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イケメンの競演にメロメロ!/映画『ガタカ』感想

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映画『ガタカ』をついに見た! 恥ずかしながら未見だったのだけど、なんだこの映画ちょー面白い! ふはー!!
腐女子腐男子の諸君! もしも『ガタカ』を見ていないなら絶対に見るべきだ! イケメンが同棲してキャッキャウフフする映画だ! イーサン・ホークジュード・ロウ。どちらも文句のつけようのないイケメンで、この二人が一つ屋根の下で共同生活を送るのだ。この設定だけでご飯三杯はいける。


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映画の後半には、イーサン・ホークジュード・ロウお姫様だっこするシーンがあったりして……なんていうか、その……製作陣の「わかってる感」がヤバい。「イケメン2人のこういう絡みが見たいんだろ? 見せてやるよ! 」というサービス精神に感謝だ。美しい男で画面がいっぱい。夢いっぱいだ。
ヒロインを演じるユマ・サーマンも充分に美しい。が、この映画では男たちの美しさに完全に食われていた。イーサン・ホークの垂れ目が超かわいいし、ジュード・ロウの非の打ち所のないイケメンっぷりにも目が釘付けになる。たとえばミケランジェロの「ダビデ像」とか、ロダンの「弓を引くヘラクレス」とか、見る人の性別を問わず「美しいなぁ……」って感じさせる魅力がある。『ガタカ』は、そういう男の美しさ・男の色気を存分に引き出している映画だと思う。とにかく主演2人がひたすら美しい。
いやー、ほんとうにいい映画だった。
もっと早く見ておけばよかった!



……という感想だけで終わるわけにはいかないので、もう少し語ります。



ガタカ』は1997年の映画だ。『マトリックス』が1999年に映像革命を起こす以前のSF映画なので、派手なCGは無いし、SFXも全体的に地味めだ。映像はとても美しいけれど、昨今のSF映画のように派手な画面を売りにしていない。全体的に静かな印象の映像が続く。
にもかかわらず観客を飽きさせないのは、脚本の勝利だな、と思う。
ガタカ』の舞台はそう遠くない未来、赤ん坊の遺伝子操作が当たり前になった時代だ。遺伝的に優れたエリート層と、そうでない下層民の二極化した社会になっている。主人公ヴィンセントは遺伝子操作を受けていない「不適格者」だが、宇宙飛行士になる夢を捨てられなかった。
しかし、この時代に宇宙飛行士になれるのは、遺伝子操作を受けたエリートだけだ。そこで主人公ヴィンセントは身分詐称に手を染める。事故で半身不随になったエリートのジェロームと手を組み、彼になりすますのだ。そして見事、宇宙開発会社に就職して、宇宙飛行士に選ばれる。ところが……。
あろうことか、彼のつとめる会社で殺人事件が起きてしまう!
警察は現場検証の際に毛髪やゴミを集める。そして、そのなかに「不適格者」のまつげが混ざっていた。はたしてヴィンセントは身分を隠し通せるのか、そして事件の真犯人は……?



もう、この設定だけで面白くなる要素が詰まっている。
ガタカ』は今でも頻繁に話題に上る映画だが、やはりそれは脚本の力だと思う。まず状況設定が魅力的だし、各キャラクターの葛藤が非常にストレートで観客の胸を打つ。さらに物語の結末に提示されるテーマも共感を誘う。



お話の作り方は、倒叙ミステリーの基本を踏襲している。
まずヴィンセントは身分詐称という罪を犯しており、それがバレたらアウトだ。警察側はあの手この手でヴィンセントの正体を暴こうとし、そこにサスペンスが生まれる。そしてヴィンセントが知恵を絞って危機を切り抜けるたびにカタルシスがある。
倒叙ミステリーのいちばんの演出上の効果は、通常のミステリーよりもサスペンス性を高められることだ。犯人の目線から語られるからこそ、「警察から逃げなければならない」という強烈なサスペンスが生まれる。当然、観客は物語に引き込まれやすくなる。
またミステリーであるからには、倒叙ミステリーにも「謎」の要素は不可欠だ。犯人にも理解できないような不可解なできごとが起きなければならない。たとえば死体の数が増えたり、死亡推定時刻が犯行時刻と違ったり、凶器が消えたりする。誰が犯人かは分かっているけれど、他の部分に謎を残すことで読者を引きつけるのだ。
ガタカ』の場合、主人公が「身分詐称」を犯していることはハッキリしている。が、殺人事件に関与しているかどうかは明かされない。(※主人公の口からは「僕は関係ない」と語られるだけ)主人公を警察に狙われる状況に追い込みつつ、殺人事件の真犯人は誰か? という部分に「謎」の要素を残している。この点でも、倒叙ミステリーの面白さをきちんと受け継いでいる。
ガタカ』の脚本は倒叙ミステリーの形を取ることで、ともすれば地味になってしまいそうな物語を緊迫感に満ちたものに変えた。脚本家がプロットを立てる時点で、「倒叙ミステリーにしちゃおうぜ」と舵を切ったのは大正解だった。



続いて、各キャラクターの描き方を検証したい。
ハリウッドの脚本家シド・フィールドは、こんなことを言っている:

ドラマとは葛藤である。
葛藤なしにはアクションは生まれない。アクションがなければ、人物に命が入らない。人物が生きていなければ、ストーリーは生まれない。ストーリーがなければ、脚本は存在しない。

キャラクターを描くとは、つまりその人の葛藤を描くことなのだ。『ガタカ』の場合、各キャラクターの「葛藤」はとてもシンプルだ。だからこそ観客の感情移入を誘い、胸を打つ。
たとえば、主人公ヴィンセントの葛藤は「遺伝的には不適合者/だけど自分の可能性を信じたい」というもの。これって、すごく普遍的な葛藤だ。誰だって自分を特別だと信じたい。誰にとっても「自分」は特別な存在だ。たとえ社会が認めてくれなくても。
一方、ジェロームの葛藤は「自分は遺伝的に優れているはずだ/しかし一番になれない」というもの。これも切ないぐらいによく分かる感情だ。人生で一度でも挫折を味わったことのある人なら、ジェロームに感情移入せずにはいられない。
ヒロインのアイリーンの葛藤は、「遺伝的に心臓疾患の確率が高い」ことを軸にしている。ジェロームが「本当はすごいはずの自分」とそうでない現実との間で葛藤するのに対して、アイリーンは最初から自分はすごくないことを認めている。が、心の底から納得しているわけではない。そこに葛藤が生まれる。
このほかにも主人公の弟や、ベテラン刑事、宇宙開発会社の局長など、脇役の一人ひとりにも分かりやすい葛藤が準備されていた。



SF映画でミステリーというと、スピルバーグの『マイノリティリポート』が真っ先に思い浮かぶ。あちらは脚本をあえてゴチャゴチャさせることで、先の読めない物語を作ることに成功していた。一方、『ガタカ』は基本に忠実なお話なので、わりと先の展開が読めてしまう。しかし、それでも面白いってことは本物ってことだ
ちなみに『ガタカ』の感想についてTwitterでつぶやいていたら、人気の映画系ブログ『くりごはんが嫌い』管理人のカトキチさんから『THX-1138』という映画をご紹介いただいた。なんでも、『ガタカ』の元ネタと見なせる作品だそうだ。こちらも近日中に見たいと思う。



PS3じゃないと再生できない?『THX-1138
http://d.hatena.ne.jp/katokitiz/20130417



イケメンの競演にうっとりするもよし、完成度の高い物語にワクワクするもよし。『ガタカ』はとても満足度の高い作品だった。忘れられない映画の1つになりそうだ。






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