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▼羚羊号、士官室──。
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
朱眼船長「先にボートに乗れと言ったはずだよ」
女騎士「忘れものをするところだったのだ」
ガサガサ
女騎士「…あった!」
朱眼船長「それは?」
女騎士「精霊教会の『暦表』だ。新大陸に運ぶよう、友人に頼まれてな…。そういう船長こそ、何をしに戻ったのだ?」
朱眼船長「あたしも似たようなもんさ。これを取りに来た」ゴトッ
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
女騎士「ふむ、その箱は…?」
朱眼船長「予備の六分儀や海図なんかが入っている」
女騎士「計測器具のたぐいは、航海士さんがボートに積み込んでいるのでは?」
朱眼船長「さっきの騒ぎで故障しているとも限らない…」
朱眼船長「…こいつは、あたしたちの命綱だよ」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
女騎士「そうか──」
ガクンッ
メリメリッ
女騎士「わわっ!もしや船が真っ二つに?」
朱眼船長「どこかの板が吹き飛んだだけだろう。とはいえ、もう後がないね」
女騎士「一刻の猶予もなさそうなのだ。急ごう!」
バタンッ
タタタッ
タタタッ
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
ドカッ
女騎士「っと、何だ!?」
衛兵長「痛たた…」
剣衛兵「危ないじゃないですか!急に飛び出してくるなんて!」
女騎士「いやいや、飛び出してきたのはそっちで──」
衛兵長「まったく…。子供のころに習いませんでしたかな?避難するときは押さない駆けない走らない…」
朱眼船長「どうでもいいが、あんたら何をしているんだ?ボートの準備はとっくに終わっているはずだが」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
剣衛兵「えっと…それは…」
衛兵長「ふんっ!逃げ遅れた者がいないか、見回りをしていたのだ。監視役としての務めだからな」
剣衛兵「そうだ!務めだからな!」
朱眼船長「へえ…?」ジトッ
ミシミシ…
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
メキメキ…
女騎士「詮索するのは後にしよう!今はここから逃げるのだ!」
朱眼船長「それもそうだね…。さあ、行くよ!」タタッ
衛兵長「い、言われなくても!」タタッ
剣衛兵「そうだ!言われなくても!」タタッ
ギ…ギ…ギ…
メキッ バリバリ…
ザァーッ!!
▼羚羊号、甲板──。
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
銀鱗航海士「ああっ、船長!女騎士さん!よかった…」
朱眼船長「ボートは?」
銀鱗航海士「今、降ろしているところです。波が収まってきたので」
朱眼船長「油を流したのが効いた…だけじゃなさそうだね」
銀鱗航海士「はい、海面が近づいたので降ろしやすくなりました」
女騎士「海面が近づいた?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
衛兵長「それって…」
剣衛兵「つまり…」
朱眼船長「船が沈んでいるってことだ。グズグズするな、ボートに乗り込むんだ!」
衛兵長「わ、分かった!」タタッ
剣衛兵「お、置いてかないでくださ~い!」タタッ
朱眼船長「今ので全員乗ったね?」
銀鱗航海士「はい」
朱眼船長「悪いが女騎士さん、手伝ってくれ。このロープをゆっくり繰り出すんだ」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
女騎士「任せてくれ!」
銀鱗航海士「こっちの準備は万端です!」
朱眼船長「よし、行くぞ。せーの!」
ギッ…ギッ…
銀鱗航海士「あと2メートル!」
朱眼船長「…手を放すなよ」
女騎士「うむ…」
ギッ…ギッ…
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
銀鱗航海士「あと1メートル!」
朱眼船長「まったく、最高の航海だね…」
女騎士「今は無事に脱出することだけ考えるのだ…!」
ギッ…ギッ…
銀鱗航海士「着水しました!お二人も早く!」
朱眼船長「よしっ!ロープを伝ってボートに飛び移ろう!」
シュルシュル…
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
銀鱗航海士「みんな!船長がボートに乗ったよ!」
海賊たち オォー!!
朱眼船長「喜ぶのは後だ!オールを取りな!羚羊号から離れるぞ!」
女騎士「ボートに乗れば一安心…というわけではなさそうだな」
朱眼船長「ああ。早く離れないと、沈没に巻き込まれて一緒に沈んじまう」
朱眼船長「オールを構えろーッ!行くぞーッ!!」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
エッサホイサ…エッサホイサ…
盾衛兵「お、女騎士さん…ご無事だったんですね!」
槍衛兵「へへへ…。悪運がお強いようで…」
衛兵長「無駄口を叩くな!」
剣衛兵「…叩くな!」
女騎士「今はボートを漕ぐことに集中するのだ!」
エッサホイサ…
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
盾衛兵「見てください!羚羊号が──」
ミシッ…メリメリ…
バキィ! …バシャーン!!
女騎士「ああ…」
銀鱗航海士「船体が2つに…」
衛兵長「せ、船尾側が沈んでしまった…」
ブクブク…
ザァーッ!!
盾衛兵「船首側も沈んでいきます!」
ブク…ブク…
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
女騎士「本当に沈んでしまったのだ…」
ピカッ…ゴロゴロ…
朱眼船長「ひどい空模様だね。シーサーペントが去っても、やつの呼び寄せた雨雲はそのままか…」
銀鱗航海士「海面に羚羊号の残骸が浮かんでいます。探せば、役に立つ積み荷を拾えるかもしれません」
朱眼船長「そうだね、このボートで何日過ごすことになるか分からない。物資は多いほうがいい」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
衛兵長「な、何だこのボートは?水が漏っているじゃないか」
剣衛兵「雨も吹き込んできます!このままじゃ沈んじゃいますよぉ」
槍衛兵「ついてねえ…ついてねえよ…」
盾衛兵「いったいどうすれば…」
パコンッ
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
槍衛兵「いてっ!…このバケツは?」
朱眼船長「弱音を吐くくらいなら、水を汲み出しな!」
槍衛兵「へへへ…相変わらず偉そうな口を叩くじゃねえか。立場が分かってるのか…?」
朱眼船長「文句なら助かった後で聞くよ。それとも、地獄で聞いたほうがいいかい?」
槍衛兵「チッ…」
朱眼船長「残りの衛兵さんたちは、こっちで防水布を広げてくれ。このバケツにできるだけ雨水を溜めるんだ」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
盾衛兵「わ、分かりました!」
衛兵長「なぜ私がそんなことを…。そんな雑用をするために給料を受け取っているわけではない!」
剣衛兵「…ではない!」
朱眼船長「ふふふ…。給料ねえ…」
朱眼船長「あと何日かしたら、一生分の給料と引き替えに一滴の真水を飲みたくなるよ。あたしのお願いを聞いてくれるかな?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
衛兵長「まったく、覚えていろ…」ブツブツ
剣衛兵「そうだ、覚えてろ…」ブツブツ
盾衛兵「こ、こんな感じでいいですか?」
朱眼船長「ああ、その調子で頼むよ」
朱眼船長「…ところで、怪我人は?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
銀鱗航海士「みんな体のどこかしらを転んだりぶつけたりしていますが…重傷者はいません」
朱眼船長「不幸中の幸いってところだね」
銀鱗航海士「ただ、女騎士さんが…」
ピカッ…ゴロゴロ…
女騎士「特損を出さないと約束したのに…。くっ…殺せ!」
朱眼船長「…そんな簡単に死なれちゃ困るよ。たしかに羚羊号は残念だったが、命あっての物種だろう?」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
女騎士「それは…そうなのだが…」
朱眼船長(ここだけの話、この先必ず女騎士さんの力が必要になる。しっかりしておくれよ)ヒソッ
女騎士「は?…私の力が…。どういうことだ?」
朱眼船長「まあ、遠からず分かるだろうさ。荒れた海、小さなボート、乗り合わせた者たち…。この状況では、女騎士さんがいないと困る」
— Rootport (@rootport) 2016年9月4日
女騎士「そう…なのか…?」
朱眼船長「ともかく、無事に沈没する船から脱出したんだ。次は陸地を目指さないとね。…物資が尽きる前に」
女騎士「う、うむ!」
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