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パナマ文書と、なぜ赤字国債が膨らんだのかという話

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 そう、今さらである。

 今さらながら、パナマ文書について語りたいと思う。

 フランスの経済学者トマ・ピケティによれば、最も裕福な上位1パーセントの人々が、世界の富の半分を所有しているという。最も裕福な上位0.1%の人々だけでも、世界の富の20%を所有しているそうだ。この人たちからきちんと税金取れば、消費税増税社会保障費の増額も必要ないのではないか? 赤字国債もキレイさっぱり返せるのではないか? ……という議論ができるのでパナマ文書はヤバいのだ。

 

「世界のさまざまな国の金融統計を合わせると、(中略)地球は火星に所有されているように見える。これはかなり古くから言われている「統計的異常値(アノマリー)」だが、さまざまな国際組織によると、近年、それが悪化しつつある。(世界の国際収支は通常マイナスになっている。各国を出ていくお金のほうが、入ってくるお金よりも多いのだ。これは理論的にはあり得ない)」──トマ・ピケティ『21世紀の資本』

「ガブリエル・ズックマンは、あらゆる情報源を比較し、これまで用いられていなかったスイス銀行のデータ利用することによって、この相違の説明として最も説得力のある理由は、報告されていない巨額の金融資産がタックス・ヘイブンに存在することだと示した」──トマ・ピケティ『21世紀の資本』

 

 ガブリエル・ズックマンの推計では、タックス・ヘイブンに埋まっている金融資産の総額は世界のGDPの10%くらいだそうだ。ピケティ先生はもっと多くても俺は驚かないぞ的なことを言っている。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 そもそも、政府が借金漬けになっているのは日本に限った話ではない。先進国に共通の症状だ。富裕国は、いまや平均で国民所得の1年分(またはGDPの90%ほど)の公的債務を抱えているという。

 なぜ先進諸国の借金が膨らんだかといえば、大きく2つの理由がある。

 1つはケインズ主義の登場、もう1つは共産主義国の脅威だ。

 まず、ケインズ主義から説明すれば、「不景気なときは政府が借金してでもカネを使うべき」という理論だ。景気が悪くなるのは、一般家庭が消費をせず、企業が設備投資をしなくなるからだ。需要と供給でいえば、「需要側」の勢いが衰えているからこそ、経済は不景気に陥る。であれば、政府が公共事業にカネを使えばいい、家庭や企業の代わりに「需要」を作り出せばいい。これが、ケインズ主義のごく基本的な考え方だ。

 経済学者ジョン・メイナード・ケインズが登場するはるか以前から、戦争が起きると景気が好転することが知られていた。ケインズによれば、政府が借金をしてでもカネを使える唯一のものが戦争だったからだという。彼の理論が登場したことにより、各国の政府は戦争ではないときでも借金をする理論的な後ろ盾を得た。

 そして、先進国の政府は共産主義革命を押さえる必要にも駆られていた。

 今となっては想像するのも難しいが、20世紀、西側諸国の指導者たちは自国で革命が起きることを、わりと本気で危惧していたのだ。

 たとえば1929年、ニューヨークのウォール街から始まった世界恐慌で、西側諸国は不景気のどん底に突き落とされた。一方、ソビエト連邦計画経済によって、世界恐慌の影響をまぬがれた(※少なくとも西側からはそう見えた)。アメリカでは何百万人もの失業者が家を手放し、野原にキャンプを張ったり、掘っ立て小屋の集落を作ったりして生活するようになった。この時代の悲惨な暮らしは、映画『シンデレラマン』が克明に描いている。映画としても面白いのでオススメ。

 1932年7月末、失業中だった第一次世界大戦の退役軍人が首都ワシントンに集結し、ホワイトハウスを取り囲んだ。1945年に支払われる約束だった退役軍人支給金を前倒しで支払うよう、政府に要求したのだ。当時の大統領ハーバート・フーヴァーには、これが革命前夜の光景に見えた。彼は陸軍参謀長ダグラス・マッカーサーに命じて、群衆をペンシルバニア通りから追い払わせた。自由世界の軍隊が、非武装の群衆を蹴散らしたのである。これは中国の話ではない。他でもないアメリカの話だ。

 この事件により、フーヴァーが大統領として再選される道は絶たれた。彼のライバルだったフランクリン・ルーズベルトは、選挙戦に費やす貴重な時間を、ニューディール政策を練ることに使い始めたという。ニューディール政策とは、ケインズ主義に基づいた大型公共事業の計画だった。

 1930年代のアメリカは端的な例だが、西側諸国はどこも似たり寄ったりだった。資本主義が共産主義よりも優れていることを示すために、ケインズ主義に基づく公共事業で失業者に職を与えたり、手厚い社会福祉政策を取るようになった。結果として、政府債務が積み上げられるようになった。

 現在の日本の政府債務残高は、対GDP比でざっくり250%ほど。たしかに先進国のなかでも非常に高い水準だ。しかし、政府債務残高がGDP比で200%を超えたのは、日本が初めてではない。

 たとえば19世紀のイギリスは、ナポレオン戦争のときにそれくらいの借金を作ってしまい、ほぼ1世紀かけて返済した。また第二次大戦の影響で1950年にも巨額の政府債務を抱えており、その水準は1815年よりも悪かった。1950~70年代の長期にわたるインフレによって借金が目減りし、ようやくイギリス政府は負債をGDPの50%ほどまで削減することに成功した。

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 補足すると、世界レベルでの富の格差は、先進国と途上国の格差が主な要因になっている。しかし、先進国の国内でも、社会的に有害なレベルで格差が広がっているのではないか……というのがピケティ御大の指摘だ。

『21世紀の資本』は、なんていうか、民主主義を「大多数の貧者が少数の富者からカネを収奪する仕組み」とみなしているように感じられる。この世界観が気に食わない人もいるだろうが、思い出してほしい。ピケティ先生がフランスの学者だ。フランス革命って、要するにそういうことだった。

 かの国は極端な格差拡大の結果、革命が起こり、パリはギロチンの恐怖に支配された血みどろの街になってしまった。ナポレオンの独裁を許し、ヨーロッパをめちゃくちゃにしてしまった。「格差が広がりすぎるとヤバイ」って感覚は、日本人よりも強いのかもしれない。

 ピケティ先生に共感できるところは、「能力のある人間は高い報酬で報われるべき」という価値観を持っていることだ。カネ持ちのなかでも、ビル・ゲイツはわりと好意的に書かれている。一方、親から受け継いだ資産だけで食べている人々に対しては、名指しでこき下ろしている。「そこまで言うか?」って思うぐらいキツイ言葉で。

「努力した人や能力のある人が金持ちになるのは当然だ。だから格差拡大は問題ではない」と考える人がいる。けれど、所得の格差と資産の格差は分けて考えたほうがいいだろう。たしかに能力のある人は高所得で報われるべきだ。ところが、時代も地域も選ばず、資産の格差はいつだって所得のそれよりもはるかに激しいのだ。

 親から多額の資産を受け継いだ人は、本人の能力で金持ちになったとは言えない。親の経営している会社の副社長になった人は、本当に本人の能力で金持ちになったと言えるだろうか。親の財力の差が、教育の差になり、所得格差をもたらしていないだろうか……とピケティ先生は指摘する。

 話を資産に戻そう。すでに引用文を紹介したが、各国の国際収支を集計すると、大幅なマイナスになる。理屈の上ではプラスマイナスゼロになるはずなのに、各国に入ったカネよりも、各国から出ていったカネのほうが大幅に多い。このマイナスは、多額の資産がタックスヘイブンに隠されているからではないかと推測されていた。

 なぜ「推測」かといえば、正確な統計がないからだ。経済学者でさえ、フォーブス誌の長者番付に頼るレベルだ。正確な資料がないため、先進国の国内でどれほど資産格差があり、どれくらいタックスヘイブンに逃避しているのか、推測に頼らざるをえないという。

 で、今回のパナマ文書だ。今まで謎に包まれていたタックスヘイブンの利用実態の一部が明らかになりそうだ。データが膨大なので、統計的に意味のある研究もできるかもしれない。ヤバいのである。パナいのである。

 

 

 

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 ◆参考文献等◆

21世紀の資本

21世紀の資本

 
「豊かさ」の誕生―成長と発展の文明史

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