私はオタクではないのだが、就職してからはテレビアニメをよく見るようになった。
理由は3つある。まずWEB配信されているものが多く、時間を選ばずに見られること。24分で終わるため、朝の出かける前や帰宅後のわずかなスキマ時間にも楽しめること。そして何より、想像以上に面白かったことだ。さすがはクールジャパン。今では普通のテレビ番組をまったく見なくなった。
私のアニメ視聴経験はあまり豊富ではない。が、それでも誰かにオススメしたい作品はある。
今回は「お仕事に関わるアニメ」を5本選んでみた。
■花咲くいろは
老舗旅館で働くことになった東京の女子高生が、持ち前の明るい性格で困難を乗り越えていくお話。まるでNHKの朝ドラのような作品だ。企画段階から「仕事を題材にしたアニメ」「仕事を楽しいと思えるようなアニメ」を目指して作られたという。主人公も脇役も第1話では欠点だらけのクズばかりだ。しかし物語が進むにつれて、たまらなく魅力的な人物へと成長していく。
P.A.worksは最も成功している新興アニメ制作会社の1つ。背景美術をはじめ、圧倒的な映像美が魅力だ。安藤真裕監督は原画から経歴をスタートさせた実力派。脚本の岡田磨里先生は天才と評されることも。
■PSYCHO-PASS サイコパス
人間の心理状態をかんたんに計測・数値化できるようになった近未来。高い「犯罪係数」が計測された人物は「潜在犯」と呼ばれ、犯罪を犯す前に処罰されていた。公安局刑事課に配属された主人公・常守朱(つねもり・あかね)は、悩みながらも事件の捜査に打ち込んでいく──。
ドラマ『踊る大捜査線』シリーズの本広克行監督が、アニメを作りたいという昔年の夢を実現した作品。そもそも本広監督は、Production I.G.の『攻殻機動隊』や『パトレイバー』の影響を受けて『踊る』シリーズを作ったという。で、今度はProduction I.G.と組んで『踊る』のような警察モノを作ることになった。ややこしい。
脚本は『まどか☆マギカ』の虚淵玄先生と小説家・深見真先生が中心になって書いている。言葉の選び方が鮮やかで、1つひとつのセリフが抜群にカッコいい。
■サーバント×サービス
地方公務員の職場を舞台にしたゆるいコメディ。原作は高津カリノ先生のギャグまんがだ。いわゆる「日常系」の系譜に位置づけられる作品(ですよね?)なので、とくに重大な事件は起きず、ひたすらショートコントを積み重ねるタイプのアニメだ。仕事で疲れ切った夜にオススメ。
製作会社A-1 Picturesはソニーグループのアニプレックス傘下の企業だ。カネにモノを言わせた極めて高品質なアニメを供給しており、リリースした作品のほとんどが話題作になっている。
■うさぎドロップ
30歳の独身サラリーマン・河地大吉が、祖父の隠し子・鹿賀りんを引き取って育てるお話。人間は守るべきものができると仕事も頑張れるのだ。6歳のりんがとにかく可愛いし、子育てを通じて成長していく大吉に感情移入させられる。こんなデキのいい子供がいるわけねえよというのは野暮なツッコミだ。実写版なんか無かった。
なお、宇仁田ゆみ先生の原作マンガの結末はかなり衝撃的で賛否両論。心して読むように。
製作は『PSYCHO-PASS』と同じくProduction I.G.。亀井幹太監督にとってテレビアニメ初挑戦の作品だったそうだ。それから脚本家・岸本卓先生は経歴が面白い。
■はたらく魔王さま!
勇者に負けて現実世界に逃げ込んだ魔王は、かつての魔力を失っていた。いつの日か再起して世界征服の野望を果たすため、まずはファーストフード店のアルバイトから出直すことになる。爆笑必至の上質なシチュエーション・コメディだ。
制作のWHITE FOXは2007年設立のとても新しい会社で、ていねいに作り込まれたアニメを供給している。細田直人監督はアクションアニメーターとして名を轟かす一方、キャラの可愛らしさにも定評があるらしい。脚本家・横谷昌宏先生はかつて『アンパンマン』や『名探偵コナン』『おじゃる丸』『ケロロ軍曹』にも参加しており、老若男女を問わない笑いを提供してくれる。
◆
1872年、文明開化の華やかなりし東京・京橋に「新富座」という劇場ができた。英国公使館員トーマス・クラッチは極東の後進国に赴任したにもかかわらず、綺麗な劇場で美しい芝居を見物できたことに喜び、その感激を母国への手紙に書いているという。
不思議なのは、西洋と日本は文化的背景がまったく違うにも関わらず、ともに「演劇」という風習を持っていたことだ。文字を持たないアボリジニでさえ、一族の神話を劇にして語り継いでいるという。物語を鑑賞することは、おそらくヒトに遺伝的にプログラムされた行動なのだろう。ヒトは物語なしには生きていけない。
あるときは生き方を学ぶために。
あるときは、笑いで癒されるために。
物語を鑑賞することで、なんというか、私たちは救われるのだ。
まず口伝から始まり、演劇が誕生して、やがてオペラやミュージカルのような大規模な興行が発達していく。19世紀末には映画が生まれ、20世紀半ばにはテレビが誕生する。テレビアニメは物語の形態として最も新しいものの1つだ。時間を選ばずに見られる手軽さは、現代人の生活スタイルによく馴染む。膨大な量の作品がリリースされているため、好みのコンテンツが必ず見つかるだろう。
私はオタクではないが、アニメを見る人がもっと増えればいいなと思っている。
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