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老看守「まあ、よい。3番独房のお客さんに用事があるのじゃ。そこを通してもらえるか?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
長身看守「はい!喜んで!」
小太看守「どうぞ!」
老看守「うむ、おつとめご苦労じゃ…」スタスタ
長身看守「ふう、チビるかと思った」
小太看守「飲み過ぎたからか?」
長身看守「驚いたからだよ!」
長身看守「老看守さんは今日は非番のはずだろう。まさかお喋りを見咎められるとは思わなかった…」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
小太看守「仕事熱心もほどほどにしてほしいね。そもそも、3番独房のダークエルフにいったい何の用だろう──?」
▼監獄塔、3番独房──。
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
老看守「様子を見に来てみれば…思った以上にやつれておるのう」
黒エルフ「…」
老看守「せめてメシは食べねばダメじゃよ。自慢の肌がガサガサではないか」
黒エルフ「…誰よ、あんた…」
老看守「ははぁ…。わたしの正体も見破れんとは…」
ボフッ
司祭補「そんなふうに捨て鉢になるなんて、ダークエルフさんらしくありませんわ」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
黒エルフ「…何しに来たの?」
司祭補「お友達のことを心配するのは当然です。まして、ごはんをきちんと食べていないなんて話を聞いてしまったら…」
黒エルフ「…本当は、嘲笑(わら)いにきたんじゃないの…?」
黒エルフ「…いつもデカい口を叩いていたやつが、結局最後はこんな場所…。ね、可笑しいでしょう…?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
司祭補「そんなことを言わないでくださいな!決して少なくない人が、ダークエルフさんのことで心を痛めているのですよ」
黒エルフ「…」
司祭補「この広い独房は色白青年さんの取り計らいです」
司祭補「財務大臣さんは、今すぐにも裁判を開きたがっているようでした。わたしから口添えして、それを待ってもらっています。せめてレースの結果が分かるまでは、結論は急がないほうがいいと申し上げたのです」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
黒エルフ「…余計なことをしてくれたわね…」
司祭補「余計なこと、でしたか…」
黒エルフ「…だって、そうでしょ?今さら、長生きしたって意味ないもの…」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
司祭補「まさか、ダークエルフさん…。女騎士さんが亡くなったと思って──」
黒エルフ「やめてよッ!」
司祭補「…!!」
黒エルフ「やめてよ…。それを、口にしないでよ…」
司祭補「ダークエルフさん…」
黒エルフ「だって…シーサーペントに襲われたのよ?…羚羊号が…あの船が…沈んじゃったのよ…?」グスッ
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
司祭補「船には脱出用のボートが積んであったではないですか」
黒エルフ「…あんな小さなボートで…何日生き延びられるっていうの…」
司祭補「そんなに思い詰めないでくださいな…」
司祭補「…ダークエルフさん、手を出してください」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
黒エルフ「手を?」
司祭補「あらあら、うふふ…。小さな手ですわ」ギュッ
黒エルフ「…な、何のつもり…?」
司祭補「大きな仕事を1人で背負うには、小さすぎる手…」
黒エルフ「バカにしてるの…?」
司祭補「いいえ、褒めているのです」
司祭補「レースの結果は、まだ帝都まで届いていません。その知らせが届くまでは、どうか希望を捨てないでくださいな」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
黒エルフ「…」
司祭補「…」ニコニコ
黒エルフ「…ありがと。色々とヘンなことを言ってごめんなさい…」
司祭補「いいえ、お気になさらず♪落ち込んだ人は誰でもああなります」
黒エルフ「だけど、やっぱり…食事は喉を通りそうにないわ…」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
司祭補「そうですか…」
司祭補(…やっぱり、ダークエルフさんは相当参ってしまっているようですわ。早く何とかしないと、本当に取り返しのつかないことになってしまうかも…)
司祭補(女騎士さん、どうかご無事で…)
▼黒鳥号、甲板──。
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
帆布 バタバタバタ…
女騎士「…ううむ、視界が真っ白なのだ」
銀鱗航海士「とはいえ、だいぶ明るくなってきましたね」
朱眼船長「心配しなくても、もうすぐ霧を抜けるよ。船は景気よく走っているんだ」
衛兵長「この濃い霧…。また魔族が潜んでいなければいいが…」
女騎士「とくに魔法の気配は感じないのだ」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
衛兵長「たしかに、見た目にもごく普通の霧のようですな」
剣衛兵「ええ、そうですね」
槍衛兵「へへへ…。またドラゴンが出たら、今度こそおしまいだ…」
盾衛兵「この一週間、休みなく船を走らせてきましたが…途中1隻も他の船を見かけませんでした」
銀鱗航海士「私の計算では、すでに新大陸が見える場所まで来ているはずです。この霧さえなければ…」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
女騎士「…他の船も見えるはずだな」
盾衛兵「あるいは、すでにレースは終わっていて、他の船はみんな入港しているのかも…」
朱眼船長「そんなことを勘ぐってもしかたないさ。なるようになれだ」
黒鳥号 ザッ…ザッ…
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
衛兵長「ううむ、波を切り裂く音が気持ちいい…。かなりの速度が出ていると見える」
剣衛兵「馬よりも速そうです」
銀鱗航海士「先ほどの計測では15ノットでした。この船の最高速度に近いです」
槍衛兵「へへ…。ガレオン船よりずっと速い…」
盾衛兵「倍以上ですね」
片耳ゴブリン「みなさん!見るです!霧を抜けるです~!」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
女騎士「前方が明るくなってきたのだ!」
朱眼船長「いよいよだね。さて、凶と出るか吉と出るか…」
黒鳥号 ザッ…ザッ…
帆布 バタバタ…
銀鱗航海士「見えました!新大陸です!」
衛兵長「おおっ、あれが真鱈岬…!」
剣衛兵「やった…ついに着いたんだ…!」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
槍衛兵「おい、あの城壁を見ろよ!」
盾衛兵「真鱈岬の要塞ですね。よかった…」
女騎士「いいや、喜んでばかりもいられないのだ」
銀鱗航海士「そのようですね…。あそこを見てください!」
片耳ゴブリン「そ、そんな~!あれは…」
衛兵長「…巨大なガレオン船?帝都商船の旗艦か!」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
剣衛兵「間違いありません!」
槍衛兵「へへ…。こんな近くを航行していたとはね…」
盾衛兵「向こうのほうが、ずっと先を走っています!」
女騎士「くそっ、先を越されるとは!あと一歩だったのに…。くっ…殺──」
朱眼船長「まあ、待ちな」
朱眼船長「たしかに向こうのほうが真鱈岬に近い。だけど、まだゴールしたわけじゃないだろう」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
衛兵長「そうは言っても、この距離だ。とても追いつけるとは…」
朱眼船長「だからこそ、あたしたちの本領発揮というわけさ。この船はあと2ノット…いいや、あと2ノット半は出せる」
衛兵長「!」
朱眼船長「どんなに離れていても、背中が見えていれば追い抜くことができる。…お前たち!ここが正念場だよ!」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
海賊たち「「「アーイ!!」」」
黒鳥号 ザッ…ザァーッ!!
帆布 バタバタ…
女騎士「まるで船が1頭の動物になったような、統率の取れた動きなのだ…」
衛兵長「海賊たちはこの航海に命がかかっていますからな。死ぬ気で働いているんでしょう」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
剣衛兵「きっとそうでしょう」
朱眼船長「…おっと、聞き捨てならないね」
衛兵長「命がけのレースだろう?違うのか?」
朱眼船長「あたしらは殺す気でやってんだよ」ニヤッ
黒鳥号 ザァーッ!!
▼帝都商船旗艦、甲板──。
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
掌帆長「…み、見てください!7時の方向です!」
家臣「あれは…黒鳥号…?」
船団長「ぐむ…。なぜこんな場所に…」
水夫たち「ひぃっ!霧の中から突然現れやがった!」
水夫たち「ま、魔族だ!あの狼男が追いかけてきたんだ~!」
船団長「うろたえるな!」
船団長「狼男がどんな魔法を使おうが、1人で船を操れるはずがない!よく見るのだ!」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
家臣「…おっしゃる通りです。あの船の甲板では、何人も立ち働いています…」
掌帆長「だけど、あの船乗り…人間には見えません…?」
家臣「魔族の船乗りたち…。ま、まさか!」
船団長「…死者の銃爪か!?」
船団長「なぜだ!羚羊号はシーサーペントに沈められたはず…!」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
掌帆長「きっと緊急用のボートで逃げ出したのでしょう」
家臣「そして運良く、私たちの捨てた黒鳥号を拾ったと?あの狼男を倒して、ここまで航海してきたと言うのですか?そんな偶然──」
船団長「…ありえない、はずだな」
船団長「しかし実際に海賊たちは無事で、あそこで黒鳥号を駆っているのだ。現実から目を背けるわけにはいかん!…お前たち!真鱈岬は目の前だ、このまま逃げ切るぞ!」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
水夫たち オォー!!
船団長「…それから家臣さんに1つ相談が」
家臣「何でしょう?」
船団長「武器の使用についてです」
家臣「つまり、この船の大砲について?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
船団長「本船の火力をもってすれば、数百年時代を先取りした黒鳥号といえどひとたまりもないでしょう。骨格に金属が使われているとはいえ、船体は板張りですからな」
家臣「沈没させることも不可能ではない…」
船団長「そういうことです」
船団長「黒鳥号は航海中の不慮の事故により沈没した、というわけです」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
家臣「なるほど…。ですが、大砲の使用は控えましょう。私たちは陸に近づきすぎました」
船団長「?」
家臣「要塞の兵士たちはレースの結果を知るために海を眺めているはずです。それに、周囲を見てください…」
家臣「…ぽつり、ぽつりと漁船が浮いています。大海の真ん中ならともかく、これほど人目につく場所で大砲を使うのは具合が悪い」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
船団長「政府の力でもみ消すことができるのでは?」
家臣「それができないから困るのです。今の新大陸では、人間国政府の威光が弱いですから…」
船団長「ぐむむ…」
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