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▼黒鳥号、船室──。
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
ガチャッ
女騎士「ここは上級船員の部屋のようだ…」
盾衛兵「やはり、昨日まで誰かが生活していたような雰囲気ですね」
女騎士「着替えや筆記用具もそのまま残っているのだ」
盾衛兵「ですが、このニオイは…」
女騎士「うむ、間違いない。血のニオイだ」
バサッ
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
女騎士「ふむ、これは…」
盾衛兵「うぅっ…。ベッドが赤黒い血で、べったりと…」
女騎士「これほどの出血ならば、ベッドの主はおそらく助かっていないだろう」
盾衛兵「で、ですが…それなら死体は?このベッドの主はどこに行ってしまったのですか!?」
女騎士「分からん。…ん?」
女騎士「ベッドの下のこれは…動物の毛か?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
盾衛兵「茶色く固いですね。このベッドに羊毛は使われてなさそうだし…ブラシか何かから抜け落ちたものでしょうか?」
女騎士「ふぅむ。この質感…ブラシに使われる馬の毛とは違う気がするのだ。どちらかと言えば──」
盾衛兵「どちらかと言えば?」
女騎士「いいや、私の思い過ごしだろう。ここは船のうえだ。ブラシの毛だと考えたほうが理に適っている」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
盾衛兵「そ、そうですか?何かお気づきなら、ぜひ教えて──」
ウワァァアア!!
女騎士「む!今の悲鳴は!?」
盾衛兵「槍衛兵さんの声です!!」
▼黒鳥号、船倉──。
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
衛兵長「お、落ち着け!」
剣衛兵「そ、そそ、そうだ!落ち着け!」
槍衛兵「へへ…。わ、分かってますよ…!」
バタバタ
女騎士「いったい何事だ?」
盾衛兵「すごい叫び声が聞こえましたが…」
槍衛兵「ああっ、女騎士さん!助かった~!」
衛兵長「何を情けないことを!女騎士さんをお守りするのが我々の任務だぞ…!」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
剣衛兵「そうだ、任務だぞ!」
槍衛兵「そうは言ってもぉ…」
盾衛兵「み、みなさん…しっかりしてください!」オロオロ
女騎士「何があったのか順番に話すのだ」
衛兵長「し、失礼を…。じつはそこの扉から──」
ドシンッ
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
一同「「「…!!」」」
女騎士「ふむ、今の音は?」
衛兵長「これで分かったでしょう。あの扉の向こうに、何かいるのですよ!」
剣衛兵「何かが扉を打ち破ろうとしているんです!」
女騎士「何かと言っても──」
グルルル…
槍衛兵「ひぃ~!またうなり声が…!」
盾衛兵「つ、積み荷の家畜が暴れているだけでは…?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
衛兵長「船に乗せる動物といえば、ヤギや豚、ニワトリぐらいのものだろう?あんなうなり声を出すなんて…」
剣衛兵「…い、犬かもしれませんよ!」
ドシンッ
衛兵長「…犬か?あれが?」
槍衛兵「ま、魔物だ!間違いありませんよぉ!」
女騎士「向こうにいるのが何者であれ…。そろそろ扉が破られそうなのだ!備えろ!」スチャッ
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
衛兵たち「「「は、はい!」」」スチャッ
ドシンッ
ガン…ガン…
女騎士「来るぞ…!」
衛兵たち「「「…」」」ゴクリ
ドシンッ
メリメリ…
バキィ!!
???「グルルル…」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
衛兵長「な、何だ…あの黒い影は…」
剣衛兵「黄色く光る目…。白い牙…」
槍衛兵「あ…あ…」ガタガタ
盾衛兵「…まるで狼のような、耳と尻尾?」
???「オノレ…ニンゲン…ワタシ…ヲ…トラエルトハ…」
衛兵長「ひ、人の言葉を喋った!」
盾衛兵「魔族です!!」
???「…アト、スコシ…アトスコシ、ダッタ…ノニ…!」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
女騎士「いかん、やつは理性を失っている!」
???「グガァァアア!!」
ズバッ
衛兵長「ひっ」
剣衛兵「うわぁ!」
槍衛兵「お、俺の槍が…真っ二つに…」ヘナヘナ
盾衛兵「また来ます!」
???「グォォォオオ!!」
女騎士「はぁっ!」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
スパッ──
???「…グフォッ!?」
女騎士「手加減のできる相手ではなかった。悪く思うな」
???「グ…ゥ…」ドサリ
衛兵長「あ、明かりは…?」
剣衛兵「ここにロウソクがあります!」
シュッ…ポワ…
槍衛兵「し、死んでる」
盾衛兵「この姿は…」
女騎士「私の想像が当たったようだ。とりあえず、ボートの仲間たちを呼んでこよう」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
衛兵長「わ、分かりました…。おい、行ってこい!」
剣衛兵「はい!」
槍衛兵「こいつ、生き返ったりしませんよね…?」
盾衛兵「魔族は忌まわしい魔法を使うそうですが…」
ザクッ
女騎士「これで大丈夫だ」
▼黒鳥号、甲板──。
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
朱眼船長「なるほど、こいつがその魔族だね」
片耳ゴブリン「ひどいニオイです…」
銀鱗航海士「魔力切れで、人間の姿を保てなくなったようですね」
衛兵長「では、やはり…?」
朱眼船長「ああ、間違いないよ。こいつは狼男だ」
槍衛兵「へへ…。これが本物の狼男…」
盾衛兵「ですが、狼男は普段は人間の姿をしていると聞いています。なぜこんな姿になってしまったのでしょう?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
朱眼船長「おや、あんたらは知らないのかい?魔族たちは魔国の土で育ったものを口にしないと、少しずつ魔力が失われて、やがて魔法を使えなくなる」
女騎士「私も初めて聞いたのだ…」
銀鱗航海士「狼男の場合、普段は魔力を使って人間に化けています」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
朱眼船長「おおかた、こいつは人間国でスパイをしていたんだろう。母国に戻る途中だったというわけさ」
衛兵長「ふうむ、人間国で諜報活動をしていたとすれば…」
女騎士「…魔国産のものを食べられず、魔力が切れてしまったのか」
片耳ゴブリン「何か金目の物はないです…?」ガサガサ
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
衛兵長「う…。死体を漁るとは、なんと浅ましい…」
片耳ゴブリン「あー!船長!こいつ、首からこんなものを提げてたです!」
朱眼船長「ほう、鼈甲の眼鏡か」
女騎士「な!?…その眼鏡は!!」
銀鱗航海士「見覚えがあるのですか?」
女騎士「うちの会社に面接に来た航海士のものだ。その航海士は…たしか、帝都商船に雇われて…黒鳥号に乗っていたはず!」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
朱眼船長「と、言うことは…」
女騎士「この狼男の正体は、あの航海士だ。いいや、あの眼鏡航海士がじつは狼男だったと言うべきか…?たしかに、嫌な感じはしたのだ」
銀鱗航海士「嫌な感じ?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
女騎士「デュランダルをいつもより重たく感じたのだ。気のせいだと思っていたが…」
朱眼船長「予感が的中したわけだね」
女騎士「考えてみれば、兆候はいくつもあったのだ。たとえば報酬について、あの航海士は妙なことを言っていた。現物で払ってほしい、とな」
衛兵長「現物というと金銀ですかな…?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
女騎士「人間国の硬貨が使えない地域に行くこともあると言っていたが…もとより魔国に戻るつもりなら合点がいく」
盾衛兵「では、帝都商船を選んだのは?」
女騎士「乗組員が多く、紛れ込みやすかったからだろう。無駄に目立つわけにはいかなかったはずだ」
女騎士「少なくとも、私たちの船に乗ることはできなかった。このレースでは注目の的になってしまったからな」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
衛兵長「それにしても…。いくら魔力が切れたといっても、海の真ん中で狼の姿に戻ってしまうとはマヌケなやつですな」
女騎士「たしかに、その点は気になるのだ」
朱眼船長「いいや…」
朱眼船長「たぶん、こいつも1回の航海を耐えられるぐらいの魔力は残していたはずだよ。どんなに残りわずかだったとしてもね」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
銀鱗航海士「ですが、航海の途中で満月を挟むような日程になってしまった。しかも、いつもよりも大きな満月の時期だった…」
女騎士「だから自分を抑えきれなかった、と」
朱眼船長「シーサーペントが黒鳥号を襲わなかったのは、こいつが乗っていたからだろうね」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
銀鱗航海士「狼男も決して身分の高い種族ではないのですが…。スパイとして雇われる程度には、厚遇されています」
盾衛兵「乗組員に魔国のスパイがいると気づいたから、攻撃をためらったのですね」
衛兵長「黒鳥号が捨てられた理由もこれでハッキリしましたな」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
女騎士「うむ。航海の途中で、乗組員のなかに狼男がいると分かったのだ。その恐怖たるや想像に難くない」
盾衛兵「そして、運良く狼男を船倉に閉じ込めることに成功したけれど…」
朱眼船長「…いつ扉を破られるか分からなかった」
槍衛兵「へへへ…。お、狼男と一緒の船なんてごめんだね…!」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
女騎士「と、言うわけで、黒鳥号を捨てて他の船に避難したのだろう。ただの商船に、狼男と渡り合えるような戦士は乗っていなかったはずだ」
衛兵長「帝都商船の旗艦が単独で航海していたのも、この狼男のせいでしょうかね?」
女騎士「うむ。狼男が現れた混乱で、艦隊がバラバラになってしまったのかもしれん」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
銀鱗航海士「…そういえば、あの声!」
朱眼船長「海鳥とも海獣ともつかないあの声か」
銀鱗航海士「今になって思えば、あの声は狼の遠吠えにそっくりでした」
朱眼船長「きっと、こいつの声だったのだろうね」
女騎士「遠吠えが聞こえるほどだったのだ。案外、近い場所を流されていたのかもしれない」
— Rootport (@rootport) 2016年9月5日
衛兵長「流されていた、ですと?」
剣衛兵「…ですと?」
槍衛兵「へへ…。それはどういう意味で…?」
盾衛兵「まさか、ボートが流されていたなんてことは…」
女騎士「あ…」
衛兵長「怪しいですな」
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