いまさらながら『たまこまーけっと』第3話について。
『たまこまーけっと』の第3話、すごくいいな。こういうお話は大好き。主人公の「たまこ」が他の誰かを成長させて、それを通じて「たまこ」自身も(ちょっぴり)成長する。たまこは、自己実現を最終目標にした少年ジャンプ型主人公ではなく、デウス・エクスマキナな水戸黄門型主人公でもない。
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「主人公が周囲を成長させながら、自分自身も少しずつ変わっていく」
この構図は『ガールズ&パンツァー』の西住みほとよく似ている。両作で脚本をつとめる吉田玲子先生は、たぶん、こういうタイプのお話が好きなのだろう。『けいおん』の平沢唯にも、序盤ではよく似た役柄が割り振られていた。たまこ型主人公は、「変化する主体」と「変化をうながす存在」とを自由に行き来して、物語に奥行きを与える。
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たとえば『まおゆう』では「勇者=変化する主体」「魔王=変化をうながす存在」だ。
『スターウォーズ』でいうルークとオビワンの関係に近い。勇者は様々な可能性を秘めているけれど、自分一人では変わることができない。魔王と出会い、彼女と相互所有契約を結んだことで、初めて変化が可能になる。
(……っても、『まおゆう』の場合は物語のスケールがめちゃくちゃ大きい。章によっては勇者以外のキャラクターも「変化する主体」になるし、終盤では「世界」そのものが「変化する主体」になってしまう)
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また『ビビットレッド・オペレーション』でも、「変化する主体」と「変化をうながす存在」の役割分担がはっきりしている。「あかね=変化する主体」「健次郎博士=変化をうながす存在」だ。こちらは、「ルークとオビワン」というより「ルークとヨーダ」に近いかも。
※ちなみに「変化をうながす存在」は(オビワンがそうであったように)主人公にとって「異世界からの訪問者」である場合が多い。そして「味方」だとも限らない。『まどかマギカ』のキュウベイは明らかに「変化をうながす存在」であり、「異世界からの敵」だ。『ビビオペ』の博士は、なんつーか、まあ、「科学」という名の異世界から来たと見なせるかも(?)。
※※また『まおゆう』はジャンルとしては「バディもの」であり、魔王と勇者はお互いに成長させあう関係だ。勇者にとって魔王が「変化をうながす存在」であるように、魔王にとっての勇者も同じ。『まおゆう』を魔王目線で見ると、彼女が異世界からの訪問者によって成長するお話なのだ。
※※※でもって勇者目線に立ってみると、「男が地の底で神秘的な存在(≒女性)に触れて力に目覚める」のは神話の時代から愛されてきたモチーフだ。ヨナはくじらの胃の中で信仰に目覚め、ダンテは煉獄山で永遠の淑女ベアトリーチェと出会う。アニメ『アクセルワールド』の主人公が飛行能力に目覚めるのはどんな場所だったか? というわけで、『まおゆう』を勇者目線で見ると、(異世界からの訪問者ではなく)地の底で「変化をうながす存在」と出会う――というパターンだと言える。
ここまでの例でわかるとおり、
・「変化する主体」→主人公
・「変化をうながす存在」→主人公のサポート役
……となる。「どうしてそうなるの?」とか興味のつきない論点ではあるけど、お話を作るときの実用上はあまり重要じゃないかも。揚力が発生する物理学的な仕組みがわからなくても飛行機は作れる。こういうのを考えるのは批評家・評論家に任せよう。
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『たまこまーけっと』に戻ると、「変化をうながす存在」の第一候補は「鳥」だ。
たまこにとって異世界からの訪問者であり、「人の言葉を話す」という神秘的な能力を備えている。この部分だけに注目すれば『スターウォーズ』のオビワンや、『まどかマギカ』のキュウベイによく似ている。しかし今のところ狂言回し的なポジションを取ることが多く、スターウォーズでいうC-3POやチューバッカみたいな役割が与えられている。
そして『たまこまーけっと』第3話では、たまこ自身が「変化をうながす存在」になった。「変化する主体」は、もちろん朝霧さんだ。『たまこまーけっと』第3話の主人公は朝霧さんであり、彼女にとってたまこは「異世界からの訪問者」であるわけだ。
観客を物語に引きつけるフックは「(たまこが)朝霧さんに嫌われてるかも?」という疑問だ。この疑問をフックにしている以上、朝霧さんの一人称的なお話にはできない。あくまでもたまこの目を通して、三人称的な視点から朝霧さんを追いかけることになる。朝霧さんの「たまこと仲良くなりたい気持ち」を三人称的に表現した結果が、あのトイレのシーンだ。
朝霧さんは「鳥」の力を借りて、ちょっぴり前に進む。そして喫茶店のマスターがデウス・エクスマキナとなって水戸黄門的にお話を締めくくる。この喫茶店のシーンもよかった。二人が店を出ると、すでに商店街はどのお店もシャッターを下ろしている=かなり時間が経過している。二人が時間を忘れるほどおしゃべりに夢中になったことが、さりげなく表現されている。
このように「たまこ型主人公」は、「変化する主体」になるときもあれば「変化をうながす存在」になるときもある。周囲に影響を与えながら、少しずつ成長していく。たまこが「変化をうながす存在」となる回をシリーズの第3話に持ってきた効果とか意味とか、語りたいことはつきないけれど、今回はこの辺りで筆を置きたい。
『たまこまーけっと』のいちばんの萌えキャラは山田尚子監督だ。山田監督、キャラデザの堀口先生、脚本の吉田先生――女子三人で「これって可愛くない?」「超かわいい!」「やばーい!」みたいにキャイキャイ盛り上がりながら作ってる様子を妄想すると色々と捗る。スタッフの「わたしたちが考える最高のかわいい」を持ち寄った結果が、『たまこまーけっと』という作品なのでは。
たまこまーけっと3話に見る、小川太一コンテ演出の星川孝文っぽさ
http://d.hatena.ne.jp/mattune/20130127/1359289481
※フレーム内フレームといえば『ビビオペ』は頭おかしい(褒めてる)ですよね。
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