魔国で囚われの身になった女騎士。
オークから経理の知識を教わった彼女は、
人間国の小さな銀行で働き始めるのだった──。
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▽プロローグ
▽第1話「フライド・コカトリス」
▽第2話「ガバメント・オブリゲーション」
▽第3話「リテラシー」
▽第4話「ウェル・シェイプト・カップ」
▽第5話「プライス・オブ・ライフ」
▽第6話「エクイティ」
▽第7話「ブラック・スワン」
▽第8話「ローン・オブ・ザ・リング」
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■■■登場人物紹介■■■
女騎士(本名:シルヴィア・ワールシュタット)
剣に強く数字に弱い。頼まれたら断れないタイプ。
ダークエルフ(本名:ルカ・ファン・ローデンスタイン)
簿記と商売に詳しい。女騎士の奴隷。
司祭補(本名:セラフィム・アガフィア)
精霊教会の聖職者。ちょっとした魔法が使える。
銀行家(本名:ロレンツォ・グリマルディ)
美術品の研究が好き。女騎士の雇い主。
幼メイド(本名:マリア)
銀行家の邸宅で奉公していた。
▼夜明け前──。
— Rootport (@rootport) September 4, 2016
チャプ…チャプ…
ギィ……ギィ……
???「…て……早く…ねえ……」
女騎士「うーん、むにゃむにゃ」
黒エルフ「……ねえ、早く起きてってば!」
女騎士「う…ん…? なんだ、お前か。私より先に目覚めているとは珍しいな」
黒エルフ「目的地が見えてきたわ」
女騎士「何!? 目的地が? ならば寝ていられな──」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
がばっ
ガツンッ
女騎士「~~~!!」
黒エルフ「言ったじゃない、船室のベッドは狭いから気をつけなさいって」
女騎士「うう~、目から火花が散ったのだ…」
黒エルフ「おかげで目が覚めた?」
女騎士「う…うむ…」
黒エルフ「はい、濡れタオル。顔を拭いたら、さっそく甲板に出てみましょ?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
女騎士「待て。まずは鎧を──」
黒エルフ「そんな重たいものを着たら、かえって危ないわ。海に落ちたらどうするの」
女騎士「言われてみれば、たしかに…」
黒エルフ「分かったら、さっさとベッドから出る!」
ギッ…ギッ…がたんっ
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
女騎士「む…意外と冷えるな…」ぶるっ
黒エルフ「朝の海上はいつもこんな感じよ」
ミーミー
ミーミー
女騎士「で、目的地はどこだ?海鳥の声は聞こえるが、朝靄(あさもや)が濃くて陸地が見えん」
黒エルフ「ほら、あっち」
女騎士「お?…おおっ!」
黒エルフ「同じ港と言っても、あたしたちの町とはだいぶ雰囲気が違うわね」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
女騎士「高いマストがずらりと並んでいる…。あれはすべて軍艦だな」
黒エルフ「新大陸への派兵の準備が着々と進んでいるようね」
女騎士「いっそ、あの軍艦に火をかけるか?」
黒エルフ「…物騒なこと言わないでよ」
黒エルフ「あたしたち商売人の武器はお金よ。この西岸港にどんなライバルが集まっていようと、お金の力でねじ伏せてやるわ」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
女騎士「今回もきっと、帝都銀行と競い合うことになるのだろうな」
黒エルフ「帝都銀行だけじゃない。国中から、欲の皮の突っ張ったやつらがあの町に勢揃いしているはずよ」
女騎士「ライバルだらけなのだ…」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
黒エルフ「だけど、あたしの敵じゃないわね」
女騎士「ふむ、大層な自信だな?」
黒エルフ「当然よ。欲の皮なら、あたしだって突っ張っているもの。何よりあたしはダークエルフ。ほとんど歳を取らない種族よ。肌のハリツヤなら誰にも負けないわ」
女騎士「」
▼西岸港への街道──。
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
近衛騎兵団 ぞろぞろ…
馬たち ポクポク…
馬車 ガラガラ…
近衛兵「…書記官!書記官どの!」
色白青年「?」
近衛兵「国王陛下がお呼びだ。御料車へのお近づきを許そう。すぐに行ってまいれ」
色白青年「かしこまりました。…ハァッ!」
馬 ヒヒーン!
御料車 ガラガラ…
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
ショタ王「…おお、来たな」
御料車の窓 ガタガタッ
色白青年「お呼びでしょうか」
ショタ王「他でもないシーサーペントの件だ。その後、何か新しい知らせはあったか?」
色白青年「いいえ、今も変わらず『北限の海』で捕鯨船を襲っているものと思われます」
ショタ王「鯨漁師たちには気の毒だが…、それでは予定通りにレースを催すことができるのだな?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
色白青年「ええ。西岸港の近海にはここ数週間シーサーペントは出ていません。天候もよく、船出に適した日和が続いているそうです」
ショタ王「ならばいいが…」
色白青年「何かお気遣わしいことが?」
ショタ王「西岸港で仕事をしている財務大臣から、こんな手紙が届いたのだ」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
ぴらっ
色白青年「これは…」
ショタ王「見ての通り、今回のレースを手厳しく批判している。新大陸の要塞を平民の手にゆだねるなどあってはならない、なまじ民間委託するとしても、業者は政府側で指名すべきだ──」
色白青年「──レースは即刻中止すべきで、陛下のご英断をお待ちしている…と」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
ショタ王「その手紙を読んで、ぼくも気持ちが少し揺らいでしまったのだ」
色白青年「恐れながら、西岸港にはすでに何百もの船乗りが集まっているそうですよ?」
ショタ王「うん、下々の者の期待は裏切りたくない…」
ショタ王「…だが反面、レースなどと言い出したのは浅はかだったのではないかと不安でな」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
色白青年「さようでございますか…」
ショタ王「ことの起こりは、新大陸に送った先遣部隊からの連絡だったな?」
色白青年「はい。拠点とする予定だった『真鱈岬』の要塞が荒れ果てているとのことでした」
色白青年「港や城壁の維持費用を考えると、政府でこれを負担するのは難しい。私はそう進言いたしました」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
ショタ王「お前の助言はもっともだと思った。だから民間業者に、真鱈要塞の管理を委託することにしたのだ」
色白青年「要塞の港を貿易に使うのを許すことと引き替えに、賃料を徴収する…」
ショタ王「費用の節約どころか収入増にもなる。一挙両得の妙案だと心得ているぞ」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
色白青年「もったいないお言葉、感謝いたします」
ショタ王「だが問題は、委託先の業者をどうやって決めるか、だった」
色白青年「実力のともなわない業者に任せるわけにはいきませんからね」
ショタ王「いかにも」
ショタ王「あのときのぼくは興が乗っていたんだ。国中の業者に新大陸までのレースをさせて、真鱈岬にいちばん乗りした者に要塞の管理権を与えよう、とな」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
色白青年「真鱈岬は、他の入植地とも交通の便がいい立地です。その港を貿易に用いれば、莫大な利益を得られるはず…」
ショタ王「思惑通り、参加を希望する業者が殺到したそうだな」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
色白青年「このレースで勝つには、船舶を用立てるだけの資金力と、優れた人材を揃えられるだけの人脈が必要です。勝った業者には安心して要塞の管理を任せられるでしょう」
ショタ王「うん、ぼくもそう思っていた。だけど…」
ショタ王「…財務大臣の意見ももっともなんだ。海難の危険があるレースに民を駆り立てるのは、王として浅慮にすぎるのではないか?まして、シーサーペントが出る可能性もゼロではないのに」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
色白青年「陛下のご憂虞は存じております」
ショタ王「では、書記官もレースを中止すべきだと?」
色白青年「…いいえ」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
ショタ王「ふむ?わけを教えろ」
色白青年「恐れながら…。もしも政府が委託先を名指しすれば、血筋や縁故で決まってしまうでしょう。しかし、私は新大陸の戦場に出て、それらが何の役にも立たないと学びました。栄えある一族の出であろうと、でくの坊がおります──」
色白青年「──であれば、実力を競わせたほうが理に適っていると、私は思うのです」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
ショタ王「……」
色白青年「たとえ懸念点の残る策でも、他によりよい策がないのなら、その策を採るべきではないでしょうか」
ショタ王「…そうだな。書記官の考えはよく分かった」
ショタ王「では予定通り、レースを催すとしよう」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
色白青年「はい。…あっ、ご覧ください。西岸港の城門が見えてまいりましたよ」
ショタ王「ふーむ、結構な人出だ」
色白青年「あれはみんな、レースに参加する船乗りたちでしょう」
ショタ王「なるほど、彼らを落胆させるわけにはいかない」
ショタ王「あの人々を見て、ぼくも気持ちが固まったよ。せっかくレースを開催するのだ、楽しまなければ損だな。書記官にも感謝している。ぼくの迷いを払ってくれた」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
色白青年「大変光栄です」
ショタ王「あの人々を喜ばせれば、ぼくは『いい王』に近づけるかな…?」
色白青年「…はて?」
色白青年「陛下はすでに充分に賢王でいらっしゃると存じますが…?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
ショタ王「あはは、書記官。お前はおべっかが下手だな」
色白青年「私はおべっかなど──」
ショタ王「ぼくはまだ、自分が賢王だなんて思っていない。それを褒めるのは嫌味になってしまうぞ?」
色白青年「そ、それは…」
ショタ王「よい。…ただ、覚えておいてくれ。ぼくは『いい王』になりたい」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
色白青年「いい王、ですか…?」
ショタ王「そうだ。ぼくは歴史に名を残すような王さまになりたいんだ」
馬車 がらがら…
馬たち ポクポク…
近衛騎兵団 ぞろぞろ…
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