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片耳ゴブリン「それなら、あっしも気づいたです!ボートがだいぶ南に流されたですね?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
朱眼船長「余計なことを言うんじゃないよ」
衛兵長「ど、どういうことだ?」
剣衛兵「…ことだ?」
槍衛兵「ま、まさか海のうえで迷子になった、とか…?」
盾衛兵「そんな…せっかく助かったと思ったのに」
片耳ゴブリン「嘘じゃないです!最近、月や太陽がずいぶん高い場所にある思ってたです。きっと黒鳥号と同じ潮に乗って流されてしまったですよ~」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
衛兵長「つ、つまり…我々は今、自分たちの現在位置が分からなくなっているのか!?」
剣衛兵「…のか!?」
槍衛兵「そんな…!」
槍衛兵「…そんな大事なことを俺たちに秘密にするなんて…許せない!」スチャ
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
盾衛兵「や、やめてください~」オロオロ
朱眼船長「いらない心配をさせたくなかっただけさ。安心しな、何があっても昇天諸島まで送り届けてやるよ」
衛兵長「ええい、言い訳無用!」スチャ
剣衛兵「…無用!」スチャ
朱眼船長「おっと、剣を抜くとは穏やかじゃないね…」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
片耳ゴブリン「あ、あっしは丸腰です!ど、どうかお助けを~!」
衛兵長「貴様らには、船を下りてボートに戻ってもらう」
剣衛兵「そうだ!ボートに戻れ!」
朱眼船長「だから言っているだろう、昇天諸島に──」
衛兵長「ふん、そんな甘言にはもう騙されんぞ!現在地が分からないのに、どうして昇天諸島にたどり着けるというのだ!」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
剣衛兵「そうだ!たどり着けるわけがない!」
衛兵長「さいわい、この船には水も食糧もたっぷり積んである。我々だけなら3ヶ月の漂流にも耐えられるだろう…」
槍衛兵「へへへ…。3ヶ月あれば…どこかの商船に見つけてもらえそうだ…」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
衛兵長「もとより、貴様たちは処刑されるはずだった!さあ、ボートに戻って、どこかに消えろ。貴様たちには、海のうえで飢え死にするのがお似合いだ!」
朱眼船長「何やら勘違いしているようだね」
衛兵長「減らず口を~」
女騎士「衛兵長さん、どうか剣を収めてほしいのだ」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
衛兵長「女騎士さんの頼みでも、こればかりは譲れません。我々だって命は惜しい。罪人と心中するなんてまっぴらです!」
剣衛兵「そうです!まっぴらです!」
槍衛兵「へへ…。命のためなら、手段は選べないんでね…」
女騎士「し、しかし…」
盾衛兵「ぼ、ぼくは…できれば船長を信じたいです」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
女騎士「おお、そうか!」
盾衛兵「だけど、どんなに腕のいい船乗りでも…現在地を見失ってしまったら、なすすべがないのではありませんか!?」
銀鱗航海士「…ええ、おっしゃる通りです」
盾衛兵「そんな…」
衛兵長「ふん、認めおったか」
銀鱗航海士「この大地は球形です。船の現在地は、『緯度』と『経度』で表すことができます」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
衛兵長「それがどうした…?」
銀鱗航海士「このうち、『緯度』は比較的簡単に知ることができます。どれだけ赤道に近づいたかは、星の高さを調べるだけで大雑把に分かるのです。ですが…」
銀鱗航海士「…問題は、『経度』です」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
盾衛兵「どれだけ旧大陸から西に離れているか、ですね」
銀鱗航海士「もしも正確な時計があれば──。それこそ、1ヶ月に1秒も狂わないような時計があれば、経度は簡単に分かります。帝都の正午と、現在地の正午で何時間のズレがあるかを調べればいい」
盾衛兵「けれど、船に持ち込めるほど小さくて、それほど正確な時計はない…」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
銀鱗航海士「ええ。砂時計では、時差を利用して『経度』を調べることはできません。だから、月を始めとした複数の天体の位置を計測して、さらに複雑な計算をして、経度を求めます。いわゆる『天測航法』というやつですね」
銀鱗航海士「この航法には『天測表』という計算表が必要なのですが…。先日の嵐で、その計算表をなくしてしまいました」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
衛兵長「そら見ろ。やはり現在地が分からないのではないか!」
銀鱗航海士「盾衛兵さんのおっしゃる通り、現在地が分からなければ、どんな船乗りでも遭難を免れないでしょう…」
盾衛兵「つまり、今度こそ本当に遭難した、と…?」ガックリ
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
槍衛兵「能書きはもういい!衛兵長、こいつらは丸腰です!ここで斬ってしまいましょう!」
剣衛兵「そうですよ!衛兵長!」
朱眼船長「…」ニヤニヤ
衛兵長「な、何がおかしい!」
銀鱗航海士「もしも、現在地が分かると言ったら?」
衛兵長「は?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
盾衛兵「計算表がないのに…?」
女騎士「これを使うのだ」バサッ
衛兵長「それは…?」
銀鱗航海士「精霊教会の『暦表』です。新しい暦の正しさを示すために、天体観測の結果がびっしりと羅列されています。これをよく調べたところ…簡単な天測表として使えると分かりました」
衛兵長「で、では…もう迷子ではないのだな!我々は助かるのだな?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
朱眼船長「言っただろう、昇天諸島まで連れていくってね」
衛兵長「よ、よかった…」ヘナヘナ
剣衛兵「ああ、衛兵長!しっかり!」
槍衛兵「う…う…」グスン
盾衛兵「行けるんですね、昇天諸島に!」
女騎士「うむ!」
銀鱗航海士「それにしても、この『暦表』は本当に正確です。これを書いたティコ博士というのは大した人物ですよ。こんなきめ細かな天体観測を行うなんて…」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
女騎士「私の友人なら、いつもの口ぐせを漏らすだろう」
銀鱗航海士「口ぐせ、ですか?」
女騎士「暦表は、いわば星の動きを記した帳簿…」
女騎士「…正しい帳簿さえあれば、世界だって救ってみせる。あいつはそう言ってはばからないのだ」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
銀鱗航海士「世界を救うとは、ずいぶん大きく出ましたね」
女騎士「あはは、そうかもしれん」
朱眼船長「だけど少なくとも、ここにいる2ダースほどの船乗りは救うことができそうだ」ニヤッ
朱眼船長「さてと、休憩はここまでだ!」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
片耳ゴブリン「島についたら、ごはんをたらふく食べるですよ~」
銀鱗航海士「黒鳥号の針路を、さっそく昇天諸島に合わせましょう!」
女騎士「…いいや、待ってほしいのだ。本当に昇天諸島でいいのだろうか?」
一同「「「…は?」」」
女騎士「黒鳥号は、他の船の倍の速さが出せるのだろう?そして、ここに集まっているのは、長年この船を乗りこなしてきた海賊たちだ。私たちは、今からでも目指すべきではないだろうか?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
海賊たち ザワザワ…
朱眼船長「ふふふ、なるほどねえ…」
銀鱗航海士「目指す…って、まさか!」
女騎士「そうだ、真鱈岬だ!私たちにはまだ勝機がある。レースを降りるのは早すぎる…。そうだろう?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
朱眼船長「まったく、あんたといると飽きないね」
衛兵長「レースで勝てば、我々にも報奨が出る…」
銀鱗航海士「誰よりも早く、真鱈岬にたどり着いて見せましょう!」
海賊たち ワアー!!
朱眼船長「お前たち、帆をかけな!風はあたしらに味方しているよ!!」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
海賊たち「「「アーイ!!」」」
帆布 バタバタバタ…
舵 ギギギギィ…
衛兵長「す、すごい…。ガレオン船とは比べものにならない速さです…」
女騎士「うむ!一気に追いかけて…追い抜くのだ!」
▼一週間後、帝都・監獄塔──。
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
長身看守「…なあ、聞いたか?」
小太看守「何を?」
長身看守「決まってるだろ、3番独房の囚人だよ」
小太看守「ああ、あのダークエルフか。3番独房といえば、この監獄塔でいちばん広い牢屋だ。貴族でもないのに、なんであそこに入れられたんだろうな」
長身看守「そりゃあ、お前…。ダークエルフが珍しいからだよ」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
小太看守「珍しいってだけで、広い牢屋が必要なのか?」
長身看守「たとえば、そうだな…ゾウやキリンはありふれた動物か?」
小太看守「いいや、この国じゃ珍しい動物だ」
長身看守「じゃあ、ゾウやキリンの檻は広いか?狭いか?」
小太看守「…広いな」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
長身看守「だろう!珍しいやつには広い檻が必要なんだ」
小太看守「うーん、そんなもんかあ?」
長身看守「で、話はここからだ…。せっかく捕まえた珍しいダークエルフなのに、メシを食っていないらしい」
小太看守「きっと美食家なんだろう。ここのメシは最悪だ」
長身看守「いやいや。3番独房の囚人には、メシも上等なやつが出る」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
小太看守「そうか、まさかダークエルフがサボテンの仲間だったとは…」
長身看守「は?」
小太看守「植物の仲間なら、メシを食わなくても平気だろう。サボテンなら水もいらない」
長身看守「さすがに水は飲んでるらしいが…」
小太看守「となると、サボテンではない?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
長身看守「当たり前だ!メシを食わないせいで、日に日に弱っているらしい」
小太看守「ならば植物の仲間でもないな」
長身看守「もちろんだ!ああっ、お前が相手だと話が進まない!せっかく捕まえたダークエルフなのに死んだら損だ…って話がしたいのに」
老看守「…お前たち、異常はないか?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
長身看守「ハッ!異常ありません!」
小太看守「いつも通りであります!」
老看守「はて…。誰かのお喋りが聞こえたが…」
長身看守「わ、私たちではございませんッ!」
小太看守「囚人どもが騒いでいたのでございましょう!」
老看守「本当かのう…?」
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