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▼半刻後──。 司祭補「…お話は分かりました。要するに、この町の不景気がいちばんの問題なのですわね」 女騎士「そうだ!景気さえ良くなれば何の問題も起きなかったのだ!」 黒エルフ「簡単に言ってくれるわね。思いのままに景気を良くできるなら苦労しないわ」 司祭補「あらあら、まあまあ…」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
司祭補「とにかく一度お話を整理しましょう。まず、女騎士さんは『レモネード屋』に借金の回収に行ったのに、1Gも取り立てずに帰って来た。…そうですね?」 女騎士「お金に困っている人から取り立てなどできないのだ」 黒エルフ「職務放棄よ!相手は利子だけなら払えると言ったのでしょう?」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
黒エルフ「なのに利子も取らずに帰ってくるなんて…信じらんない」 女騎士「レモネード屋さんの暮らしが少しはラクになると思ったのだ」 司祭補「銀行の仕事は、ときには冷徹さも必要なのではありませんか?」 黒エルフ「それとも、そのレモネード屋に何か恩義でもあるわけ?」 女騎士「いや…」
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女騎士「…ただ、あのレモネード屋のオヤジさんは、魔国でお世話になったオークさんに似ていたのだ」 司祭補「オーク」 黒エルフ「それって本当に人間なの…?」 女騎士「もちろん人間だとも!顔がオークっぽいだけで!」
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女騎士「うう…。オークさんのことを思い出してしまったのだ。どうしてあんなことに…」グスッ 司祭補「つらい経験でしたわね…」 女騎士「もしも勇者と会うことがあったら、とっちめてやるのだ!なぜあんなことをしたのか!」 黒エルフ「…もうっ、暑苦しいわね。いいわ、気持ちは分かったわよ」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
黒エルフ「だけどそんな事情じゃ、職務放棄の言い訳にはならないわ」 女騎士「だが…」 司祭補「そうですねぇ…利子は受け取るべきでした」 女騎士「司祭補さままで!」 司祭補「レモネード屋さんは苦しくてもお金を工面してくれたのでしょう。その誠意に応えないのは失礼にあたると思いますわ」
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女騎士「し、失礼に…」ガーン 黒エルフ「ほらご覧なさい、司祭補さまもこう言っているわ!…相手は利子を払うだけでも四苦八苦してるのよ?今すぐ貸したカネをすべて返してもらいましょう。さもないと借金を踏み倒されるかもしれない」 女騎士「そんな『貸し剥がし』のような真似はできない!」
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女騎士「もともと分割返済の契約だ。カネを全額回収したら、レモネード屋さんは明日から仕事ができなくなるではないか」 司祭補「原料のレモンや砂糖を仕入れるお金が無くなりますわねえ…」 黒エルフ「カネを踏み倒されるよりマシよ」 女騎士「あのレモネード屋さんがそんなことをするはずない!」
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黒エルフ「そのレモネード屋がどんなに良い人間だろうと、借金を返せなくなる可能性は高いわ」 司祭補「あら、なぜ?」 黒エルフ「そもそも今の港町が不景気なのは、入港する商船がパタリと減ったからよ。みんな、シーサーペントを恐れてね」 司祭補「先日のシーサーペントですわね」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
黒エルフ「近郊の貿易港からの船はどんどん減っているし、新大陸からの船はほとんど来なくなったわ。最近では、漁師さえも海に出ることをためらっている」 女騎士「レモネード屋の商売に何の関係があるのだ。コップ1杯のレモネードを量り売りする仕事だぞ。どんなに海が荒れようと関係あるまい」
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黒エルフ「関係大ありよ。レモネード屋は、港に立ち寄った船乗りたちのノドを潤すのが仕事よね?寄港する商船が減れば、売上は間違いなく減るわ」 女騎士「ぐっ」 黒エルフ「だから利子だけなんて甘いこと言わないで、今すぐ全額回収すべきなの!」 司祭補「…そうでしょうか?」 黒エルフ「え?」
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司祭補「貸したお金を、いつでも全額回収できる…。そんな契約になっているのですか?」 黒エルフ「い、いいえ…。だけど1回でも利子の支払いが遅れたら、問答無用でカネを返してもらうことになっているわ」 司祭補「では、利子の支払いの期日はいつなのでしょう?」 黒エルフ「それは、その…」
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黒エルフ「明日の…日の出まで、だけど…」 司祭補「でしたら、まだ期日を過ぎたわけではありませんね」 黒エルフ「ぐっ」 司祭補「レモネード屋さんは利子ぶんのお金をご準備なさっているのですから、全額回収することはできないはずです」 女騎士「さすが司祭補さま!話が分かるのだ!」
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黒エルフ「…いずれにせよ、今夜中に利子を払わなければ全額回収することになるわ」 女騎士「ならば今すぐレモネード屋さんのところに行こう!利子を払ってもらおう!」 司祭補「そうしましょう、ダークエルフさん」ギュッ 黒エルフ「ギュッ…って、あたしも一緒に?」 司祭補「もちろんです♪」
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黒エルフ「そうは言っても、もうすぐ真夜中よ?」 司祭補「でしたら、なおさら急がないといけませんわ。レモネード屋さんのお宅はどちらでしょう?」 女騎士「船着き場の近くだ。町の広場を抜けていくのが近道だろう」 司祭補「ではさっそく、出発ですわ~!」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
▼港町、広場──。 ワオーン…ワオーン… 勇者「うう、寒い…。どうやって身分を隠すか悩んでいるうちに、こんな時間になっちゃった。…帝都までの旅費を借りなきゃいけないのに…」 勇者 ポツネン… 勇者「誰もいないし、この広場で一晩過ごそうかな…。銀行に行くのは明日にして…」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
勇者「…っ!人の気配?…そこにいるのは誰!?」 ???「驚かせてすまない。さぞかし腕の立つ剣士とお見受けする」 勇者「えっと…。な、何の話?僕は剣術は苦手で、この剣は飾りみたいなもので…ハハハ…」 ???「ふむ。飾りと呼ぶには、ずいぶん立派なものをぶら下げているのだな」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
???「それは聖剣カリブルヌスだろう?」 勇者「…っ!?」 ???「偽る必要はない。教えてくれるのだよ、わが魔剣デュランダルが…」 勇者「君は誰?姿を見せてよ!」 ???「聖剣カリブルヌスを持つ者は、今の世界には1人しかいない」 月明かり サア── 勇者「…女の、騎士?」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
女騎士「…勇ぅぅぅ者ぁぁぁあ!!!」ダッ 勇者「うわぁっ!?」 港町 ズシーン!! 野鳥 ギャア…ギャア… 黒エルフ「ごほっ…ごほっ…何なの、あいつ!急に飛び出していって!」 司祭補「すごい砂埃…何も見えませんわ!」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
女騎士「くっ…!私の全力の一撃を受け止めるとは…。噂に違わぬ腕前のようだな」ギチ… 勇者「やめてよ!あなたのレベルじゃ僕には勝てない」ギチチ… 女騎士「やめるわけにはいかないのだ!」ギギ… 勇者「そんな!僕たちが本気で打ち合ったら、この町が壊れちゃうよ!」ギギギ…
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
女騎士「ハッ!よくその口で言えたものだ!オークさんの街をあれほど壊しておいて!」バッ 勇者「オークの街?壊す?何の話をしているの!?」キンッ 女騎士「しらばっくれるつもりか!!」ガン 勇者「しらばっくれるも何も…こっちの大陸に戻ってきてから、分からないことだらけだよ!」カッ
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
勇者「オークの街…って、魔国に入ってすぐの街のこと?」ガチッ 女騎士「お前の任務は魔王の討伐だ。なぜ罪なき町人たちの命まで奪った!?」キンッ 勇者「か、カン違いしているよ!」カキンッ 女騎士「魔族は存在そのものが罪深い──。もしそう考えているなら…その考え、叩き直してやる!」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
勇者「僕たちが到着したとき、あの街は…すでに破壊されていたんだ!」カッ 女騎士「…は?」 勇者「あの町を壊したのは僕たちじゃない!」キンッ 女騎士「なん…だと…?」 勇者「たぶん、僕たちのニセモノがいるんだよ!!」カキィィィン!! 女騎士「そんな、嘘だ…」ガク…
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
女騎士「勇者が攻めてきたとき、私はあの街にいたのだぞ!?」 勇者「あの街の、どこにいたの?」 女騎士「…地下牢だ」 勇者「つまり、街を襲撃した〝誰か〟の姿は見ていないんだよね」 女騎士「そうだ。しかし…」 勇者「だったら、僕たちと同じだよ。僕たちもその〝誰か〟を探しているんだ」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
黒エルフ「…ちょっとちょっと!あんた、うちのご主人様(バカ)に何してくれんのよ!」 勇者「え?急に斬りかかってきたのはこの人のほうで…」 黒エルフ「うっさいわね!ああ、もうっ!怪我してるじゃない!」 女騎士「へ?この程度のかすり傷、怪我のうちにも入らないが…」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
黒エルフ「勝手に危ないことしないでよね、バカっ!」 女騎士「す、すまない…」 勇者「このダークエルフは誰?ていうか、あなたたちは何者なの?」 司祭補「あらあら、うふふ…。お互いに自己紹介が必要なようですわね。どうでしょう?今は一旦、銀行に戻りませんか?」 勇者「銀行!」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
勇者「そんな…。あなたたちは銀行の人だったの…?」ボウゼン 黒エルフ「ええ、そうよ」 女騎士「銀行に何か用事があったのか?」 勇者「うん、じつは…」 司祭補「じつは?」 勇者「…お金を、お借りしたいんです…」 一同「…」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
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