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『ショーシャンクの空に』と『まおゆう』との共通点/ヒーローは小ぢんまりとした事から始める

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三幕構成の弱点は、それが「映画のシナリオ」を目的としている点だ。小説の執筆方法に当てはめようとしても、そのままでは上手くいかない。小説と映画との一番の違いは、挫折率にある。よほど退屈な映画でない限り途中退席はしない。が、小説はちょっとでもつまらないページがあれば「積ん読」となる。
三幕構成を使えば、二時間の物語をメリハリあるものにできる。しかし冒頭の数分間で観客を引き込むには(小説なら最初の数ページで読者を引きつけるには)、別の方法論が必要になる。観客(読者)を魅了し「つづける」ためには、三幕構成だけでは不充分だ。
昨日ひさしぶりに『ショーシャンクの空に』を観たが、観客を引きつける工夫が随所にみられ、とても勉強になった。終身刑となった主人公アンディは、あまりハリウッド的ではないキャラクターだ。彼が何を目標としているのか、明示されないからだ。


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典型的なハリウッドキャラならば、分かりやすい目的を持って行動する。たとえば無実を証明しようだとか、脱獄を企てるとか、開始五分からテンション全開で努力するはずだ。
しかしアンディは他の囚人たちに心を開かず、なにを考えているのか分からない。「仲間を作る」という、とても小さな困難を克服することから、彼は行動を開始する。
主人公を困難に直面させて、アッと驚くような方法で克服させる。これは物語の典型的なパターンだ。『ショーシャンクの空に』のシナリオは、基本的に困難→克服のパターンを繰り返しているに過ぎない。(シナリオ用語では困難のことをバリア、アッと驚かせることをリバーサルというらしい。)
ショーシャンクの空に』では、主人公の直面する困難が徐々に大きくなり、それにつれて克服したときの驚きも大きくなっていく。主人公の目標が見えづらくても、リバーサルをこまめに並べることで観客を飽きさせない。三幕構成がお話をまとめる技術なら、リバーサルはお話をドライブする技術だと言えるはずだ。
よく似た構成の物語を、最近読んだ。言うまでもなく『まおゆう』だ。


魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」まとめサイト
http://maouyusya2828.web.fc2.com/matome01.html


こちらも基本的には困難→克服の流れを繰り返すだけで、お話をドライブしている。また着目すべきなのは、主人公たちが「負け知らず」だという点。特に序盤では顕著だが、圧倒的な知性で困難を弾き飛ばしていく。それが気持ちいい。連戦連勝の爽快感に酔って読み進めていくうちに物語は中盤にさしかかっており、止められなくなる。もちろん一つひとつ「勝ち方」には、読者を驚かせる工夫がなされている。ジャガイモにせよ、羅針盤にせよ、読者を「なるほど」とうならせる。
この構成を成功させた背景には、目標設定のうまさがある。目標があまりにも大きいから、主人公が勝ち続けても中だるみしないのだ。
戦争のない世界を作るという遠大な目標を、冒頭で設定してしまう。この大目標に至るための中目標・小目標が順番に示され、それぞれに読者を唸らせるような解決策が与えられる。「目標の階層化」と「読者を驚かせること」が、お話をドライブしているのだ。
目標の階層化は日本の連載マンガでは一般的だ。
ルフィは「海賊王になる」という大目標のために、「自分の海賊団を作る」という中目標を持ち、まずは「目の前の敵を倒す」という小目標を達成することになる。ヒーローはいつも、小ぢんまりとした事から始めるのだ。


短編小説の場合、目標の階層化はあまり必要ない。魅力的な目標をひとつだけ提示したほうがいい。また読者をこまめに驚かす必要性も薄い。結末に大きな驚きをひとつ準備しておいたほうがいい。なぜなら短編小説では「切れ味」が重視されるからだ。小技を連打するよりも、大技を一発ぶちかますイメージ。
それに対して長編小説では、読者を飽きさせない工夫が必要になる。「目標の階層化」と「こまめなリバーサル」は、その解答になりうる。三幕構成だけでは説明できない「お話をドライブする技術」が、ここにある。


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