アニメ『翠星のガルガンティア』のシナリオが面白いのは、「自由主義と家族」と「全体主義と組織」が対立する構造になっていることだ。自由と家族(含む家父長制)は、対立する概念として捉えられることも珍しくない。にもかかわらず、脚本家は自由と家族を近しいものとして扱っている。じつに興味深い。
今回の記事はネタバレ全開なので、ぜひ本編を見てから読んでほしい。
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ケアと監視、包摂と従属。これらは同じ現象の裏表だ。
痴呆老人にGPSセンサーを付ける。これはケアであると同時に監視だ。企業への奉仕の引き替えとして、承認欲求を満たしてやり「居場所」を与えてやる。これは包摂であると同時に従属だ。これを見て、「自由とケア、自由と包摂は両立できない」と短絡する人がいる。「従属こそ安息への道である」というストライカーのセリフには一面の真実がある。
しかし『翠星のガルガンティア』では、包摂しながら自由で、ケアをしながら監視はしない。そういう社会を理想として描いている。そして不思議なことに、私たちはこの理想に強く心を揺さぶられるのだ。
「自由主義は文化・生活の継承を苦手としているのではないか?」
近ごろ、私の周囲の人たちはそんな議論をしている。
たとえばルソーは自由と民主主義の生みの親の一人だ。が、彼は5人の子供を全員、養護員に入れてしまった。最近の資本主義的な成功者を見ると、子供を作っていない人がけっこう目につく。『一九八四年』に登場する「党員」みたいなものだ。資本主義的に成功しながら、同時にプロールのように庶民的な「家族」を上手く作るのは、じつはすごく難しいのかもしれない。「結婚するほどヒマじゃない」「子育てするほどヒマじゃない」というワケだ。
「自由」と、それを土台とした現代資本主義の行き着く先は、「継承」不在の断続社会ではないか?……そんな疑念を抱かずにはいられない。
しかしガルガンティアは違う。自由とケアは両立できるし、自由と包摂は両立できると訴える。自由を保証しながら、同時に文化や生活を「継承」できると声高に宣言する。リジットが船団の指揮権を委譲されるシーンは、まさに「継承」の体現だった。
『翠星のガルガンティア』は、私たちに新しい「自由」のかたちを示した。これは古き良き時代の理想の復古でもある。第8話・リジットの「こっちへ残る人もいる」という独白には、大きなヒントがあると感じる。
ケアと自由が両立する世界。
包摂と自由が両立する世界。
そんな世界こそ理想ではないか。
虚淵さんの脚本は、このように「社会」に対する洞察が鋭い。
『PSYCHO-PASS』でもそうだった。
個人的な好みをいえば、『まどか☆マギカ』よりも『PSYCHO-PASS』のほうが好きだ。なぜなら「社会の中の個人」が描かれていたからだ。『まどか☆マギカ』はセカイ系の流れを継承しており、社会不在の物語によって「個」の生き方を描くものだった。一方、『PSYCHO-PASS』では脚本家陣の「社会」に対する考察が克明に描かれており、しかもそれに強く共感させられた。
法が人を守るんじゃない、人が法を守るんです。
これまで悪を憎んで正しい生き方を探し求めてきた人々の
想いが、その積み重ねが、法なんです。
――常守朱『PSYCHO-PASS』
これは100年後にも残したいレベルの名台詞だと思う。
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