デマこい!

「デマこいてんじゃねえ!」というブログの移転先です。管理人Rootportのらくがき帳。

すべてがタダになる

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個人的には大学はたくさんあったほうがいいし、モラトリアムでも遊園地でもぜんぜん構わない、むしろウェルカムだと思っている。ほんとうの新しい価値は遊びの中からしか生まれない。新しい価値を生み出せる人とは、つまり遊びを知っている人だと思う。
※ここでいう遊びは、「夜遊び」の遊びではなくて、「ネジの遊び」の遊びです。ただ消費して時間を潰すだけの「遊び」ではなくて、もっと生産的な行為を指しています。




田中大臣の不認可問題の影にあるもの 内田樹の研究室
http://blog.tatsuru.com/2012/11/07_1601.php




内田先生の言葉からはいつもたくさんのことを教わっているが、とくに上掲の記事はとびきりスマートな内容だった。
日本を裏で牛耳っている“財界人”たちの望みは大学を減らすことで、高卒・中卒の安い労働力を確保することだ――と、内田先生は指摘なさっている。1991年に大学の設置基準が緩和されたのは、「ビジネスマンの経営する大学が増えれば旧来のヌルい大学が淘汰されて数が減る」という目論見があったのではないかと、先生は推察している。
ところが実際には、規制緩和によって大学は増え、日本の若者の高学歴化 (=中卒・高卒者の減少)が進んだ。

「ビジネスマインドで大学経営をする人々が次々と出てくれば、要らない大学は淘汰されるだろう」という命題は「ビジネスマインドで経営をする人々の大学は要らない大学だったので次々淘汰された」という皮肉なかたちでしか証明されていない

痺れるぐらいに鮮やかな指摘だ。




ここで、私たちは大学の存在意義について再考を迫られる。
かつては、大学4年間は“ムダな時間”だったかもしれない。「制服を着る生活」から「スーツを着る生活」への過渡期間でしかなかったかもしれない。モラトリアムという言葉には、猶予期間という以上の意味はなかったかもしれない。
しかし現在では、「モラトリアム」はただの猶予期間ではない。
それは自由時間だ。
あらゆる無茶が許され、あらゆるリスクテイクが可能になる。
人生においてもっとも「新しい価値」を生み出しやすい時期だ。




     ◆




モノやサービスの“物質的な価値”は下がりつづけている。「機械化」でも、「情報化」でも、呼び方はなんでもいい。生産活動の効率化によって、あらゆるものの“物質的な価値”は下落している。
江戸時代は日本人口の85%が農民だったが、現在では3%にも満たない。農作物の生産効率が向上したからだ。かつてアルミニウムは金や銀と同じような貴金属だったが、現在では1円玉に使われている。アルミの生産効率か向上したからだ。かつて貴重品だった“紙”は、いまではどこの駅のトイレでも無料で提供されている。コンビニではスプーンやフォークをタダでつけてもらえる。
生産活動が効率化すればするほど、モノの“物質的な価値”は下がる。隕石でも落ちてこないかぎり、この流れが逆転することはない。あらゆるモノは、限りなくタダに近づいていく。
“物質的な価値”が下落することは、荒唐無稽な未来予想ではない。すでに目の前にある現実だ。産業革命以降、モノの物質的な価値は下がり続けた。そして私たちはモノの“記号的な価値”を消費するようになった。……と、すでに数十年前から指摘されている。
そして“物質的な価値”の下落は、いま最終局面に入っている。最後の一撃になったものは二つ:安価で高性能なPCによる情報化と、大型旅客機やインターネットによるグローバル化だ。20世紀までは、生産効率の向上には限界があった。「どんな単純な計算も人間がやったほうが早い」ことと、「どんなにすばらしいアイディアも地域的基盤から逃れられない」こと。これらがボトルネックとなって、モノの“物質的な価値”を一定以下にはできなかった。
ところが現在では、もはやそんな制約はない。
身の回りのあらゆるものが――駅のトイレットペーパーやコンビニのスプーンのように――限りなくタダに近づいていくのだ。
では、これからの時代に下落しないものは何だろう:
それは、モノの“記号的な価値”だ。
物質的な価値しか生み出せない人の仕事は、これからの100年で消えていく。しかし“記号的な価値”は下がらない。むしろモノの価値が下がり、食品や日用品をタダ同然で入手できるようになった時代には、人々は“記号的な価値”へとカネを割り振れるようになる。人々がお互いに記号的な価値を生み出して、それをお互いに消費しあう。そんな時代が来るはずだ。
その時代は、すでに始まっている。
北京には秀水街という人気の観光スポットがある。一言でいえばニセモノ・ブランドのドンキホーテ。一見すると大型のショッピングモールのような場所だが、建物内には小さな露店がところ狭しと並んでおり、ブランドものの鞄やスニーカーを二束三文で買える。
面白いのは、“物質的にはホンモノ”のニセモノが売っているという点だ。
たとえばナイキのスニーカーを考えてみよう。中国は世界の工場だ。当然、ナイキも中国国内に生産拠点を持っている。なかには商魂たくましい現地従業員がいて、親会社スタッフの見ていない深夜に製造ラインを動かして、違法な製品を作って闇市場に流してしまうのだという。こうして“物質的にはホンモノ”のニセモノのスニーカーが出回るというわけだ。
さて、物質的には同じスニーカーであるにもかかわらず、秀水街では数百円で売りさばかれ、日本では一万円で売れている。これはなぜだろう。言いかえれば、どうして日本人は物質的には数百円の価値しかないスニーカーに、一万円を支払うのだろう。
日本人がバカだから、ではない。
日本人はスニーカーの“物質的な価値”ではなく、“記号的な価値”にカネを払っているのだ。
ナイキのスニーカーを履いてみたい!という所有欲や、このスニーカーを履いてセンスのいい人だと思われたい!という承認欲求。それらを満たすために、日本人はナイキに一万円を支払っている。靴のデザイナー、ポスターを撮影したの写真家、ファッション誌の編集者……。“記号的な価値”にカネが支払われなくなると、生活できなくなる人がたくさんいる。すでに数えきれない人々が、“記号的な価値”の生産によって暮らしを支えている。
今後、この傾向は加速する。




こんな時代に、“物質的な価値”しか生み出せない単純労働者を量産してどうするのだろう。
いま必要なのは、新しい“記号的な価値”を生み出せる人だ。モノを作れる人だ。
日本を裏で牛耳っている“財界人” たちがいるとして、彼らの望みが安価な労働力の確保だとしたら、あまりにも時代錯誤だ。先見の明がないどころか、いま目の前にある“現在”さえも見えていないのだから。




「ぼくは効率化という言葉が嫌いだ」と知人の仏画家が言っていた。「効率化を追求すれば、ぼくらの仕事はなくなる。ステッカーに仏様の絵を印刷して、壁に貼り付けるだけでいい。そうすれば確かに効率的だろう。だけど、ぼくはそんな仕事はしたくない」
彼の指摘は正しい。ブッダのイラストを壁に飾りたいだけなら、ステッカーで充分だ。絵画の“物質的な価値”は、印刷技術の向上・効率化によって、もはやタダ同然になっている。では、彼の顧客は何に対してカネを支払っているのだろう:
言うまでもなく“記号的な価値”だ。
彼に手描きしてもらったという事実に“価値”を感じる人がいるからこそ、彼は失業せずにすんでいる。
あらゆるものの生産活動が効率化するということは、彼のような人が増えるということを意味している。同時に、食品や日用品の物質的な価値はどこまでもタダに近づいていくため、より少ない顧客からの収入でも生活していけるようになる。
それは、たとえばニコニコ動画のボカロPが、わずかなファンからのお布施だけで生きていける世界かもしれない。たとえば引きこもりのニートが、スカイプで誰かの愚痴を聞くだけで生きていける世界かもしれない。そして血のにじむような努力をしてモノを創っている人たちには、相応の対価が支払われる世界になるはずだ。
“ルールを管理する人”がいちばん儲かる時代は、もう終わりにしよう。そんなん機械にやらせろよ。“モノ創る人”の時代が、まさにいま始まろうとしている。





少なくとも私は「効率化」という言葉が好きだ。
非効率で不合理な世の中を、変えてしまいたい。




Is a man not entitled to the sweat of his brow?
No, says the man in Washington. It belongs to the poor.
No, says the man in the Vatican. It belongs to God.
No, says the man is Moscow. It belongs to everyone.
I rejected those answers.
Instead, I chose something different. I chose the impossible.
I chose...


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