決の根拠だ。吊り篭と引き裂き刑に処すという根拠が知りたい」
裁判官「先ほど読み上げた罪状を聞いていなかったのか?」
女騎士「いいや、もちろん聞いていた」
女騎士「しかし、海賊は縛り首と決まっているはず。よしんば、それでは贖えないほどの罪を重ねていたとしても、引き裂き刑は女子供には下せないはずだ」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
裁判官「つまり私の判決を疑うのか?政府から裁判権を認められているこの私を?」
女騎士「相手が誰であれ、間違いがあれば正さねばならん」
裁判官「ふむ…言葉には気をつけるべきだな。私に対する反抗は、人間国そのものに対する反逆と見なされるぞ」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
女騎士「そんな話はしていない。ただ、判決の根拠を教えてほしいと言っているだけだ」
群衆 ブーブー
群衆(水を差すなよなー!)
群衆(石つぶてを食らえ!)
ヒュン…
…カンッ
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
群衆(あの女、剣の柄で石を弾き返した!)
群衆(背中を向けたまま振り向きもしなかったぞ!?)
群衆 ザワ…ザワ…
裁判官「勘違いするな。判決への不服とは、刑罰の根拠を疑うことではない」
女騎士「ならば、どんなものが不服として認められるのだ」
裁判官「そうだな…」
裁判官「たとえば罪人が誰かの奴隷である場合だ。奴隷は、その主人の財産だ。裁判官の一存で殺すことはできない。主人の手によって、その奴隷を処罰することになる」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
女騎士「では、私がその者たちの主人になると言ったら?」
裁判官「は?」
女騎士「その者たちを私の奴隷にすると言っているのだ」
司祭補(まあっ!)
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
黒エルフ(──っ!!)
女騎士「おい、朱眼船長(キャプテン・レッドアイ)と言ったな」
朱眼船長「?」
女騎士「お前に航海術の心得はあるか?海図や羅針盤を読み、船を走らせることは?」
朱眼船長「あたしを誰だと思ってる。そんなの朝飯前さ」
女騎士「なら決まりだ」
女騎士「私の会社では、いま腕のいい船乗りを探しているのだ。ぜひ私たちの船に乗って、真鱈岬を目指してほしい」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
朱眼船長「…お前、バカなのか?」
女騎士「なぜだ?」
朱眼船長「決まってるだろう。そんなの──」
裁判官「許さん!許すはずがない!」
朱眼船長「──と言われるからだ」
女騎士「ふむ、なるほど」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
朱眼船長「何より、あたしらのような悪党と一緒に働きたいと本気で思ってんのかい?」
女騎士「無論だ。たしかにお前の犯してきた悪事の数々は眉をひそめたくなるものばかりだった。しかし、お前は殺すには惜しい人物だと見受けたのだ」
朱眼船長「何をふざけたことを…」
裁判官「この魔族たちを今から奴隷にして、船に乗せるだと?ハハハ!そんな勝手がまかり通るはずが──」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
ショタ王「いいや、一考の余地はあるぞ。裁判官!」
群衆 ザワザワ…
裁判官「こ、国王陛下…。恐れながら、この女の言葉に耳を貸すべきだとおっしゃるのですか?」
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