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「デマこいてんじゃねえ!」というブログの移転先です。管理人Rootportのらくがき帳。

『砂埃に浮かぶ孤島』

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『砂埃に浮かぶ孤島』
 Rootport 著



頭から尿をかけられた。
わざわざ脚立を持ち出して、男はファスナーを下した。ほかの男たちがゲラゲラと笑う。椅子に縛りつけられたまま、明はじっと部屋の奥をにらみつけていた。こめかみの切り傷に生ぬるい液体がしみた。
「日本人、きさまの目的を言え」
暗がりの向こうから低い声が聞こえてくる。訛りの強い北京語、おそらく南方の出身だろう……と、明は推測する。冷笑を浮かべながら、きれいな発音で答えてやる。
「知るかよ。おれはただ――」
言い切るよりも先に、革靴のつま先が迫ってきた。脚立の男に頬を蹴られた。血の混じった唾液が飛び散る。男たちの哄笑に混じって、くすくすという女の声が聞こえる。
(あの女……)
薄桃色のグロスを塗った唇が微笑していた。美宝と名乗ったが、間違いなく偽名だ。なにが(芸能人と同じ名前なの)だよ、無邪気に笑いやがって――。昨夜のことを思い出すと、頭痛がますます激しくなる。毛むくじゃらの腕が、美宝の腰を抱き寄せている。この場のボスだ。田舎の猿め、と明は毒づく。
「目的を、言え」
言葉を区切りながら猿は言った。彼のソファを、拳銃を手にした男たちが囲んでいる。もちろん銃口は明を狙っていた。銃規制の厳しいこの街で、よくぞまあ数を揃えたものだ。おそらくパキスタンかどこかから流れ込んだハンドメイド・ピストルだろう。暴発が怖くて、明なら絶対に使わない。
「おれはただの駒だ。命令に従っているだけで、目的など分からない」
「まるでロボットだな」
「ああ」明は自嘲的な気分に包まれる。「それが日本人の美徳だ」
猿は笑い、明も笑った。ひとしきり笑ったあと、猿は美宝の尻を叩いた。彼女はいたずらっ子をとがめるように男の手を振り払い、明へと歩み寄った。
「早くクチを割ったほうがいいわ」黒髪をかき上げながら、彼女は言う。「せっかくのイイ男が台無し。あなたが赤ん坊のように泣き叫ぶところなんて、見たくない」
黒目がちのつぶらな瞳は、くっきりとした二重まぶたに飾られている。薄桃色のグロスが童顔を際立たせ、大人びた体つきがアンバランスだ。彼女は椅子の前にひざまずいた。明の膝のあいだに頭をうずめるようにして、縛られた腕を観察する。
(この女にさえ出会わなければ……)
あとの祭りだった。美宝は小さく笑うと、半透明のピルケースを取り出した。大量のまち針が入っている。
「さて、何本目まで耐えられるかしら」
華奢な手のひらが、明の腕をなでる。
小指の爪のすき間に、一本目の針が射し込まれた。




砂埃に浮かぶ孤島

砂埃に浮かぶ孤島

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※この物語はフィクションです。実在の人物、地名、団体名等とは、一切関係ありません。
※なお著者は陰謀論を支持しません。本作の内容は比喩的・象徴的表現としてお楽しみください。