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司祭補「この町を離れることになったのも、精霊のお導きかもしれません。引っ越した先でのご成功をお祈りいたしますわ」 毛皮商「ありがとうございます!では、家族が待っていますので…」 司祭補「ええ、お気を付けて…」 パタン… 侍女「…また、ですか?」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
司祭補「はい、今週に入ってもう5軒目ですわ。港町で商売を続けても食べていけないから引っ越すことにした…と相談に来たのは」 侍女「食べていけない──。つまり、儲からないということでしょうか」 司祭補「そのようですわ」 侍女「…妙ですね。この町は貿易で潤っていると聞きました」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
司祭補「ええ、私もそう聞いています。それなのに、出て行く方が増えているなんて…どういうことかしら?」 侍女「そういえば最近は、教会の炊き出しに並ぶ方も増えています」 司祭補「不景気だと漏らす声をよく耳にしますわ。貿易で利益が出にくくなっているのでしょうか?」 侍女「でも、なぜ?」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
司祭補「ここで座り込んで考えていても分かりませんわ。女騎士さんたちに訊いてみたほうがよさそうですわね」 侍女「かしこまりました。留守はお任せください」 司祭補「うふふ、いつもありがとう。侍女さん♪」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
▼港町、帝都銀行の支店──。 銀行員「担保もない、身分も明かせない。それで貸せるわけがないでしょう」 勇者「そ、そこを何とか…」 銀行家「お客さん…。あんたが言っているのは物乞いと同じだよ?」 勇者「そんな!借りたお金は必ず返すよ!」 銀行家「でも、その保障はないでしょう?」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
勇者「何度も言ってるじゃないか、精霊さまに誓って絶対に返すって!僕の言葉が信じられないのか?」 銀行員「私たちは言葉よりもお金を信じる仕事をしているんだ。悪く思わないでくださいね」 勇者「そんな!人の言葉は信じるべきだよ!」 銀行員「信じるに値する人物なら、ね」
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銀行員「だけどお客さん、身分を明かせないんでしょう?」 勇者「うん…。頭取さんがいたら、僕の顔を覚えていてくれているはずなんだけど…」 銀行員「ははあ、面白いことをおっしゃる。うちの頭取のご友人だったとは!」 勇者「さては信じてないな!本当に頭取さんとは知り合いなんだぞ!」
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勇者「頭取さんは僕の冒険に出資してくれたんだ!」 銀行員「なるほど、冒険にねえ…。残念ですけど、頭取は帝都の本店で働いております。こちらの支店にはいませんよ」 勇者「それなら、えっと…そうだ!秘書さんは?出資の話がまとまるときに秘書さんも同席していたはずだ!」
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銀行員「秘書は今、西岸港に出張中です」 勇者「西岸港っていうと、あの軍港の?」 銀行員「戻りは来週以降になりますね」 勇者「そんなに待っていられないよ…」 銀行員「それほどお急ぎのご用件なのですか、お金が必要だというのは」 勇者「もちろんだ!今すぐ王様にお話ししなくちゃ!」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
銀行員「国王陛下に?…あなたは本当に何者なのですか?」 勇者「いや…それは、その…」 銀行員「…ところで聞きました?港湾ギルド長が死んだって話」 勇者「!」 銀行員「ここだけの話、人殺しだっていう噂もあるんですよ」 勇者「違う!殺人なんかじゃない!」 銀行員「え?」 勇者「あ…」
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銀行員「…港湾ギルド長を殺した暴漢はまだ逃げ回っているらしいけど、まさか」 勇者「えっと…ええっと…」 銀行員「お客さんが犯人だなんてことは──」 勇者「~~~!!」 銀行員「…なんてね、冗談ですよ!あっはっは!」 勇者「…ア、ハハ…。冗談ね…」ズルッ
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銀行員「…で、実際のところどうなんですか。誰にも明かしませんから、ご身分を教えてくださいよ。お客さん、王族の方ですか?例の殺人事件について何か知っているんですか?」 勇者「い、いや…。もういい」 銀行員「へ?お金はよろしいんですか?」 勇者「うん!もういいんだ!さよなら!」タタッ
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銀行員「あっ、お客さん!お待ちください…お客さ~ん?」 銀行員「…まったく、変な客だったねえ。一応、頭取に報告の手紙を出しておくか…。やれやれ…」ブツブツ
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▼港町、路地裏──。 勇者 ハァハァ… 勇者「…うぅ、正体がバレるところだった。どこに裏切り者がいるか分からないのに…」 男たち(おーい!聞いたか?暴漢を捕まえた者には報償が出るらしいぜ!) 男たち オオーッ 勇者「港町にはもう1つ銀行があったはず!そっちに行ってみよう!」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
▼西岸港、港の見える邸宅──。 頭取「見事なものだな。薄闇に並ぶ船というのは…」 秘書「ええ、まったく」 海軍元帥「いずれも60門以上の大砲を装備した帆走軍艦です。我々は『戦列艦』と呼んでいます」 財務大臣「あれを配備できたのはみなさんのご協力のおかげ…。感謝しますよ」ニマッ
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頭取「いえいえ、私たちも儲けさせてもらいましたからなあ」 武器商人「ははは!その通りです」 海軍元帥「…」ジトッ 秘書「…どうかなさいました?」 海軍元帥「…いえ、失礼。兵士の命を預かる者として、私もみなさんの協力には感謝しています」 秘書「そう、ですか…」
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秘書「…ところで、港の奥にひときわ大きな船がありますが?」 海軍元帥「我々の旗艦『ハヴォック』です。完成すれば、120門の大砲を積んだ史上最大の軍艦になります」 秘書「ハヴォックというと、荒ぶる神の…?」 海軍元帥「ええ。精霊さまの使いであり、厄災をもたらす存在です」
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秘書「勇ましい名前ですね。きっと魔族たちを一掃してくれるのでしょう」 海軍元帥「…そう簡単にいけばいいのですが」 秘書「何かご懸念が?」 海軍元帥「たしかにハヴォックの火力は、ドラゴンの吐く息にも劣らないでしょう。しかし船体が巨大なぶん、船足は遅くなります」 秘書「なるほど…」
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財務大臣「…ところで例の事業のほうはいかがです?」 頭取「おかげさまで好調です。うちの秘書がよくやってくれています」 財務大臣「ほう。…しかし、そちらの秘書の方は港町で仕事をしていたはず。この町での事業は、むしろ仕事の邪魔になってしまうのでは?」 秘書「…ご心配にはおよびません」
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秘書「港町支店の今後を考えれば、あの町に昔からある銀行を蹴落とすことが先決です。それには、この西岸港で進めている事業が欠かせません」 財務大臣「西岸港の事業のせいで、港町支店の収益が悪くなってしまうのでは?」 秘書「小事を取るようでは大事を逃します」 財務大臣「ふむ、頼もしい」
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財務大臣「ぜひ、この西岸港で進めている事業で、やつらの鼻を明かしてやってください」 秘書「ふふふ、お任せください…」
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▼港町、銀行の執務室──。 黒エルフ「それ、どういう意味?」 女騎士「どうもこうも…言ったとおりの意味だ」 コンコン 司祭補「ごめんくださぁい。…あら、お取り込み中だったかしら?」 黒エルフ「いいえ、いいところに来たわ」 女騎士「うむ。その通りだ」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
司祭補「…いいところ、ですの?汗」 黒エルフ「ええ。こいつに説教してやって!与えられた仕事はきちんとこなしなさい…って!説教は得意でしょう?」 女騎士「いいや、ダークエルフを説教してやってほしいのだ!世の中にはカネよりも大切なものがあるということを!」 司祭補「は、はぁ…?」
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黒エルフ「言っとくけどあたし、自分が間違ってるとは思わないわ」バチッ 女騎士「私だってそうだ」バチバチッ 黒エルフ「だったら司祭補さんに訊いてみなさいよ!」 女騎士「望むところだ!」 司祭補「え」 女騎士「正しいのは私だろう?」 黒エルフ「あたしよね?」 司祭補「ええ~?」
— Rootport (@rootport) 2016, 1月 6
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