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「デマこいてんじゃねえ!」というブログの移転先です。管理人Rootportのらくがき帳。

大貧民(大富豪)に「8流し」が生まれた理由

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誰もが知っているトランプ・ゲームに、大貧民がある。地域によっては大富豪とも呼ばれるこのゲーム、ローカルルールが多いことでも有名だ。それこそ「小学校が違えばルールも違う」と言っていいほどだ。なぜ子供たちは、これほどバリエーション豊かなルールを編み出したのだろう。
大貧民の魅力は、基本ルールのシンプルさにある。基本ルールは「直前のプレイヤーが出したカードよりも、強いカードをプレイする」だけ。この簡単さが、プレイヤー人口を増やした。その一方で、致命的ともいえる欠点が2つある。最初に配られた手札で勝敗がほとんど決まってしまうことと、「大富豪と大貧民とでカードを交換する」というルールによって、順位が固定化しやすいことだ。一度負けたら、簡単には逆転できない。単調で退屈なゲームになってしまう。
この欠点を補うために、各種のローカルルールが生まれたのだろう。特に8流しと11バックという二つのルールは、このゲームに緊張感を作りだす素晴らしい発明だった。「ローカルルールなんて無くしてしまえ」という暴論を吐く人がいる。でも私は同意できない。大貧民には決定的な欠陥があるため、ローカルルールは絶対に必要だ。




1.たくさんのローカルルール




このエントリーを読んでいる人に、大貧民のルールを知らない人はいないと思う。けれど念のためにウィキペディアをリンクしておこう。


大貧民
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E5%AF%8C%E8%B1%AA
(へー、「大貧民」っていう呼び方は関東系なんだね。京都の友達に「大貧民やろうぜ!」って言ったら「大富豪のこと?」と訊き返されたのはそのためだったのか。Wikipediaって勉強になるなぁ)



それと、ローカルルールの一覧はこちら。


-大富豪 ローカルルール集−
http://www.geocities.jp/himmelunter/sp.html
この一覧表を見ただけでも、「うげぇ」と言いたくなるほどの追加ルールがある。遊ぶ前に「どのローカルルールを使うか」の確認が必要になるわけだ。アルビノジョーカーなんて聞いたこともないぞ。


これらローカルルールのなかでも、次の三つはかなり一般的だと思われる。


縛り
(これがローカルルールだとは知らなかった。基本ルールだと思っていましたごめんなさい)


8流し
(はちながし、はち切り、や切りとも呼ばれる。私の学校ではエイトカットと呼んでいた。欧米か)


11バック
(イレブンバック、ジャックバック、ジャックリターンなどとも)


で、上記3つのローカルルールがものすごく秀逸なのだ。このゲームの弱点をみごとに補っている。大貧民がここまで広まったのも、この三つの「偉大な発明」があったからだ――とすら思える。




2.大貧民の特徴と欠点



基本ルールだけの大貧民は、「強いカード」と「弱いカード」の差がはっきりとしている。初手にJよりも小さなカードしかないと、軽く絶望を味わえる。基本ルールだけでは、弱いカードたちに使い道がない。ある程度ゲームに慣れて戦略が分かってくると「初手に配られたカードが強いか否か」だけが勝敗を決するようになる。


これを、他のゲームと比較してみよう。
たとえば麻雀なら(と、いきなりトランプを離れてしまうのは、あまりトランプのゲームを知らないからです)、牌それぞれの強さは似たり寄ったりだ。牌を「揃える」ことが目標のゲームなので、持っている牌が強いか弱いかはあまり重要ではない。三枚そろえるだけで役になる字牌は、他の牌より強そうに見える。しかし、もっと簡単に作れる役が存在しているため、単純には比較できない。たしかにドラ牌(赤いやつ)は普通の牌より強い。が、アガったときの打撃力を向上させるだけで、そもそもアガるためには他で役を揃えなければならない。ドラ牌を持っているだけでは意味がない。


あるいはUNOはどうだろうか。あのゲームでの最強カードはWild draw fourだ。たった一枚で形勢をひっくりかえすほどの強さがある。一方、いちばん弱いのは普通の数字カード。強さの順位は次のとおりだ。
数字カード<Skip、Reverseカード<Draw twoカード<Wildカード<Wild Draw Four
ここで、108枚の山札にそれぞれのカードが何枚含まれているのかを確認しよう。
76枚:数字カード
16枚:Skip、Reverseカード
8枚:Draw twoカード
4枚:Wildカード
4枚:Wild Draw Four
このように強いカードほど枚数が少なく、配られる可能性が低い。「強いカードばかりが配られる」確率を減らすことで、ゲームバランスを取っている。


より複雑なゲームを考えてみよう。
たとえば流行のドミニオン。強いカードほど「購入するコスト」が高く設定されており、簡単には使えない。弱いカードほど簡単に入手できるが、勝利には繋がりづらい。(ちなみに私はチャペルとマインを使って薄いデッキを作る戦略が好きだ)同じことがマジック・ザ・ギャザリングにも言える。強いカードほど、使うための条件がキツくなる。「強いカード・弱いカード」のバランスを取ることに、カードゲームの開発者は腐心している。


で、大貧民の欠点はここにある。基本ルールだけではカードの強弱のバランスが取れないのだ。
各カードの枚数は決まっているので、「強いカード」も「弱いカード」も、配られる確率はほぼ同じだ。そのうえ富豪への献上システムにより、「強いカードだらけの手札」が簡単に生まれる。さらに、強いカードほど使うためのコストがあがる、なんてこともない。クズカードはクズカードのままだ。
唯一の希望は「革命」だが、カードを配られる確率はみんな同じなので、貧民だからといって革命を起こしやすくなるわけではない。(むしろ強いカードが自動的に集まる上位陣のほうが、革命を起こしやすいのではないか)
したがって順位は固定化し、ゲームは単調なものになる。



3.欠点を補うために


この欠点を補うために、各種ローカルルールが生まれた。順番に見ていこう。



鄯.縛り
このルールは、カードの強さをちょっぴり逆転させる。たとえばハートの2を握りしめていても、スペードで縛られているときはクズカードになってしまう。この状況では、ハートの2よりもスペードの5とか6とかのほうが強い。つまり、強さの逆転が起こっている。
じつは基本ルールのなかにも、強弱を逆転させる部分がある。「ペアを出されたら、自分もペアを出さなければならない」というルールだ。たった1枚のジョーカーよりも、三枚そろった5のほうが強い場合もある。だが基本ルールだけでは問題点も残る。献上システムにより、大富豪のほうが、より強いペアを握りやすくなってしまう。
おそらく「縛り」は、この基本ルールのバリエーションとして生まれたのだろう。「使えるカード」に制約を課すと、単純なカードパワーだけではゲームを支配できなくなる。


鄱.8流し
このルールを適用すると、8が最強のカードになる。基本ルールをひっくり返してしまうからだ。UNOでいうWild Draw Four、ドミニオンのDorf、MtGのパワーナインみたいなもの。


鄴.11バック
カードの強弱をわかりやすく逆転させるルール。このルールを適用するかどうかによって、大富豪の連勝数がおおきく変わる。



いずれの追加ルールもカードの強弱を補正し、バランスを取る方向に働く。マーヴェラス! こんなルールが自然発生的に生まれてきたなんて。
何より8と11という数字を選んだことが素晴らしい。このゲームでは、プレイヤーは「弱いカードを早めに使いきろう」とする。したがってゲームの終盤に近づくほど、強いカードが連打される。小さすぎる数字は、後半では使うことすらできない。一方、大きな数字に強烈な効果を持たせると、大富豪がますます有利になってしまう。8より小さな数字は、ゲームの後半ではなかなかプレイできない。Jより大きな数字は、大富豪に強制徴収される可能性が高い。
このローカルルール、カードの効果を逆にしてみると(つまり「J流し」「8バック」にすると)、興味深いことが分かる。面白くないのだ。
11はわりと大きな数字なので、使えない局面が少ない。ほとんどいつでも使えるような印象だ。だから強制的に流すことが出来ても、あまり嬉しくない。また8よりも小さな数は限られているので、一時的な革命状態になってもウマミが少ない。手札で腐っている9を処理できずに終わってしまう。
カードの効果そのものを考えると「強制的に流す」効果のほうが、「一時的な革命」よりも強い。強制的に場を流せば、自分の出したいカードを確実に出せる。しかし革命状態になったからといって、自分の手番を引き込めるとは限らない。
だからこそ「8流し」なのだ。「強いカード」には「制限を設ける」のが、ゲームバランスを整えるうえでの基本だった。8は「出したくても出せない」局面がしばしば見受けられる。しかし、これより小さい数字だと、終盤の「本当に流したい時」に手札で腐ってしまう可能性がある。過激な効果を持たせるのに、8は最適だった。



4.まとめ



大貧民(大富豪)には、致命的な欠陥がある。最初に配られた手札で戦略が支配されてしまうことと、順位が固定化することだ。その原因は、カードの強弱があまりにも明確で、バランスが崩れていることに起因する。
しかしローカルルールを導入すると戦略が複雑化するため、相対的に運の要素が小さくなる。とくに「縛り」「8流し」「11バック」の三つのローカルルールは、カードの強弱をうまく調整してくれる。この三つのローカルルールによって、大貧民はゲームとしての魅力を増した。


※そういう目でローカルルール集をもう一度眺めると、けっこう面白い。捨て場からカードを回収する系のルールなんて、かなり魅力的だ。序盤に使われやすい「弱いカード」で、捨て場の「強いカード」を回収できるようにすれば、大富豪への献上システムの影響を薄められる。
※※だけど、やりすぎるのも問題だよね。このゲームの醍醐味は、やっぱり「勝てば勝つほど有利になる」「ずっと俺のターン!」な無双プレイにある。だからこそみんな大富豪を目指すのだし、大富豪がめちゃくちゃ強い(ドラクエの魔王みたいな存在だ)からこそ、それを攻略する戦略上の面白さが生まれる。
※※※強弱のバランスを取るルールも重要だけど、そういうルールを追加しすぎると「全部のカードが同じぐらい強い」状態になってしまう。これは「勝ちたい」という欲求を削いでしまう。




というわけで、みんな休み時間はトランプで遊ぶといいよ!