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デマこい!

「デマこいてんじゃねえ!」というブログの移転先です。管理人Rootportのらくがき帳。

読者と作者のマッチング/ラノベ作家休憩所『中性小説。』感想

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先週末のコミックマーケット82で入手した『中性小説。』という同人誌が面白い。
中堅ライトノベル作家たちによる短編小説集だ。いつもなら書かせてもらえないようなお話を、編集者の目の届かない同人誌で思いっきり自由に書く。それがこのアンソロジーのテーマだという。表紙こそ典型的なライトノベルのようなイラストだが、騙されてはいけない。中身はガチな大人向け作品たちだ。むせかえるほど濃密な読書体験ができた。



ラノベ作家休憩所公式サイト
http://seijoshosetsu.com/


委託販売先・COMIC ZIN
http://shop.comiczin.jp/products/detail.php?product_id=13109




【 収録作品 】
※若干ネタバレあり
※あらすじは私の勝手な解釈にもとづいて書いています。あまり信用しないでください。



1.『こなゆきデマゴギー 日日日
近頃、町中の看板や張り紙を白く塗りつぶす妖怪がでるという。売れない絵描きの主人公は「どうせ都市伝説に違いない」とタカをくくり、妖怪退治の仕事を役所から請け負ってしまう。ところが妖怪の正体は……。
◇オカルトとしてもミステリーとしても社会風刺としても読める、現代の寓話。日日日先生はとにかく文章が上手い! 平易な表現に、情景や情緒がギュッと詰め込まれている。静かで優しい読後感の残る、余韻豊かな作品。



2.『学園都市DDR 大樹連司
手から炎を放ったり、指先から電撃を発したり。そんな中二病の妄想が現実のものになった日本で、異能の中学生たちはつくば学園都市を占拠し、戦いに明け暮れていた。が、それから20年が経ち、みんな大人になってしまい……。
◇風刺小説、もしくは自虐(?)小説かもしれない。中二病を卒業するとはどういうことか。そして本当の中二病とは……。「異能バトルもの」というジャンルを皮肉りながら、ビターテイストな大人の物語に仕上がっている。超おもしろい。



3.『キヨ×フォーエバー』 十文字青
キヨは男として生まれ、女として育てられ、女になり、ドリルソードで不死者を叩きつぶしながら母親の愛と戦っている。母はキヨを愛し、キヨを通じて自分を愛し、愛ゆえに不死者となった。エロくて血なまぐさくて、哀しい愛の物語。
◇物語の“濃さ”はこの短編集で随一だ。途中で息継ぎがしたくなるほど濃密。「母なる呪い」は古典的なモチーフだが、とくに最近の大人向けラノベで流行しているように感じる。が、それをここまで追求した作品は見たことがない。世界観の強烈さに、読み終えたあとしばらくボーッとしてしまった。



4.『ボーイミーツボーイ』 橘ぱん 著
いまよりもずっと手軽に、かつ完璧に性転換ができるようになった世界。主人公は元・幼馴染の美少女、現・イケメンマッチョな男子の友人から恋愛相談を受けるのだが……。
◇参加している執筆陣のなかで、たぶん橘ぱん先生はいちばん軽くてコミカルな作風の作家だ。ジェンダーというデリケートな題材を扱いながら、ラブコメへとまとめ上げる手腕はさすが。



5.『オオカミとハヤブサ 森田季節
二人は一心同体に育てられた。同じものを見て、同じものを味わい、同じことを考えながら人を殺すために。完璧な「殺し屋」として育てられた兄妹は、しかし片方が意識不明の重体となったことでバラバラの存在になってしまう。兄のオオカミは、妹のハヤブサを救うため、心の深い場所へと降りていくのだった……。
◇哲学小説もしくは思念小説、あるいは現代の『神曲』かもしれない。読者はオオカミという名の青年の視点を借りて、人の心の構造を解き明かしていく。



6.『搦髪の夜』 藍上陸
カナは14歳の肉体を与えられた球体関節人形です。カナはいつも微笑んでいます、それが彼女に与えられた表情だからです。カナはいつも携帯電話でメールを打っています、それが彼女に与えられたしぐさだからです。人形の町で暮らすカナの家に、ある日、白羽の矢が立ちました。山の大蛇さまに会うため、カナは出かけるのでした……。
◇どこか“変”な世界を舞台にした、どこか“変”なお話。人形の目には色味のない、味気ない世界しか映らないという。しかし物語が進むにつれて世界は色鮮やかさを増していき、それに合わせて文章は流暢で表現力豊かになっていく。あとエロい。ラノベやポルノでは書けない系のエロさ。




私がサークル「ラノベ作家休憩所」の同人誌と出会ったのは、前回の冬コミだ。『正常小説。』と題された短編集を配布なさっていて、何の気なしに手に取った。しかし内容のあまりの面白さにすっかりファンになってしまい現在にいたる。もっとたくさんの人と「あの小説読んだ?」という話がしたくて、今回このブログでご紹介した。
編集者の目が届かない場所で、好き勝手書いた作品……。もともと「書く能力」の高い作家さんの手にかかれば、すばらしい作品が生み出される。常識にとらわれず、突飛で、読者の想像の裏をかくような物語だ。こういう同人誌だけでなく、作家さんの個人的なブログで公開される小説にも、面白いものが多い。最近では大間九郎先生が無尽蔵の創作意欲を発揮なさっている。必読。


情弱大間のブログ
http://blog.livedoor.jp/ohma_crow/


編集者は作品を「商品化できるかどうか」という目で見ている。しかし「売り物にならない」と判断される(であろう)作品たちが、一部の読者からは熱烈な支持を受けている。これはおそらく、「書き手」と「読み手」のマッチングがうまくいっていないのだ。
編集者は、しばしば「この作品を求めている消費者はいない」と漏らすという。しかし、このセリフには「うちのレーベルの読者には」という枕ことばが必要なのではないか。出版社単位、レーベル単位で抱えている“読者層”があり、編集作業に携わる人間はその内側に向けた作品を作家に発注する。その“層”の外側に向けた作品は、同人誌やブログといった媒体でしか発表できず、なかなか日の目を浴びない。これは読者と作者のどちらにとっても機会損失だ。
「編集者は要らない」と言いたいわけではない。
小説は、読みたい人よりも書きたい人のほうが多いと言われる業界だ。読むに値しないシロウト小説がネット上には溢れている。一定以上の「書く力」がある作者を探してきて、その能力を伸ばし、発表の機会を提供する:そういう立場の人間は今後も必要とされるだろう。
ただ、「編集者」のあり方は、今までと同じではいられないはずだ。紙媒体が力を失っていく今後は、現在の「キュレーター」と呼ばれるような人々がその任を引き継いでいくのかもしれない。





※参考

日日日オフィシャルブログ
http://fblg.jp/attashira/


大樹連司先生Twitterアカウント
http://twitter.com/Range_O/


BRAIN X 十文字青先生公式サイト
http://brainx.blog36.fc2.com/


酒と泪とくさや王国 橘ぱん先生公式サイト
http://iichiko.sakura.ne.jp/panblog/


森田電鉄 森田季節先生公式サイト
http://moritarail.blog108.fc2.com/


藍上陸の二次元堕落論
http://ranjo.web.fc2.com/





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