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『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』がすごい。/俺が長井龍雪監督を好きな理由(ワケ)

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ノイタミナ枠のアニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』がすごい。
長井龍雪監督&岡田麿里脚本という、『とらドラ!』の黄金コンビだ。期待せずにはいられない。が、こちらの上がりきったハードルをさらに軽々と飛び越えていった。本当に面白い。神作。観るときはティッシュを準備すること、涙腺崩壊するから。





あらすじ:
ある夏の日、引きこもり気味の主人公・じんたんの部屋に、幼なじみの一人・めんまが現れる。めんまに「願い事を叶えてほしい」と頼まれたじんたんは、困惑しつつも、彼女の「願い」を探っていく。そして、あの頃の仲間たちが一人ずつ集まっていく。
しかし本当は、めんまは「現れるはずのない人」だった――。




長井龍雪監督のすごさは「目に見えないモノ」の表現にある。
人間の感情をはじめ「画面に映すことのできないモノ」はたくさんある。それをどうやって表現するか、映像作家は常に苦悩するらしい。だが、長井龍雪監督は「画面に映らない」ことを逆手にとった演出で、見事にそれを描き出す。時には「わざと映さない」ことさえある。そういった演出力の高さで、観る者の胸を打つ作品ができあがる。
あの花』の第一話から具体例をあげよう。




    ◆ ◆ ◆




1.じんたんがめんまから「お願い」を依頼されるシーン




じんたん「なんで今さら……しかも、成長した状態で現れた」
めんま「うーん、そんなこと訊かれたって……」





めんま「わかんないってばよ!」




じんたん「お前なぁ!」
めんま「ただね……たぶん、お願いを叶えてほしいんだと思うよ、めんま!」




じんたん「お願い? なんだよ、それ」





めんま「うーん、それは……」




めんま「わかんないってばよ!(二回目)」




じんたん「願いがわかんなくっちゃ、叶えようもないだろ!」



めんま「ぅーん、でも、そんな気がするんだけど……」
めんま「ほんと、何なんだろうね!」
じんたん「俺が知るかッ!」




めんま「うわ、つば飛ばした! やだ、もぅ!」




このシーンでは、画面の下部1/5ほどをテーブル(掘りごたつ)で隠しているのが特徴的だ。
それでも不自然さを感じないのは、最初のカットで空間の広がりを意識させ、掘りごたつと登場人物の配置を明らかにしているからだ。
注目すべきなのは、じんたんがこぶしを握りしめるカットだろう。
こぶしを握るのは普通、つらい気持ちに耐える時や、覚悟を決める時だ。コミカルな会話の応酬をするこのシーンにはそぐわない。つまり、めんまという少女が「つらい気持ち」を喚起する存在なのだと分かる。彼らの過去にいったい何があったのだろう? と視聴者は興味をそそられる。
そして、そのこぶしをテーブルの下に「隠した」のがすごいと思うの。人間の感情は目には見えない。だから目に見えない場所(=テーブルの下)で、感情は動く。
また、画面にはもちろん「つば」なんて描き込まれていない。が、風圧を感じさせる作画とめんまの演技で、まるで本当にじんたんがつばを飛ばしたかのように視聴者は錯覚する。ここでも「目に見えないモノ」を表現している。






2.幼なじみの一人・安城鳴子が、交差点で立ち止まるシーン




この直前のシーンで、鳴子はじんたんの家を訪れている。じんたんに夏休みの宿題を届けるためだ。引きこもり思考のじんたんにキレて、きつい言葉をかけてしまう。その帰り道が、この交差点のシーン。




肩を怒らせて歩いていた鳴子は、だんだんと歩く速度を緩め、




交差点の真ん中で立ち止まる。




そして手のアップ。自分の爪を見つめる鳴子の視点だ。
「マニキュアを塗った爪」は、映画では「大人になった証し」と用いられることが多い。
このシーンでは「主人公にきつく当たる現在の鳴子」に「大人」のイメージを重ねることで、逆に「子供だったころの鳴子」を強烈にイメージさせている。はすっぱな女である現在の鳴子に対して、過去の彼女はもっと素直で、じんたんにも優しかったのだろう――と、視聴者は思いを馳せてしまう。
ここでは回想シーンを使わずに(画面に映さずに)過去を表現する、という、とんでもなく高度なコトをやっているのだ。




    ◆ ◆ ◆




じつをいうと、この「映っていないモノをイメージさせる演出」がいちばんチカラを発揮するのは、ここに上げたシーンではない。
第一話の後半に「子供のころの秘密基地を回想するシーン」がある。そのシーンで、鳴子(子供Ver.)のセリフに対するじんたん・めんまの反応がすばらしかった。ブログのエントリーにしようとキャプチャ画像まで準備したのだけど、素晴らしすぎるのでやめた。ネタバレされたら感動も半減だ。事前情報なしで、ぜひとも見てほしいな。



こういった「映さない演出」「見えないモノを表現するチカラ」が、長井龍雪監督はピカイチだ。こういう演出の積み重ねで、観る人は胸を揺さぶられる。奇をてらわず、丁寧に登場人物の感情を描いていく。
あの花』の続きも楽しみだし、今後もどんどん活躍して欲しいな。




    ◆




演出とはあんまり関係ないけど「両手をぎゅっと握る」しぐさが、長井監督は大好きなようだ。




えっと、俺も大好きです///
少女が「感情をうまく言葉にできない」時に、この演技をさせている。
超電磁砲』の初春がまったく同じしぐさをしていたような……気が……。シーンが見つけられなかったので、どなたか詳しい人、ぜひ教えてください><







あの花』公式サイト
http://www.anohana.jp/chara/index.html



とある科学の超電磁砲』 長井龍雪 監督 才能のなさへの劣等感と選ばれたものの孤独、、、そのどれもを超えた所に仲間はある‐物語三昧
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20100327/p4


とある科学の超電磁砲 OPの演出の解説 一貫性のある正負の方向‐karimikarimi
http://d.hatena.ne.jp/karimikarimi/20091121/1258765953



長井龍雪のOP・ED演出の特徴 「キャラクターと色」‐感想考察批評日常
http://d.hatena.ne.jp/ike_tomo/20091011/1255246873



※人気監督だけあって、ちょっと検索するだけで分析・批評がざくざく出てきた。このブログみたいな素人のゆるーい感想はあまり見当たらない。みなさんの本気っぷりに敬服。





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