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デマこい!

「デマこいてんじゃねえ!」というブログの移転先です。管理人Rootportのらくがき帳。

サブカルチャーの閉塞感は電子書籍が吹き飛ばす!/KDP『美少女キケン』感想

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KDPをご存じだろうか?
KDPとは「Kindle・ダイレクト・パブリッシング」の略で、Amazonの提供している電子書籍の出版サービスだ。誰でもかんたんに、それこそブログを更新するような手軽さで電子書籍を販売できる。同人誌や自費出版の新しい形として、Kindleの日本上陸以来、注目を集めている。
そこで私も、目にとまった小説をダウンロードしてみた。


美少女キケン 薬科大生の甘い毒蜜

美少女キケン 薬科大生の甘い毒蜜

Kindle本体をお持ちでない方は、こちらのページのアプリをご利用ください。


今回読んだのは、『美少女キケン 薬科大生の甘い毒蜜(作:小波奈子、画:Frst)』という作品だ。KDPとは思えないほど美しい装丁と、可愛らしいキャラクターが魅力のライトノベル・ミステリーだ。
かつてラノベ業界にもミステリーブームがあり、『GOSICK』シリーズのような名作が量産されていた。しかし現在では斜陽のジャンルになってしまい、商業レーベルからラノベのミステリーを出版するのは、かなり難しい──新人作家なら絶望的──になってしまった。が、今でもラノベのミステリーを読みたい読者はいるし、それを書ける作者もいる。眠った才能を開花させるのに、KDPほど適した媒体はないだろう。

GOSICK  ―ゴシック― (角川文庫)

GOSICK ―ゴシック― (角川文庫)

とはいえ、KDPはあくまでも個人出版。手探りにならざるを得ない部分が多い。そのため作品の完成度には弱点が残りやすい。
本作の場合も例外ではなく、誤字脱字や、言葉の誤用が残っている。また、ミステリーとしては、犯人の「トリックを用いる動機」が希薄だし、ラノベとしてはキャラクターの書き分けに不充分な点が残る。
ミステリーの犯人がトリックを仕掛けるのは「誰か」を騙すためだ。
この「誰か」には大抵、警察やマスメディアが選ばれる。犯人は自分の身を守り、あるいは他人に罪を着せるためにトリックを仕掛ける。そうである以上、犯人が騙す相手は、犯人の自由を脅かすような存在でなければならない。
ところが本作のトリックは、ほぼ主人公だけを騙すためのものになっている。主人公は一介の女子大生に過ぎないため、わざわざトリックを使ってまで騙すべき相手だとは思えない。もう少し犯人に不利な状況設定にして、「トリックを使わざるをえない」ところまで追いつめてもいいと感じた。トリックの内容はとても面白いだけに、もったいないと思う。
また、主人公の「助手」の2人──佳代と美沙の書き分けが弱い。原因は明白で、セリフの口調に一貫性がないからだ。シーンごとに、敬語になったりタメ語になったりする。こうした口調の違いで微妙な心情の変化を表現するのが作者の狙いだろうが、しかし読者の目からはキャラの性格が「ブレている」ように見えてしまった。主人公や、監察医の神崎、警部の山下など、他のキャラはよく書き分けられている分、もったいない。



と、まあ弱点をぐだぐだと上げたがこまけぇことはいいんだよ。



『美少女キケン』は、これらの弱点を補ってあまりあるほどの魅力を持っている。
まず、主人公がとにかく可愛い。黒髪ストレートロング低身長のボクっ子。性格は自信過剰でやや変態、しかもバリネコである。ツボを押さえすぎだ。
「バリネコ」という説明で分かるとおり、本作はGL小説である。GLとはガールズ・ラブ、すなわち女の子どうしがイチャイチャする作品だ。かなりきわどいエロ描写も出てくるため、『きんいろモザイク』や『のんのんびより』では物足りない全国のお兄さん・お姉さん方に全力でオススメしたい。
念のため申し添えておくと、GLはどちらかといえば「女性向け」のジャンルだ。コミケ等でGLの同人誌を売っているのも買っているのも、大抵は女性だ。男性向けのエロ作品の「レズもの」と重なる部分も多いが、本質的には似て非なるものと言っていいだろう。なお、女性の同性愛を扱ったフィクションを「百合」と呼ぶこともあるが、こちらはGLとレズのどちらも含んだ意味の広い言葉だと私は理解している。異論は認める。
また作中には、薬学の知識がこれでもかっ!と書き込まれている。力のない作者ほどうんちくを並べたがるものだが、ほとんどの場合は「知識のひけらかし」にしかならず、読者のテンションを下げてしまう。ところが、本作では知識の開示が嫌味にならず、むしろ作品の魅力を高めていた。これは主人公が魅力的だからだ。この生意気な主人公なら、いかにもこういうこと言いそう……と納得できる。知識のひけらかしさえも可愛らしいキャラクターに仕上がっている。最高だ。



個人出版ゆえの手探り感は否めないが、総じてレベルの高い作品だと思う。商業レーベルでは出版しづらくなった「ラノベ・ミステリー」というジャンルに挑戦した意義は大きい。商業誌にはできないことがKDPならできるのだ。作者の才能はもちろんのこと、KDPの将来を感じさせる作品だった。





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