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大人なら知っておきたい「世界史」を映画で学ぶ

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 学校の歴史の授業がつまらないのは、2つの理由がある。

 第一に、事実の羅列に終始しがちなこと。その時代を生きた人々のドラマを感じることはできないし、「人間社会はどのような仕組みで動くのか」という体系的なメカニズムを学ぶこともできない。

 第二に、現代とのつながりが分からないこと。歴史上のできごとが、現在の私たちの生活にどのように影響を与えたのか分からない。昔の人が何をしていようと、今の私たちには関係ないでしょ? という気分になる。

 だから、歴史の授業はつまらない。

 少なくとも私の学校ではそうだった。

 

 学校の授業がつまらないなら、映画で学べばいい。

 こんなことを言うと、歴史オタクには叱られてしまうかもしれない。大抵の歴史映画には思い切った脚色が加えられており、「史実」とはかけ離れているからだ。しかし大切なことは、その時代に興味を持ち、雰囲気をつかむことだと私は思う。正しい知識を身に着けるのは、その後でいい。

 観ておくと世界史の勉強が楽しくなる──。

 そんな映画を、この記事では紹介したい。

 

 

 

19世紀産業革命 

シャーロック・ホームズ』(2009年)ガイ・リッチー監督

  最初の1本からエンタメ色全開のフィクション作品だ。「史実」よりも映画としての面白さを重視したいという、この記事の方向性を理解してもらえただろうか。

 とはいえ、この映画、ただのおバカなアクション映画ではない。

 そもそも歴史上、私たち「現代人」の生活を特徴づけるものは何だろう?

 まず、民主主義にもとづく自由な政治制度を持っていること。また、その政治制度に支えられた自由な経済制度を持っていること。識字率が高く、ほとんどの人が読み書きをできること。そして何より、科学的な合理主義にもとづいてモノを考えていることだ。

 このような「現代」の特徴が出そろったのが19世紀末、産業革命の成熟期だった。たとえば専制君主の支配する独裁制の世界では、「特許」は権力者に気に入られた人々にだけ与えられる。ところがイギリスやアメリカでは民主的な政治が行き渡り、特許制度によって発明家の利益が守られた。特許制度は産業革命の推進剤の1つだった。

 産業革命によって、それまで農村で働いていた人々が都会に移住し、工場の労働者になった。機械の操作説明書や職場の勤務表を理解するには、文字が読めなければならない。現代的な学校教育は、この時代に労働者を育てる目的で始まったのだ。イギリスの識字率は急上昇し、1860年代には80%に迫り、世紀の変わり目には男女ともにほぼ100%に達した。

 さらに産業革命によって、それまで有閑階級の趣味だった「科学」が、莫大な富を生み出す「打ち出の小づち」になった。政府や企業が投資したことで、科学技術は急速に発展。人々の科学に対する興味も増した。科学的で合理的な考え方が浸透していき、まじないや迷信は力を失った。

 コナン・ドイルの『シャーロック・ホームズ』シリーズが、19世紀末に爆発的人気を集めたのは偶然ではない。まず政治的な自由があり、印刷物を比較的簡単に流通させることができた。また、識字率が上がったことで、読書が庶民の娯楽になった。さらに、科学的な合理主義が浸透したことで、「ミステリー小説」が成立するようになった。

 まじないや迷信がはびこる世界では、ミステリー小説は成り立たない。密室で死体が発見されても、「幽霊のしわざだ」「神様の怒りをかったのだ」と言えばよく、謎を解く必要がないからだ。しかし産業革命以降の世界では、警察や探偵は科学的に犯人を割り出さなければならなくなった。

 ガイ・リッチー監督『シャーロック・ホームズ』には、このような時代背景がきちんと反映されている。作中にはこんなセリフが登場する。

 事実を知る前に理論を立ててはならない。さもないと、理論に合わせて真実を歪めることになる。真実に合わせて理論を立てなければ。

(Never theorize before you have data. Invariably, you end up twisting facts to suit theories, instead of theories to suit facts.) 

 これは、現代的な科学主義の理想を謳いあげたセリフだ。小気味いいアクション映画でありながら、コナン・ドイル が生きた時代の精神をきちんと受け継いでいるのだ。

 

※あわせて観たい

オリバー・ツイスト [DVD]

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オリバー・ツイスト』(2005年)ロマン・ポランスキー監督

 こちらの映画も産業革命のころのイギリスの雰囲気がよく分かる。原作者チャールズ・ディケンズは、コナン・ドイル同様、庶民からの圧倒的な支持を得て名前を残した作家だ。

 

 

■18世紀後半(アメリカ独立戦争

パトリオット (字幕版)
 

パトリオット』(2000年)ローランド・エメリッヒ監督

 産業革命が進むには、そもそも権力者の独裁を許さない自由な政治制度が必要だった。では、そのような政治制度はいつ生まれたのだろう? 人によって意見は様々だろうが、アメリカ合衆国の独立は外せないだろう。

 18世紀後半、北米の植民地とイギリス本土の間では対立が深まっていた。イギリス人は勝手に税制を決めて植民地に押し付けたが、イギリス本土の議会に植民地の代表者はいなかったのだ。「代表なくして課税なし」をスローガンに、植民地の人々は独立運動へと突き進んでいった。

 1775年、レキシントン・コンコードの戦いを皮切りにアメリカ独立戦争が勃発。そして1776年には、大陸議会は『独立宣言』を採択した。そこには、こう記されていた。

 われわれは、以下の事実を自明のことと信じる。すなわち、すべての人間は生まれながらにして平等で あり、その創造主によって、生命、自由、および幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられているということ。こうした権利を確保するために、人々の間に政府が樹立され、政府は統治される者の合意に基づいて正当な権力を得る[1]

 これは現代的な「自由」のあり方を、世界に先駆けて宣言したものだ。

 1783年にイギリス軍は敗退し、アメリカは独立を勝ち取った。1787年に作成されたアメリカ合衆国憲法は、この『独立宣言』の内容を踏襲していた。「政府は統治される者の合意に基づいて正当な権力を得る」という考え方に従って、政治権力を厳しく制限し、その権力を広く人々に分配したのだ。

 ちなみにアメリカ独立戦争のころ、イギリス本土では産業革命が始まっていた。1769年にジェームズ・ワットが新式蒸気機関を発明、1779年にサミュエル・クロンプトンがミュール紡績機を、1785年にはエドマンド・カートライトが力織機を発明した。シャーロック・ホームズがロンドンで活躍する約100年前である。

 映画としては、メル・ギブソンが「強すぎるお父さん」として大活躍する。ローランド・エメリッヒ監督は『デイ・アフター・トゥモロー』のようなディザスター・ムービーの名手。世界でいちばん地球をぶっ壊すのがうまい監督だ。田舎の一家の視点から、戦争をまるで天災のような恐ろしいものとして描いている。

 

※あわせて遊びたい

アサシンクリード ユニティ』(2014年)UBIソフト

 新大陸で「自由」の国が生まれると、その影響はヨーロッパへと飛び火した。1789年にはパリのバスティーユ監獄が襲撃され、フランス革命が始まった。『アサシンクリード ユニティ』は、その時代を描いたアクションゲームだ。

 ゲームとしては、シリーズのなかではステルス要素が強め。気持ちいいアクションで敵を倒すというよりも、こそこそと敵地に忍び込むステージが多い。そのためかシリーズのファンからの評価は分かれている。

 

※あわせて観たい

マスター・アンド・コマンダー [DVD]

マスター・アンド・コマンダー [DVD]

 

マスター・アンド・コマンダー』(2003年)ピーター・ウィアー監督

 フランス革命はヨーロッパの王侯貴族に衝撃を与えた。王族たちは自分たちの権力を守るために、なんとしてもフランスを認めるわけにはいかなった。一方、フランス側はナポレオン・ボナパルトに率いられて他国を侵略。行く先々で王族を退位させようとした。ナポレオン戦争である。フランス軍の兵士たちは並みはずれて士気が高く、ヨーロッパを蹂躙して回った。

 そんなナポレオン戦争のころの、中南米の海上が舞台の映画。当時は私掠船という、国から「海賊の許可証」を得た海賊がいた。イギリス海軍の主人公ジャック・オーブリー艦長は、フランスの私掠船を追って海原を駆ける。当時の船乗りの生活を垣間見ることができる作品。

 

 

 

■18世紀半ば、フランス

パフューム ある人殺しの物語』(2006年)トム・ティクヴァ監督

 イギリスで産業革命が始まったころ、ドーバー海峡をはさんだフランス側ではどんな世界が広がっていたのだろう。その雰囲気を伝えてくれるのが『パフューム』だ。「若い女性が死んだ直後に発する香り」に魅せられた童貞青年が、その匂いを閉じ込めた香水を作ろうとして殺人を重ねていくというあらすじ。変態度かなり高めの映画だ。

 映画としての魅力は、なんと言っても「臭くて不潔なパリ」をきちんと映像化していることだ。かなり最近になるまで、ヨーロッパの都市は上下水道が整備されていなかった。パリも例外ではなく、19世紀末まで下水道がなかったという[2]。人々はおまるを使って用を足し、糞尿を窓から投げ捨てていた。

 そんな臭くて不潔なパリを、妙に美しい映像で見せてくれる。時代としては「かつら」が大流行していたころで、人々の奇抜なファッションを見ているだけでも楽しい。

 

 

■17世紀末~18世紀初頭(海賊の全盛期)

パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ 

 ゴア・ヴァービンスキー監督(1~3作目)、ロブ・マーシャル監督(4作目)

 時代をさらにさかのぼろう。17世紀末から18世紀初頭にかけて、カリブの海では海賊が猛威を振るった。彼らは残忍な無法者集団でありながら、同時に、歴史上いち早く自由と民主主義に目覚めた人々でもある。

 もちろん大半の海賊は、現在のマフィアと同様、絶対的な権力を持つ親玉によって下っ端が支配されるという社会だったはずだ。けれど船によっては、船長を選挙で選び、元奴隷の黒人にも投票権を与えて、みんなで決めた「海賊の掟」に従って行動していた。

 映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』には、海賊の交渉(パーレイ)をしたいと言われたら、どんな荒くれ者の海賊でも断れないという描写がある。これは、当時の海賊たちが「掟」に従っていたことのパロディだ。

 なぜこの時代に海賊が増えたかといえば、まず第一に、新大陸と旧大陸の貿易が盛んになったことが挙げられる。海賊たちは獲物に事欠かなかった。また第二に、当時の船員たちの生活が悲惨だったことも理由だろう。暗い船室に押し込められて、船長や上司に虐待されて、賃金は驚くほど低かった。なかには港町から誘拐まがいで連れてこられた船員もいた。船が海賊に襲われて、カットラスを突き付けられて「ここで死ぬか俺たちの仲間になるか」と言われたら、大抵の船員は喜んで海賊になったのだ。海賊になれば、一攫千金で一生遊んで暮らせるカネを稼ぐことも夢ではなかった。

 また、なぜ彼らが選挙で船長を選び、「海賊の掟」を作ったのかも考えてみよう。

 まず前提として、船を動かすには乗組員の協力が欠かせない。普通の商船では、船の持ち主は陸にいる貿易商や船主だった。船長や上級船員はその代理人であり、絶対的な権力をふるって船員たちを支配した。乗組員の協力を強制できた。

 一方、海賊ではそうはいかない。なぜなら、盗んだ船は海賊たちみんなの共有物だったからだ。船をどこに向かって走らせるか、海賊たち1人ひとりが自分の意見を持っていた。船長には、その意見を取りまとめて全員を納得させる才覚が求められた。「こいつの言うことなら、まあ聞いてやろう」と思えるカリスマの持ち主でなければ、船長は務まらなかったのだ。だから選挙で船長を選び、船のルールを「海賊の掟」という誰でも利用できる形にまとめたのである。

 

 

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■17世紀(イギリスVSオランダ) 

提督の艦隊 (字幕版)

提督の艦隊 (字幕版)

 

『提督の艦隊』(2015年)ロエル・レイネ監督

 こんなタイトルだが「艦隊これくしょん」は関係ない。英蘭戦争の時代を描いた作品だ。

パイレーツ・オブ・カリビアン』のヒロインであるエリザベス・スワンは、イギリス帝国ポート・ロイヤル総督の娘だ。海賊全盛期のイギリスは強大な海軍力を身に着け、大英帝国の版図を広げていた。なぜ、そんなことが可能だったかといえば、17世紀を通じてオランダと競い合い、海上での影響力を確立したからだ。

 17世紀はイギリスとオランダが覇を競った時代だった。 1652~54年の第一次英蘭戦争、1665~67年の第二次英蘭戦争、1672~74年の第三次英蘭戦争と、3回にわたり武力衝突している。戦いの舞台はほぼ海の上だった。『提督の艦隊』では、この戦争で活躍したオランダの英雄的な提督ミヒール・デ・ロイテルの後半生を描いている。

 なぜイギリスとオランダは衝突したのだろう?

 その経緯を知るには、少し前の時代から説明する必要がある。

 16世紀にはスペインとポルトガルが世界中に船を送り出し、とくに東南アジアから輸入される香辛料が莫大な富を生み出していた。ところが1580年にポルトガルがスペインに併合されると、オランダの商人たちはリスボンに荷揚げされる香辛料を入手できなくなった。当時、オランダはスペインの属国であり、八十年戦争という独立戦争を戦っていたからだ。スペインとオランダは敵国同士だったのだ。

 だから、オランダ人は自分たちで船を送ることにした。ポルトガル人にできて、自分たちにできないわけがないと考えた。1595年、オランダ商船がジャワ島バンテンに到着した。

 これで焦ったのはイギリス人だ。アジアとの貿易をオランダに独占されることを恐れて、1600年にイギリス東インド会社(EIC)を結成した。これに触発されて、1602年にはオランダ東インド会社(VOC)が設立された。VOCの特筆すべき点は、事業資金を証券化した株式を通じて有限責任で集めたことだ。要するに、VOCは世界初の現代的な株式会社だった。

 東アジア貿易を通じて、イギリスとオランダは少しずつ対立を深めていった。

 たとえば1623年にはアンボン島事件が起きた。モルッカ諸島のアンボン島で、イギリス商館の職員がオランダ人によって虐殺されたのだ。きっかけは、イギリス人に雇われた日本人傭兵がオランダ人に対してスパイ行為を働いたからだと言われている(※江戸幕府鎖国令を出したのは1630年代だ)。この事件をきっかけに、オランダは現在のインドネシア地域における貿易で主導権を握った。一方、イギリスは東アジアから手を引き、インドへと矛先を向けるようになった。当然ながら、イギリス国内でのオランダに対する反感は高まった。

 1642~49年、イギリスで清教徒革命が起きた。イギリス本国では「ブリティッシュ・シビル・ウォー」と呼ばれており、宗教的な衝突というよりも、純然たる市民革命という色が強い。王権神授説を信じる国王たちと、自由主義を求めるジェントリー階層との戦いだった。絶対王政を守ろうとした国王派は、オリバー・クロムウェルの率いる議会派によって打倒された。1649年にチャールズ1世が処刑され、イギリスは国王のいない国になった。イギリス共和制時代の幕開けである。

 同じころ、オランダも重要な政変を経験していた。

 1648年に八十年戦争がようやく終結し、ヴァストファーレン条約が結ばれた。これによりオランダはスペインからの独立を勝ち取った。また、ヴァストファーレン条約は現代的な「国家」を誕生させたと言っていい。どういうことかと言えば、それ以前のヨーロッパは、教皇や教会によってまとめられた単一の共同体なのか、それとも個々の国が主権を持つのか、ハッキリしなかったのだ。

 ヴァストファーレン条約以降、それぞれの国家が主権を持ち、外国の存在を前提に外交活動を行うという新しい国際秩序が生まれた。これは現在まで続くものだ。ヴァストファーレン条約は近代国際法の元祖ともいうべき存在である──と、Wikipediaには書いてあった[3]。

 話をイギリスに戻そう。国外に敵を作って国内の動揺と混乱を収めるのは、古今東西を問わず政治の常套手段だ。清教徒革命後のオリバー・クロムウェルも例外ではなかった。先述の通り、アンボン島事件によりオランダへの反感は高まっていた。さらにブリテン島の近海までオランダ漁船が現れて漁場を荒らしていた。オランダ商船はドーバー海峡を通り抜けるときの「通峡儀礼」も拒否していた。やりたい放題のオランダに対して、クロムウェルは戦争を決意した。

 1651年、イギリスは「航海条令」を制定。外国船がイングランドに搬入できる貨物を、その船の母国のものに限定した。当時、オランダはヨーロッパの海運を独占しており、ヨーロッパの貨物船のおよそ8割がオランダの国旗を掲げていた。要するに航海条令はオランダに大損させるためのものだったのだ。両国の関係は修復不可能なまでに悪化。1652年、第一次英蘭戦争が勃発した。

『提督の艦隊』で描かれるのは、これ以降の時代である。

 映画をより楽しむために、その後の歴史も少しだけ書いておきたい。

 1658年にクロムウェルが死去すると、イングランドは共和派と王党派に二分されて再び無政府状態に陥った。先の清教徒革命の際に、チャールズ1世の次男坊がオランダのハーグに亡命していた。彼を呼び戻して国王に迎えることを、イングランドの仮議会は議決した。

 1660年5月23日、チャールズ2世はハーグの外港スケベニンゲンからイングランドの艦隊に乗り込み、5月29日、ロンドンに到着。翌年4月には戴冠式が行われた。イギリスの王政復古時代が始まった。

 1672年に第三次英蘭戦争が始まると、これに乗じてフランスのルイ14世はオランダへの侵略を開始した。デ・ウィット兄弟の率いる共和制オランダ政府は堤防を決壊させてホラント州を水没させ、洪水によってフランスの侵攻を防いだ。しかし、オランダの民衆は政府に不満を抱き、オラニエ公ウィレム3世をオランダ総督にすべく動いた。

 オラニエ公ウィレム3世は、イングランドのチャールズ2世の甥にあたる人物だ。この時代のヨーロッパの戦争は、親族同士の骨肉の争いという側面が強い。デ・ウィット兄弟は暴徒と化した民衆に虐殺され、ウィレム3世はオランダ総督に就任。オランダの共和制は終わりを告げた。

 1685年、チャールズ2世が死去。弟のヨーク公ジェイムズが、ジェイムズ2世としてイングランド国王に即位した。問題は、ジェイムズ2世がカトリック教徒だったことだ。ジェイムズ2世はカトリック寄りの政策を強引に推し進めたため、議会はオラニエ公ウィレム3世と、その妻メアリをイングランドに呼び戻すことにした。(※メアリはジェイムズ2世の長女だった。つまりウィレムとメアリはいとこ同士の夫婦だった)

 1688年、オラニエ公ウィレム3世がブリテン島に上陸。不利を悟ったジェイムズ2世はフランスへと亡命した。娘夫婦はウィリアム3世とメアリ2世としてイングランド王に即位した。1689年、議会は『権利章典』を議決した。これは軍事権を王権としてウィリアム3世に認めるが、それを執行するには議会の承認が必要というものだった。この章典により、王権に対する議会の優位が確定した。以降、この国は立憲君主制国家として歩み始める。

 

 

■16世紀(エリザベス女王の時代)

ブーリン家の姉妹 Blu-ray
 

 (↑)『ブーリン家の姉妹』エリザベス1世の誕生秘話

エリザベス (字幕版)

エリザベス (字幕版)

 

 (↑)『エリザベス』若き日のエリザベス1世

 (↑)『エリザベス:ゴールデン・エイジ』スペイン無敵艦隊を破るまで

(↑)『恋におちたシェイクスピア』老年期のエリザベス1世 

 

 17世紀はイギリスとオランダが海上で覇を競う時代だった。なぜそうなったかといえば、16世紀末の「アルマダの海戦」でスペインの無敵艦隊が破れ、スペインによる海上の支配力が大幅に弱まったからだ。1588年、スペイン王フェリペ2世イングランドの侵略をもくろみ、大船団を派遣した。しかし海賊フランシス・ドレークと天候に味方されたイングランド海軍は、これを撃退。大英帝国樹立への第一歩を踏み出した。

 アルマダの海戦の時代にイングランドを率いたのが「処女王」エリザベス1世だ。彼女はイギリス史のなかでも人気の高い人物で、映画もたくさん作られている。ここでは4つの作品を紹介したい。

ブーリン家の姉妹』は、エリザベス1世の実母アン・ブーリンの人生を描いた作品。女同士の醜い争いに心をヒリヒリさせられる映画だ。アン・ブーリンは当時の国王ヘンリー8世に取り入り、やがてエリザベスを身ごもることになる。詳しくは映画を見てほしいが、このときのヘンリー8世の離婚問題によって、イングランドバチカンカトリック教会と決別した。名誉革命の遠因の一つだ。

『エリザベス』は、若き日のエリザベス1世を描いた作品。彼女が女王としての自覚に目覚め、「国を夫とする」と心に決めるまでを映像化している。

『エリザベス:ゴールデンエイジ』は、エリザベス1世の治世における黄金時代を描いた作品だ。アルマダの海戦でスペインを撃退する様子は、この映画のなかに描かれている。

恋におちたシェイクスピア』は、戯曲家ウィリアム・シェイクスピアが『ロミオとジュリエット』を書き上げるまでの物語。演劇好きな愉快な女王として、老年期に差し掛かったエリザベス1世が登場する。ここで挙げた4本のなかではもっとも娯楽色が強く、誰にでもオススメできる楽しい映画だ。

 

 

※あわせて観たい

 シェイクスピアの書いた傑作を、現在の映像技術で再現した作品。16世紀のヴェネチアの様子が描かれており、舞台美術のデキのよさには息をのむ。

 

 

 

■15世紀(新大陸発見)

1492コロンブス [DVD]

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『1492 コロンブス』(1992年)リドリー・スコット監督

 ここからは駆け足で紹介していこう。

 アルマダの海戦で敗れるまで、スペインは海上における強力な支配力を持ち、新大陸との貿易をリードした。そのきっかけとなったのが、1492年のコロンブスによる新大陸到達だ。その様子を描いた映画作品。

 

 

※あわせて遊びたい

Assassin's Creed II (英語版) [ダウンロード]

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 15世紀はルネサンスが花開いた時代だ。そのころのイタリアの様子を楽しめるゲーム。端的に言って神ゲー

 

 

 

■ 15世紀(百年戦争の終わり)

ジャンヌ・ダルク』(1999年)リュック・ベッソン監督

  15世紀初頭、フランスは、イギリスとの100年におよぶ戦争を続けていた。それに終止符を打ったのが、フランスの少女ジャンヌ・ダルクだった。ハリウッドでいちばん脱ぎたがりな女優ミラ・ジョボヴィッチが、珍しくほとんど脱がない映画。

 

 

■13世紀末~14世紀初頭(百年戦争の始まり)

ブレイブハート (字幕版)
 

『ブレイブハート』(1995年)メル・ギブソン監督

  スコットランドの英雄ウィリアム・ウォレスの生涯を描いた大作。イングランド王エドワード1世は、スコットランドに過酷な支配を強いていた。ウォレスはスコットランドの民衆を率いて、これに対抗した。

 この映画のなかで、エドワード1世がフランスに進軍したことが語られる。これが後の百年戦争の始まりだった。

 

 

■12世紀末~13世紀(十字軍とジョン失地王)

ロビン・フッド』(2010年)リドリー・スコット監督

 イングランドの伝説的な義賊ロビン・フッドの後半生を描いた作品。

 ここに登場するジョン失地王は、イギリス史ではわりと愚王として扱われることが多い可哀想な人物。兄リチャード1世が第3回十字軍に参加したころからケチが付き始めていた。政府の支出はかさみ、戦争をするたびに領土を失い、ついには諸侯たちの怒りが爆発。彼らをなだめるため、ジョンは「マグナ・カルタ」を認めざるをえなかった。

 

 

■12世紀(イスラムによるエルサレムの奪還)

キングダム・オブ・ヘブン』(2005年)リドリー・スコット監督

 この記事では思った以上にリドリー・スコット監督の出現率が高くて驚いている。

 第1回十字軍に参加したヨーロッパ人は、1099年にエルサレムを占領。エルサレム王国を樹立した。しかし1187年、イスラム勢力の英雄サラディンによって、エルサレムは奪還されてしまう。エルサレム王国で最後まで戦い抜いたバリアンという人物を、大幅な脚色を加えつつ描いた作品。映像がダイナミックで、歴史映画の醍醐味を味わえる。

 

 

■6世紀ごろ?(ローマ帝国が去った後のブリテン島

トリスタンとイゾルデ』(2006年)ケヴィン・レイノルズ監督

 いきなり時代を下って、古代末期~中世初期のお話。私の知識では詳しい時代を特定できなかった。というか、この辺りの時代になると、そもそも元ネタのお話が伝説に近く、史実かどうかが怪しくなってくる。 

 5世紀末に西ローマ帝国が滅亡すると、それまでブリテン島を支配していたローマ人たちも立ち去った。ブリテン島アイルランドは、王族たちが覇を競い合う混乱の時代に突入した。そんな時代を背景に、コーンウォールの領主の息子トリスタンが、敵国アイルランドの姫イゾルデと恋に落ちたという伝説を描く。『ロミオとジュリエット』の元ネタになったとも言われているお話。

 映画としてはラブロマンスの基本をきちんと押さえてあり、なおかつ、男たちの殺陣(たて)にも意外なほど力が入っている。カップルで見に来た観客に対して、女性は恋物語を楽しめるように、男性は軍記モノとして楽しめるように作られている。映画としてはかなり面白い。

 

 

■5世紀(サクソン人の侵入と、ブリトン人やピクト人の抵抗)

キング・アーサー』(2004年)アントワーン・フークア監督

 アーサー王物語は従来、中世の騎士道物語として語られてきた。一方、アーサー王は古代末期のローマ軍の指導者がモデルではないかという仮説がある。後者の説にもとづいて作られたのがこの映画だ。

 395年、ローマ帝国は東西に分裂した。以降、西ローマ帝国は少しずつ力を失い、476年に滅亡した。この西ローマ帝国末期が映画の舞台だ。ブリテン島はサクソン人の侵入により滅亡の危機に立たされていた。ローマから派遣されたアーサー王と円卓の騎士は、ブリテン島の現地人と協力してこれと戦う。

 なお、史実ではサクソン人の王セルディックがブリテン島に上陸したのは495年だと言われているようで、西ローマ帝国が滅亡した後になってしまう。まあ、そのあたりは映画的な脚色として目をつぶって楽しみたい。そもそもアーサー王が伝説的な人物だし。

 

 

■4世紀(キリスト教の定着と異教徒の排斥)

アレクサンドリア [Blu-ray]

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アレクサンドリア』(2009年)アレハンドロ・アメナーバル監督

 4世紀ごろ、キリスト教ローマ帝国内に広まった。最初こそ迫害されたキリスト教徒たちだが、380年にはテオドシウス帝によりローマ帝国の国教に認められた。キリスト教が力を付ける背後で、旧来の多神教は少しずつ力を失い、やがて逆に排斥される立場になった。キリスト教のもとで、教義に反する古代ギリシャの哲学や科学知識は失われていった。そんな時代に活躍した悲劇の女性天文学者ヒュパティアの物語。

 

 

■2世紀末(ローマ帝国五賢帝時代の終わり)

グラディエーター』(2000年) リドリー・スコット監督

 ローマ帝国五賢帝の時代に最盛期を迎えた。が、最後の五賢帝マルクス・アウレリウス・アントニウスの息子コモドゥスは、どうしようもないドラ息子だった。そんなドラ息子コモドゥスと、元ローマ軍の将軍で奴隷に身を落としたマキシマスの確執を描いた作品。

 

 

■1世紀(イエス・キリストの受難)

パッション [DVD]

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『パッション』(2004年)メル・ギブソン監督

 新約聖書で語られるイエスキリストの受難と磔刑を描いた作品。キリスト教圏では、あまりの衝撃的な映像にショック死する人も出たと言われている。

 

 

■紀元前5世紀(ギリシャペルシャ帝国の戦い)

『300』(2007年)ザック・スナイダー監督

 紀元前480年、ペルシア帝国はギリシャ都市国家スパルタに服従を命じた。スパルタ王レオニダスはこれに反発。わずか300人の兵士で、スパルタの大軍と勇猛果敢に戦った。

 映画としては、もともとがグラフィックノベルなのでマンガ的なカッコよさに溢れている。ペルシア側の兵士が奇抜な戦い方を展開してくれて楽しい。

 

 

  ◆ ◆ ◆

 

 

 以上、駆け足だが、おすすめの歴史映画を紹介してきた。

 今回のリストでは、15世紀のルネサンス期や、16世紀初頭の宗教改革をテーマにした映画が不足している。また、ローマ帝国滅亡後の中世暗黒時代の作品も少ない。十字軍をテーマにした作品はあるが、それ以前の時代がリストにない。このあたりの時代が扱われたオススメの映画があれば、ご教示いただけると嬉しい。

 学校では、歴史の授業は古代から始まる。時系列に並べたほうが説明しやすいのだろう。けれど、それは説明する側の論理だ。説明を受ける側からすれば、古代のできごとが現代とどうつながっているか分からない。だから、興味を持てない。

 個人的には、歴史は現代から過去にさかのぼって勉強したほうが理解しやすいと思う。

 私たちの生きる「現代」があるのは、産業革命が起きたからだ。

 産業革命が起きた背景には、アメリカ独立戦争フランス革命で自由な政治制度が広まったことがある。そういう自由な政治制度は、『権利章典』や『マグナ・カルタ』など、イギリス史のなかで生まれた。

 17世紀の英蘭戦争の時代に、イギリスは清教徒革命と名誉革命を経験し、『権利章典』を制定した。イギリスとオランダが覇を競った背景には、スペインの海上支配力が弱まったことがあげられる。そして、スペインの力が弱まったきっかけは、アルマダの海戦で敗北したことであり、その背後にはエリザベス1世による治世がある。

 エリザベスが女王に選ばれた背景には、カトリックプロテスタントの争いがあり、ヘンリー8世ローマカトリック教会との対立がある。このようにカトリック教会が力を失った背後には、宗教改革ルネサンスがあって──。

 

 こうやって歴史をさかのぼっていくと、過去に起きたできごとが、今の私たちの生活に直接かかわっていると感じられる。古代のできごとと現代の生活が、1本の鎖で結ばれる。それを実感すると、歴史は一気に楽しくなる。

 そして映画なら、そういうタイムスリップが簡単にできる。

 歴史に興味を持つ入口として、映画は最適だと思う。

 

 

 

 

【お知らせ(1)】

コミックス版『女騎士、経理になる。』第2巻、

ノベル版『女騎士、経理になる。』第1巻、

2016年6月24日(金)、同時発売です!

※店舗によっては同時購入特典もあります!!

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ノベルス版第1巻の表紙が出来ました。

 

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※コミックス第1巻、好評発売中! 

女騎士、経理になる。 (2) (バーズコミックス)

女騎士、経理になる。 (2) (バーズコミックス)

 
女騎士、経理になる。  (1) 鋳造された自由

女騎士、経理になる。 (1) 鋳造された自由

 

 ノベルス版第1巻、コミックス第2巻、2016年6月24日同時発売!

 

 

 

【お知らせ(2)】

このブログが書籍になりました。

失敗すれば即終了! 日本の若者がとるべき生存戦略

失敗すれば即終了! 日本の若者がとるべき生存戦略

 

 

 

 

◆参考文献等◆

[1]独立宣言(1776 年)|About THE USA|アメリカンセンターJAPAN

[2]パリの水の歴史|パリ観光の写真

[3]ヴェストファーレン条約 - Wikipedia